フィラリヤ
フィラリヤ
夕ぐれの、すずしい風が、熟したももの、あまいかおりを連れて、来ます。
ぼくは、何だか、つかれた感じがして、すっかり眠ってしまいました。
どれくらい眠ったのか、急に、苦しくなって、せきが、出て、目がさめました。
あたりは、もうまっ暗。
口の中が、ネバネバして、いきが、つまりそう。
手を、口の中に入れて、ネバネバを、取ろうとしても、うまくとれません。
せきも、止まりません。
お母さんたちが、急いで、ぼくのところに走って来ました。
「 クロ ! だいじょうぶだからね ! 」 と、言いながら、ぼくを、なでました。
ぼくは、少しだけ、楽になりました。
ひゅうがは、明かりを持ってきて、ぼくのまわりを、てらしました。
「 苦しいね、クロ ! 」
お母さんは、そう言ってから、 ひなちゃんに、「 クロを、なでていてあげて !
お母さん、井原先生に電話してくる。 」 と、立ち上がって、家に入りました。
しばらくして、ぼくは、自動車に乗せられました。
お母さんは、自動車を、運転しながら、ずっと
「 クロ 、もうだいじょうぶだからね。 」 と、言い続けていました。
( いやな、におい ! お医者だ ! )
自動車から、だっこされて、そのまま、今度は、台の上に、乗せられました。
前に来た時より、大ぜい、白い服を着た人が、います。
みんなが、ぼくを、見ています。
ぼくは、とても、こわくなって、ガタガタ、ふるえてきました。
お母さんが、 「 だいじょうぶ、だいじょうぶ ! 」 と、やさしく言って、
きゅっと、だきしめてくれました。
ぼくは、安心して、ふるえなくなりました。
白い服を着た、一人の人が、 「 これは、りこうな子だ ! 」 と、言って、頭を、なでました。
前に、ぼくのしっぽを、みた、井原先生が、「 この子は、頭のいい子で、よくわかっているようなんだ! 前に、アナフィラキシーショックを、起こしたことが、あってね。 」
と、お母さんの、顔を見ました。
ぼくは、しっぽを、ちょっと動かしました。
それから、白い服の人たちは、ぼくの、わきからむねまで、毛をかり、そこへ、機械を当てました。
「 心ぞうには、きていないから、しっかり、ちりょうすれば、なおるぞ !
良かったなぁ、今日、来ていなかったら、あぶない所だったよ。 」 と、井原先生。
そして、絵みたいな物を、見ながら、ぼくが、あぶなかったことを、説明しました。
お母さんは、ずっと、ぼくを、だきしめたまま、聞いていました。
「 ちゅうしゃを、するからね。 」 井原先生が、言いました。
( ちゅうしゃは、平気だよ。毎年、よぼうちゅうしゃしているけど、平気だもん ! )
おしりが、チクンと、しました。
お母さんが、チクンとしたところを、強くさすりながら、
「 おりこうだったね ! もう終わりだから。 」 と、言いました。
ぼくは、立ち上がって、台から、飛び降りようと、しました。
井原先生が、「 あわてなくていいよ、まだ、お薬が、出るからね。 」
と、ぼくを、止めました。
ぼくは、早く帰りたかったけれど、先生と、お母さんの、話が、終わるまで、がまんして待って、台の上から、おろしてもらいました。
−−−29話につづく−−−