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ぼく  作者: 槌谷 紗奈絵
32/52

叫び

「 行かなくちゃならない時はちゃんと行くよ。 」


「 じゃー、あした行って! あしたが行かなくちゃならない時だから。 」


「 えーっ? あしたかい? お仕事はどうするの? 」


「 お仕事の前に行くの。 」


「 せきもひどくないし、ねつもないし、頭も痛くないんだ。なのにお医者に行くなんて、はずかしいよ。」 


「 何でもないなら、お医者さんが、何でもないっておっしゃるでしょう? 


ひなは、それが聞きたいの。 」


「 まいったよ、ひなちゃん。あした お医者に行く手配てはいをするよ。 」 


お父さんは、ひなちゃんをだきしめました。


目をまん丸くしているお母さんの前で、お父さんはテキパキと電話をしたり、紙をいっぱいまとめたり、色んなカバンにつめたりしています。



つぎの日、お母さんは、大きなふくろを持っておひるすぎたころ出かけていきました。


夕方、すずしくなってから、帰ってきたお母さんは、自動車をガレージに入れると、家に入らずに ぼくのところに来て、「 先におさんぽ、行っちゃおう! 」 と言いました。


今日は、お山に行くコース。


お山の上に大きな池があり、夏休みにはひなちゃんとひゅうがも、この池でお魚をつかまえたり、タニシを取ったりして遊びます。


お母さんは、何も話しかけず、ぼくのようすだけ見ながら、歩きます。


( いつものお母さんとちがうなー )


ぼくもお母さんのようすを見ながら、山道をのぼりました。


お池につくと、お母さんはぼくの首に付いたリードをはずします。


そして、「 クロ! 遠くはだめ ね。 」 と ぼくの目を見て言いました。


( わかっているよ! お母さん )


ひるの間ずっと日が当たって、夕方になってもまだあたたかい水


( ひゃっほー !! ) ひゅうががおふろに入るときみたいに飛びこんだ時、


とつぜん


「 りょうがー! しなないでー!! おねがい!りょうがー!! 」


お母さんが、大きな声でさけびました。


( おかあさん! なんて言ったの? )


ぼくの首からせなかの毛が、ぜんぶ立っているのを感じ、お母さんの所に走りました。


お母さんは、ないています。


ぼくは、お母さんに体をすりよせました。


ほっぺにいっぱい流れているなみだ。


( おかあさん どうしたの? おかあさん、ぼく そばにいるよ! )


お母さんは、ぼくによりかかるようにして、しばらくないていました。


それから、なにか思い出したように立ち上がると、


「 りょうが、ずっといっしょに生きていくの! しなせやしないわ!! 


クロおいで!もっとのぼったら、おやしろがある 」


と言って、どんどん歩き始めました。


この上には古いおうちがあるのを、一人でさんぽした時に見たことがありました。


ふしぎなおうちで、かべはなく、やねと板のおうち。


しーんとしていて、だれもいなかった。


お母さんは、いきを切らしてのぼって、その古いおうちにつきました。


すると、くつをぬいで、はだしになりました。


ポッケからティッシュペーパーを出し、ぬれて光っているぼくの足を、ていねいにふきました。


そして、おさんぽの時、いつも持って来る ふくろに入れました。


こんどは、ハンカチを反対がわのポッケから出して、また、ぼくの足をふきます。


それから、お母さんは、立ち上がり、はだしのまま 古いおうちに向かってゆっくり歩き始めました。


ぼくは、お母さんから はなれないように ぴったり付いて歩きました。


何ども 何ども 何ども くつをぬいだあたりから、古いおうちの前まで歩きました。


お母さんは、口の中で 「 生きるの、生きるの、いっしょに生きるの。 」


と言っているようです。


−−33話につづく−−−


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