オムツ交換
古びた宿屋を改修して作られたここ天空の家族では10人の高齢者と3人の四肢欠損者と3人の孤児とスモルとオリビアが一緒に暮らしていた。
スモルの朝は早い。なにせ高齢者や四肢欠損者の着替えの介助や汚れた衣服の洗濯や朝食の準備全てをオリビアと二人でやらなければいけないからだ。毎朝5時に起きては仕事を始めていた。
仕事においてスモルは丁寧を重視するタイプでありオリビアはスピードを重視するタイプなので、二人はぶつかり合うことが多々あった。
今朝もそんな二人はぶつかり合っていた。その理由はオムツ交換のスピードについてである。
メルカッドで流通しているオムツについて少し説明すると、メルカッドの北西部にあるターム海に生息するオムアザラシというモンスターの皮を鞣して作られている。
オムアザラシの皮は柔軟性と吸水性に優れていて汚れも落としやすくオムツの素材としてはうってつけなのである。ただ、皮の表面が少し粗いためオムツを脱がせる時に注意が必要で急いで脱がすと擦り傷のようなものができてしまい深刻な褥瘡の原因にもなりかねない。
「だから言ってるでしょオリビア。もう少し丁寧にオムツを下ろしてって。ピグマさんの内ももに傷ができているわ」
「うるせえな、時間がねえんだから仕方ねえだろ。そんな傷、ポーションでも塗っておけばすぐ治るだろ。それよりスモルこそそんなちんたら仕事してたら朝食間に合わねえぞ」
「ポーションだって残り少ないんだから、もう買うお金だってないし。オリビアがもう少し丁寧にやってくれさえすれば」
「ゴタゴタ言ってんじゃねえよ。ポーションすら買えないようになったのはお前とガーランドが資金調達も考えずに困ってる人を見つけてきちゃ連れてくるからだろ。それでこの忙しさと金欠だ。私の怒りの根源はそこさスモル」
「それについてはオリビアには本当にすまない気持ちで一杯よ。ただねオリビア、私が言いたいのはもう少しだけ本当にもう少しだけ丁寧にオムツを下ろして貰えないかってことで」
「ガァァー毎日毎日同じことばかり言いやがって、うるせーお前はこれでも被ってろ」
そう言うとオリビアはスモルの頭にピグマさんの脱ぎたてほやほやの使用済みオムツをスッポリと被した。
「キャァァーー オリビア、あなたやっていいことと悪いことがありますからね。天空神様、どうかオリビアをお許し下さいませ」
朝から馬鹿騒ぎをする二人を心配そうに眺めていた6才のビリーと7才のミカと8才のダボスの孤児3人組が次々に声を上げた。
「お姉ちゃま達、もうケンカはやめて。ボク手伝うから。一生懸命手伝うから」
「スモル姉ちゃんもオリビア姉ちゃんもお願いだから落ち着いて。ビリーと一緒に私もオムツ交換手伝うから、お願い」
「俺もオムツ交換手伝うよ。何故ならオムツを頭に被りたいから」
子供達の気持ちのこもった仲裁の訴えにバツが悪くなり押し黙るスモルとオリビアの二人であった。