205.公平にチャンスを与えるだけよ
貴族女性の開くお茶会は、社交という戦場でお互いの腹を探り合う。ただお茶を飲んでお菓子を食べ、流行の話をしているだけじゃないのよ。一瞬で移り変わる話題の中から、さまざまな情報を読み取る能力が必要なの。
これは一般的な話。私が選んだ側近達のお茶会は、報告会や提案が主だった。女性が主流だから、話題の流れは早いわ。ひとつの話題でいつまでも盛り上がることはない。
「ブリュンヒルト様、ルピナス帝国は順調ですが……基盤がまだ不安定です」
「ひっくり返される可能性は?」
「最大で三割弱ですね」
クリスティーネが齎した情報で、エルフリーデが提案する。
「でしたら、逆に罠を仕掛けてみては? 誘い出して、潰す」
「ブリュンヒルト様の得意な方法ですね」
同意から入ったエレオノールが、懸念を指摘した。
「敵対勢力をまとめて片付けるチャンスですが、失敗すると帝国を奪われます。敵同士を食い合わせてはいかがでしょう」
黙って聞いていたリュシアンが眉を寄せた。
「騙すのか?」
「少し違いますね。謀略や策略と呼ばれる類の、ひとつの手段です」
エレオノールは曖昧な表現を選んだ。だいぶ狸っぽくなってきたわね。
「彼らを互いに食わせるのは良い手だわ。こちらに被害が出ないし、敵の敵は味方じゃないもの」
敵の敵は敵だった。どこまで行っても、噛み合わない敵はいるのよ。どの勢力も同じだけれど、大きなひとつの敵に向かう時は協力し合う。だけど馴れ合うことはしない。共闘しても、自分達の情報はしっかり別に管理するわ。
ルピナス帝国の新しい皇族に反対する二つのグループがあったとして、彼らは皇族に対して協力関係を築く。この関係が崩壊するとしたら、皇族に打ち勝った後で権力争いを始める時。または互いに許せない欠点があった時よ。利害関係が絡む事象なら、なお許せないでしょうね。
「情報は得たの?」
「証拠が足りませんが、内容は把握しました」
「情報を確定するのはテオドール、あなたに任せます。エレオノールはクリスティーネと協力して動いて頂戴」
指示を出して纏める。紅茶やお菓子、軽食が並ぶから見た目はお茶会だった。話の内容は、綺麗なドレスや宝飾品ではなく、政の深淵部分よ。色で例えるなら、限りなく黒に近いグレーね。ここでこの話題は終わり。
「私の婚約者候補のことだけど」
切り出した途端、一斉に女性達が身を乗り出した。リュシアンも目を輝かせる。こちらが本題よ。他国の併合や領地化は、年単位で進める話だもの。今すぐ結論を出す必要はなかった。
「貴族派から推薦させるわ。もちろん王族派も同様よ」
中立派ではない二つの派閥から、それぞれに候補を出させる。家柄も評判も顔も、整えて推薦するだろう。自信満々で私を口説こうとする男達を、評価して選別するのが、ここにいるメンバーの役割だった。
「落とすために推薦されるなんて」
「あれですよね、出来レース」
「やだ、表現が悪いわ。公平にチャンスを与えるのは良いことよ?」
くすくす笑いながら、本音で話す転生者達を窘めた。これはシュトルンツ国のためになる話なんだから。




