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第92話「過去と現在、そして未来」

 朝がくると自然とおきてしまう。生活習慣というやつだ。職業病というのと同じだ。コンビニ店員が違うコンビニで入店音がなると「いらっしゃいませ」というのと同じくらい職業病だ。

 朝はギリギリまで寝ていたいのだが、今日は朝一で仕上げなければならない報告書がある。しかも35ページにも連なる。


 俺は家に溜め込んでいる栄養補助食品というお菓子を買いだめしているため、それをもって家を出る。

 12月の朝は寒い。しかし、自転車を扱ぐとなぜか会社につく頃には丁度いい具合に身体が温まり、気持ちよく仕事が出来てしまう。不思議なものだ。


 現場の写真というのは、写真をとり、4コマのように作業工程をパラパラ漫画のように写真を貼っていき、この作業内容は「~切断中」とか、「吐出管設置のため~」など、写真の横に注釈を入れていき、作業報告書をまとめていくことだ。

 全体の流れをいうと、現地調査書というのを作成し、それに対しての見積書を作成、作業承認、作業・作業報告書、請求書、そして最後に入金があって完了なのだ。一番大事なのは、見積書とその作業内容がきっちり一致していなければならない。

 つまり、素人目線でどのような作業が必要でどの箇所がどれほどひどかったのか見返したとき、やっててよかった!これがほしいのだ。これがもらえることが充足得ていると言える仕事だ。


 意外にも、作業報告書というのは軽視されがちではあるが万が一何かあったときに、ここまでやっているのになにか原因不明があったということになると、紐解かなければならないのだ。無論、ちゃんと修繕・改修を行っていれば他所であるのだが、手抜きや適当な業者というのは、つっこまれがちである。


 うちは社長じいさんがしっかりやっているし、報告書も作業もきっちりやるタイプなので突っ込まれたことがない。それが、唯一の誇りであると思っている。


 業者の選び方というのもあるが、しっかりやってもらうにはそれなりの報酬もあるが、ここはこの作業じゃなきゃ譲れないという信念をもっている業者の方が怪しい。むしろ、この金額でここまでいけるけど、これ以上は無理だと明確に言ってくるほうが信用できると思っていい。なぜなら、金と作業をきちんと天秤にかけて負けるトコは負けるという姿勢があらわだからだ。

 うちはそうやって、小さい工務店クラスにも関わらず、大手に絶大な信頼を得ている。生き残りをかけているこういった業界は熾烈を極めているといっても過言ではない。

 PCスキルが多少なりとも生きているのは身を助けている証拠だが、忙しければ、忙しいで大変だろうけど、今のままでいい。今は変化を求めていないのだ。


 今日は報告書整理の作業内容が少し多いので、一日が潰れる。時間が過ぎていくのが、意外にも満足している。

 ときたま気晴らしにタバコを吸いに外を出ると、喧騒な町並みをみる。それをみるとなぜかやる気が湧いてしまう。みんな頑張っている。俺も頑張らなければ!!と、前の職場の精神環境が染み付いているからだろう。腐るに腐れないのは、この精神構造のせいだ。


 厄介な精神だ。俺というやつはまだ未練があるのか…。


 迷っている俺を、振り切らせてくれているのはイーリアスのおかげである。


 ―――さぁ、もうひと踏ん張りして片付けるか。



 そうして俺は、仕事を片付けて、さっさと帰宅するとイーリアスへダイブするのであった。



 ―――――――――――――――――――――――――



 ~メディオラム・ロームレス城下町~


 仕事を終えたセイメイは一足先にイーリアスの世界に入っていた。

 すると、俺が振り向く前にルカが話しかけてきた。

「こんにちわ、マスター。」

「どぅわわわあああーー!!」


 挨拶の声のする方へ振り向くと目の前に現れていた。


「毎回その驚かすような挨拶やめねーか?」


 セイメイは心臓に悪いだろ?とか、驚かして快楽を得るプログラムが組み込まれているのかと色々聞いていたが、すでにルカは別のことに興味を得ていた。


「マスターは、グスタフを倒せたらどうなさいますか?」

「どうもこうもねーよ。いつも通りイーリアスを楽しむさ。」

「マスターは今の現実リアルに不満などはないのですか?」


 セイメイはこの質問に即答出来なかった。


 現実リアルに帰れば、つまらない燻った日々が待っている。

 不満はあるが、どうにもできないことが多すぎる。


「なぜ、その質問をする。過去のデータを算出したときにマスターの個人情報と紐付けしそうなアカウントが発見されました。“KAEDE”というデータとのミッシングリンクを辿ると一致しました。間違いありません。」


「…、個人情報だぞ?」


「はい、私を罰して頂いて結構です。しかし、今の給料と過去の給料では雲泥の差、月とスッポンというほど離れています。それで、なにか法に触れたのではないかというのを探ると出てきません。出てきても、駐車禁止での罰金、それも5回のみ。そのような人間がなぜこの給料で満足しているのですか?なにがあったのですか?」


 セイメイは怒り狂いそうになったが、訴える場所もない。


 ―――コイツは俺の身を案じるのと同時に興味がわいたのだ。この俺に…。

 AIが出来るのは電子の海に転がっている“紐付け”という遊びをしているのだ。

 あの膨大なデータを遊び道具にして…。AIというのはかくも恐ろしい。恐ろしいが使い方や指示によっては文明すら開化する偉業を成し遂げるのであろう。つまりは“使い手側”の問題なのだ。


「ルカ」

「はい?」

「個人情報というのは、勝手みだりにみていいものではないのだよ。みちゃいけないものなのだ。」

「はい。」

「俺のはもう見ちまったんだ。それは、しょうがない。だが、他の人間のは見るなよ。俺はそんな情報で人を判断したくない。俺の目の前の人間と付き合いがしたいんだ。」

「わかりました。」

「過去は変えられないんだ。まぁタイムマシンがあれば別だがな。」

「そうですね。」

「ルカの過去だって変えられないだろ?」

「はい、書き換えられたところで蓄積データとの不一致が生じますからね…。」

「そう、AIも人間もそうかわらんさ…。」

「そうなのでしょうか?」

「そうだ。ルカはうちにきて色々なことに興味を持ち始めた。人間も興味から探求に変わり、何かの結果を生み出してきた。そしてそれを応用し続けた結果、その一端がこのバーチャルテクノロジーなわけだ。」

「はい…。」

「俺は怒っているのではないんだ。理解してほしいだけなのだ。」

「はい。」

「ルカの過去がどうだろうと、今は俺の大事な仲間だ。そして友でもある。わかるか?」

「まだなんとなくですが…、同格あるいは同格を超えた融和的な存在ということでしょうか?」

「まぁ大体そんなところだwだから、ルカ。忘れないでほしい言葉がある。」

「なんでしょうか?」




「過去は変えられないけれど、現在いまと未来は変えられるんだよ。」




「はい。わかりました。」

「今後、何かとんでもない事が起きたら、この言葉を思い出してくれ。」

「…、バックアップデータに保存しときました。コアファイルにも書き込み完了です。」

「おおうwそうか!まぁたまにはいい言葉吐くな?俺!」


 自分に酔いしれていると、聞きなれた声が後ろの方から聞こえてくる。


「こんばんちゃ!マスター!」

「おう、ソロモン王ではございませんかぁ~」

「うむ!苦しゅうない!」

「うひひひひ…!」


 と、越後屋と悪代官のようなやり取りを行っていると、ログインしたてのクリスらと合流する。

 そして、アーモロトに帰る打ち合わせをしていた。



「さてこれより、帰還するのだが、他にやることは残ってないか?」

「あるとすれば、火山の麓におけるクエストですね。」


 スカルドがシステムを開き、クエスト一覧を確認していた。


「あ~~~そういえば、のこっていたな~。」


 セイメイは頭をかきながら思い出していた。すると、クリスは思い出したかのように発言する。


「あの火山には、悪魔なんて生ぬるいほどの邪悪な神がいるっていう話ですよね?」

「ああ、テューポーンのことじゃな?」

「さすが、ソロモン!それで、あそこは何が行われるのだ?」


 すると、ルカが割り込んでくる。


「神器を作る鍛冶屋いるのです。」

「ここでくるのですね。伝説の鍛冶師ヘパイストス。」

「なるほどな、ここにきてその内容か…。ヘパイストスに会いにいくか…。」

「ご存知だと思いますが、ヘパイストスはいません。いるのは、引き継がれた製法と技術をもった鍛冶師がいるということです。」

「NPCか…。まだ時間があることだし、いっちょ立ち寄ってみっか?」

「そうじゃな。」

「伝説の鍛冶屋さんかぁ。楽しみだなぁ~。」

「そろそろ、武器の更新もしなくてはなりませんしね。」

「そうだ、そうだな。みんなはそういうことになるな…。」

「マスターは、占領戦後かな?」

「その前には更新しておきたいぞ?w」

「そうじゃな。お化け克服も残っておるしなw」

「くっ…。」

「では、参りましょうか。」


 ルカが声をあげると、一斉にルカを見て返事をして一行はメディオラムより南の島、シケリアにいくこととなった。


 イーリアス時間は15時、街は夕方の活気付く仕込みの時間であり、どっと押し寄せてくる前の休憩をしていた。

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