第84話「ダンジョンの扉」
セイメイは退屈な仕事を終わらせて、チャリンコでのらりくらりといつものように川に乱反射する夕日を見ながら帰る。家の近くにあるコンビニで生姜焼き弁当を買い、家に着くとぺろりと平らげベランダにでる。
タバコに火をつけ、ふぅーと煙を吐く。食後の一服は喫煙者のみが知る至福の時である。タバコは健康に悪い。悪いのはわかっているのだが、どうしてもやめられない。しかし、本数やタールを減らし、少しでも吸わない様に努力はしているが、医者からすると“変わってない”といわれるのだろうが、当事者としてはかなりの努力であるというのは、喫煙者の立場でないとわからないであろう。
セイメイはふと気になったユーグの事で耳に着けたインカムで通話を押した。
「おい、ユーグ元気か?」
遠くに住んでいる兄弟と電話しているような感覚だった。
「はい!元気です。」
「なんだ?その回答は?」
「あぁいえ。今日これからランスロット討伐です。」
「そうか。頑張れよ。あいつらのログインがないが、まだ帰ってきてないようだな。」
「そうですね。今、クエストを見直してました。」
「そうか。そういえば、今日テストじゃなかったか?」
「そうです。一応、なんとかなりましたけど…。」
「“可”ばっかだと就職活動で泣きをみるぞ?w」
「あ、はい。気を付けます。」
「俺の人生じゃないから別にいいけど、損するのはわかっているだろうからしっかりしろよ?」
「はい。」
「おう、じゃあまたな。」
「俺らも今、メディオラムに入っていて少し厄介な事に巻き込まれてなぁ。まぁ、なんとかなるから心配はすんなよ?」
「心配なんてしていませんよ。ご武運を。」
「おう、ユーグもクラスアップ頑張れよ。じゃあな。」
VCを切ると、まだあの件は言えないと思い、セイメイは一瞬不安な気持ちになったが、気を取り直してイーリアスの世界にいくとした。
吸い終わったタバコを足元にある灰皿にねじ込む。
「さて、俺もいくかな?」
―――――――――――――――――――――――――
.....ヴォォォィン
HEY! Master...
Language setting is Japanese...
Come on! give me voice-print authentication
「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」
It's a Crazyyy!hahaha!LMFAO!
ohohoh!sorry...OKOK! System... all greeeeen!!haha!
Dive standby...OK.heyhey..Come on! YeeeS!!All Ready!!!
I'm on your side.You know?
「Ooookeyyyy!YeeeS!!!!」
Marvelous!!!! GO!!GO!!!GO!!!!!
―――――――――――――――――――――――――
~神殿の丘・ソロモン神殿~
あたりを見回すとまだ誰も来ていないようだ。
ふぅーとため息をすると、ルカが声をかけてきた。
「マスター…」
「どぅわあ!ビビらせるなよぉ~!ルカか、こんばんわ!」
「いえ、おはようです。イーリアス時間は今は朝です。」
「おおうwおはようww」
「おはようございます。昨日より調べていた内容ですが、不明です。NAサーバーにハッキングしようとしましたが、はじかれました。なので未だにわかりません。」
「おいおい…そこまでやれとはいってないぞw」
「ただ、自立学習型AIの情報でよければネットニュースにありました。ご覧になりますか?」
「おおうw」
「英語版ですので翻訳してからお渡しします。…翻訳率87%です。どうぞ。」
内容はいたって普通のニュースの記事だった。
遡ること数年前、MITで開発発表のあった人工知能が軍事企業との内密的な提携を結んだというをスクープ記事を昔みたことあるが、その記事の特集が組まれていたのだ。どうやら人工知能における軍事産業はこれから右肩上がりであり、死人の出ない戦争が巻き起こるのではないかという危惧した内容だった。
―――当時じゃまさかAIが世界の支配権を塗り替えるなんて予測は夢にも思わなかっただろう。今はもうそういう発言をしている学者は、UFOを信じている学者並みに敬遠されるような感じだろう。もしくはバラエティ番組でネタ扱いされるようなもんだな。俺がSNSで声を大にしたところで、情報がうまく伝わらず、自分で首を絞めるようなもんだ。どうしたら、全体にこの事実を伝えることができるだろうか…。
―――「今度は自力でこの部屋にこい。そのときにまた話を聞いてやろう。」―――
クソッ!俺一人の力じゃどうにもならんだろうがッッ!!
「マスター」
「今度はなんじゃい?」
「じゃい?それはなんですか?それより、皆様がログインしてきます。」
召喚されるように頭の上に魔法陣が現れてログインしてきた。
「おう、マスター。こんばんわ。」
「セイメイさん♪こんばんわ!」
「ごきよう、セイメイ様」
「皆様、今は“おはようございます”です。」
ルカは真剣にセイメイ達にイーリアス時間の徹底をさせようとしていた。
「んじゃ昨日の続きじゃな?入るか?」
ソロモンが口火をきってくれたおかげでルカに突っ込まずにダンジョンに入っていった。
~ソロモン神殿・地下内部・上階層~
相変わらずのアンデット系がうじゃうじゃいるなか、クリスの聖攻撃のおかげで魑魅魍魎の類となるものは全て、昇天させていく。
道中、ルカと話す事が出来る様になったころ、ソロモンは再びあの質問をした。
「ルカ、なんで俺のムスメだといったんだ?」
「ソロモンさんのデータを見ますと、娘のワードが検出されました。特に声量、トーンダウンが他のワードより少しダウンしている。また、会話のログの中に見た目等のデータを拾いました。酷似している部分として、幼い頃の娘さんのトークログが過去にありましたので、検証の結果、該当するのであろうという判断です。」
「そんな話題あったかのぅ?」
「はい。マスターと出会って間もない頃、ログアウトされて戻ってきた時の話でありました。」
「ああ、あれか…。」
「はい、なので当時?の容姿が似ていると思われますが、違いますか?」
―――違くはない。髪の色こそ違うが、幼い当時の姿かたちは瓜二つじゃ…。広島に今度いつ帰れるか…。
「そうじゃな!まぁ娘の方が断然かわいいけどな。」
「まぁ?娘さんの自慢話ですの?」
スカルドは振り向くとルカは静かにうつむいた。
「お、ここで次は中階層にいくようだ。おそらくまた強くなっているはずだ。気を引き締めていくぞ。」
~ソロモン神殿・地下内部・中階層~
階層が増すごとにアンデット系モンスターの威力・防御力は激しさを増していた。
「こいつ…!!硬くねーか??」
「私の聖攻撃も一撃で仕留められなくなってきていますね。」
「ルートもいくつかに分かれているわ!」
「今のままじゃと、日が暮れるわい。」
ソロモンは召喚書の切れ端を出した。
何やら呪文を唱えている。
「いでよ!アミィ!!」
燃え上がる炎が辺りを燃やし、炎を勢いが落ち着くと長槍を持った男が立っていた。
≪汝、我ガ力ヲ求メシ者カ…?≫
「ああ、そうじゃ。ここの神殿地下に眠る宝を探してる。」
≪容易イコトダ…ココカラ左ニマッスグ進ンダトコロニアル階段ヲ下レバイイ…≫
「おっしゃあ!!いこうぜ!!」
セイメイが進もうとするとアミィが長槍を耳元を翳めるように投げる。
うじゃうじゃいたアンデットは燃え盛る炎に纏い死滅していった。
「こわっ…。」
セイメイは引きつった顔をソロモンがニヤリと笑っていた。
アミィは消えて召喚書の切れ端は燃え切り消えてしまった。
「ほら!!セイメイさん!びっくりしてないで、いきますよ!」
クリスは腕を引っ張り最下層の階段へ向かっていった。
~ソロモン神殿・地下内部・最下層~
ボボボボボボッ
階段を降りると長い廊下になっており、燈籠に火が灯り道標のようになっていた。
「おそらくというか、BOSSじゃな!!」
「ええ、そうですわね…。」
「ソロモン、まだそういう紙切れもってんじゃねーよな?」
「もっちゃってるんだな~これが♪」
「ソロモンさん、若者言葉を頑張って使ってますけど、古いですよ…。」
「それをいうなよ、嬢ちゃん…。」
「ソロモンさん、とりあえずPT支援魔法を…。」
「おおそうじゃな!」
クイックタイムをかける。
「わたくしもかけますね。」
ウィンドウィスパーをかけ、回避率を上げる。
「私はバックアップの魔法を…」
ストレングスライズ!!
「はい、これで全体の防御力とちょこっとだけ攻撃力が上がりました。」
「こんな術式しらないぞ??」
「これは、魔法の派生があると思うのですが、上昇系と強度の合わせ魔法です。おそらく上位の魔法職なら使えますよ?」
「わしゃ使えんわい。」
「いいえ、ソロモンさんでもスキルの振り方を見直せば出来ると思うのですが…。」
「ああそりゃ無理じゃ、わしゃネクロマンサー志望なんでのw」
「ああ、なるほど。だから攻撃魔法も上昇率が悪いんですね。これは完全に死神の鎌や、これから取りに行くソロモン指輪が必要ですね。死神の装備を取らずに指輪とは…。飛び級する気だったんですか?」
「色々、耳に痛い事をスラっといっておるが、実際そうじゃ。」
「では、いきましょう。ここのBOSSを倒しに。」
「カカカッ!ソロモンもルカにはタジタジだなぁw」
セイメイが気味の悪い笑い方をしながら、ソロモンの肩を叩いた。
「ごちゃごちゃいいよって!たいがいにせーよ!!」
「まぁそう怒るなって…。さぁいこうぜ。」
廊下を進み、未知なるBOSS戦の扉を開け、セイメイ達の戦いが始まる。
@hyouri_RoA





