第90話「無秩序の情」
ガシィィィン!!!
互いが駆け寄り、刃を重ねる事によるハガネの音
幾多の斬り合いをし、ポーションを併用しながら互いのスキルを喰らい喰らわせていく中、風が穏やかに流れる。その風を通す間もなく両者の刃、意地はぶつかりあっていく
負けとわかっていても引けぬ、意地
覚悟を決めている男への手向け
勝ち負けはどうでもいい。ただの意地の張りをしているだけだ。
互いの気が済むまで斬り合うだけであった。
ふとすると、スカルドが応援を呼んでいたフォルツァのベルスが合流し到着した。
応援にきたベルスが動揺しつつも奇妙な雰囲気を感じていた。
「セイメイ殿は何故、刃を交えている??なぜ助けない??」
ベルスが不思議そうにしていると、ソロモンがベルスに説明する。
「タイマンだから、手出しすんなってさ。いい歳してなにやってるんだか…ww」
「ほほう。彼らは…どうにもならない怒りや、力のやり場をここで発散しているようだね。」
「まあ、そんなとこじゃな。動物でいうと…、牡鹿同士の角のぶつけ合いみたいなもんじゃなw」
「おー!わかりやすいですな。縄張り争い的なアレですな?」
「あと子供同士の喧嘩w」
『ははははは!!』
二人が笑っていると、クリスが入ってくる。
「ええ??じゃあマスターは子供なの?幼稚だなぁ…。」
「クリス、そういうんじゃあない。男というのは時には意地のぶつかり合いをすることが大事なのじゃ。」
「ふーん…。なんか、バカらしいね…。」
と興ざめした表情をすると、ソロモンがポリポリと頬をかきながらフォローする。
「まぁあれじゃ、動物的本能じゃよ。喧嘩した後は仲良くなっていくもんじゃって。」
「ああ、男ってそういうとこあるんだよねw」
「ベルスさんまで!はぁ~ぁ。帰ろうよ…。」
「もうすぐ終わるじゃろうて。」
セイメイとコウキは、意外にも善戦をしていた。
「さて、時間いっぱいだ。おまえさん、この状況で勝ってもこの人数じゃ勝ち目はあるまい!どうするつもりだ?」
「ここまできて…、絶対的不利だろうと一矢報いねば、ここまで追った意味がなくなる!おめおめと帰れるかッッ!!」
「フハハハハ!!お前おもしれぇーやつだな!剣筋が真っ直ぐだ。俺んとこにこねーか??意地の張り方が好きだからよぉ!仲間になれば頼りになるってもんだぜ!!」
「そりゃ!残念だな!こちとら預かりの身だ!!アンタもここまで手強い人斬りに出会ったことないぜ!!」
「無殺生派なんだよ!」
一瞬の打ち込みのスキをつき、セイメイはチャージングをかける。
ドン!!と肩で相手の間合いに入るとスキルを放つ。
空斬剣!!
コウキに接近しつつ、三連突きを行う。そして、風神剣を打ち込み、相手の防御を削りにかかる。
そして、渾身のオーラアタックをかける。
乱舞:気炎万丈ォォォーー!!!
刀から火花が散り、唐竹から入ると刀身は炎に包まれる。左切り上げ、逆袈裟そして、左薙ぎの勢いを使って2回転斬りを行うと炎はコウキに飛び移る。
―――くっ!パワー系のスキをッッ!!!火傷ダメージを追撃させてきやがったッッ!!
そして、右半身前に構える。左手は柄の頭を握っているためそのまま刃を上にしたまま、右手は峰に添え最短距離で左半身をすり足のような瞬歩でコウキを貫く。
しかし、最後の一撃をセイメイははずした。
目を瞑るコウキを見たセイメイは急所をはずし、左側へ剣先を逃がしたのだ。
剣を抜くと、セイメイはトドメをささない理由を話した。
「もう、お前は死んでいる。目を瞑った時点でお前の負けを確信した。そこに倒れている仲間を復活させて、去れ。」
刀を引っ込めて鞘に収める。するとソロモンの方に向かって歩き出した。
「てめー!!トドメをさせ!!!」
「だから、勝ちが決まっているのになんで殺すんだよ~。そこにいるヴァルキリー?を聖水飲ませて帰れ。あと少し離れたとこに仲間も復活させてやれ。どうせ粒子化してるやつもいるだろうけど、リスタートの位置に戻ってないやつもいるだろうに。」
「そんなんじゃ、納得いくわけねーだろ!!!??」
「あのなぁ、“武士の情け”っていう言葉を知ってっか?勝者は敗者に情けをかける権利がある。無論殺す権利もある。お前に選択肢はねーんだよ。ゲーム上、自害もできねーけどな。さっさと帰れ。」
そういうと、全員が馬に跨りメディオラムへ向かうのであった。
セイメイは馬を走らせる前に叫ぶ。
「悔しかったら、いつでも喧嘩しかけてこい。いつでも相手してやる。コウキ!またな!!」
そういうと、馬をかえしてソロモンたちの下へ馬を走らせるのであった。
セイメイがソロモンの後ろに乗っているルカに話しかける。
「俺ごと貫くとか、アニメだったら俺カッコイイ死亡フラグじゃねーかよ!!」
セイメイは、その時を振り返ってルカに文句をいっていた。
「あれは…マスターが危なかったので…。」
「通常攻撃で俺がやられるかよ。それに、回復POTもあン時!まだあるんだぞ!」
「そうでしたか。つい怒りに任せてしまいました。」
「怒りだぁ!?」
セイメイはやはりというか異変に気づいた。
「おまえ…感情あるのか??」
全員がルカをみる。
「ええ、多少は生まれてきた、とでもいいましょうか。」
このとき、4人は本当に機械なのか疑い出してしまった。
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~アイブラハム地方~
去り行くセイメイ達に何も出来ない自分への憤りを隠せないまま、歯軋りをしていたコウキは、とりあえず、ムギを生き返らせた。
ムギは起き上がると悔しさを滲み出していた。
「クソ!!あいつら!援軍を呼びやがって!!」
「落ち着け!ムギ。作戦は失敗したんだ。」
「そんなことわかっているわよ!」
「帰ろう。帰って明日また考えよう。」
二人は先ほどやられた仲間の下にいくと黒い装束を纏ったプレイヤーが立っていた。
「おい、てめーー!!そこをどけ!!」
「……。」
「聞こえねーのか!!どけっていってんだよ!」
コウキは剣を抜くと、黒装束のプレイヤーはくるりとコウキ達をみつめる。
「あ…赤眼じゃ、ないか!あんた…!」
ムギは声色を震わせながら怯えていた。
赤眼は目を細めて笑うと一気に距離を詰めて、瞬く間にコウキとムギを襲い二人を倒してしまった。
「今回は…中々いい武器を手に入れた。試し斬りに死体のあとを追って捜していたら、いい獲物だったわ。」
にやりと笑いながら森の闇へ消えていった。
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~メディオラム・ロームレス城・玉座の間~
ファサール議事堂から少し離れたところにある城。あまり使用することがなかったベルスたちの新しい居住区だ。
セイメイは旅の休憩がてら色々考えた結果、ベルスには今までの出来事と学習型AIの噂が本当であったことを内密に告げる。
驚くベルスではあったが、細かい分析や今後のなりゆきなどを静観せざるを得ない事が大事であろうとセイメイに告げた。また、グスタフに会ったことも伝えたこと驚かれた。セイメイとしては予測の範疇であったため、驚くベルスをよそに淡々と言われた内容を告げるとベルスは少し黙ってしまった。
しばし、右に左に歩きはじめ、考えていた。
そして、セイメイに返答するのであった。
「セイメイ殿、そのAIをどう扱うのですか?」
「まぁ害はないし、うちのギルド内でイチ新規として扱うだけだよ?」
「グスタフに情報が洩れませんか?」
「洩れたところで大した情報なんていまさらないぜ?うちは、もう既に情報がグスタフに知られているんだ。いまさら足掻いたって無駄さ。」
「たしかにそうですが、他のギルドがAIの存在に気づき始めました。もうすでに所属させているギルドもあるのではないでしょうか?」
「ああ、そのことなんだが、十分にありえる。AIの気質にもよるが操られるか共闘か、もしくは従えるか。どの選択を選んでも困難を極める。まぁなるようにしかならんさ。」
「数は…あと何体いるのでしょうか?」
「さぁ??それがわかれば苦労しないんだよねぇ~。」
頭をかきながら、ため息をつく。
「まっ、俺は今日は疲れた。ここで落ちて明日また考えるとするよ!」
「わかりました。私の方でも調べをしときます。」
「ああ、ありがたい。くれぐれも他言無用ですよ?」
「もちろんです。」
そういい終わると部屋を出て、ソロモン達のもとへ向かう。
「よおう!今日は疲れたから俺は落ちるわ~。」
「そうじゃの。ワシも落ちるかの?」
「では私も落ちます。」
「ほんじゃおやすみ~。」
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プシューイン…。
セイメイはベランダに出ようとするとめちゃくちゃ寒い風がセイメイの体温を奪い去っていった。たまらなくなったセイメイは、換気扇の下にいき、タバコに火をつける。
―――今日は疲れた。色々なことが起こりすぎた。これ吸ったら寝よう…。
しばらくしてタバコを吸い終わったセイメイは布団に沈み込むように眠る。
ケータイの時計はAMを指していた。





