第96話「鍛冶屋の棲む森」
一通りの談義が済むとアイテムの補充と装備等の耐久値を回復させておく。
外はまだ夜明け前、夜の静けさを保っている。街は至るところに松明が燈されており、夜道は明るい。レストランを出て並木横丁を抜けると、樫の木あしらわれた街の門が見えてきた。
「さて、いこうか。」
「ウィルオウィスプを呼び出しますね。」
フォン…。
スカルドが、両手で軽く気を込めると、火を纏った精霊が宙に舞う。
「鬼火だな…。」
「ガハハハ!!マスター!そっちの方に考えるのは敏感すぎないか?ww」
「お、おうw」
「これで暗い夜道も迷うことなく歩けますね!」
「まぁ私のようなハイエルフがいれば、旅は基本はもとより苦難な場所も楽に進めますからね。」
そういうと、セイメイの腕を掴んでいた。それを見て嫉妬したのはクリスだった。
「ちょ、ちょっと!!スカルドさん!!一人で歩けますよね!!」
「あら~私はあなたの様に防御力高くないので、殿方に守って頂く事にしたんです。」
「でも、精霊の加護で死なないですよね…。」
二人はメンチを切りあっている中、ルカが手にしている杖に光を作り出し目の前を照らした。
「マスター、これなら怖がることなく進めますね。」
「おおうwwそうだな。これなら、みんなの周りも見れるし、モンスターとの遭遇しても見失うこともなくなるな。」
「それでは、腕を組み必要はありませんね。」とクリスがいうと、二人の腕を外していた。
それを見たソロモンは頭を抱えていた。
―――嬢ちゃん、わかりやすい嫉妬で目も当てられんぞ…
「ま、いこうか。それよりここからどっちの方に向かって行けばいいんだ?」
「ここから南に向かい、農園地帯を越え、高原地帯を通り、登山口の方に向かう。そこから問題じゃ。」
ソロモンは該当クエストと地図を見ながらいう。
「森の中に生息しているヘパイストスの末裔もしくは、技術継承者を見つけなくてはならん。」
「神の末裔ったって技術があるわけじゃないだろ?」
「技術継承者の方が現実味がありますね。」
「難しいですわね。失われた技術ですから、見つけるのはかなり苦難の道かと思います。」
ソロモンが手を挙げて発言の許可をもらおうとしている。珍しいので、みんなどうぞという感じでソロモンのしゃべる内容を聞き入った。
「そもそも、神々が作った神具・神器というのは肖って想像するものだとワシは思っている。どこかにそのヒントが隠されているはずじゃの。」
「うーん…。」
「まぁ、歩きながら考えようや?な?マスター。」
「そうだな。」
セイメイ達はゆっくりと歩を進めることにした。
~農園地帯~
オリーブ畑が左に広がり、右にはレモン畑が広上がる。その先には、ピスタチオ農園もある。
無論、ブドウ畑も見えており、幾人かのプレイヤーがNPC労働者と共に栽培活動をしているのが見受けられた。
そして、どこまでも続く農園畑は、深夜の時間でも月の明かりとルカが照らしている杖の宝玉で昼間のように明るかった。
しばらく歩いていくと、農園のはずれにモンスターが沸くエリアに入る。
モンスターはそこまで強くないので、POPアップされるたびに倒していき、道は勾配し次のエリアにかかる。
~高原地帯~
標高1000mあたりに来ると、牛の放牧が盛んである。シケリアは農作物や漁業が盛んなイメージもあるが、実は緑豊かな森の片隅で酪農をする地域がある。野犬や狼に襲われることのない様に、プレイヤーと契約をしているNPC労働者が定期的に追い払い、牛達を管理している。
牛の横断で行く手を阻まれたりしながら、一行は森の中へと進んでいった。
~モンジロ山入口の森~
森に入るとやはりまだ夜のせいか、モンスターの攻撃力が高く、深手は負わないにしろ手を焼く場面はいくつかあったが、ソロモンの活躍もあり、着実に前進をする。
やがて、道が獣道に変わり道無き道を進んでいくと、川のせせらぎが聞こえてくる。
「この川を逆流するように上っていけば、ヘパイストスの棲む小屋にたどり着くはずじゃ…。」
ソロモンが川を見つめ、上流に目をやると、そこには険しい岩肌が森の木々から見え隠れするようになっていた。険しい道なき道を登りながら、空は少しずつ明るさを取り戻していった。そして、川の流れが穏やかなあたりまで来ると、滝にぶつかり、行き止まりとなった。
「行き止まりじゃな。」
「ルカ、ここら辺になにかあるかわからないか?」
「マスター、私は何でも屋ではないのですよ?ここはマスターが探してください。」
「んだよwケチ~!」
「ケチとかじゃありません。できないものはできないのです。」
「変なときにチートみたいなことするくせに、こういう時くらいチートを使わせてくれよったく。」
「こういうのは攻略の一部です。チートとやらを使う場面じゃありませんよ?」
「セイメイさん、探しましょ?このあたりを散策すれば意外と簡単に見つかると思いますよ?」
「そうじゃな。こういうのは冒険の基本じゃろ?マスター?」
「そうだけどさ、時間のロスはしたくないと思ったからさ。」
「セイメイ様、あそこに光が見えます。」
スカルドが指差す方向をみると、森の奥にぼんやりと光るものが見えた。
「おう!なんだ意外に簡単に見つかったじゃん。よかったよかった!」
というと、ルカはじぃーっとセイメイを睨んでいた。
セイメイは気まずそうに謝っていた。
「わかったよ!ごめんな!!ルカ!」
「分かって頂けれれば、いいのです。現代の人間はAIに頼りすぎなのです。」
「おうおう!いうようになったのぅwカッカッカッwww」
ソロモンはにやにやして笑っていた。そして一行はぞろぞろと光が放つ方へ歩いていった。
そして念願のヘパイストスの小屋が見えてきた。
~ヘパイストスの小屋~
中には焼き場がある。炉、鞴、金床などの設備を有しており、鉄製品の鍛造を行う場所などが整っていた。
「ん?外出中かな?」
「まぁぞろぞろとくるような場所じゃないしな。」
「探しますか?」
「う~~ん。」
目的の地まではたどり着いたが、当事者がいなければ何にもならない。立ち尽くしていると、地響きがなり始めた。
「なんだ?なんだ??」
小屋を出ると、モンジロ山の噴火が始まった。
「ちょいちょい!!なんかのイベントでも発生させたのか??」
「いや、不定期にランダムで発生するようじゃよ??」
「こんなときに噴火にあうなんて!!」
「土石流や溶岩は流れたりしないのか??」
「それは大丈夫じゃよ。決まった方向に溶岩が流れるようになっておる。」
「そうか、それにしてもすごかったなぁ。」
「ワシもクエスト概要以外に調べてさっきわかったことじゃ。」
「そうか、ならばいいんだけど。」
「セイメイ様、もしかしたら頂上にいくのが良いかと思います。」
「なんでだ?」
「伝説によりますと、“ヘパイストスは山頂の見張り役としてテューポーンの首に金床を打ち据えたのち、灼熱塊を使い、鍛冶仕事をした”と文献にあります。もしかしたら、封印されしテューポーンに会いにいくことになりますが、伝承者もしくは本人に会えるかもしれません。」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずっていうしな…。」
「セイメイさん迷っている時間はないですよ?」
「そうだな…。こえーけどいくか…。」
セイメイは肩を落としていると、ルカが話しかけてきた。
「また、あなたはお化けや怪物を怖がっているのですか?」
「いやぁだって、ゼウスと喧嘩できるほどの強敵だぞ?」
「封印されているとはいえ、こわくねーのかよ。」
ルカはため息をつくとこういった。
「生憎、モンスターデータ・ボスデータにテューポーンは入ってませんよ。だから心配いりません。」
「そ、そうか??そういうの早く教えてくれよwなははははwww」
「ふーっ、頼りになったり、ならなかったり、忙しいマスターですね…。」
「それが人間と言うものじゃよ。ルカ。」
ソロモンがにひっと笑い、ウィンクをするとルカは目を逸らしながらいう。
「人間と言う生き物は取り扱いが難しいですね。」
「それが人間の強さであり、弱さでもあるんじゃ。絶対無敵のAIとは違うところじゃな。」
「そんなこと…!!」
「予測・実践・結果は出来ても、0から生み出す1ができないのがAIの盲点じゃな?想像ができないというのは、寂しいものじゃな…。」
「0から1…。」
「AIは便利じゃ。人間社会の発展をここまで豊かにした。じゃが、0から1を捻り出すこと出来るのは人間だけなのじゃ。だからといってAIを軽視してはおらん。何事も助け合いが人間社会の根底にあるじゃよ。おっと、マスター達に置いて行かれる。わしらも急ぐぞ?」
そういうとソロモンはルカと共に歩き出した。
目指すはモンジロ山の山頂。噴火中の最中、セイメイ一行は7合目を目指す。
東の空には曙光が差し始めた。





