お医者さん
山の、さんさくを、楽しんで、いる時、
せなかから、しっぽに、チックーンと、痛みが、走りました。
ぼくは、痛い所を、なめました。
( 何の味だろう ? )
少し歩くと、体が、重くなってきました。
オエッと、なります。
ぼくは、急いで、家に、むかって走りました。
だんだん、足も、からだも、しびれてきました。
もう少しなのに、つばが、ダラダラ、出て、地面が、グルングルン、回ります。
家が、見えているのに、足が、前に進みません。
( 負けるもんか ! )
ぼくは、力を、ふりしぼって、足を、動かしました。
とうとう、目も、見えなくなりました。
( 苦しい ! )
気が付くと、お母さんが、ぼくの体を、さすっています。
「 これを、飲みなさい。牛乳と玉子の白身よ ! 解毒に、なるからね。 」
( お母さんが、お皿に、持ってきてくれたから、がんばって、飲まないと )
ぼくは、オエッと、なりながら、少し、なめました。
「 よしよし、苦しいね、よしよし、よしよし・・・・・・ 」
お母さんは、そう言いながら、さすって、くれています。
安心して、ぼくは、お母さんに、よりかかりました。
オエッとなって、なめた物が、口から出ます。
苦しくて、長い、一日が、終わり、夕方になりました。
お母さんは、ぼくを、げんかんの中に、入れて、ずっと、ぼくの、そばに、ついています。
ぼくが、もどしてしまうので、何度か、口の所に、牛乳と玉子の白身を持って来ました。
でも、ぼくは、もう、それを、飲むことが、できません。
息を、するのが、やっとです。
( お母さんが、さすってくれるから、ぼくは、生きよう ! あきらめないぞ ! )
ひなちゃんと、ひゅうがも、心配して、見に来ました。
「 クロー、だいじょうぶ ? 」 ひゅうがが、ぼくに、声をかけます。
「 どくを、食べちゃったの ? 」 ひなちゃんは、お母さんに、聞きます。
「 それが、わからないの。かしこいクロが、どくを、食べるなんて、信じられない。 」
お母さんの、涙が、ポトポト、ぼくの、首に、落ちて、前足に、つたってきます。
( お母さん、 泣かないで ! ぼく、がんばるから ! )
お母さんは、やさしく、やさしく、ぼくを、さすり続けました。
朝になりました。
ぼくは、もどしても、負けずに、牛乳と白身を、少しずつ、なめるようにしました。
お母さんは、ぼくの好きな、玉子焼きや、チーズや、お肉を、持って来ました。
とても無理。においだけで、オエッと、きます。
お母さんは、それを、向こうへ、おして、 「 食べられるようになってね。 」 と、言いました。
ひなちゃんと、ひゅうがが、帰ってきて、良くならない、ぼくに、がっかりしたようです。
「 ねぇ、クロ、しんじゃうの ? お母さん ! クロ、しんじゃうの ? 」
「 まだ、分からないけど、クロ、すごく、がんばってるから、静かにしてあげようね。 」
お母さんは、二人を、つれて、おへやに、入って行きました。
しばらくすると、お母さんは、ぼくの所に、帰って来ました。
ぼくは、まだ体を、おこすことも、できません。
夜に、なりました。
お母さんと、いっしょに、眠ります。
今日の夜は、オエッと、なりません。
何だか、少し、らくに、なりました。
夜中に、ちょっと、おきてみたくなって、体を、まず、のばしました。
お母さんも、おきて、ぼくが、どうしたいのか、見ています。
( お き る ぞ ! )
でも、足に、力が、入らなくて、おき上がれませんでした。
「 よしよし、元気になってきたね。 よしよし、よしよし・・・・・ 」
お母さんは、お皿を、口に、持って来ました。
ぼくは、ぜんぶ、飲みました。
そして、少し、眠りました。
朝になると、ぼくは、おなかが、すきました。
お母さんが、玉子の黄身を、お皿に、入れてきました。
半分くらい、食べました。
「 よかったねぇ、食べられるようになれば、生きられる。よかったねぇ、クロ。 」
また、少し、眠ってから、残りの半分を、食べました。
チーズも、少し食べて、もう一度、おき上がってみると、おすわりが、できました。
お母さんが、「 まだ、ねていなさい。 ふせ ! 」 と、言いました。
ぼくは、ふせを、したまま、眠ってしまいました。
夕方、ぼくは、ゆっくり、歩いて、庭に出ました。
( あー ! しんじゃうと思った !
ひゅうがが、心配した時、ぼくは、ほんとに、もう、生きられないかもって、思った。
お母さんが、ずっと、夜も、さすってくれたから、生きるぞ!って、強く、思えたんだ。 )
( 心配、かけて、ごめんなさい。 )
何日か、すぎると、ぼくは、すっかり、元気に、なりました。
ただ、せなかと、しっぽの間の所が、痛い。
ぼくは、気になるので、いつも、なめていました。
お母さんが、せんたく物を、持って、出て来て、ひめいを、あげました。
「 キャー ! しっぽ、どうしたの ?! あなが、あいちゃったじゃないの ! 」
そう言って、おうちに、走って行ったかと思うと、自動車のかぎを、持って来て、
ぼくを、つれて、自動車に、乗りました。
そして、ブオーーーン ! と、坂を、くだって、町の中に、入りました。
どこかの、おうちに、自動車を、止めると、お母さんは、ぼくをおいて、そのおうちに、かけていきます。
窓から見ると、ぼくを指さして、だれかと、話しています。
今度は、ぼくの方に、走って来ます。
( お母さんって、いそがしい人だなぁ 。 )
「 クロ ! おりて、お医者さんに、みて頂こうね 。 」
ぼくは、お母さんに、つれられて、自動車を、おりました。
( ン! いやな、におい ! ぼくの、きらいな、においだ ! )
ぼくは、すわりこんで、おイヤおイヤを、しました。
お母さんは、こわい顔で、
「 いけません ! みていただかないと、治らないでしょ ! 」 と、言いました。
ぼくは、しかたなく、お母さんの、後に、付いて行きました。
中に入ると、首に、あさがおの花みたいな物を、付けた、ネコちゃんが、おばあちゃんに、だっこされていました。
おくに行くと、すぐ、ぼくは、高い台の上に、乗せられました。
お母さんは、ぼくのせなかに、そっと、手を、おいています。
「 直径13cm。円形に、脱毛しています。
ひふは、かぶれたように、びらんしていますね。
なにか、心あたりは、ありますか? 」 大きい体の、お医者さん。
「 はい、じつは、もう一匹、ポインターを、飼っていますが、
うまく、それのくさりに、自分のとめ金を、ひっかけて、くさりをはずし、
毎晩、遊びに出かけて、朝早く、帰って来ていたんです。
それが、2週間前の朝、よろよろになって、帰ってきて、
黄色い胃液のような水を、何度も、もどして、
犬は、あせを、かかないはずなのに、からだが、じっとりぬれて、つめたくて、
もう、だめかと、思いましたが、何とか、元気になったんです。
これと、関係あるでしょうか ? 」
それを、聞いた、お医者さんは、
「 ちょっと待てよ。 」 と、言いながら、目が、大きく見える物を、頭につけました。
ぼくの、痛い所を、ずーっと、見ます。
「 あった ! あった ! まむしですよ ! 二つ、歯形が、あります。」
「えー ! マムシに、かまれたんですか ? 」
お母さんは、びっくりしてしまいました。
「 まちがいないですよ !
まむしに、かまれて、アナフィラキシーショックを、起こしたんです。
それでも、犬の場合は、まれに、生きることも、あるんです。
生命力が強かったんだね、この子は。
こんなふうに、脱毛するのは、始めて見ました。
まぁ、薬を、付けても、なめてしまうし、このまま、ようすを、見ましょう。 」
お医者さんは、そう言いながら、高い台から、ぼくを、だっこして、おろしました。
「 この子は、りこうな子だ。
この台に、乗せられて、こんなに、静かに、見させてくれる子は、初めてだ。 」
と、頭を、なでました。
( 早く、帰ろうよー )
ぼくは、お母さんの、顔を、見ました。
−−−22話につづく−−−