第95話「人間の戦いと神の戦い」
「フ~フ~フ~ン♪♪」
ご機嫌なクリスは、出店やミニゲームを楽しんでいる。かくいう俺も、便乗して楽しんでいた。そう、あのスイカ割りの一撃割りはクリスだった。どうわったのかは企業秘密だという。そして、楽しい時間も時が過ぎ、夕方になった。
一通り楽しんだ俺らは、夕暮れの太陽を見ながらレストランで食事をしていた。食事といっても、ステータスの付加価値のつくものばかりだが、雰囲気を味わうには十分だった。
クリスはデザートを口にしながら話しかけてきた。
「マスターの過去を聞いてもいいですか?」
「ん?あぁ、MIKADO時代の俺か?」
「そうです。」
「そうだなー。侍の最初は何もできないただのチャンバラ侍だからなw」
「侍になるにはどうしたらいいんですか?」
「まずは見習い侍として、活動する。そのあと、武士クエストがあり、そこで剣術指南を受ける。」
「それでそれで??」
「そのときに、いくつかの流派があり、そこでどの流派がいいか選ぶ。まぁいわゆるパワー型、連撃型、バランス型といったところかな?」
「マスターは何を選んだの?」
「神道流だよ。バランス型かな?」
「それなのにスキルを連続発動できるのね?」
「そうだな。バランスは難しいとされているけど、特に難しいことはないんだ。俺個人的にこのゲームは攻撃が外れたときのリカバリーが難しいと思っている。だから、相殺とかカウンターとかを狙っていこうと思っただけさ。無論、一撃必殺の方が圧倒的に強いけどね。それも当たればの話だ。」
「なるほどね。」
「それで、俺は侍の多いギルド、MIKADOに身を置くことになった。」
―――そこで、ディアナとの出会いにつながる。あいつはまだこのゲームをやっているのだろうか…。
「それでマスターは、なんで抜けることになったの?」
「ああ、そこなんだがな。俺が狩りをしていると、同じギルドの先輩で狩場を被せてくるヤツがいたんだ。そこで俺は当時のMIKADOのマスターに訴えたんだが、どうにも言葉を濁すことしかいってこなかった。頭にきた俺は、駆け出しのギルメンを育てたりすることのできないギルドに俺は身をおくことはできない。どうぞ、上層部で楽しんでくださいっていってやったんだww」
「あーそういうことなんですね。たしかに私もここじゃないところにいたときはそうだったなぁ…。」
「まあ、気の合う仲間とつるむのは決して悪いことじゃない。だけど、新しい仲間が出来たなら、そのコミュニケーションの輪にいれるなり教えるなりしてあげないと、結局、ギルドに所属しているだけということになり、未所属となんらかわらないのさ。無論、ギルドバフはかかっているけどね。」
「結局、人と人とのつながりが大事なんですね。」
「ああ、そうだ。人間社会…いや、人間も動物の一部だからだな。個体が個体とつながり、集団になり、集落になる。そして村ができ、街ができる。そして都市ができる。やがて、王座を取り合い統一を図り、やがて国家になっていく。滑稽な話が、サル山のボスザル同士が争い、TOPを目指すというのが、人間の根幹に根ざしているんだよ。」
「人間が愚かというのは、その争いがあるからといいますけど、争いはなくならないのでしょうか?」
「なくならないね。人間のスタートが動物である以上、種子保存の法則に従っているだけだから、愚かどころか生まれ持つ本能に従っているだけだよ。」
ここのエリア名産のブラッドオレンジのトロピカル風ジュースを飲みながら俺は話を続けた。
「人と人が争わなくなったら、それは人間をやめたと思っている。人と人が争う形を変えたのがスポーツであり、人を殺さない戦争になったのが、マネー戦争に変わった。結局のところ闘争本能というのは、自然界でもごく普通に行われている。」
「じゃあなんで核を持つの?」
「あれは、自国の権威を主張したいだけだと思っている。このままテクノロジーが発展していけば、発射ボタンやスイッチすらAIに乗っ取られるかもしれないのに、そのうちただのガラクタになると思うよ。」
「そうなんですか??」
「リアルタイムでこうやって仮想世界を楽しめているのが民間にあるのに、軍事用なら最新のAIが代理戦争するんだろうよ。人が人を殺しあうのは、最早、前時代的なことになってしまっているのかもしれない。いずれにせよ、人類とAIがこの地球の支配権を交代する日が来るのかもしれない。そのとき、人類はどう立っているのか俺としては興味深い。」
―――グスタフの言っていることはほぼ間違っていない。それでも俺が抗うのは、おこがましいかもしれないが、人間の可能性をAIに…別の力で抑圧・制限されるのは進化の先、未来を失うに等しいと思っている。それは人類にとってその抑制は避けなければならない。
と、話が脱線してしまったので、元に戻すようにした。
「おっと話が脱線したなwまぁその後、ブラブラしていたらディアナと再会して、ギルドを立ち上げる事になって、ソロモンと出会いユーグと出会う。そして、今は仲間が増えてこうなったわけだwww」
ざっくりと俺の成長のなりゆきを話した。
「ま、今はそれなりに充実はしているかな?」
物足りなさを少し後ろめたく思ったが、それがなんなのかわからないでいるため現状の話をした。
そして、ソロモン達と合流した。
ソロモン達は鍛冶屋の情報を集めていたのか、既に水着ではなく普段の装備を着ていた。
「なにをしておる。もういくぞ?」
「ああ、ちょっとまっててくれ。」
そういうと小屋で着替え直してくると、クリスがまだ戻ってこなかった。が、ほどなくして、合流した。
「すいません。着替えが遅くなってしまって!」
「ああ、大丈夫だよ。さぁどこにいくんだ?」
ソロモンに確認すると、ソロモンが山を指した。
「モンジロ山の麓じゃ。高原地帯を越えて森林の奥深くにある鍛冶屋があるそうだ。」
~モンジロ山~
今も続く活火山、かのゼウスが封印を行うため、テューポーンが封印されたとされている山だ。
地獄の業火というのはもしかすると火山からあふれ出るマグマなのかもしれない。
さっそくいこうかと思い、歩き始めると、ソロモンが止める。
「まずは腹ごしらえじゃ、リゾートの飯を食ってからでもいいんじゃないのか?」
「ああ、そうだな。」
「それと、夜明け前から動こう。その方がいい。」
「なんでだ?」
「朝日を迎えるのは山が一番だからじゃよ。」
~シロップの風~
シケリア島リゾートに地におけるレストランだ。ここはヨーロッパ、イタリア料理を主とした料理が食べられるお店だ。特にこの世界では見た目が重要視されているが、味がないのが少し悲しい。今の技術では舌の味覚を表現するのは難しいのだ。
オープンカフェのような作りで、外で食事するスタイルとなっており、日中はパラソルが開き、日差しよけに使って雰囲気を変えている。
そこの店で、特にここのエリアで取れる特選の素材を使ったリゾットとオレンジのサラダ、ミートローフを頼んでいた。
とりあえず、食事をしながら時間を潰しモンジロ山の会話をしていた。
「テューポーンってそもそもなんですか?」
「ゼウスが色々な戦い、大きく二つの大戦で勝利したことにより、ゼウスは天空の覇者となり、神々の王となった。その敵役のギガンテスなどを打ち負かしたんじゃ。その生みの親、大地の女神ガイアが可愛がっていた神々が殺されたり幽閉されたりしたんじゃ。それに怒り狂ったガイアが、生み出した怪物でだな。それが封印されたのが、あの山って設定になっておる。実際の山はまた違う名前なんだじゃがな。」
「へーそうなんだ。」
「その火山の麓にある炎で鍛冶師をしていたのが、ヘパイストスだったという説を採用しており、今回の伝説の鍛冶師に会いに行くクエストの発端でもある。」
「なるほどね。では、今回は戦いではなく、見つけることが先決だということですね?」
「そういうことじゃな。」
「まぁ、さっさと終わらせて、伝説の武器を作れるように開放させておくか。」
「そうですわね。」
「マスターの武器も作れますか?」
「俺のは無理だろw神様が違うからなwww」
「ふむ…。」
「いずれ、次の占領戦が終われば、スメラにいって武器を開放せざるをえまい。そのときにでも更新するさ。極限まで上げたこの刀を手放すは惜しいが、今のポジションになった以上、取りにいくさ。」
セイメイはそういうと、夜空を見上げ、輝く星々を見つめながら遠くない未来を見据えていた。





