お土産
お母さんは、すわって、「 くろ、よかったねー、また元気になれるって。」
とやさしく言ってから、お皿にあったお肉を、ぼくの口に入れました。
でも、かんでいるうちに、いやなにおいがして、ぼくは、いそいで、ぜんぶ口から出しました。
( お母さん! どくが入ってるよ! )
「困ったねー、お肉にかくしてもだまされないし。クロちゃん、おくすりを飲まなくちゃ、しんじゃうのに。」
お母さんは、ぼくの顔をジーっとみながら小さな声で言いました。
何回もぼくの口に、小さくちぎったお肉を入れながら、お母さんは、何か考えています。
お皿のお肉があと一つで終わるという時、お母さんは、また小さく、でもしっかりした声で、
「 そうだ!! 」 といって、ぼくにほほえみかけました。
やさしい笑顔の中にドキッとするような目の輝き。
「 くろ! 待っててね ! 」
最後のお肉を、ぼくの口にそっと入れると、ゆっくりお肉をかみしめているぼくを残して、窓をしめ、いそいそと出かけていきました。
帰ってきたお母さんは、窓をあけて、ぼくをよびました。
( わーい ! おみやげ ! )
ぼくは、窓の下で、おすわりをして、おみやげを待ちました。
お母さんは、お皿にきれいにたたんで、ならべたチーズを、ぼくに見せます。
チーズのいいかおりが、ぼくの鼻に入ってきます。
お母さんは、一つ取ってぼくの口に入れました。
ぼくは、どくが入ってないか、口の中でチーズを全部溶[と]かしてみました。
( おいしい ! どくは入っていない ! お母さん、こんどは、だいじょうぶだよ ! )
あのお肉は、お店の人がまちがえたんだね。
( ひなちゃんやひゅうがじゃなくて、ぼくでよかった、気付かないで食べちゃったら大変だよ。 )
ぼくは、安心して2コ目のちいさくたたんだチーズを、少し溶かしてからコクンと飲みこみました。
お母さんは、うれしそうに次のチーズを、ぼくの口に入れます。
ぼくは、それも同じようにして、コクンと飲みこみました。
お母さんは、「 あぁ よかった 」 と小さくつぶやくように言い、ぼくの首をだきました。
それからお皿にあったチーズを、1つずつぼくの口に入れ終わると、頭をなでながら
「 くろはおりこう・・くろはおりこう・・くろはおりこう・・ 」 と何度も言いました。
夕食の時になると、ひゅうがが、いすを、ガタガタさせながら、すわるのが聞こえます。
お母さんの「 くろは、ほんとに、かしこいんだね! 」と言う声。
ぼくは、いつものように、窓の下で聞き耳を立てます。
「 くろちゃん、どうしたの? おくすり、飲めたの ? 」
ひなちゃんの声。
「 それがねー、お肉に入れたのを見やぶって、ぜんぶ出しちゃって、食べようとしなかったの。 」
「 じゃあ、なおらない? くろ、おくすり飲まないと、なおらない? 」
ひゅうがが、心配そうに言います。
「 お母さんも、そう思って一生けんめい考えたの。
クロの大好物で、お薬がしっかりつつめて、小さくできて、コクンと飲みこめる物 」
「 何だろう、おさしみ? 」 と ひなちゃん。
「 うん、それも考えたけど、薬がぬれて溶け出したら見つかっちゃうかなー? 」
「 わかったー! お母さんの作った玉子焼き! 」 と ひゅうが。
「 ふふっ、それも考えたけど、くろが、かんだら玉子焼きから薬が出てきちゃうかな。 」
「エーーー、分からない、教えてー。お母さんは、分かったの? 」
ちょっともったいぶってから、
「 クロの大好物で、お薬がしっかりつつめて、小さくできて、コクンと飲みこめる物は、
サンドイッチのチーズ。 」
「 あー!! そうかー! チーズかー!! 」
と ひゅうがが、くやしそう。
「 それで、くろは? 見やぶらなかった? 」 と ひなちゃん。
「 そうね、お肉の事で、くろは、もっと用心深くなっているから、ぜったい、最初のチーズは、うたがわれると思ったの。お薬を入れないで、1コ目をあげると、あんのじょう、ぜんぶ溶けるまで口の中でころがしていたのよ。 」
「 くろー、頭、良すぎー!! 」 ひゅうがが、家の中から窓ごしに、ぼくを見ます。
ぼくは、外でしっぽをふってこたえました。
「 2コ目も、お薬を入れないで、あげたら、少し溶かしてコクンと飲みこんだの。ついに3個目。」
「 お薬を入れたのね? 」 と ひなちゃん。
「 そう、これで見やぶられたら、もういい方法はないから、小さく切ったチーズに薬をはさんで、ちょっとでも、においが出ないように、しっかりまわりをくっ付けてあげたの。すごくドキドキしたけど。すなおにコクンと飲みこんでね。 うれしかったよー。これで、くろは、元気になれるね。」
ひなちゃんが、窓の所に来てぼくのいる所の窓をあけて 「 くろちゃん、おりこうね。 」
と 頭をなでました。 まるで、お母さんみたいです。
ぼくは、うれしくて 「 ウウォーン 」 と あまえて頭を、ひなちゃんに、もたれました。
そこへ 「 ゴホンゴホン、ゴホンゴホン 」 と せきをしながらお父さんが、帰ってきました。
−−31話につづく−−−