第78話「理の軋み」
ウルススをあとにした一行は、ルガールの畔まで進んでいた。道中はルカへの質問が集中する。主にクリスが質疑を行っていた。
「へーウィッチなんだ?」
「…そう。」
「どこからきたの?」
「あっち。」
山の方をさしていた。西の方角を見ると、山脈しかないのでよくわからない。
「そっか。レベルは…?」
「わからない。」
「ステータス画面でわからないの?」
「00と表記してあるだけ。」
「ログインでも失敗したんじゃね?最初の頃、よくそういうバグあったしな。」
―――マスターはあっけらかんとしてる。
「…。」
「まぁいいじゃねーか。徐々にうちのギルドに慣れてくれば、話しやすくなるもんだ。今は無理すんなよ?w」
マスターはくったくない笑顔をしていた。
―――リアルもこんな渋くカッコイイといいな…。でも童顔っていっていたしな…。
クリスはう~んと考え事をしていた。
「マスター、今回はいいとしても、毎回じゃ占領戦に多少の影響は出る。ギルドマスターの印象でどっちに応援いくかとか、些細な事で義勇兵は敵味方に分れるからの!それに、勝てば一攫千金のチャンスじゃからの。」
「俺も経験あるけど、勝つほうにつくからな。親玉同士の事情なんかどうでもいいからなw」
「そうじゃな。」
すると、スカルドがローレムスの状況のDMが届いた事を知らせる。
「セイメイ様、これを…。」
DMの内容をPDF化し、俺へ外部接続での伝達をしてきた。
「ふむ…」
やはり、というより予想内であったため、マスター私もそこまで驚きはなかった。
DMは以下のような文章であったと、のちほど共有された。
―――――――――――――――――――――――――――
次回の占領戦は、ロームレスの防衛戦が濃厚である。ゆえに
セイメイ殿に直で話をしたい。アーモロト侵攻は今回ない
とのことだ。セルからの情報だから間違いない。
セルはジェノヴァへ向かい、どうやら西側の情報を集める
といってどこかへ行ってしまった。来訪を待つ。
Message by ベルス
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「どうやら、今回は百鬼夜行と戦うことになりそうだな?」
「マモノ…ですか?」
「いや、ネクロマンスの敵が多い。ということはウィッチや、魔術師、ネクロマンサー、魔導士が主な主役だろう。前衛職はおそらく比率的に少ない。しかし、バランスでいうと、俄然攻め有利の展開だろうな。なぁ?ソロモン?」
「そうじゃな。後衛は守りが紙じゃ。それと引き換えに魔物や妖怪などがこちらの前衛を食いにくるじゃろう。ひきつけてからのサイド攻撃ができればいいんじゃがな。」
紙…紙装甲、防御力が低いことを表現するときに使う言葉
「だろうな。もし、防戦一方だと相手は破竹の勢い押し切られ、やがて我々はメディオラムを明け渡すことになる。そうなると、アーモロトとメディオラムを交換しただけのようなものだ。」
「そうですわね。親しみのあるメディオラムは原点ですからね?議事堂も、闘技場も全てあそこからスタートしたんですから…。」
スカルドは少し悲しそうな顔をした。
「なぁに、そんな戦う前から悲しんでいる?俺らは常に全力だろ?全力も出さずに負けを認めるなんて、やる前に勝負は決まってしまっているようなもんじゃないか。ポジティブにいこうぜ?お前がいるだから大丈夫だよ。」
セイメイはにっこりと微笑んだ。
―――はうぅぅ!ず、ずるいですわ!!そうやって女性を手玉に取ってきたんですね!?な、なるほど!要するに陽キャも今ではネトゲする時代…!!対陰キャ男を相手をしていた私からしたら、セイメイ様は…ず、ずるい方です!!
もじもじしているスカルドをみた私はムッとした。
―――な、なんなの!?この女!!せ、セイメイさんは私が最初に色々助けて理解してきた一番最初の理解者ですよ!!??途中から参加したオバサンに負けてたまるもんですか!!
なぜか対抗心を燃やしたクリスはドキドキしながら、セイメイに話しかける。
「せ、セイメイさん占領戦になったら、私はそばに置くんですよね?」
「当たり前だろ?クリスが俺の露払いしてくれなきゃ、俺の瞬間火力が生きないだろ?」
セイメイは強く言っていた。が!しかし!!乙女フィルターを通すととんでもない解釈へ変わる。
“当たり前だろ?お前が俺の背中を守りつつ、俺の高火力でなぎ払うところをお前に見てほしいんだよ。”
乙女フィルターは、非常に都合よく変換される。
二人を横目にソロモンは「まったく…」といって頭を抑えていた。
ふと、セイメイの後ろにのっていた、ルカがソロモンに話しかける。
「あなたのクエストは私が必要…。」
ソロモンは目がテンになり、固まってしまった。我に返るとルカは前を向いてしまっていた。
―――この小娘、何がいいたかったんじゃ?
そうこうしていると、メディオラム王国のローレムスへ到着した。
~メディオラム王国~
前回は複数のギルドで治めていたここは、フォルツァの占領下になっているため、王国扱いされている。
これが、複数の地方を治めると帝国へと変わっていく。中世の統治者と同じ扱いだ。
すると、フランジが出迎えてくれた。
「フン、本来ならば俺じゃなく他のモンがアンタを出迎えすることになっていた。それをうちの大将が命令してきただけだ。さっさと入りな。」
フランジは、前回のことをまだ気にしているようだった。
「なぁフランジ。また一戦やらねーか?今度は奇襲なしの正面でのガチンコだ。どうだ?」
マスターは何気ない顔で平然と言う。
「んだ?俺にチャンスでもあげたつもりか?」
「おまえ、俺が知らないとでも思っているのか?アーモロト東側城壁の指揮して耐えていたのを俺は報告書で知っているんだぞ?ふんばりがきくお前に俺はベルスに他の者より多めに奨励金を出すように伝えたはずだが?」
「…たしかに多い気がしたが…?」
「今度はお前が俺の兵を指揮しねーか?お前の奇襲はセンスだ。今度の戦はお前の戦術と機転がものをいうことになりそうだ。うちはあいにくお前と並ぶほどの実力のあるギルメンが多い。正面での戦いでジャイアントが有利なのは知っているだろ?それに奇襲が乗っかれば、先手必勝・一線を崩すのは容易だよな?…クククw」
「ケッ…。ぬかせ。うちの大将を守るのが先だろうが!」
「ハハハ!お前ならそう言うだろうと思ったよ。俺個人はお前を買っている。それだけは忘れないでくれ。またな。」
「…おう。…うちの大将との話し合いが、終わったら一戦いいか?アンタになめられないように俺は強くなっている。」
マスターはにやりと笑い、振り向く。
「だよな?背負っている斧、それレア枠だろ?」
「!!」
「お前は俺を嫌いでもかまわんが、俺はそういう負けず嫌いなとこ、好きだぜ?そういうプレイヤーが身内にて俺は幸せだ。あとで勝負しよう!」
マスターは振り向きながら手を上げて前を見ると、少し手を振り、ゆっくりとおろした。セイメイ一行はファサール国会議事堂へと足を運んだ。
~ファサール国会議事堂~
フォルツァのベルスに会う事になった。アーモロト攻略以来あっていないので、懐かしさが先行し思わず握手してしまうほどだったのだとのちにセイメイは語る。
「お久しぶりですね。セイメイ殿!お互いまさか城主になるとは思ってもみなかったです。」
「ベルスさんは実力も人柄も共に城主として相応しい人物です。何を畏まっていらっしゃる!」
「連盟を組むことはシステム上できませんが、お互いうまくやっていけそうで何よりです。」
「ははは!私は所詮、神輿に担がれた人形のようなものです。あなたの助言ご助力無くして、この会談は実現しませんでしたよ??」
「いやいや、話がつきないw」
「まぁ私が旅に出ていなければ、団体戦などの模擬戦をやる催しもできたのだが…。」
「いいですな!次回、やりましょう!それもこのメディオラムを防衛出来てからですぞ?ハハハ!!」
二人は笑いながら席に着いた。
「席についていきなりこのような話をするのも、とても申し訳ないが、東側からの侵攻が確認されました。」
「ええ、スカルドからのDMで確認しました。直接送ってくださっても良かったのに。」
「ご多忙かと思い、あえて信頼のおけるスカルドさんへ送ったのです。なにせ、初城主ですから不慣れもあって、手が回らないと思ってね。」
「ご配慮痛み入ります。して、我々は援軍を送りここ、ロームレス防衛をすればよいのですか?」
「いえ、ロームレスは他の城と比べて脆弱性が否めない。そのため、最初の前哨戦。そこである程度食い止める…。戦力を削る、陣営を崩すことをしないと、対抗できない。しかもチート級の召喚獣の大軍です。正面突破はほぼ不可能でしょう。」
「でしょうね。やはり両サイドからの攻撃を必要か…。」
「それも、伏兵すらバレないように緻密な計算をしたうえで…。」
セイメイは天を仰ぐように上を向いた。ベルスはそんなセイメイに話を続け依頼をした。
「セイメイ殿の奇策、これを我々はお願いしたい。」
「いやいや、私はそのような知恵は持ち合わせていない。過度な期待というものです。だからといって、手伝わないというわけではないんだがなぁ。」
「セイメイ様、こちらのを…。」
スカルドは地図を開き、地形の説明をしていた。
そこに立ち寄っていたソロモンは、ルカがいないことに気づき、会議室をあとにする。
~ロームレス市街地・郊外~
人通りを抜けて、商店街を抜けた小高い丘に上がっているルカをみた。
「何をしているんじゃ?いきなり迷子になられては、困るんじゃぞ!?」
ルカは聞いているのかどうかわからんような態度を取っていた。
「なにを見ているんじゃ?空には何もないぞ?」
「まもなく災害が起きる…。」
「ああ、そうじゃ。ここは占領戦で戦地になる。」
「ううん…ここから逃げなきゃ…。」
「ちょ、おい、ルカ!」
ソロモンの手を引き、丘を下り街を縫うように走りだした。
丘は心地よい風がなびく。戦火が吹き荒れるとは到底思えない柔らかな風が、ロームレスの街を吹き抜けていた。





