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ぼく  作者: 槌谷 紗奈絵
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今だ ! !

( お母さん早く来ないかな )



ぼくは、おりの中でお母さんを待ちました。



お医者さんが来て 「 食事はできないか? 」 といいながら おりのとびらをあけました。



「 ちりょうに行くよ。 がんばろうな。 クロはおりこうだからじっとしていられるな ? 」



ぼくはリードを引かれるままお医者さんの後をトボトボとついて行きました。



台のあるへやに行くと さっきお水とコロコロのごはん持って来たお姉さんとやっぱり同じ白い服を着た背の高いお兄さんが楽しそうに話をしていました。



「 さあ、みんなもお願いしますよ ! 」 と言ってからお医者さんは、ぼくをだっこして台にのせました。



「 はい ! 」 お兄さんとお姉さんは、声をそろえていうと台にのったぼくの両がわに立ちました。



そして、「 お手はできるかな ? はーい お手 」 とお姉さんが手を出しました。



ぼくは、お姉さんの手の上にお手をしました。



「よし ! クロ ! おりこうだ ! 」 お医者さんが言いました。



ぼくは、少しだけしっぽを動かしました。



こんどはお兄さんが、「 ちょっとだけ毛をそらせてねー。 いたくないからねー。」



と ジージー音がする機械を持っていて



お姉さんの手の上にお手をしたぼくのうでのまげるところの近くに当てました。



機械はジジジーンジジジーンジジジーンとゆかいな音をさせながらぼくのうでを3回下から上に向かって動きました。



ぼくは首をかしげながらこのゆかいですこしくすぐったい機械の動きを追っていました。



するとお兄さんが 「 はーい。 終わりですよー。 」 と言いながら頭をなでました。



ジーーーンン ン と静かになりました。



お医者さんが 「 この子を見ていると今にも話しそうな顔をしているね。」



『 私もさっき食事を持って行った時、「 知らない人がごはん持って来てた。 」

って言われた気がしたんです。 』



と言いながらぼくの手をそっとおろしました。



「 ふしぎな子ですね。 ボクたちの話を聞きながら尾の先だけ動かしている。まるで分かっているような顔をして。 」



「 じゃー、少ーしチクッとするよ。 動かないでいられるかなー? 」



お医者さんはぼくの顔をまっすぐに見ていいました。



( 前にもお母さんがいっしょの時チクッとするっていうのやった。 )



お姉さんが 「 ふせ 」 と やさしく言いました。



ぼくが フセ をすると 「 おりこうさんね。 」 と頭をなでました。



お兄さんがぼくの首に大きな朝顔の花みたいな物をまきつけました。



お姉さんが朝顔の上からぼくの首に腕をまわしてだきしめました。



( ウウ・・・力が強くてお母さんより少し苦しい。 )



お兄さんがジジジーンとやったあたりをおさえています。



お医者さんが「 動くなよクロ ! 」



その時、手に何かあついものがあたりました。



「 よし終わり ! 」



お医者さんが言いました。



お姉さんがお医者さんの声と同時に首から手をはなしました。



あつい物が当たった所にはテープがはってありました。



お姉さんがテープのうえからきれいにほうたいをまいています。



よく見るとテープの所からホースの細いのが出ていて長ーく上の方につながっています。



それよりぼくは、首につけられた朝顔が気になってテープがついてない方の手ではずそうとしました。



お医者さんが 「 これは退院の時にはずすからね。 が ま ん し て 。 が ま ん し て 。 」



とぼくの目を見てゆっくり言いました。



( が ま ん し て )



ぼくは心の中で何回もくりかえしました。



お医者さんはもう一度ゆっくり「 さっきのように横になれるかな ? 」 と言って



CTの時のようにぼくを横にしました。



「 また少ーしチクッとするよ。 」



お姉さんが首から背中をだきしめました。



( ウウウ・・・やっぱり苦しい。 )



こんどはおなかにあつい物が当たりました。



お医者さんがうれしそうに言いました。「 しゅうりょう ! 」



見るとおなかからもホースがでています。



お医者さんもお姉さんもお兄さんもぼくのあちこちを なでるのでしっぽを少しだけ動かしました。



でも、なんだかねむい。



3人でぼくをほめながらおりまで送るととびらを閉めて帰っていきました。



( お母さん、まだ用事すまないの? ぼくもう眠いのに。 )



いっしょうけんめい起きていようとしましたが、いつのまにか眠ってしまいました。



朝顔が気になって目がさめるとあたりはまっ暗。



ぼくは悲しくなってお母さんを呼びました。



「 ウオーーーーーーン ウオーーーーーーン ウオーーーーーーン 」



おどろいた小さな犬たちがいっせいにキャンキャンなきはじめました。



( だめだね お母さんはもう来ないんだ。 )



あきらめてまた眠りました。



朝が来ましたがぼくはホースにつながれたまま、また夜になりました。



ただただ がまんしていました。



( お母さん、ひなちゃん、ひゅうが 、ぼくはここだよー ! さがしにきて )



悲しい朝が来てさびしい夜も来て、そしてまた朝が来ました。



ぼくのおなかはへこんで軽くなりました。



お医者さんがぼくのおりのとびらをあけて頭をなでました。



リードを引いて台のあるへやに行くとまたぼくを台にのせました。



お姉さんがほうたいを取るとお兄さんがテープをていねいにはぎ取りました。



するとスーーっとした感じがして



「 手の針は抜いたからな。後はおなかだ。 」 とお医者さん。



お兄さんが、おなかのテープをそっとはがすとまたスーっとしました。



「 よし! これでフクスイは抜けたぞ。クロもうだいじょうぶだからな! むかえに来るよう電話してあげて。 」



お医者さんはお姉さんに言いました。



「 はい、先生 」


朝顔もはずしてもらったぼくは、またおりに入れられてしまいました。



( またここでくらすの? いつまでがまんなの? )



ぼくは本当に悲しくなってしまいました。



しょんぼりしていると遠くからお母さんの自動車の音が近付いて来るのが聞こえます。



「 ワオーーーン ワオーーーン ワオーーーン 」 ぼくはここにいるよー!



お母さーん。



お母さんの自動車のエンジンが止まってドアを閉める音。



お医者さんと話す声。



コンクリートのへやのドアがあきました。



「 キューーン 」



「 クロちゃん、がんばったんだってねー。」 ( やっとお母さんが来た! )



お姉さんがおりのとびらを開けました。



( ずーっと待ってたんだよー。 ずーっとずーっと待ってたんだよー。 )



ぼくはお母さんの顔をペロペロなめました。



そして、飛び付きました。



お母さんはしっかりぼくをだきしめてくれました。



「 ありがとうございました。 」



お母さんは何度も頭をさげています。



ぼくはその間、頭をあげてりっぱに立っていました。



家に帰ってお母さんは、ぼくのことをお父さんに話しました。



お父さんは少しだけ窓から話しかけて「 がんばったなー クロ。よしよし。」



ぼくは、おすわりをして いっぱいしっぽをふりました。



しばらくするとひなちゃんとひゅうががハアハアいきを切らして帰って来ました。



「 クロ! お帰りー 。 」



もうぼくはうれしくてうれしくてうれしくて「 ギャワーーンワン 」



「 あははは 変ななきかただぞー クロー 」 ひゅうがが元気にわらいました。



ぼくはそれからすっかり体が軽くなって前より元気になりました。



大好きな冬が来て雪かきをするお母さんにじゃれたり、



ひなちゃんが作ったチーズのケーキをいただいたり、



ひゅうがと山の池にたにしを取りに行ったり。



でも、花かいどうが向こうも見えないほど花をさかせているころ、ぼくのおなかはまた重くなり始めました。



お母さんは、ぼくが自動車に乗るように後ろのドアをあけました。



ぼくは乗りませんでした。



お母さんはいやがるぼくをだっこして後ろのせきに乗せました。



いつものようにリードをざせきにむすぶと運転席にすわりエンジンをかけました。



( あー いやだよー お医者はもう行きたくないよー

お願いだから つれて行かないでよー。 )



自動車はどんどんお医者の方に進んで行きます。



( あのカーブをまがったら、もうすぐお医者だ。



自動車のスピードがおそくなる時は あのカーブしかない。 )



自動車はカーブの少し前からおそくなりはじめました。



( カーブに入った! 今だ! )



ぼくは開けはなたれた窓から飛び降りました。



ー52話に続くー






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