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11.国交断絶を宣言いたします

 シナリオ通りに進んだなら、ツヴァンツィガー家の宝剣である「精霊の剣」は王家に献上される。その後で聖女が触れて剣の主となるのが、主人公であるリサに与えられた物語だった。けれど、ツヴァンツィガーは宝剣の引き渡しを拒む。


 ご都合主義の乙女ゲーム内では当たり前だった展開が、あっさり覆された。さらに聖女リサがもつ魅了の力で狂っていく王侯貴族の中で、ツヴァンツィガー家だけが理性を保っている。間違いなく転生か転移者がいると判断した。


 まだ分厚いカーテンに覆われた客間で、私は寝返りを打った。隣で寝ているエルフリーデは、まだ顔が赤い。思ったよりお酒に弱いのかしら。母親同様、飲んでもすぐ冷める私からしたら、羨ましいわ。飲んでも憂さ晴らしが出来ないんだもの。


「おはようございます、王太女殿下」


「おはよう、エルフリーデ。ブリュンヒルトと呼んでくれないの?」


 くすくす笑いながら、まだ眠そうなエルフリーデに尋ねる。慌てた様子で名前を呼び直してくれた。入ってきた侍女がカーテンを開くと、すでに外は日が高くなっている。


「寝過ごしちゃったわね」


 顔を見合わせて、慌てて支度を始める。運ばれた水で顔を洗い、ドレスを纏った。隣で着替えるエルフリーデは騎士服に袖を通した。ドレスも似合うけど、騎士服の方がカッコいいわ。


「旦那様がお待ちです」


 ここは我が国ではなくアリッサム国の大使館、主は現在大使を仰せつかったシュレーター伯爵だ。昨晩も共に出向き、大使としての役目を果たしてくれた。彼はシューマン辺境伯家の次男だが、あまりに有能なため大使の役目を申し付けた際、伯爵として独立させたのだ。


 侍女の案内で廊下に出ると、待ち構えていた執事テオドールの手を借りる。斜め後ろを歩くエルフリーデは騎士服なので、エスコートは不要だった。大使は執務を行う部屋にいたが、すでに書類も道具も片付けられ、殺風景だった。代わりに屋敷に勤める執事から侍女、下働きに至るまで全員が集められている。


「ローゼンミュラー王太女殿下、お待ちしておりました」


「ごめんなさいね、寝過ごしてしまったわ。シュレーター大使……いえ、もう伯爵で呼ばなくてはね。本国からの遣いは来た?」


 本日を限りに、アリッサム国の大使館は閉鎖される。本国から手配された業者が到着すれば、数日で解体の予定だった。建物すら残してやる気はないわ。この建物は我が国の技術を使って建てられたもの、他国に技術を流出させる危険があるなら破壊する。


「はい、予定通りでしたので」


 穏やかに微笑んで頷く伯爵に、私はゆったりと裾を捌いてソファに腰掛けた。この家具も、私が来るから残したのね。すぐに片付けるのだと思うわ。そのためにシュトルンツ国を出る時に、大使館の解体から関係者の引き上げに至るまで命じてあった。


 もしツヴァンツィガー家を引き込めなければ、この国に用はないので撤退。公爵領ごと手に入るなら、やはり大使館は不要なので解体。どちらにしても手配する内容はたいして変わらなかった。私は無駄と馬鹿が大嫌いなの。


「アリッサム国との国交断絶を宣言いたします。今後、この国に対して一切の援助や支援は行いませんわ」


「「承知いたしました」」


 集められた使用人が一斉に頭を下げた。下働きはアリッサム国で雇ったのだけれど、我がシュトルンツ国に移住を表明した者達は連れていく。もちろん家族も一緒にね。亡命ともいえるけど、この世界に亡命という概念がなかった。移住は通じるから、逃げ延びるのも移住に含まれるみたいね。


 窓の外には大量の馬車と荷馬車が並び、騎士団が彼らを率いていた。完璧ね。ああ、そうだった……忘れるところだわ。


「シュレーター伯爵、地下牢の捕虜の扱いは規定通りでお願いね」


「かしこまりました、王太女殿下の御心のままに」


 一礼する彼に怪訝そうな顔を見せたけれど、エルフリーデは何も尋ねなかった。それでいいわ。あとで馬車の中で教えてあげる。

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