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第58話「心の感情」

 ~某私立大学~


 午後の講義を無事終えたユーグは帰路につく。

 家事などの雑用をさっさと終わらせてログインするようにする。


 ログイン後、ユーグは昨日の出来事がなかったように振る舞うことにした。


 ―――過去の夢や憧れは消化することにしよう。遺志を引き継ぎ、彼らの成しえなかった英雄譚を…せめてゲーム中で俺が描くことにしよう。


 ~ユリゼン王国~


 俺はユリゼン王国の地に降り立つと、マントを靡かせて城下町に行き、整備されている用水路が見える小さな広場で待つことにした。みんなが来るまで装備やアイテム欄を整えていた。

 ―――装備は…まずは騎士の鎧か…。カラーリングも既に暗黒騎士のようなデザインだし、もういいか。兜のデザインがベリアルにしてあるのは、素材のせいなのか?まぁこれはこれで良しとしよう。籠手も具足もこれでいい。

 ベースが騎士シリーズで揃えられているのは楽だ。

 そのあとの…


 能力限界突破ブレイキング・ザ・キャパシティーリミット


 通称:B.Cを行えば、更なる数値上昇が見込めるわけだ。失敗しても能力が、多少落ちるほどだ。それに、ギリギリ生き残れるか倒れているかの差を出すことになる程度ではあるが、詰めれる数値は詰めておきたいのが、ゲーマーの性だ。

 いずれ、色々な装備に手を出すことになるだろうから今はこのままで良しとしよう。


 問題は、神器・聖魔具の一角、レーヴァティンだ。


 数々の魔剣・聖剣には付与がつくが、レーヴァティンは未知数の武器である。

 JOKERの所有する数少ない魔剣グラムとは違い、暗黒騎士の剣ではポピュラーなものだ。その上で汎用性が高くプレイヤーの育て方によっては一点集中火力カウンター型から、連撃型、回避型など多岐にわたる。


 JOKERの剣は確実に一撃がおかしいくらいの火力を持っている。おそらく、一点集中火力型と推測できる。

 そもそも暗黒騎士の強みは連撃とオーラアタックの攻撃力である。逆に弱点といえばスタミナ切れがしやすいという点である。多少マシになったとはいえ、連撃とオーラアタックは相反するものにみえるのは、スタミナの消費量は半端なくピーキーである。また、MPに該当する気力の減りもおかしいぐらい減る。その減少を抑えるのに大量に各種ポーションが存在し、それらを駆使する。そして、何よりも強みなのは、最大HPゲージを気力に転換できるというのが強みである。多少の最大HPゲージを犠牲にスキルを発動させれば、逆転は可能だという点では他職にない強みである。まぁ、最大HPゲージはかなりのCTを置くか死に戻りする以外ないのだが…。


 そこで、俺は連撃型を目指そうと思っている。ラッシュを組み込まなければならないが、その分、戦っているという実感がわく。好みは人それぞれだ。JOKERのような一撃で殺めるのに快感を得る人もいれば、俺のようにコンボを叩きこむことが好きな人もいる。千差万別というのが、剣技というものらしい。


 俺はじっくりと見る事のなかった、覚醒後のレーヴァティンを見つめて鍔のとこに装飾されている暗黒ダークアイをみる。


 そうすると、目が見開きキョロキョロしてこちらをみる。しばし見つめているがしばらくするとそっと瞼を閉じる。


「うぅぅっ!きもちわるぃ…!!」


 ―――このギミックがなければ、こいつ良い武器なんだけどなぁ…。


 背中に納刀して広場にある階段に腰かけ、用水路に流れる水を見ていた。日光が乱反射する光りを見つめている。ぼーっとしていると、俺の頭を叩くものが現れた。


 珍しく唯華からはなしかけてきた。

 そして、ユーグの横に座り込んだ。

「おい!なに感傷に浸っているんだよ。」

「いえ、まぁ色々あったんで心の整理をしていたんですよ。」

「ふーん。羨ましいね。」

「なんでですか?」

「社会人になるとね。そんな感傷に浸る時間なんてないんだよ。すごく嫌なことがあっても、次の瞬間には別の仕事が入ってくる。つまり、常に切り替えていかなきゃいけないんだ。だから、そうやって見つめ直す時間が持てることが羨ましいんだよ。」

「そうなんですか…。」

「だから、時たま旅行いって全てを忘れることをしたりして、気分をリフレッシュしたりするんだ。」

「唯華さんが悩むことなんてあるんですか?」

「失礼な!あるよ。ありまくりだよ!」

「ごめんなさい…。失礼なこといって…。」

「大丈夫だよ。そのうち社会人になれば、壁にぶち当たることなんてたくさんある。それを乗り越えていかないと自分が持たないんだよ。と、自分に言い聞かせているだけかもね…。」というと、唯華も用水路を見つめていた。


 しばらくすると、ファウストとカルディア、ピピンがログインしてきて俺らを見つけて「おーい!」と叫び手を振っていた。


 唯華はさっきまでの悲しいそうな表情はそこにはなかった。

「おっそいよ!ユーグの間抜けな会話に突き合わされそうになったじゃんか!」

 ―――ええ??うそだろ!!?

「ユーグはロマンチストだからな。」とカルディアがにひひと冷やかして笑っている。

「やあ、ユーグ君元気になったみたいだね?」とファウストは声をかけてきた。

「そうですね。だいぶ気持ちは楽になりましたよ。」

「さっさとルヴァ公国にいこうぜ?」ピピンは急かしていう。


 さて、ルヴァ公国に向かうとするか…。


 ユリゼン王国から出発し、北北東方面に向かう。

 道中は林道があり、モンスターも出てきたりと相変わらずの戦いをこなしていく。


 カルディアが気になっていたのか俺に話しかけてきた。

「そういえばさ、ユーグはいつまでバイザーおろしているんだ?」

「え?気付かなかったです。」

 設定をいじるとバイザーの開け閉めの設定が設けられている。バイザーをあげてみた。

「お、やっとお前の可愛い()()()が見れたぜwww」と、小ばかにされた。

「え?だって自分には普通の視界でしたよ。」というとファウストが説明してきた。

「暗黒騎士は、兜表示が自動表示されていて、誰なのかわからないようになっているんじゃないかな?もしくは、目を見ても威圧感ないから、威圧感を演出したいんじゃないかなと思う。」

「あーいわれてみれば…!」

「ふん、おまえ気づいてないとかやばいな。鎧も色が多少青みがかった黒になったの気づいてないのか?」

「あーそれはなんとなく気づきました。レーヴァティンの覚醒でおそらくそんな感じになったのを雰囲気で感じ取りました…。あはは…。」

「まぁこれで正真正銘の“相棒”になれたわけだな。ガハハ!!」とカルディアは笑っていた。

「あはは…。足手まといにならないようにしますですハイ。」

「カルディアが相方はだるいぞぉ?ユーグ。まぁこれでトリオになるわけだ。こき使ってやるからな。」とピピンはニヤニヤしていた。


 俺は納刀しようとすると、唯華が気持ち悪がっている。


「ねぇ…。その武器気持ちわるぃよ。」レーヴァティンの眼を見て気味悪そうにいう。

「あー、これ仕様なんで我慢してください。」

「アンタねぇ、レディのいるPTなんだから少しはそういうの配慮してくれてもいいんじゃない?」

「これだから高慢ちきな女は叩かれるんだよ。」とカルディアがいった。

「高慢ちきって何よ!?」

「フェミカスみたいなもんだよ。」

「はぁ?私のどこがコンビニのチキンみたいな事ですって!!??」

「おいおい…くいもんじゃねーよ…。」とピピンはため息をついた。

 結華はムキーと怒っていたが、ファウストが宥めて事が収まった。


 そうこうしていると、スコッツ村についた。


 村に着くと、前回のような廃れた村ではなく活気な村に変わっていた。

 前回はここの村長が悪魔の手先となっていて、アーソナ国の刺客だったという話だった。

「前回、ここでユーグはちょー焦ってたよな?」

「いやぁもう話しかけて攻撃されそうになったから、怖いですよ~。話しかけて攻撃というパターンがトラウマになりそう。」というと頭をかいた。

「さて、ここいらでご飯でも食べておこう。バフも切れたことだしね。」とファウストがみんなにいった。


 今日はレーションのような簡易的なご飯だ。ご飯というより軽食といっておこう。

 サンドウィッチにカフェオレというごく簡易的な食事だった。


 村の中に木陰のある場所で風呂敷を広げた。

 そこにみんな座り込んで食事をする。


「このままルヴァ公国に入るとすると、ステュアート公がいる。ルヴァはおそらく承認することになる。消化クエストだね。」ファウストがクエストの概要をみていう。

「娘を送っていたけど、今はもうアルトリウス王がいないからどうなるのかわからないけど、いまさら戦争しても意味ないだろうな。それより、お互いの国家、4国もしくは3国での統治が実現されていくんだろうね。」

「シナリオ上、血を流す必要がないですからね。連合国になって、まとまっていく方がいいですよ。」

「まぁここのエリアを統治するギルドもそういう感じだね。」

「みてみるといい。」というと、システムを開き、話をしていく。


 ギルド名:マグナカルタ

 ギルドマスター:プレミア


「どうやら、ここのギルドマスターさんは、ここをイギリス、ユナイテッドキングダム【UK】に位置させたいらしい。」

「粋な事するんですね。」

「たまたまじゃないかな?マグナカルタという名前、名称はよく見る。ただ、キャラ名でプレミアというのは、なんかあったのかな?」

「プレミア=第一?最初?ということですよね?」

「お?引っ掛からずに“特別”といわなかったね?」

「ここで、英語の授業はしないでくださいよ…。苦手なんですからw」

「ははは、ごめんごめん。でも、ここまでしっくりくるギルドも珍しいね。」

「ここのエリアも経験値稼ぎ・金策も上位エリアだからね。」とピピンはもぐもぐしながらいう。

「確保しといて赤字になることはないからね。ただ、初心者には向かないけど…。」とファウストは言葉を濁した。

「ということは、中堅より上が多いということですね?」

「そうだね。こことやり合うことは直接的にないけど、情報収集をしても悪くないかもね。」

「はい。今はクエスト消化を先にしていきます。」

 というと、ユーグはカフォオレを飲み干した。


 ピクニック気分で談話するのは久しぶりだ。こんなに穏やかな日々はケブネカイゼ以前だった気がする。


 イーリアスは午前10時ごろ。


 優しい春の日差しが白樺の皮を照らす。生え渡る緑は恥ずかしがる肌を庇う様に揺れていた。

 白と緑のコントラストが俺の心を優しく駆け抜けていくのを俺は忘れない。





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