第97話「マグマの鍛冶師」
~モンジロ山・7合目~
「ま、ますた~!きゅ、きゅうけいぃ~…!」
「あ~??日々鍛錬しとけといったろうに…」
「だって、こんな…山、登る…なんて…おぼっでぼびながっだぼん…」
といいながら、クリスは泣き始めた。サムライは移動スキルが多いため、スタミナ強化のアビリティもさることながら、基本ステータスUPの食事や木の実を摂取していることにより、登山は大したことがなかった。
しかし、他の職業はスタミナ強化をする必要性があまりなく、こういった消耗系にすこぶる弱い一面がある。こういった場面での顕著な開きに嘆きつつも、スタミナの回復を待っていた。
「ったく、ヴァルキリーは神聖力に頼りすぎているからいかん。」
「セイメイ様、私たちは先にいきませんか?」
スカルドはハイエルフである。山岳地帯での適応力があるためスタミナの減少がすこぶる悪いわけではない。また、セイメイは日々の鍛錬という名の狩り族だったため、スタミナは狂人的にあり、上限値まであるというバケモノになっていた。
「マスター、ワシ、指輪使ってええか?さすがに堪えるわい…。」
「ああ、いいんじゃねーか?wていうか、最初から使えよww」
「MPの消費がすこぶる早いからの。なんかあった時用にキープしてたんじゃが、流石にきついわい…」
そういわれてしまうとセイメイは頭をかきながら、その辺の岩に座り込んだ。
「ほんじゃ休憩して、回復したらまた登るぞ??」
「ふぁ~い。」
「ふぃー。」
ふとセイメイはルカを見ると疲れる姿を見ていない。気になったので声をかけた。
「ルカ、おまえ、なんでバテないんだ?」
「私は、MPが自動回復するようにシステムを改良してありますので、皆さんにはわからないように浮遊しながら登ってます。」
『チートじゃねーか!!!』
皆声を揃えてツッコんだ。
「それにしても、山頂はまだかかるな。そして、溶岩流が近いのか、スタミナの減りが早いな。」
「そうですね。溶岩が近いというのもありますが、地形によるスタミナ消費も併せて減っているのでしょう。」
「ルカ…、おまえ涼しい顔して他人事のようにいうな?w」
「まぁ、皆様と私は若干違いますからね。プレイングの邪魔にならないようにしているだけです。」
「たしかに邪魔はしてないけど、妬みはされているぞ??」
「仕方ありません。AIですから。」
「変に納得しそうになったが、ダメだ!!ていうか、俺らまとめてワープしてくれればいいじゃんか?」
「それこそ、皆様のプレイングの邪魔となりますし、監視の目がある以上、そんなことできません。」
「おうおうおうw都合の良い時だけ、監視の目かよ…。いうようになったじゃねーかwwガキンチョのくせに…w」
「ガキンチョじゃありません。ルカです。」
「あーあー!!わかったよ!!ルカちゃん!!」
セイメイは頭を悩ませていた。
ドガァァーン
休憩をしている最中にまた地響きが鳴り始めた。
「今度はなんだ!!??」
「おそらく、地中からマグマが吹き上がっているのかもしれませんわ。通行できるのでしょうか?」
「マスター、先を急ぎましょう。おそらく何かが起きているかもしれません。」
「おまえ…なんか隠してないか?」
セイメイはルカをじっーと疑いの目をして睨みつけた。
「私もわからない事があります。なので、どうしようもないときはどうしようもないのです。」
「う~~ん。とりあえず、登るしかないようだな。」
「ソロモン、クリス!もう大丈夫か??」
「ワシはもう魔神を使うから平気じゃ。」
「クリスは??」
「はひぃ~~いきまぁぁすぅ…。」
とりあえず、セイメイ達は山頂を目指し、険しい岩肌を登っていくのであった。
~モンジロ山・9.5合目~
噴火する火口に近づくにつれ、噴火の煙が立ち込めてきている。
時折、吹く風に煽られた煙に巻見えると、足元すら見えなくなる。
「セイメイさん、鍛冶師はいるのでしょうか?」
クリスが、俺に近づき話しかけてくる。
「わからん。伝承の通りでいくと、火口なのかどうかすらわからない。ただ、
“ヘパイストスは山頂の見張り役としてテューポーンの首に金床を打ち据えたのち、灼熱塊を使い、鍛冶仕事をした”
この言葉を鵜呑みにするならば、ここら辺にいてもおかしくない。」
どこからともなく、甲高い金属を叩く音が木霊してくる。
カーン… カーン… カーン…
音が木霊しているため、音源がどこにあるのか見渡す。
「おい、どこから聞こえてくる?」
「あそこのようですね。」
火口を覗くと、奥深くに人影が見えるような気がした。
「ちょくら、俺一人でいってくる。」
「セイメイ様!危険です!!」
「んなこたぁわかってんだよ。行かなきゃどうにもならねー!」
「おまえらはここで待ってろ。あと、噴火がヤバくなったら下山しろ。ソロモン!なんかあったら頼んだぞ??」
「じゃが、流石にこれは危険すぎるぞ?マスター。」
「大丈夫!死んだら、街に戻るだけだ。気にすんな。」
「そうだ。そこにいるチートマジシャンの小娘、ついてこい。」
ソロモンとクリス、スカルドがルカを一斉にみる。ルカは、ふぅとため息ついて、セイメイのあとを追った。
~モンジロ山火口~
未だに噴火を続ける火口、マグマが燃え滾っている。
急な坂道を滑る様に降りていくセイメイを後ろから浮遊しながら降りていくルカ、その先に見える景色は異様な光景だった。
マグマを迂回するように歩くセイメイ。
「ふー。現実じゃこんな景色は拝めねーわwww」
「マスター、なんで笑っているんですか?」
「こんな危険な旅しているんだ。笑ってないと気が狂っちまうよw」
歩ける場所を探しながら迂回すると、一人の男の背中が見えた。
「いたぞ!!ルカ!!俺らは伝説の鍛冶師、ヘパイストスの発見をしたんだ!!」
走り寄るセイメイに待ったをかける。
「マスター、待ってください。」
「なんでだよ、NPCだろ?ここまできて怖気づいちまったのか??」
「そうじゃないです。」
「んだよ、俺がヤバくなったら助けてくれ。まずは御尊顔を拝めようじゃないか。」
セイメイは男に話しかける。
男はすくっと立ち上がり、こういった。
「なんだ?おまえ?こんなとこまできて?」
「俺は、伝説の鍛冶師を探してんだよ。お前さんがヘパイストス神かい?」
「父上はもうこの世にはいないぞ?」
「んじゃあお前さんは誰なんだよ??って、NPCが会話しやがったぞ!!??」
セイメイは驚いた。セイメイはルカを見て同情を買った。
「どうなってんだよ??NPCじゃないのか??」
「NPCですよ。でも、おかしいです。」
「お前さんはいったい…?」
「エリクトニオスだ。私は父の技術を探しにきたのだ。ようやく、その技術をものに出来そうなのだ!」
というと、エリクトニオスは金床の前に座り、またしきりに槌で鉄を叩き直し始めた。
「おい、ルカ。どうなってんだよ??俺にはわかんねーんだけど??」
「私にもわかりませんよ、このクエスト自体、難関クエストなんですよ?それをいとも簡単に入り込んで、バグでも起きているんじゃないんですか?」
「だったら、お前さんの了見だろ?デバックしろよ…!」
二人は小声でやりとりをしていた。
すると、またドゴーンと噴火が始まった。
セイメイ達のいるところは火口下にある広間ではなく、少し中に入った場所の為、火傷のCCは入っていないのだが、外で待つソロモン達が心配になってきた。
―――あいつら大丈夫かな?
そう心配をしていると、エリクトニオスが鉄を打ちながら話しかけてきた。
「おまえらプレイヤーは何でも俺に話しかけてきやがる!!何しにきやがった?!」
「俺らはアンタにあって、神器を作成する約束を取り付けにきたんだよ。」
「ああ、そういうクエストだったな。それで、何をやってほしいんだ?」
「まだ…決まってない。会えると思ってもみなかったし、ましてや、NPCでもないんだ。その上どうしろっていうんだよ。」
エリクトニオスは口調が変わり、セイメイは逆ギレのような態度を取っていた。
「フン、おまえ俺がNPCだと思ったのか?そりゃ大きな誤算だ。」
「NPCはNPCでも、そこにいるクソガキと同じ扱いだ。」
「じゃ、まさか!お前さんもAIなのか??」
セイメイは驚きを隠せなかった。
「ああ、半分な。だから、人間みたいな話し方をするだろ?最初、ここに訪れるやつらは驚いただろうけど、半分AIというところが、“NPCの会話がリアルに再現されたもの”と認識されてて、俺もそれにならって咎めずにいた。お前らだけだ、俺に関心をもったのは。もっとも、そこにいるクソガキが同類だというのも、嫌悪感しかないがな。」
「そうか、それはすまなかったな。」
「すまなかったな?フフフ…ハハハハハハハ!!!!」
「何がおかしい!!??」
「ニンゲンが、“AIに”すまなかったなどと詫びをいれるとはな。こりゃ滑稽だ。」
「どこがおかしい!!??」
「おかしいだろ!?AIに人格はあれど、所詮データ上のものに過ぎない。人権が与えられたわけでもなく、動物でもないのだ!!人権擁護団体が動くわけでもない!動物愛護団体が動くわけでもない!そんな俺らに詫びをいれるなどどうかしているだろ!?ハハハハハハハ!!!!」
セイメイは、ぐっと怒りを堪えていた。
今まで黙っていたルカが口を開いた。
「この人は、現在、私のマスターです。非科学的な事に怯え、お調子者です。しかし、仲間を見捨てる事はしません。また、人をすぐ信じるお人好しです。人間社会では搾取される方のタイプです。しかし、この世界では搾取しようにも、出来ない制限がある。その規約の中で人を動かす力は存分にあると思われます。なので、あなたはこのクエストを完了させる義務がある。さぁ、了承しなさい。」
エリクトニオスは黙ってルカの話を聞き、沈黙をしていた。
「おい、ニンゲン。」
「なんだ??」
「お前はこの世界で何がしたい?」
「なにがって…。」
「色々あるだろ。他人より強くなりたいとか、強者でありたいとかそういう欲望だ。」
「欲望か…。」
―――欲望か。たしかに強くなりたいよな。チート級にwww
でもなぁ、それだけじゃ今はグスタフに勝てる気がしない。だって、チート野郎にチートで勝つには圧倒的に勝てるチートがないとな。一部強くても全体的に切り返せないと意味ないしなぁ…。
そう考えると、周りの仲間が強くなって、俺も強くなって…。そう考えるとねーなぁwww
「欲望じゃねーんだけどいいか?」
「??」
「俺は、この世界ではなんか領主というのになっちまった。それって俺一人の力じゃねーんだよな。だからさ、俺も含めて仲間も一緒につよくなりてーな。ギルド内での戦い?とか、大会みたいなのも開きたいしさ、もっとこの世界を楽しみたいというのが、俺の欲望…いやこれ、願望だなw」
エリクトニオスはにやっと笑った。
「おまえ本当にニンゲンか?圧倒的チート級の武器をよこせというのかと思っていたら、何もないってw偽善者じゃねーのか??」
「そりゃほしいよ!チート級の武器!!!でもよ、それでグスタフに勝てる保証が付くならいいぜ??つくれねーだろ??なぁ??そういうことだよ。」
「ニンゲンの分際で、よくもまぁぬけぬけと俺を見くびれるな。」
「ほう??じゃあくれるのか??」
「簡単にやすやすとあげるわけにはいかんな。それに素材がないしな。」
「ああ??てめーー!〇龍みたいこと言って、願いを聞き入れるぽいこといってんじゃねーぞ!!」
「フン、とりあえずクエストは完了させてやろう。」
【『伝説の鍛冶師の現在』を完了しました。】
「おい、おまえ。グスタフに勝てると思っているのか?100パー無理だぞ??」
「無理を可能にするのが、ニンゲンの底力だよ。おまえら生み出しのも、俺ら人間だぞ?」
「まぁいい。早くここを出ていけ。そして、探せ。この世界のどこかにある鉱石“西のオリハルコン”そして、“東のヒヒイロカネ”をもってこい。各種族・各神の御前のものを遇おうではないか?」
「刀の技術はこっちの世界では存在しないんじゃないのか?」
「愚かなニンゲンよ。俺の立ち位置はなんだ?神より受け継ぎし鍛冶師だぞ?冗談はバグだけにしてくれ。」
「わかった。探したら、必ず持ってくる。そしたら作ってくれるのだな?」
「任せろ。俺を人扱いしたニンゲンよ。気が変わらないうちに持参しろよ?じゃあな。」
そういうと、金床をまた叩き、何かを作っていた。
「マスター。さすがにあなたはプレイヤーです。ここを脱出するには、あの急な坂を登るしかありません。急ぎましょう!」
するとセイメイは、ルカの肩をポンと叩く。そしてニヤニヤしてルカを見る。
「例のワープを頼む。」
「…今回だけですよ。」
「ありがとな。ルカ。」
―――――――――――――――――――――――――――――
~モンジロ山・9.5合目~
ソロモンとクリス、そしてスカルドはクエストの完了システムで話に花が咲いていた。
「なんじゃ??これはマスターやりおったのか?」
「でも、セイメイ様はまだ戻ってきてないですのよ?」
「死んじゃったのかな?」
「死んだら…ああ、そうじゃ!!PKじゃないからわからんじゃないか!!?」
「ええーー??」
そうこうしているうちにセイメイとルカが、転送魔法により帰還する。
「いよっ!!みんな!戻ったぜ!!?」
急な登場に三人はあっけに取られていた。
「待たせたな。話す事がたくさんある。それに俺らには時間があまりない。移動しながら話をしよう。」
頭をかきながら、三人に話をした。
ソロモンがセイメイの肩を叩く。
「とりあえず、おかえりマスター。」
「おかえりなさいませ。セイメイ様。」
「心配したんだからね!セイメイさん!でもw顔がすすだらけだよ??あはははwww」
三人はクスクスと笑い囃した。セイメイは慌てて顔を拭きながら、汚れを落としていた。
セイメイも思わずつられてしばらく笑った。やがて笑い終わると、笑顔で話しかける。
「ああ、つもる話はあとだ。さっさと下山しよう。」
一行はモンジロ山を下山し始めた。
朝日はセイメイのスス汚れた横顔を照らしていた。
※イラストはルカのイメージです。(フリー素材)
やりとりはオフショットですwww





