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第89話「感情交差点」

 月見草、医学ではまだ研究段階ではあるが十二分に期待の出来る草花である。なぜ“月見”なのか。

夕暮れに花が咲きはじめ、夜に開花し、朝方には枯れてしまうのだ。そう、月を見るために開花する草花、それが月見草だ。


その草花が広がる森の中で、二人の刃が重ね合う。


ただ、逃げるため


ただ、追うため


その目的だけのことだ。


未熟な気勢きせいと熟練の手腕がせめぎ合う



赤き血飛沫は天を舞い、二人の眼光は反らすことなく睨み合っていた。


アークスの小剣はセイメイの左肩を突き立て、セイメイはアークスの腹を横一文字に斬り擦って抜いていた。アークスは地面にバタンと落ち、セイメイは膝をつき、肩の小剣を抜き捨てた。


駆け寄るスカルドは精霊魔法による治癒を施す。徐々に回復していくセイメイは、スカルドの肩を借りながら起き上がる。


セイメイは木漏れ月光を浴びながら、アークスに語りかける。


「本来なら、無言でトドメを指すのだが、俺も甘い男だ。そこに落ちている刃を取れば、躊躇なくお前を殺す。黙って見過ごせば、俺は狩場でお前を見つけても、標的ターゲットにすることはないだろう。」


アークスは黙っている。


チン


セイメイは刀を鞘に納めると、スカルドと共に馬の方に向かって歩いていく。


「ちっ…。オーラなんちゃらって効力キレるの早いってんだよ…。クソがっ…。」

「とはいっても、あの人数を一瞬で片づけれたのです。中にはジャイアントもおりましたのよ?」

「ジャイアントなんてものは厄介で、そんな厄介なのはフランジだけで十分だ。」

「ええ、さきほどベルスさんには、救援要請を出しました。」

「馬鹿野郎、そんなことしたら俺らがまだつながっていることを公表するようなもんじゃないか。」

「しかし…。」

「まぁ、スカルドの中では頼れる手札の一つだしな。腐ってもこの前までは同じテーブルを囲った仲だ。信用しているのはわかる。が…。」


セイメイは少し考えてスカルドの立場になって思うとあまりトゲのある言い方よくないと思い、言葉を飲み込んだ。


「今は、そんなこと言っている場合でもないか…。」


 馬を見つけて跨る寸前にドスンと鈍い音と振動が全身を貫いた。


振り向くとアークスが血眼になってセイメイの背中を刺していた。


「死ねぇぇぇぇええええ!!!セイメェェェーーイッッッ!!!!」


スカルドはすかさず、精霊剣を出し、アークスの心臓を貫く。

アークスは地面に倒れると粒子になって消えていった。


膝から落ちるセイメイは、アサシンの一撃必殺、急所ウィークネススラストきを受けた。

目の前が白黒に反転し落ちかけると、胸奥から湧き上がるものがあった。




――― イーリアスのことわりに抗う者よ、立ち上がれ ―――



白黒の世界が広がると、スカルドの膝に眠るセイメイの姿があった。


「あれ?俺が…いる?じゃあ俺は…。」


振り向くと光が瞼を閉じさせる。


――― セイメイよ、お前に、お前たちに未来を託す ―――


光を遮る様に手で覆うが誰もいない。


―――どこかで聞いたことある声だと思ったが、よくわからない。


光はそういうと、消えていきセイメイの意識も遠くなりやがて意識を失った。



「…ま!セイメイ様!!お気を確かに!!セイメイ様!!!」


泣きじゃくるスカルドが俺の顔を覗き込んでいた。

セイメイはまだ思い身体を起こし、スカルドを慰めた。

「泣く泣くな!!」

「だって、回復しているのに、通信が切れたようになってて…、粒子化もしないし、よくわからない状態だったので…。」

「そうか?だ、大丈夫だ。回復かけてくれたんだな?ありがとな。」

「よかったぁ…なにもなくて。」

「ああ、大丈夫だ。疲れていて、きっと寝落ちしたんだと思うww」

「まぁ!」

「これが終わったら、即落ちだわw」


ふとセイメイは時間を見る。


「おい!!俺はどれくらい落ちてた??」

「2.3分だと思いますけど…。」

「スカルド!!合流ポイント割り出せるか??」

「はい!ええっと…。」

「いいから馬に乗れ!!乗りながら計算してくれ!!俺は森を抜けて元のルートを走る!ついてこい!!」


「は、はい!!」


セイメイらは馬を飛ばし、メディオラムの国境へ馬を飛ばしていく。森の枝を掻い潜り、本来通るはずの道に出た。スカルドは合流予測ポイントを割り出していた。


「セイメイ様、あと少しの位置です!!いきましょう!!」

「わかった!お前についていく!!先にいけ!!」

「はい!!」


スカルドとセイメイはソロモン達を追いかけるように馬を飛ばした。そして、遠くで爆発音を聞くと焦るセイメイの顔はより険しくなった。



――――――――――――――――――――――――




「な、なに!!!」


青白い爆発をすると白い煙の中から、氷の壁が聳え立っていた。その氷は壊れて砕け散り、大きな氷の結晶がクリスの盾を覆う。目を光らせたルカが、宙を舞い月を背にしてクリスの前に降臨する。


「このガキィ!!」

「ムギィッ!!下がれぇぇ!!目的を忘れるなッッ!!」


赤髪の聖騎士に促され、渋々下がる。


「ここまで、面倒なヤツを相手するのは久しぶりだな。」

「そうね、マスター以来かしら?」


ソロモンとクリスに近寄る。


「嬢ちゃん、大丈夫か?立てるか?」

「あれ…。」

「あれは、上級魔法じゃ…。攻防一体魔法なんぞ、ファウストですら熟練度が足りないんじゃないのか?」

「ルカちゃん、あんな力をもっているなんて…。」


ルカは次なる魔法をスタンバイさせている。


「あなた方は私を必要としているが、悪用する可能性が高い。しかし、マスターは違う。友達をくれる。」

「ああん?友達?ネット友達なんてどこだって作れる。そんなこともしらないのか?」


赤髪の聖騎士はルカを小ばかにするようにいう。


「おまえらの名前をきいとらんでな、しょーもない名前を教えてくれや。」


ソロモンはサブナックを前に出して、質問をする。すると意外にも答えを出してきた。


「俺の名はコウキ、赤髪のコウキだ。」

「私はムギよ。名前なんて聞いてどうするの?」

「殺す相手の名前くらい聞いてあげても悪くはないじゃろ?」

「こんのクソジジィ!!!」

「おうおうおうwジジィにまけらんねーわな?お若いのw」


ソロモンはにやにやとにたつく。そんなソロモン顔をイライラしながらみているコウキは、ソロモンが武器を持っていない事に気づく。


「爺さん、アンタぁ武器持ってなくてどうやって召喚獣出してんだ?」

「カッカッカッ!!ワシはのぅ、“冥府の王”になったとでも言っておこうかのぅ。」

「ああん?よくわかんねーこといってんじゃねーぞ!!」

「この方は“王”ですよ。そんじょそこらにいる王とは違いますよ。」

「小娘がほざくな!!」


クリスがすかさず、前に出て茶化す。


「ソロモン王の御前である!!ひかえおろう!」


ソロモンは待ってましたといわんばかりの決め台詞をいう。


「この指輪がぁ~あっ目に入らぬかぁ!!!」


その姿は水戸黄門のようであった。


二人は思わずたじろいでいた。そのときに、後方から馬の足音が聞こえてきた。

地響きを鳴らしながら、弓を引くセイメイが向かってきていた。


「お前がうちのギルメンを追っかけた張本人だなぁ!!!」


そういい終わると、伸びきった弦を離しコウキの肩を射抜く。


「クソッ!!」


コウキは硬直を取られていた。


セイメイは馬から飛び降りると、刀を抜き一刀両断しようとするが、ムギの盾に阻まれる。

すぐさま、ムギの横に回り、蹴り倒す。すぐさま駆け寄り、ムギへのダウンアタックを試みるが、硬直が解かれたコウキがすぐさまバックアタックを仕掛ける。

そこにクリスが入り、攻撃を防ぐ。後顧の憂いを消したセイメイはムギの身体へ刀を突き刺す。


ムギはセイメイを睨みつけながら、セイメイの脇腹を聖槍で貫く。それをみてしまったルカは、怒りに任せて杖についている宝玉に手をかざし詠唱を飛ばした。


「もう知りません。この世から消えてなくなればいい…。」


破滅ルーインオブサンダー!!!!!!!


ドーーーーーン!!!!


雷はセイメイを貫き、ムギへの攻撃がされる。


ムギは戦闘不能になっていた。


「ムギィィィィーーーー!!!!」

「おまえらぁぁ!!!許さんぞぉぉぉぉおおおおおーーーーー!!」


「私も負けないくらい許しませんよ。」


刀を横にし、ポーションを飲みながらセイメイはルカの怒りを鎮めた。


「俺はまだ死んじゃいないぜ?ルカ。それに伊達にランカーに入り込むほど、鍛えちゃいねーからな。」

「おのれぇぇ!!セイメイィィィ!!!」

「なんの因果か知らんが、斬り捨て御免なんだぜ?サムライってのはよぉ?」


刀を構えて相手の出方を伺っていた。


「さぁ、こいよ。俺と一騎打ちなら文句ねぇーよなぁ。俺の知っているのは、後にも先にも、先の大戦で戦った聖騎士ギュスターヴだ。聖騎士界隈じゃ名の知れた騎士様だよな??

 それと互角に渡り合えた俺とお前が戦って勝つ見込みがあるならこい!なくてもこい!!アークスといい、おまえらどこのギルドだ?戦争ならいつでも受けてやるよ!

 なにが気に入らないのかしらんが、そうそう俺の首は取れんぞ??今、抜いている低レベのエクスカリバーで、俺を貫くでも切り刻むでも構わねぇ!!俺は負けるわけにはいかねーんだよ!!背負っている重さがちげーからな!!!」


「うちのギルドは、オメガクリードだ。コウジクを拠点としている。その小娘は、うちのギルドに必要とのことでここにきている…。お前らごときには宝の持ち腐れってもんだぜ??」


「ほう、オメガクリード。どっかで聞いた名だな…。」


「マスター!!一騎打ちなんてもういいよ!私たちの勝ち位わかるでしょ!?」

「バーカァ!男ってのはな、負け戦こそ面白いんだよ!!ここで逃げたら、彼に悪いだろ??なぁソロモン??」

「どっかの漫画でみたことあるセリフのような…。」


くだらないやりとりをしていると、思い出した。


「ああ!思い出した!!カルシテ攻略戦の傭兵時代に戦ったあそこか!!」

「ほほう、ますますあんたを憎まずにはいられないなぁ!!勝負だ!!セイメイ!!」


歯軋りが聞こえてくるほどの表情をしていた。


「いいだろう。名を聞こう。」

「オメガクリードの赤髪のコウキだ。」


セイメイがにやっと笑う。


「俺の名はセイメイ!!オケアノスのギルドマスターにして、アーモロト城のグランドマスターだッッ!こい!!!コウキィ!!!」


『うぉぉぉぉおおおおーーーーーー!!!』


男同士の喧嘩の火蓋は切って落とされた。


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