開演前 1
K県K市の駅から出た瞬間、この街特有の洗礼を目に浴びた。数年前より活発になった火山の影響で、この街にはほぼ毎日火山灰が降る。
「なにこれ、目がイテェ!」
後ろで悲鳴にも近い叫び声が聞こえ振り返ると、大学生、またはフリーターか、若い男が目を擦っていた。
そんなことしたらかえって痛くなるのに、と洗礼を受けた哀れな若者に一瞥をくれる。
もともと15年前はこの街に住んでいたので、他県から来る観光客とは違い、ある程度の覚悟は出来ている。が、さすがに目を露出したままでは数メートル歩くだけでこの若者同様になるのは明らかだった。
懐から取り出したサングラスをかける。ふと見上げた空には雲一つなく、まさに夏晴れといった模様を呈していた。普段も職業柄、原界人に顔を覚えられないようにかけるサングラスが、この街ではなんの違和感もなく溶け込むのは都合が良かった。
歩きながら時計を見ると14時を間もなく過ぎようとしていた。センター長との約束した時間通りに合流地点に行けそうだが、あのセンター長の事だ、約束通りには来ないだろう。これだから異世界人生まれは、スローライフをこっちの世界で通すなよ、と何回したかわからない悪態を胸の内につく。
「くそ、イテェ!こっちは急いでるのによ!」
進行方向が一緒だったようで、さきの若者が数人挟んだ後ろで、独り言とは思えない大きさで、一人憤っていた。
そんなに急いでるなら、逆に急がないでもいい世界に送ってやろうか、と、若者を見る目に思わず笑みが浮かんだ。