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ぼく  作者: 槌谷 紗奈絵
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ありがとう

( 今だ! )



ぼくは開け放たれたまどから飛び降りました。



リードがぼくに引っぱられカラカラと音をたてています。



自動車がゆっくりわきによって止まりました。



ドアが開いていきおいよく閉まりました。



お母さんが自動車の後ろを回ってこちらに歩いてきます。



ぼくは遠くに行こうと思いましたがリードがゆるしてくれません。



「 あぶないでしょう! 」



こわい顔をして仁王立ち(におうだち)したお母さんは、しばらくぼくを見下ろしていました。



ぼくはおそろしくて足ぶみをしながらそっとお母さんを見あげると、お母さんはゆっくりすわって両手でぼくの顔をはさみました。



きゅっとむすんだ口が動き、「 分かったよ。 お医者さんには行かない。 」



そう言ってからぼくの頭を強くなでました。



さっきまでこわい顔をしていたのに涙がいっぱい流れています。



その日の夜お母さんは、みんなにぼくが自動車から飛び降りたことや、お医者さんには行かないということを話しました。



ぼくの話をしているのに眠くなってしまってひなちゃんやひゅうがの言ったのが聞けませんでした。



それでもぼくは元気に毎日お母さんと、お休みの日はひなちゃんやひゅうがと、時々お父さんとおさんぽにでかけました。



いい天気の日は木の下でおひるねをして雨の日はお母さんからもらった赤いセーターの上でおひるね。



( ぬくぬくとしてよく眠れるんだー。 えへっ ねてばっかり。 )



シルバーウイークがくると、ひろさんやまさきさんたちみんなと遊びました。楽しい一日でした。



寒くなり始めた頃からぼくはもっと眠くなって日当たりに出ては眠りました。



ぼくのおなかが重くなってきているのです。



だんだん歩くのがやっとになり、少し歩いては休みました。



お母さんがだっこしておさんぽに連れて行ってくれるようになりましたが、今度はお母さんがハアハア息を切らします。



( ぼく重いからだっこしなくていいよ。 )



春が近付いた暖かい日、ぼくはお母さんの腕の中でもがきました。



「 あら? だっこされるのいやなの? 歩いてみる? 」



お母さんは、そう言ってからぼくが立てるようにそっと降ろしました。



一歩、二歩、三歩、四歩、五歩、六歩 ぼくは眠くなりそこに丸まって眠ることにしました。



「 ここで眠っちゃだめよ、おうちに帰ろうね。 」



やっぱりお母さんにだっこされておうちに帰りました。



息を切らして帰るお母さんをまどごしにお父さんが見てニコニコしています。



「 いい運動でしょう。 筋肉がついたんじゃない? 」とからかうお父さん。



「 こうかしら? 」 と ひゅうがのまねをしてこぶしをつくるお母さん。



吹き出すお父さん。



「 クロ、寒い冬もがんばったわねえ。 」



そう言ってぼくから首輪をはずしました。重いくさりもなしです。



ぼくは、ブルブルっと全身をふりました。



「 よしよし。おりこうおりこう。 」 お母さんはぼくの頭からしっぽまでくちゃくちゃになでました。



ぼくは、うれしくてしっぽをいっぱいふりました。



日かげに少し残った雪。でも日なたはたんぽぽがさいています。



ぼくは最近、いつもおなかがいっぱいで、ひなちゃんの玉子焼きを1つ食べるともう後はハピちゃんが食べています。



「 おさしみならもっと食べられるかしら? 」 ひなちゃんはおさしみを持って来ました。



ぼくは、3こ食べました。



暖かい陽ざし 。



小さいときのあのあまいにおい。そう、春のにおい。



あの時、まいごになって、そして、いくつの春をこえてきたのだろう。



エルやテリィ、ハピちゃんやふじ子、おさんぽの時追いかけたネコたち。



楽しかったな。



おさんぽから帰るのがいやでお母さんをこまらせたっけ。



まむしにかまれて死にそうになった時、ぼくはとっくに、かくごを決めていたのに、お母さんは二つの夜を眠らないで、ぼくのそばにいてさすってくれました。



さすってもらってなんだか元気が出たんだよね。



あの頃はひなちゃんもひゅうがもぼくより小さかったのにいつの間にか追いこされてしまいました。



どうしてぼくは大きくならなかったのかな?



ひなちゃんは優しくて、細い指に玉子焼きやチーズを乗っけて食べさせてくれました。



ぼくはひなちゃんの手を痛くしないようにそっと食べるのがとくいだったんだよね。



ひゅうがとは男同士、本気でネコじゃらしを取り合ったり池に入って遊んだね。



お父さんからはブラシをかけてもらいました。首の所が気持ちいいの。



シルバーウイークにかっこいい服を着て来るお友だち。にぎやかで、ゆかいで、それでいてやさしいぼくの大好きな人たち。



ハピちゃんをつれて来たセガお兄ちゃん。よくわらうお兄ちゃん。お母さんを「 お姉さん 」ってよんでいました。



ぼくはみんなからおりこうって言われました。ほんとだよ。ぼくとってもうれしかった。



交換に来るたびぼくと遊んでくれたプロパンガスのお兄さんがきのう来て「 がんばれよ! 」って頭をなでました。



しっぽを動かしたつもりだったけれど見えたかなあ。



ぼくの家族は今日の朝から出かけました。



もうすぐ夕方になります。



早く帰って来ないかな。



庭の入り口までむかえに出よう。



しばらく歩いてないからちょっと歩くとつかれるよ。



向こうまで見える所に出て、ふせをしていることにしました。



少し陽が傾いてきた時、近所のおばさんが通りかかって



「 あらあらクロちゃん、寒くなってきたわよ。 」と言いながら、ぼくの愛用しているお母さんからもらった赤いセーターを背中にかけてくれました。



遠くからかすかにひゅうがのにおいがします。



もうすぐ自動車が坂を登ってきます。



お母さん、帰ったらまただっこしておさんぽにつれて行ってね。



ぼく、待ってる。



―――完―――


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