弱者の独り言
「黙れミソジニー」
こんな暴言を人に吐く奴の道徳観が不思議でしょうがない。
法律上の平等の定義と互いの利益の尊重を両立した意識を世の中に向ける為の方法を議論していたのに、いきなりこんな暴言を吐き散らかして議論を乱すなんて....。
しかも俺はミソジニー(女性険悪者)なんかじゃない。
男性と女性が平等になれるように、もっともっと良い世界が広がるように、議論していただけなのに。
だって「男はみんなち○ぽを切り落とせ」なんて狂気に満ちた主張が平等な訳が無い。
でも相手にはそれが分からない。
「昔性犯罪の被害にあったから」とかいういわゆる"マイノリティー宣言"を悪用し、男性険悪とヘイトスピーチを正当化させている。
百歩譲って、「ち○ぽを切り落とせ」という主張を個人の意見として捉えることもできない訳では無いが、「黙れミソジニー」なんて暴言が正当化される訳が無い。
やはりインターネットにまともな意見を求める俺が馬鹿なだけなのだろうか。
それにしてもインターネットの世界は面白い。
意味不明な陰謀論や唐突な誹謗中傷はもはや名物と化している。
現実世界では目にしないような頭のトチ狂った人も沢山いる。
でも唯一の救いが、まともな人が大多数である事だ。
悪いイメージを持たれやすいネットユーザーだが、中身はごく普通の人間。規約上少なくとも最低限の教育は受けている。その中には「道徳」も含まれる。
そのしるしが、俺に送られてきた「黙れミソジニー」のリプライ欄だ。
「負け惜しみ乙www」
「ねえ今どんな気持ち?ねえどんな気持ち?w」
「さすがにそれはないと思いますよ。」
「@***さん(俺)!これ裁判で金とれますよ!」
「運営に通報しました!」
本人にも負けない程の批判の嵐が起こっている。
一見好き放題叩いているように見えるみんなのリプライだが、ちゃんと誹謗中傷のラインに引っかからないようにしている。
基本的に「死ね」「消えろ」「黙れブス」などの単語が誹謗中傷のラインに引っかかるが、「乙www」などの煽りは誹謗中傷の判定には基本的にならない。
例えなったとしても、それは言われた相手が自殺したか、未遂の時だけ。
つまり誹謗中傷をする目的を達成した時だけだ。
道徳やらなんやら言ってる俺だが、実は俺も人の事は言えない。
そもそもさっきまでの議論は、答えを出すための議論ではない。
「私はそう思いませんが、あなたが差別思想をしているのであれば、そういうことで大丈夫です。」
こんなふうに、相手の怒りを誘うものだ。
相手もそれには気づいてただろう。
だからあのような言葉を発することに繋がった。
そしてバッシングがどんどん増え、リプライが発信されてから30分でその数はもう20を越えようとしていた。
相手が叩かれるのを誘発した俺も悪い。
確かにそうなのだが、何故か快感に浸っている俺がいる。
俺を叩いた馬鹿が、返り討ちにされている。
こんななろう系小説のような状況をリアルに感じている。道徳的に見れば、決して良いとは言えない。
それでも、なんだか心地よかった。
薬物中毒みたいなものだろうか。
俺はクズだ。
社会のクズだ。
世界のクズだ。
人類史の黒いページのようなものだ。
それでも俺は幸せだ。
誹謗中傷をするのは弱者。
こんな言葉が支持されているが、確かにそうだ。
誹謗中傷なんてしてはいけない。
相手が傷付くし、なんの得にもならない。
それでもやめられない。
誹謗中傷をしない奴らには分からない。
叩くことがどれほど気持ちいいのか。
叩くことがしたいが故に、俺はクズになった。
「私はそれは違うと思いますよ。
まあ、あなたに言っても分かりませんかwww」
ごく普通の返事に、一言煽りを加える。
ただそれだけ。
ただそれだけだが、確実に相手は傷付く。
俺がそうだった。
ネット始めたばかりの時に言われた「馬の耳に念仏www」の一言は今でも忘れられない。
最初にそれを言われた時は泣いた。
1週間経っても治ることはなく、思い出す度に吐き気がして、学校も何回か早退した。
俺にあんなことを言ったあいつが許せない。
その気持ちのまんま、しばらくログインしていなかったSNSのアカウントで、「社会の敗北者がなんか楽しそうに言ってるなwww」と別のツイートのリプライで煽り返した。
その瞬間、なんだか解き放たれたような気分になった。
今まで一時として忘れることができなかったあの煽りが、なんだか軽いもののように感じられた。
そうか、煽りって、こんな軽い気持ちでできるんだ。
それからは毎日なんかしらの炎上しそうなツイートを順番に叩いた。
性的コンテンツ、男女平等、政治、選挙、芸能界の不祥事、大企業のパワハラ報道、そして反日思想。
様々な社会問題などを文字に起こしたネットニュースのリプ欄を、ひたすらに見て回った。
そして、順番に叩いて行った。
ある日、俺は考えてしまった。
「俺は何をしているのだ」と。
毎日毎日叩いて、叩いて、快感を得て、また叩いた。
快感だと思っていたあの感覚は、相手だけではなく、自分の心をも削ったものだった。
怖くてたまらなかった。
俺は本当に社会のクズだ。
こんなことしかできず、価値もない行為を繰り返す姿は、なんだか俺に誹謗中傷の矢を向けたあいつらと同じだったんだ。
この事実に気づいた時はもう遅かった。
俺はもう社会のどん底に居た。
誹謗中傷が、もう1人の誹謗中傷の加害者を生み出してしまう。
そしてまたひとり、またひとりと、無限ループに陥る。
俺は、弱者だ。
相手を叩き、喜び、また叩く。
自分がすり減っていることにも気づかず、また叩く。
いつかすり終えてしまった時、初めてそれには気づく。
人を叩く前のあの希望に満ちた日々はもう戻っては来ない。
身の回りに集まっていた友達も、もうどこか遠くに行ってしまった。
手元に残ったのは、未来を無くした空っぽの自分だけ。
脱力感が身を包む。
この日からバイトも、学習も、ネットも、何もかもがつまらなくて、恐ろしい。
もう俺の居場所はない。
家の隣をすぎていくパトカーも、自分に目をつけている気がした。
楽になりたいよ…。
ひとしずくの涙と、首から吹き出る血で俺の世界が染められた。
この小説は最後の一文を除きノンフィクションです。
実際に私の知人が体験した話をそのまま文字に起こしました。本人の了承は得ています。
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