天空の家族
これは地球ではないグリームヒルトという世界でのお話。
異世界グリームヒルトにあるグラッド王国の首都メルカッドには老人や孤児などを支援するための施設がいくつか存在した。
この物語の主人公であるスモルストーンは天空の家族という施設に勤務する25才のソバカスがチャームポイントで陽気かつ朗らかかつ慈しみ深い性格をした女性である。
「スモル、ビスケル爺さんがまた杖を誰かに盗まれたって騒いでるから、あんたちょっと宥めてきてくれよ」
同僚のオリビアがスモルに声をかけた。
オリビアは27才とスモルより年上だが先輩風を吹かすことのないスモルの大切な友人の一人である。男勝りなオリビアと介護精神と奉仕の精神を重要視するスモルは時にぶつかり合うこともあるが究極の破局にはまだ至ってない。
「ビスケルさんね、分かったわ。ビスケルさんももう90歳だものしょうがないことよ。何度も言うけどオリビアもビスケル爺さんなんて呼び方しないで、ビスケルさんって呼んで。人生の先輩よ、尊敬する気持ちを大切にして」
「ビスケルは爺さんだろ、だからビスケル爺さんなんだよ、ビスケル爺さんという呼び方のどこが間違ってるんだ、うるせえこと言うんじゃねえ」
「オリビア、確かにビスケルさんはお爺さんよ。それは間違ってないわ。私が言いたいのは尊敬する気持ちを大切にしてってことなの。ビスケル爺さんという呼び方はビスケルさんを少し小バカにしてるわ。せめてビスケルお爺さんと呼んで頂戴」
「うるせえな、爺さんとお爺さんなんてそんな変わらねえだろ。私は愛着と親しみを持ってビスケル爺さんって呼んでんだ。頭くんだよ、お前のその偽善的な姿勢。でもな、まあいい。私が今回は引いてやる。今度からおビスケルさんと呼ぶことにするよ、シッシッ、早くおビスケルさんのところに行けってんだ」
「まあ、オリビア。あなたという人はなんというへそ曲がりなの。ああ、天空神様、どうかオリビアをお救いくださいませ」
「黙らねえとほっぺたビンタするぞ、この野郎」
小規模な破局は日々、彼女達に訪れていた。
スモルがおビスケルさんの所に行くとビスケルは大声で喚いていた。
「ワシの杖が盗まれたー」
人は年齢を重ねると猜疑心と被害妄想が強くなりビスケルのように物盗られ妄想に陥ってしまうことがある。
「ビスケルさん、安心して下さい。杖は誰にも取られてません。一緒に探しましょう」
スモルはビスケルの心を安心させるよう優しく言った。しかし、ビスケルの耳は遠くその声は届かなかった。
「ワシの杖が盗まれたー」
「ビスケルさん、落ち着いて下さい。杖はこの近くにあるはずです。一緒に探しましょう」
スモルはかなりの声量で言った。決して怒鳴ってるように思われてはならない。オペラ歌手のような声のだしかた。こういう時のため、スモルは日々鍛錬を繰り返していた。これでいつでも劇場に立てる。
「おお、お前が盗んだのか。どこに隠した。ここか」
あろうことかビスケルはスモルの履いている布のスカートをまくり上げた。
これは性的なものではなく、本当にそこに隠されているのだとビスケルは認識しているわけで、奉仕の精神を大切にするスモルにそれを注意することはできない。
「ビスケルさん、ここに杖はありませんよ」
絹のパンツを見られてもスモルは慈しみ深く言った。
「どこに隠した。ここか」
なんと、ビスケルはスモルの服を剥ぎ取り始めた。
「何やってんだお前、バカじゃねーの」
杖など隠していないことを身を持って証明するため、頬を赤らめながらも下着姿になったスモルを目撃したオリビアがそう吐き捨てた。