大好きな、雪
( こわがらなくていいのに。エル。
ひなちゃんも、ひゅうがも、花火を、まわしたりして、楽しそうなんだから。
だから、ね。こわくないんだよ ! エル。 )
「 キャン ! ワンワンワン ! キャン ! ワンワンワン ! 」
エルの声は、遠くに、ひびきわたっています。
毎晩、どこかで、花火の音がすると、エルは、花火の音が、しなくなるまで、ずっと、ほえていました。
夏休みが、終わって、花火の音も、しなくなった、すずしい夕方。
ひなちゃんと、ひゅうがの、おじいちゃんが、来ました。
おじいちゃんは、背が高くて、目が大きくて、こわそうに見えます。
ひなちゃんも、ひゅうがも、おじいちゃんのことが、大好きです。
おじいちゃんの、自動車の音を、聞いて、二人は、部屋から、いきおいよく、かけ下りて来ました。
おじいちゃんは、エルを、じーっと、見ています。
エルは、体中が、しっぽに、なったみたいにして、よろこんでいます。
エルの、お母さんは、おじいちゃんちにいるそうです。
エルは、生まれてから、猟犬のくんれんを、おじいちゃんにしてもらって、
それから、このおうちに、来たと、前に、聞きました。
「 こんにちわー ! おじいちゃん ! 」
ひなちゃんと、ひゅうがが、おぎょうぎ良く、ごあいさつをすると、
「 うむ 」 と、うなずいて、家の中に、入っていきました。
ぼくは、まどの下に行って、聞き耳を立てました。
お母さんが、お茶を、そそぐ音が、します。
「 エルを、猟に、つれて行って、いないようなら、
野木おじさんが、猟に、つれて行きたいと、言っているが、どうかな ? 」
「 ええ、電話を、いただいた時、一磨さんに聞いたら、いそがしくて、
つれて行って、あげられないから、おあずけした方が、エルのためにも、いいだろうって。
りょうがは、一磨がいいならいいって。」
「 うむ、暗くならないうちに、野木おじさんの家に、とどけるから。
ひな ! ひゅうが ! エルは、お魚のおじさんの家で、飼ってもらうから、
エルの好きな、お魚を、たくさん食べて、マルマル太るぞ ! 」
「 うん ! エルも、その方が、いいもんね。 」
と、聞き分けのいい、ひなちゃん。
玄関のドアが、あいて、みんな、外へ、出てきました。
エルは、おじいちゃんに、つれられて、いつもとは、ぜんぜんちがう、さっそうとした歩き方。
ぼくは、さよならを、しようと、エルに近づきました。
その時、おじいちゃんの大きな足に、前足を、ふまれて、しまいました。
( あいたたた ! )
( エル ! さようならだね 。 かわいがってもらうんだよ ! )
ぼくは、コンクリートでできた、花だんの上に、登って、
おじいちゃんの自動車が、見えなくなっても、ずっと、見ていました。
鼻を、上にあげて、においを、かぎました。
おじいちゃんの、自動車の、においが、どんどん、遠くへ行って、消えました。
( さようなら・・・・・エル・・・ )
お母さんは、ぼくが、しょんぼり、しているので、たくさん遊んでくれるように、なりました。
やがて、雪が、降るころ、エルが、いないことにも、なれてきました。
たくさん、雪が、つもると、お母さんは、雪かきを、します。
雪かきを、している間は、くさりを、はずして、ぼくを、自由に、してくれます。
ぼくは、雪の中を、ころげまわります。
とても、気持ちが、いいです。
ぼくが、遠くまで、走って行こうと、すると、
お母さんは、すぐに、「 クロ ! おいで ! 」 と、よびます。
だから、ぼくは、お母さんの顔が、見える所に、います。
ときどき、お母さんは、ぼくを見て、にっこりします。
ぼくは、うれしくなって、お母さんに、飛びつきます。
「 これこれー ! 雪かき、できなくなっちゃうでしょう ! 」
お母さんは、白いいきを、ハアハア、させながら、言います。
( ずうーっと、雪かきが、終わらなければ、いいのになぁ ・・・・・ )
−−−24話につづく−−−