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第83話「国破れて山河あり」

 神殿の丘に向かって馬脚を早める一行は、かつてのソロモン王が立てた建造物、全ての宗教の聖地、それが神殿の丘だ。


~神殿の丘・ソロモン神殿~


ソロモン王が死去してから、この辺りを征服していたユーフラテス帝国により神殿は破壊され、神殿の姿はもうない。あるのはかつての戦火の防壁となった壁が佇んでいるだけだ。そのユーフテラス帝国も内乱により消滅した。


つはものどもが 夢の跡(作:芭蕉)


まさにこの句が適切な表現だと思う。


 この場所に鍵があるようなのだが、前回のように辺りを調べる。

 イエサル王国は富の繁栄として存在していた。しかし、ソロモン王の死後は国を分断するほどになり、ユーフラテス帝国に滅ぼされ、占領される。またかつての強国メディオラム王国により再三の攻撃を受けアイブラハーン地方は荒廃してしまった。

 その後、幾多の戦役を越えたことにより、各宗教の代表国が、この地は神聖不可侵、国際管理地域として、国境を持たない土地となっている。言い換えれば無法地帯ともいえる。法がそもそもここに存在していれば、このような遺跡発掘も許可がいることなってしまう。


 今はただ真実を知るため、この“ソロモン王の謎”クエストのシナリオなのだ。


「やはりな。」


ソロモンは床を擦り始めた。


ソロモンは神殿の奥にいた。かつてここに安置されていた聖櫃せいひつの跡をだと思い、そこの隠し階段を見つけ出すと、前回と同じようなダンジョンが待ち構えていたのだった。


「マスター、あったぞ?入ろうか。」

「ああ。」

セイメイは駆け寄って入口に立つ。みんな入口の前に集まると、スカルドが心配をする。


「セイメイ様、この地方に来てから異変が…。ゲーム内情報が書き換えられているかも知れません。お気をつけてください。」

「ああ、おそらくソロモンの指輪自体、もしかしたら無いのかもしれない。だが、俺らは着実にメインクエストの中の条件をクリアしつつある。いくしかないだろ?」

「マスター…、お伝えしたいことが…。」


セイメイが振り向くとルカが立っていた。


「どうした?ルカ、なんかあったのか?」

「いえ、その、ソロモンの指輪の件ですが…。」

「おう、どうした?もったいぶらずにいっていいんだぞ?」

「はい。ソロモンの指輪は存在してました。今はわかりませんが、あまりにも強力過ぎて、通常では手に入らない様になっています。」

「どういうことだ?」

「前回のソロモン王の亡霊がいたのを覚えていますか?あの幽霊という存在です。」

「ああ!!あれか!!」

「あの亡霊には、指輪は装備していませんでした。つまり、データの書き換えが行われていました。にも拘わらず、アスモデウスを召喚した。このことにより、おそらくこのクエストで得られるかわからないというのが、現在の解答データになります。」

「なるほどな。ルカはここに入るのはどう思う?」

「私がいますので、ある程度のバグは修正しながら進める事は可能ですが、既存データの書き換えは禁止事項で権限を付与されていません。なので、よほどのバグ、つまり大幅なデータ書き換え出ない限り、復元・修正は不可能ということになりますから、あとはマスターの実力次第です。」


「そうか…。俄然やる気が出てきたぜッ!なぁソロモン!?」

「ククク…相変わらずじゃな、反骨精神というか、ハングリー精神というかw」

「もう俺らはエクストラステージにいるようなもんだ。今後何が起こるかわからねー!!これが冒険というもんだろ。この奥底に眠る“小さな鍵”を手にして、指輪を手に入れようぜ?」

「そうじゃな!マスターといるとホント飽きないわぃ!」


二人の会話を聞きながら、クリスとスカルドは目を合わせて、ついていくことを決心していた。


セイメイは入ろうとしたが、時間に気づいた。


「と、そのまえに時間だ。今日は色々あり過ぎた。落ちるとしよう。」


時間をみると夜中の0時を回っていた。


「潜りたいのは山々なんだが、今日は落ちるとしよう。」

「ええ、そうですわね。さすがに明日に響きますわね…。」

「じゃあ、また明日集まり次第、潜ろう!」

「セイメイさん、今日は大分お疲れだと思いますけど、ゆっくり休んでください。」

「ああ、そうさせてもらうよ。」


「では、また明日。ごきげんよう。」

「おやすみなさい。」


セイメイは、女性二人をログアウトさせるのを見届けるとソロモンを引き止めた。


「ルカ、ソロモン。ちょっといいか?」

「おう、どうした?」

「明日、ログイン前に色々調べてほしい。無論、俺も調べることにするが…。」

「ソロモンは、セルと連絡を頼む。他の占領ギルドの情勢を知りたい。」

「おう、任せろ。」

「俺も色々と外部で調べておく。空振りだと思うがね。」

「マスター、私はどうすればよいですか?」

「ああ!そっか!お前はログインしっぱなしができるんだよな?」

「私も調べましょうか?」

「できるのか?」

「外部へのアクセスはもともと許可がおりていますので、いくらでも。」

「そうか、なら…」


「ルカの生みの親を調べてほしい。」


「イエス、マスター。」

セイメイは少し照れながら会話を続ける

「おおうw外部接続中は待機モードとかなのか?」

「両方です。ログアウトして、待機モードでも可能です。」

「うーむ…。」


―――このまま仕事から帰ってくるまで待機させるのは、かわいそうだしなぁ。休ませてあげたいなぁ


「ルカは休むというのはできるのか?」

「いえ、待機が休みのようなものです。」

「じゃあ、気晴らしに探す感じになるのかな?」

「はい、おそらくそれが一番近い表現だと思います。」

「じゃあそれで頼む。もしかしたら俺より情報収集能力高そうだなw」

「お役に立つのが私の役目ですので、お気になさらないで下さい。」


ソロモンは何か思うような目でルカをみていた。

ソロモン自体、重ねてみてしまっているのだろう。


昔みた愛娘の面影を…。



「じゃあ、ワシは落ちるでの。朝一会議なんじゃ。」

「くぅ~かっこいい。明日は早くこれそうなのか?」

「当たり前じゃ。子会社の社長をなめるなよw」

「なめちゃいねーけど、本社から圧力ないのか?w」

「あるけど、窓際会社じゃ気にせんでいい。」

「わかった。じゃあお疲れ。」

「おう、また明日な。」


―――――――――――――――――――――――――


~東京都港区某社屋 7F ~


出社すると、社内は慌ただしい。

年末における繫忙期へ向けて、再々会議が行われる。


秘書が近づいてきて、打ち合わせをする。


「社長、おはようございます。」

「ああ、おはよう。会議の資料はあるか?」

「お席にございます。」

「そうか。先に入っている。」

「今日のスケジュールはあとで聞こう。先に会議だ。」


~会議室~


『おはようございます。』


一同が立ち上がり、挨拶をしてくる。


「はい、おはよう!!席に着きたまえ。」

「本日の会議は来る商戦期に向けての会議です。」

「近藤営業部長より報告お願いします。」

「はい、年末の開発費用にて、コストパフォーマンスの高さを如何に……」


―――昨夜の事は色々考えてはいるが、AIの台頭はもう始まっている。

知らず知らず人類はAIを産んだことにより、自ら断頭台へ登っているのではないか?手を変え品を変え争い続けている。生きるために。これは資本主義における人と人との争いなのじゃ。人はどこまでいっても戦わなければならんのか。この宿命を脱却させるには?資源を求めて、我々人類はどこを目指しているのか…。

このままでは、日本も世界も大きな渦の中で飲まれてしまうのじゃろうか。むぅ…。


「…ちょう?社長??」


「ん?あ、どうした?」

「いえ、今回の予算からすると、繫忙期の売上高の比率が昨年度に比べて2~3%のダウンの予測値が出ています。」

「その予測値は昨年度の各競合他社と自社からのビッグデータによるAI算出データか?」

「はい、そのように打ち出しております。」

「どいつこいつもAIに頼りよってからに…!!」

「はい?」

「いや、なんでもない。じゃが、他におらんのか?対案を出してくれるデータや考えをもつ者は?」


会議室は静まり返っていた。


「ふん、データも大事じゃ。しかしの、データばかりじゃいかんのじゃ。現場を見て、動向を確認し潜在ニーズを引き出してこその売上高上昇なんじゃぞ?お主らはそれを理解しているのか?」

「その上でこの数値です。この時代にAIなしでは会社の売り上げ予測は打ち出せません。」

「まったく、これではAIの言う通りのままではないか。お前らはAIの操り人形か??」


叱りつける様にデスクに資料を叩きつける


「仕方ありません。会社の売り上げこそが、是としている以上は致し方ないかと…。」

「むぅ…。昔は…」


過去の栄光や努力を今の社員にいったところで、なんの役に立たない。ただの精神論を叩きつけるだけの無能な老害と一緒になるまいと、言葉を飲み込んだ。


「いや、やめておこう。昔話をしに会社に来て、数字と戦っているわけではないからの。」

「では、各自持ち場に戻れ。年末に残業申請を受け取る気はワシはないぞ?しっかり働け!」

『はい!!!』

「おし、解散!」

バタバタバタ…。

会議室にいた役員をはじめ、社員たちは会議室を後にした。


秘書が話しかけてきた。


「社長、それと…。」

「今度はなんだ?まさか、また本社からの()()()か?」

「まぁ…おそらくそのような感じかと…。」

「ふん、君もわかってきたようだな。これはワシの仕事だ。回線を部屋に回してくれ。」

「かしこまりました。」


―――本社の人間も所詮、目の前のことしか見えてないのじゃ。



社長室に入り、本社の人間と会話をする。

会話の主導権争いから始まり、色濃く圧迫の会話が飛び交う。



セイメイ達はこれから長い戦いが始まるとは思ってもみなかった。


朝の日差しはアルミブラインドからこぼれる。デスクの上の片隅にあるまだ若き頃のソロモンと娘の写真が写り込んでいた。

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