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第57話「気まぐれな恒星」

 ~アヴァロン島~


 刻々と太陽が西の海の壁に衝突していく。

 ここでも現実リアルでも同じように行われていく風景。


 俺は未だにそこから動けないままだった。


 アルトリウス王の眠る島、ここがアヴァロンなのだ。アヴァロンと聞くと色々なファンタジーが存在するが、大元の話はアーサー王が眠る島ということになる。


 アルトリウス王の遺志を受け継いだユーグは、枯れ果てた涙と虚空の夕暮れが目の前に広がっているだけだ。ユーグは木の根元に座り込み夕日が沈むのをぼーっと見つめている。何も進まない。進めたくないのだ。彼は無気力状態だった。ユーグは幼少期、身体が弱かった。その幼少期には親から本を与えられて、おとぎ話などの絵本を読んでいた。その中に子供向けに書かれていたアーサー王のお話にかなりインスパイアされた。そのため、ドラゴンの出てくる話や、世界で有名な男の子も女の子も魅了するねずみのグループアニメにも影響された。今、ユーグは幼少期の心の支えを失われた。ユーグにとっては衝撃的な瞬間であった。


 そんなユーグのそばに、黒い影が忍び寄る。


 木々の影から現れたのはJOKERだった。


 JOKERは背中に背負った魔剣グラムは抜いていない。

 ゆっくりと話かけてきた。


「剣ヲ抜ケ、ソノ遺志ヲ魔剣ニ込メロ…。」


 魂の抜け殻のユーグに促す。


 ユーグは無気力状態で半ば、どうにでもなれというヤケクソ状態でもあった。JOKERはユーグを見ても、ユーグは何も動じない。ただの木偶の坊であった。


 JOKERは繰り返し言った。


「剣ヲ抜ケ、ソノ遺志ヲ魔剣ニ込メロ…。」


 ユーグは言われるがまま、ぶっきらぼうにレーヴァティンを抜き、アイテム欄から【アルトリウス王の遺志】を取り出しレーバァティンのガードに施してある目をモチーフにした箇所に割り当てた。


 レーヴァティンの瞼は一気に開き、ユーグの身体を黒い霧が覆う。剣はユーグの正面浮きユーグを見つめている。

 そして、暗黒ダークアイと呼ばれるものが語りかけられる。

 ユーグはなんにも驚かない。ただ目が死んでいるだけだ。

≪主ガ我ヲ呼ビ覚マシタ主人マスターカ?≫

 会話は自動的に進む。

≪我ガ魂ヲ呼ビ起コス者ヨ、闇ノ祝福ヲウケルガイイ…。≫

 ユーグの持つ、レーヴァティンはロングソードのような剣から覚醒した大剣に変わった。


 兜が強制表示され、目を隠すようにバイザーがかかる。

 そのバイザーの目の部分は真っ赤に染まり、大剣は静かにユーグの肩にもたれかかった。


 おいかけてきたカルディアはJOKERをみるなり、武器を抜いてJOKERを睨んでいた。

 ファウストが手を前にやり、静止を促した。

 JOKERは睨むカルディアを見つめたがユーグを見て言葉を吐く。


「イツカ会ウ日マデ精進セヨ…サラバダ…兄弟ブラザー。」


 そういうとJOKERはマントを靡かせて、消えていった。


 カルディアはユーグに駆け寄り肩を揺さぶった。

「おい、ユーグ大丈夫か?それにしてもなんだ?クラスUP出来たのか?」

 カルディアはユーグの全身をみて、聖騎士の鎧のアップグレードした時より、青みがかった鎧をみて異変に気付いていた。ファウストがじっくりとみると覚醒したことにきづいた。

「ユーグ君、覚醒…できたんだね。」

 ファウストはユーグの腕を肩にかけ抱き上げた。

「さぁ…帰ろう。君のいる場所ではない。…アーモロト城に帰ろう。セイメイさんに報告だ。」

 ユーグは少しずつ、我に返っていた。

「何もできなかった…。」

「ああ…知っている。」

「俺の…大事な思い出が…。」

「ああ、大丈夫だ。君は頑張った。」

俺はインターハイで敗北して以来、流してなかった。本気の涙をここでまた流してしまった。


 剣を杖のようにしてユーグはゆっくりと歩いた。


 かくして俺は暗黒騎士へのクラスUPは果たされた。苦い思い出を抱え、晴れない暗い影を落としながら俺は暗黒騎士への道を歩み始めた。背中にはまだ夕日が俺の背中を焼き付けるこんなの熱くもなんともないのに、その日だけは熱く感じた。


 ~ユリゼン王国~


 王を無くしたユリゼン王国。次期王位継承者のコンスタンティンに会う。そして、壮絶な戦いをしたことを告げ、ユリゼン王国の王位を禅譲される。コンスタンティンは静かに項垂れ玉座に着くのをためらっていた。

 これも演出なのだろうけど、感情移入してしまう。しばらくして、玉座に着くと俺を呼び出した。


≪ ユーグ よ、我が王の遺志は受け継いだ。これより、アルビオンの統一をしよう。≫


 俺は取りまとめるための使者の扱いになっている。この中でルヴァ公国へ派遣される。アーソナ国はメドラウトの死により、瓦解しているため、和議の代表としてアーソナ国の暫定代表となっており、同盟国であるルヴァ公国は応援要請を受け入れてアーソナ国の平定を進めるということだ。また、サーマス共和国への同盟を促す算段となっている。

 暗黒面に落ちた俺はどこまでも利用され続けてアルビオンの統一をおこなっていく。おそらく、アーソナ国はユリゼン王国とルヴァ公国の支配下に入り、朽ちてない土地は“朽ちていく土地”となり、発展を進められていく。


 その後、どうなるのか見当もつかない。傷心の傷を癒す暇など与えないということだ。


 カルディアが俺に話しかけてきた。

「そろそろ落ちないか?」

「そうですね。もういい時間ですからね。」

「まぁ色々あったけど、あまり凹むなよ。」

「ありがとうございます。」

「俺も…少しは心配しているんだぞ?」

「ええ?ああ、すいません。迷惑かけて…。」

「いや、そうじゃない。まぁゆっくり休め…。」

 というと、カルディア背中を見せてログアウトしていった。


「お?カルディアはいなくなったのか?まぁいいか。ユーグ、あんまりのめり込むなよ?たかがゲームだ。じゃあな。」とピピンもログアウトしていった。


「私は何も言えないけど、今日はお疲れ様でした。ユーグ君、昇格おめでとう!またね!」というと唯華もログアウトした。


 ファウストはふぅと一息入れて俺に話しかけた。


「ユーグ君、まずはおめでとう。JOKERが現れたのは意外だったけど、人間は忘れて生きていく生き物だからね。また明日。」というとファウストは手を振りながら落ちていった。


 ―――俺もログアウトしよう。今日は疲れた。


 ベッドに横たわると、静かに体が沈んでいった。



 ―――翌日、朝 晴天


 俺は昨日の出来事が嘘のように無駄に晴れやかな気分だった。いつものようにマウンテンバイクに跨り、坂を上り大学までひとっ走りする。そして、駐輪場に自転車をとめて講義を受けた。しかし、講義も耳に入らず、授業を受けるにしてもノートにペンが走らない。ぼーっと外を見ていた。


「ユズキ!」


「ああ、おまえか…。」


 話しかけてきたのは、同期のサトルだった。こいつとは入学式からの腐れ縁だ。どうやら、俺の斜め後ろに座っていたらしい。

「講義、上の空だったな?」

「ああ、ちょっと考え事してた。」

「彼女のことか?」

「ちげーよ…。」

「昔の事を思い出していた。」

「へー。なにがあったんだ?」

「おまえさ、昔のあこがれのものが、実はすごく悲しいものだったり、悲惨なものだったらどうする?」

「んー。泣くっ!!wwww」サトルは俺をからかっていた。少し恨めしそうに睨んでいると悪りぃわりぃと手を祈るしぐさをして詫びをいれていた。


「俺が聞いたのが悪かった…。」ユーグはこめかみに親指と中指で頭を抑え込んだ。

「まぁあれだな。泣いたあとは忘れるか、記憶の片隅に追いやる感じかな?」

「…まぁそうだよな。」

「そんなことよりよ、午後イチの講義のノートとプリント、写させてくれよっ♪」

「ええ??」

「まさか、おまえほどの真面目君がやってないのかよ?」

「…。」

「おい、どうした?再試も受けてたり、おまえらしくないよな?」

「まぁな。色々思うところがあってな…。」

「まさか。まだイーリアスやっているのか?」

「ああ、まぁ嗜む程度だけどな。」ユーグは誤魔化した。


サトルがイーリアスをやろうと言い出したのがきっかけでユーグは誕生した。

それ以来、ユーグはずーっとやっていた。


「あれさ、試作型AIが入っているって知ってたか?」

「え?まじ?」

「ああ、そうだよ。この前ゲーマーのまとめサイトとかに噂になっていたぞ?」

「へーそうなんだ。」


 少し、色々考えていた。ランスロットのこと、アーサー王のこと…。

 イーリアスはユーザーに何を考えさせたいだろ…。運営はただのVRMMORPGを提供したいだけではなく、人工知能のAIを投入して、人との交流をもたらせたいんだろうか…。俺は少ない知能で色々考えてみたが、答えがでなかった。

 ―――俺ぐらいの料簡りょうけんじゃ答えはでないよな…。帰ったらマスターに聞いてみよう。思いを巡らしたが、こういう時は素直に目上の人に素直に相談してみる方が早いってマスター言っていたしな。

構内の道路の溝を見ながら考えをまとめていた。サトルは席が取られてしまうから先に席を取りに行くといって走っていった。

 まもなく昼だ。俺とサトルは構内にある学食へ走っていった。

 

 VRでもリアルでも同じ太陽という存在なのに、俺に見せる太陽は、いつも気まぐれな玉虫色の恒星だった。



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