開演前 3
教会から出てくる集団が一通り去った教会から視線を外し、異世界の神ことセンター長に向き合う。サングラス越しに見るセンター長の格好は作業服専門店で買ったという紺色のセットアップ。そんなに必要あるのかと思う数のポケットが全身いたるところに散りばめられ、そこがセンター長曰く気に入ったポイントらしい。
「クロースは相変わらず真っ黒いなあ、みんなの中でも一際黒いよ」とセンター長はこちらの格好を笑った。
思考が読まれたのかと、思わずヒヤリとしたが、おもえば挨拶の際に自分の黒づくめの格好を笑ってくるのはいつものことだ。
「まぁ、自分たちの作業服みたいなものですから、末端のエージェントはおしゃれする暇ないですよ」と冗談まじりに皮肉をこめる。実際に業務は多岐に渡りおしゃれなんて無縁だ。
「そうかぁ?この間サッターに会ったが、ネクタイって言うのか、黒じゃなくて俺とお揃いの紺色で、ワンポイントアクセントをつけたファッションだったぞ、少しは見習った方が良くないか?ん?」と、こちらを面白がるような視線を向けてくる。
それは、サッターのご機嫌伺いですよ、と苦笑せざるを得ないが、顔には出さないようにする。
クロースや、サッターはあだ名ではない。転移した際に向こうの住民が言葉の通じない中自分達の名前をなんとか判別してつけた正真正銘自分達の名だ。
もちろん、言葉の通じる今、改めて本名として名乗ることは出来るが、そんな意味のない事はしない。この世界での本名なんてとっくに誰の記憶にも残っていない筈だ。親、兄弟にさえも。
「ところで、まだ面接者来てないようですが」と、原界人が一人もいない公園を、見渡す。
そうなんだよなー、とセンター長も釣られて公園を見渡した後、こちらに顔を移すと、
「まぁ、気長に待とうや。焦ったところで何も解決はしない。待つものに神様は微笑むものだ」と、お気に入りの神様ジョークと、ニカっと大きな顔の口端をグイッと上げた神様スマイルを向けてくる。
待った結果不採用だとそれこそ時間の無駄なのだが。
ただ、今回はセンター長直々なら来ている点が気になる。理由は知らないが、神様が面接する必要性のある逸材が来るのか。若干の期待は正直、ある。