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ぼく  作者: 槌谷 紗奈絵
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ひなちゃんの涙

顔が白くなったお父さんが、ゆっくり自動車からおりました。


ひなちゃんとひゅうがが、 「 お父さん、たいいんおめでとう。 」 

と、お父さんの、うでをささえます。


ぼくは、たちあがって 「 ヴゥゥー、 ゥワン、 キューン、 クンクン!! 」 と、鼻を鳴らしました。


お父さんは、にっこりしながら、「 よしよし!クロもおりこうにしていたんだな。 」


と言って、ひなちゃんとひゅうがの手を、両わきにはさんだまま、おうちに入っていきました。


ぼくは、いつもの、中が良く見える所に、ねそべってようすを見ることにしました。


お父さんは、パジャマの上にガウンを着てすわりました。


お母さんとひなちゃんは、色々なおごちそうをお皿にもり付けています。


ひゅうがは、テーブルに運びます。


テーブルはおごちそうでいっぱいになりました。


「 さあ! ひなも ひゅうがも すわって! 退院たいいんのおおいわいをしましょう! 」


( えー!!? ぼくのおごちそうは???! )


ぼくは、まどの下に走って、おすわりをしました。


「 そうそう! クロの分もね。 」


お母さんが、思い出したように言いました。


ひなちゃんが、窓をあけて、「 おすわり! 」 と、儀式ぎしきが始まります。


お皿には、いつものチーズが小さくたたんであるのが3コ、ひなちゃんのおいしい玉子やきが3コ、おさしみが3こ、むしたとりにくが5コ、のっていました。


儀式が終わると、ひなちゃんの細い指をかまないように、チーズをいただきます。


小さなチーズを飲みこむと、ひなちゃんは 「 クロは、おりこうちゃん 」と言って、ぼくの頭をなでました。


それから、おごちそうのお皿を、ぼくの前におき、「 よし! おあがり! 」 と言いました。


ひゅうがは、その間に、窓から降りて、サンダルをはき、ハピちゃんのごはんをあげます。


( ウワーオ! おいしそう! 一つ一つ ゆっくり 食べよっと! )


ぼくが、一つ目のお刺身を味わっているころ、みんなテーブルにすわりました。


「 みんな、毎日ありがとう。お父さんは、みんなのおかげでがんばれたよ。 」


「 お父さん、退院おめでとう! カンパーイ!! 」 


お母さんに続いてみんなも 「 カンパーイ!! 」


「 ひなちゃんのおかげでお父さんは、もう少し生きられそうだよ。ほんとうにありがとう。 」


お父さんが、いいました。


「 ・・・・・ 」


( アレ!? どうしたんだろう、ひなちゃん。 )


ぼくは、一番見えるいつもの所に行きました。


ひなちゃんの目から、いっぱいになった涙が、あふれてこぼれ落ちます。


「 ウワーー 」 ついに、ひなちゃんは、泣きながらお父さんの所に行きました。


お父さんは、ひなちゃんをしっかりだきしめました。 


お母さんも、ティッシュペーパーで目や鼻をふいています。


ひゅうがも泣いているのか下を向いています。


しばらくすると、お母さんが、「 ひなちゃんもひゅうがも、本当によくがんばったのよ。


笑顔でいようって、最初の約束やくそくをずっと守って。


泣かなかったし、わがままも言わなかったの。


それにお母さんをずっと助けてくれたのよね。 」 と言いました。


「 みんなえらかったな! お父さんは、しばらくおうちにいてパソコンで会社とつながって仕事をするから、みんなにおん返しするよ! 」


「 やったー ! ぼく、学校が終わったらすぐ帰ってくる! 」 と ひゅうが。


ひなちゃんは、お父さんのガウンに顔をうずめたまま言いました。


「 おん返しはいらないから、前みたいに元気になって! 」 


「 さあ食べましょう! スープが冷めちゃうわよ! 」 お母さんは、鼻水の声。


---39話につづく---





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