おごちそう
「 春になるころには退院できそうよ。 」
「 うふっ 奥さんもひなちゃんもひゅうがも、りょうがさんへの愛は、
ウルトラ級だもの。 がん細胞だって勝てっこないわ! 」
よっちゃんのおばちゃんは、わらっていましたが、ほっぺに涙が流れていました。
雪のかべが少しずつとけて、お庭のすみに福寿草が顔を出すころ、
学校から帰った二人をおいて、お母さんは一人で病院に行ってしまいました。
( たくさん降ったなー・・・ 雪 ・・・ )
ぼくが、ボーっと つもった雪を見ていると、ひゅうがが 「 クロ、何かいいもの見つけたの? 」
いつのまにか ひゅうがが ぼくの後ろにいます。
ぼくは、立ち上がって ひゅうがに手をのばしました。
ひゅうがは、ぼくの両手を持って後ろにさがります。
「 1,2,1,2・・・・うまいぞ! クロ! 」
ぼくは、ひゅうがの顔を見ながら、歩きます。
( ひゅうが、大きくなったな。 ぼくより背が高くなった。 )
7コ歩いて、ぼくはひゅうがの手からおりました。今度は、えもの遊び。
みんなが使った手ぶくろやくつ下で、お母さんが作った えもの です。
ぼくは、これが大好きです。
みんなのにおいがするから。
いつも、ぼくのおうちのおくに、しまってあります。
ねるときは、それに鼻をのせてねむります。
ぼくは、えものをくわえてきて、ふりまわしてから、飛ばしました。
ひゅうがが,えものに向かって走ります。
ぼくも、えものに向かって走ります。
ぼくが、えものをくわえた時、ひゅうがも、えものをつかみました。
「 ヴゥゥー! 」 ( こら! はなせー! ぼくが先に取ったよー )
「 ヴゥゥー! 」
「 ヘーン ! はなすもんか ! 」
ひゅうがも、負けません。
( ヴゥゥー! これでもか! ) ぼくは、えものをくわえたまま首をふりました。
やっと、ひゅうがの手から、えものが、ぬけました。
( やったー ! イエーイ ! ぼくの勝ちー ! )
ぼくは、えものを高くくわえて ひとまわり歩きました。
ひゅうがは、くやしそうに 「 よーし ! 来い ! 」 と かまえます。
ぼくは、えものを思い切り飛ばしました。
( し、しまった! )
えものが、ひゅうがのすぐ近くに飛んで、ひゅうがに取られてしまいました。
ひゅうがは、とくいそうに高く上げて、えものをふります。
( よし! 来い! ) ぼくは、かまえました。
( あっ!! お母さんの自動車の音がする ! )
ひゅうがが、えものを投げた時、曲がりかどから、こちらに向かって走る、お母さんの自動車が見えました。
ひゅうがは、「 お父さんだ! 今日は、お父さんが帰ってくるんだよ!
クロ! おごちそうだぞー! 」
ひゅうがは、うれしくて、かおをくちゃくちゃにしながら、走っておうちに入っていきました。
自動車が着くと、ひなちゃんが、げんかんから出てきました。
いそいで着がえたひゅうがも、出てきました。
顔が白くなったお父さんが、ゆっくり自動車からおります。
ひなちゃんが、 「 お父さん、たいいんおめでとう。 」 と言って、お父さんの、うでをささえました。
ひゅうがも、てれくさそうに 「 お父さん、たいいんおめでとう。 」 と言って、もう一方の、うでをささえました。
お母さんが、大きなふくろを、いくつも自動車からおろして、おうちへ運びます。
お父さんは、「 クロ、おりこうしていたか ? よしよし 」 と、ぼくの方を見ました。
ぼくは、何だか、はにかんだ気持ちになって、おすわりをしたまま、シッポを少しふりました。
「 あれ?? わすれちゃったのかな? お父さんだよ、 クロ。 」
( わかってるけど・・・ぼく・・・お父さん、白いんだもの。 )
「 わすれてないよ。 クロはてれちゃったの。 ねっ! クロ! 」 と ひなちゃん。
ぼくは、しっぽをいっぱいふりました。
「 そうかそうか。 クロは、いっちょ前にてれるんだな、はははっ 」
お父さんが元気そうにわらいました。
ぼくは、たちあがって 「 ヴゥゥー、 ゥワン、 キューン、 クンクン!! 」 と、鼻を鳴らしました。
---38話につづく---