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16.使える者は親でも使う主義なの

「預けた、ですか? とても都合のいい、利己的な表現ですね」


「間違ってないわよ。テオと私の認識にはズレがあるのね」


 髪を結い直すテオドールに嫌味をひとつ。私が距離を置く発言をすると、彼は嫌そうな顔をするの。でも先に言葉でケンカを売ったのは、あなたよ。


「ズレなどございません」


 ぴしゃりと言い切って、一度止まった手を動かす。テオドールの手がくるりと金髪をあげて留めた。手入れの行き届いた髪は彼の手によるもの。柘植に似た木の櫛に、香油を垂らして何度も梳きあげる。日々のお手入れの効果で、いつも天使の艶が現れた。


 旅行中は多少簡略化したけれど、テオドールはそれが気に入らなかったみたい。艶が損なわれたと丁寧に何度も梳った。お陰でいつも通りの艶髪に戻ったようね。


「緩く巻こうかしら」


「髪が傷むのでおやめください」


 毛先に口付けながら、うっとりした顔で否定されたので頷く。ここは逆らってはいけない、本能がそう警告していた。さらりと手触りのいい髪を、指で確かめるように梳く姿は、控えめに言って変態の域に入るわ。


「ツヴァンツィガー家の叙爵は、公開時期を女王陛下と相談しなきゃいけないわ」


「明日の面会時間が取れました」


「あら、早いじゃない」


 娘の帰還でも数日は放っておく方なのに。優秀な一族を、領地ごと切り取った方法に興味があるのかしら。ふふっと笑う。


 ツヴァンツィガーの領地は、今までと同じだった。我が国の端、アリッサム王国との国境付近になる。それを利用して、今後はアリッサム王国を封じ込める役割をお願いする予定よ。


「舗装資材パックの準備は出来た?」


「はい、手配しております」


 我が国の貴族領地はすべて、各国の特色を生かした産物や建物を使用している。南と北で気候が違うため、同じ建物は効率が悪かった。その意味で、唯一我が国と分かる部分はひとつ。舗装路だった。赤と白の女郎蜘蛛は他国にいない魔物であり、繁殖し活用する方法を知るのはシュトルンツのみ。


 専用の砂と資材を使い、舗装する手配を整えた。この整備を行うことで、石畳や土で整えた街道の5倍程の速さで移動が可能になる。速さは物流の命よ。だから、遅過ぎる捕虜を置いてきたんだけど。


「捕虜、どうしようかしら」


 法律に従うなら、ここまで連れて来なくてはならない。数が多い上、食費も掛かるのよね。なんだか勿体無いわ。


「お許しいただけるのであれば、案がございます」


 きっと残酷な方法なのでしょうね。テオドールの目が輝いているもの。でも、私が狙った有望株エルフリーデを貶めようとした男に容赦は無用ね。


「任せるわ。ああ、騎士達は選別してね」


 使える者は親でも使う主義なの。そう伝えて、にっこりと笑った。本当はエルフリーデにあげてもいいんだけど、着いたばかりで疲れてるでしょうし。テオドールのガス抜きにちょうどいいわ。


「畏まりました。お嬢様、王子殿下よりお尋ねがございましたので、承諾しておきました」


「何を?」


「エルフリーデ嬢との手合わせと、明日のお茶会です」


 してやられたわ……。先手を取られるなんて!

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