第62話「宵闇の光明」
~サーマス共和国・城門~
ユーグは城門の手前まで来たが、見張りが多く抜ける事が出来ない。
レーヴァティンが語りかける。
≪大聖堂ニ向カエ…≫
俺はわけもわからず、そのまま反対側にある大聖堂に向かった。
~サーマス共和国・大聖堂~
大聖堂はがらんとしており、薄暗く松明の光がユーグの頬を照らしていた。
その先にある聖壇で何か執り行っていた。
―――あれは、司教か…?
ゆっくりと忍び足で近づくと、司教はこの世のものとは思えない悪魔に姿を変えていた。
≪グオォオォォオオオーーーー!!!≫
建物内に響き渡りステンドグラスが割れんばかりの雄たけびを上げていた。
―――こんなのが潜んでいたなんて…!!
レーヴァティンに向かって俺は怒鳴った!
「おい!お前!こんなの俺が倒せるわけねーだろうが!!」
しかし、レーヴァティンの目を薄っすら開けてフンといった感じで目を閉じる。
「こぉ~のぉ~やろぉ~~~!!!!」ユーグは怒り狂ったが、変貌した司教はユーグの頭上から拳を振り下ろしていた。
ドーーーーーーン!!!
と、ユーグを一撃で葬る。
ユーグは間一髪避けていたが、肩がかすり、ダメージを負っていた。
―――いわんこっちゃない!クソッ!いきなり過ぎる…こんなのヤツと戦えっていうのか?突然、ボス戦とか無茶苦茶だっ!戦えるわけないじゃないか!!
ユーグを追うように拳が左右から交互に飛んでくる。地べたを這いずり回りながら何度か攻撃を躱すが壁に追い込まれる。
すると壁がどんでん返しのようにひっくり返り、ユーグは隠し通路を転げ落ちる様に横転していった。
~大聖堂・隠し通路外~
大聖堂の外に放り出され転げて近くの木にぶつかりようやく止まった。
外に出たユーグは回復POTを飲みまわした。
―――こんなとこで道草食っている場合じゃないのに!!
そう思っていると、ほのかに光る物体がユーグに近づく
よく見ると、手のひらに乗っかる程度の妖精がユーグの前に浮いている。
≪やっほー勇者様!お困りのようですね~!≫
「お困りもクソあるか!!」
≪ふむふむ!妖精王の使者として参ったヴィヴィアン・ルーシュよ!≫
「んで、ヴィヴィアンとやらは何をいたずらするんだ??」
妖精は基本、人間にいたずらすることがあるのを知っているため、粗暴に扱った。
≪これだから人間は…!それより、今のあなたでは勝てないわ。大いなる力を手にしても、あの悪魔は倒せない。だって、あの悪魔はユリゼンの姿よ。≫
―――何言ってやがる。ユリゼンは神話の神ではなかったのか?
≪司教がユリゼン、あとは…わかるわね?≫
―――ん?司教がユリゼン…。他にもあんな邪悪な姿をするのか?まさか…三賢者というのは、ルヴァ・アーソナ・そして、サーマスという割り振りで悪の力で制圧するとでもいうのか??
≪勇者様、流石ね。推察の通りよ?すべての元凶は北の教会にあるわ。あそこは聖職者…いえ、邪教徒の巣窟なの。あそこで神々を邪悪な神へと落とし込んでいるの。≫
≪神なんて…人が作り出した都合の良い偶像に過ぎないわ。これに頼って生きている人はすぐに騙される。本当の神様は影から人々を見守っているだけよ…。なにも加担せず、何も引かないわ…、それがわからないのよ。神とは、人の行動によって悪魔にもなるっていうのを人間はまだわかっていない…。≫
ユーグは目を閉じた。
―――たしかにそうだ、神なんてものは存在しているのかすらわからない。それでも人は心の拠り所にしてしまうのが宗教なのだ。それを一神教という統一を図り、国策として古代から現代までどの国でもやってきた。また、宗教が力を持つとそれを破壊する民衆行動が出てくる。人とは神がいったように、傲慢な生き物なのだ。だから、どの経典にも邪な心を戒める御経が書いてあるのだから…。
宗教とは、人をマインドコントロールでき、集団心理を巧みに扱える戦略の一つなのだ。
わかっていても、騙される。それは人が弱い生き物だからだ。弱さを自覚し、弱さを克服することで人は進化することが出来ているはずだ。自分を愛し他人を愛することが出来れば、こんな世の中から戦争はなくなる。
しかし!!そうじゃない!!!どれだけ神を信じようとも神は自分のために努力できないものを救おうとも見つめようともしない。そうじゃなくても、己の手で人生を切り開くことこそが、次の世界への扉を開くことができるのだ。
そう、神は自分の心に宿り、自分で解放するものだ!!―――
そういう日本人という我々は都合がいい。結婚式はキリスト教、死んだら仏教、神頼みは神社なんだからこういう多神教あがりの民族もおもしろい。でもこれが日本人らしいといえばらしい。
これから多様化の時代の宗教は何かの行事に司るものになっていくのではないかと思っている。それを好みで選んでいく時代、そう、宗教の細分化によるセレクトしていく感じになると思う。無論、一神教を否定しているのではない。一つより二つ、二つより三つという心の支えを増やしてもいいのではないかと思っている。
だが、これをこの世界にフィードバックするにしては、四神を全部悪魔にしてしまっているサーマスは欲望が強すぎて我を忘れているとしか言いようがない。しかも、一個人単体での思いで動いているということがいかに恐ろしく悲劇を生んでいるのか俺はこのクエストで知ることになったのだ。
神様は嫌いじゃないが、信者が嫌いにはなりそうだということだけはよくわかった。
ユーグはゆっくりと目を開ける。
「それで北の教会までいくにしても、門番がいる。どうすればいいのだ?」
≪フフフ!任せて勇者様!今、どうやって攻略するか考えていたでしょ?これから四神を倒しにいくわよ!≫
「おまえが倒すわけじゃなかろうに…」
俺はやれやれと思いながら、ヴィヴィアンのあとを追った。
~サーマス共和国・城門~
さきほど来た城門だ。門兵が等間隔で警備をしている。どこに穴があるというのだ。すると、ヴィヴィアンはお構いなしに門兵に近づき、門兵はその場で倒れてしまった。
≪勇者様、今眠らせましたわ。今のうちに!≫
門に少し隙間を作り、そこをすり抜けて門外へと出たのだった。
≪さぁ、北の教会には、まだ完成されてない残りの三神がいます。それらを倒していきましょう!≫
―――なんちゅうイベントフラグなんだ!
俺は北の教会へ向かうべく移動をした。
ふと前をみると橋の前には邪神ルヴァがいた。片手五爪が異様に長く、硬いイメージを持った。
―――おいおいおい。総当たり戦のイベントかよ…!!やるしかねーなぁ!!えっと~、ルヴァは…愛と情熱を伝えた神だったけど、コイツ何が弱点なのかわからん!!…とりあえず殴るか。
「っ喰らいっやがれ!!」
一気に飛び込み、回転斬りを打ち、腹に蹴りを入れ間髪入れずにレーヴァテインを頭上より振り下ろした。ガード体勢をとったルヴァは爪を前に出した。しかし、爪が吹き飛んだ!
―――あ、このままだと体ごと勢いに持っていかれる!!
勢いが余ったユーグは体をひねってもう一連撃を浴びせた。ルヴァに会心の一撃が入るが、ルヴァそれでも立っている。
「だよね~。神様そんなんじゃ倒れないよね~クソ!時間がねぇつーのに!!」
爪はまた伸び始めている。
「どうやらオーラアタックをするしかねーのか…。ぶつけ本番、使えるか?」
ユーグはレーヴァテインを胸に掲げる。
―――宵闇の王よ、我が剣に力を与えよ!さすれば新たな闇を与えん…!!
喰らえ!!【 破壊の闇 !!!】
レーヴァティンの鍔にある目玉は大きく見開き、黒い光を放出し、刀身から黒いエネルギー体が大剣にひも状で絡みついている。絡みついたエネルギー体を振り払うような斬撃を放ち、エネルギー体はひも状から球体に変わり邪神ルヴァの身体を飲み込んだ。
ユーグは肩に担いだ大剣を駆け込みながらその球体を真っ二つに裂いた。
「ふう…。なんとか倒したけど、これ残り3つだろ?最後のユリゼンデカすぎだったんだけど大丈夫かな?」
少し困った俺はクエストのヘルプを覗いたが攻略の手掛かりになるような文言は記載なかった。
≪ほら、勇者様!先を急ぎますよ!!≫
「こいつは、アニメとかによく出てくる妖精キャラまんまだな。」
―――俺もピピンの嫌味が映るっている
レーヴァティンを背中に納刀して橋を渡り北の教会へ急いだ。
~北の教会~
見た目はどこにでもありそうな教会だ。ただ、人気がない。気になるのはこんな寒冷地に佇む教会が人の手入れが施されていることぐらいだ。このことから、たしかに教徒の出入りはあるようだな…。
≪勇者様…この中にもう一人のサーマスがいます。お気をつけて≫
―――なにがお気をつけてだよ…。フラグバリバリ立ってるちゅうの!!!
扉を少し開けると薄暗い空間が広がっていた。
意を決して飛び込んで入ると中の空間は亜空間となっていた。
≪我が子らではないな…。≫
高等信者のローブを身にまとった男がそこには立っていた。
教会の扉が急に締まる!
バン!!
―――逃げ道を塞がれたか。
「セール品の勇者をお届けに参りました。っていってもギャグにも嫌味にも理解できないか…。」
≪人はなぜこうにも争いをやめぬ、そして我身を焼こうとするのか?≫
そういうと、男の頭上から魔法陣が現れる。
「うっそだろ!?聖魔法撃ってくるのかよ!?」
白く光輝く魔法陣からは十字架になぞらえた形をした剣状の鋭利な刃物がユーグにめがけて飛び込んでくる。
―――まじかよ…こんなに飛んでくるのか…ファンネルどころの話じゃないんだけどぉ!
無数の剣がユーグの行く先々めがけて飛んでくる。
数十の剣を避けたり、レーヴァティンの腹で受け流したりしたが、何本かはユーグの身体を翳めて体力を奪っていく。亜空間を走りながらユーグは考えていた。
―――この空間は上も下もない。なのにホーミング力は絶大だ。しかも、この効力はヤツの領域で起きている。力押しできる相手じゃないな。何かトリックでもあるのか?
「やべっ!」というと剣が足元に刺さり動けなくなった。
≪その身をもって悔い改めてもらおう!!≫
というと、十字架の剣はユーグの身体に無数に突き刺さるのであった。





