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第56話「終幕の始まり」

 ~アーソナ国・国境付近~


 道中、ピピンが俺に話しかけてきた。


「なんでランスロットの頭上にあがるとランスロットは何もしないとわかったんだ?」

「実はあれはとっさの判断だったんです。」

「とっさの判断で“あのスキル”の選択は普通はしないぞ?」

「前に魔橋横断の時に出てきた、サタン討伐の時にセイメイさんから指示されてやったことあるんです。」

「ほー??」

「あの時、自分は大したことができない。お荷物剣士だったんですよ。そこでセイメイさんがLA取らせてやるっていってくれて、言われた通りにやったことがあってあれを出したんです。」

「それであの選択肢があるのか…。それにしちゃあ、思い切った選択だな。」

「ええ、まあ…」と口籠った。

「というのはだな、ランスロット攻略記事を海外サイトで翻訳して解読したら、出てきたんだよ。」

「最後の一撃の打ち合いでどうしてもオーラアタックが入るので打たせない方法という記事を見つけてきて、それをユーグに伝えたかったんだが、どうも取り越し苦労になったけどね。」

「あー!そうだったんですか。なんか攻略出来てうれしかったですよ。」

「本当に自分自身で攻略できるとゲームって面白いよな。」

「はい。楽しかったです。でも…。」

「ん?どうした?」

「彼は…いえ、ランスロットという人物像を知っている自分としては、このような形で対面してみて思ったんですが、彼は…とても悲運な人物であったんです。CPUとはいえ、すごくつらかった。」

「まぁ伝奇とかで出てくるキャラクターというのは、どこかしら作者の思いが入っている。実在したかどうか未だ検証されているアーサー王伝説はもっと現実的な部分があったんじゃないかと思う。」

「そうですね、自分はこの題材を使用している運営はきっとランスロットの肩を持ちたかったんでしょうね。それゆえ、設定が強すぎているのは、色々な要素が組み込まれていて、違った側面を覗かせていたんだと思います。」

「それにちなんだクエストがこのあと続くぞ…?」

「そうなんですか?」


 俺はピピンに聞き返すと黙って前を向いて歩いていた。


 ~アーソナ国~


 アーソナ国とは名ばかりの荒れ果てた土地。かつてアーソナが描いた森羅万象に基づいた樹木が多い茂っているわけでもなく枯れ果てた木々が多い尽くしていた。木の節が目や顔に見えるのはいつものお約束。

 道中を進むにつれて、遭遇するモンスターも強い。というのはオークの棲み家があり、聖騎士ルートだとここにいる猛者が出現し塔までの道を阻む。そして塔の魔女を倒す事になっているが、今回はボスが出現しない。そのかわり、MOBといわれる通常のオークがところせましとせまってくる。これは、通常のモンスター討伐となんら変わらない。


 一行は塔に到着すると神殿のような造りがされている。奥には女神像のような彫刻が4体、柱の中に建造されており、その前には腰までの高さの台座がある。


 俺は台座に近づくと奥の主柱のある一つの女神像から光が発し“魔女”と呼ばれる女が台座の対面に現れた。


 魔女と呼ばれている女性は俺に語りかける。

≪我が勇者よ、偽りの正義を振りかざす剣は折ってきたのか?≫

 →はい【ランスロットの壊れた兜】渡す

 →いいえ

≪ああ、私の愛しかったランスロットよ…。≫

 ふぁ…と現れたのは、メドラウトだった。

≪姫よ、私がお守り致します。どうか、ご安心くだされ。≫

 というと、どこかへ消えて行ってしまった。


 すると人魂のような炎が宙に浮き、静かに燃えていた。

「ひぃいい!!お化けなんて聞いてないよ!!」と唯華はカルディアの背中に隠れた。


 すると、奥の四柱の一つの女神像から光が発しまた魔女と呼ばれる女性が現れた。


≪我が弟子よ、この槍をもっていけ≫


 →【シナリオ/職業・クラスが違うため、受注できません。】


 ―――なんだこれは…。


 この異変にすぐ反応したのはファウストだった。

「これは、ケルト神話の一部をモチーフにしている。ランスロット辺りから怪しいとは思っていたが、今回のお姫様や、スカーアハの表記が出てきたことでがっちりいった。ランスロットに出てきた辺りから気になってはいたが、アーサー王物語の一部を拝借している内容だと言える。現に“魔女”であるはずの表記のところにグィネヴィアと記載があった。これは、アーサー王の妃だ。メドラウトとはおそらく、モードレッドだと思う。」

「たしかに…。では、なぜモードレッドではなく、メドラウトなんでしょうか?」

「アーサー王物語もそうだけど、ケルト神話に関しては謎が多い。さらにヨーロッパを主にフランスやイタリアで影響していて、またウェールズへの配慮なのかもしれない。少なくとも世界で有名なゲームだからな。」

「あーなるほど。歴史的配慮か…。」

「また、イギリスは今や内輪もめしているような状況ではないからな。おそらく、火種にされたくないから、満遍なく配慮してあるんだと思う。だから、この人魂のセリフがバグだとわかる。これはこれで、別の路線での理解が出来る。」

「もしかして、マスターの頼み事って…。」

「そう。これだよ。ブリューナクの伝説を調べるお使いがこれだな。おそらく、暗黒騎士のバグ報告はあがってなくて、ここでユーグ君が物珍しい暗黒騎士への道を歩んだことで他のクエストでしか聞けないセリフが出てきたわけだ。そして、重要な事がここにある。つまり―――」


「つまり???」

「ここが、聖魔の狭間にあるエリアだという事だ。」

「え?」と俺は少し戸惑った。

「正と悪とは紙一重なのだよ。昔の人はこういった伝説や言い伝えを後世に伝える理由はなんだと思う?」

「冒険や何かをワクワクさせること?」

「違うよ。『こういうことをするとこうなって悲しい思いをするよ。だからやっちゃだめだよ?』っていう、おとぎ話をして、子供を教育していたんだよ。」

「ええ??」

「それから、少しずつおとぎ話からファンタジー要素を盛り込んでいって、人の空想力を使ってまだ見ぬ世界へ思いを馳せていかせるということだよ。」

「それが人づてや、注釈や付け加えが出来てきて、今のアーサー王物語やサイドストーリーが展開されていき、製本化され現在に至る。」

「え?じゃあアーサー王が実在したという話は?」

「あれは何人かの名君を混ぜ合わせた王様となっているんだけど、そこは割愛するぞ?」

「あーいなかったのか。」

「いや、モデルはいた。そして、イギリスはバラ戦争なども起きたりイギリスは争いが絶えない土地になっていったんだけど…。」というとファウストは話をやめた。

 そして、間をおいて話す事を中断することを告げる。

「話すと長くなるからやめとく、ブリテン史はぐちゃぐちゃしているからねw」

「そうなんだ。時間があるときに見ときますw」

「それより、この地方はおそらく、アルスター物語も絡んでいるね。」

「そうなんですか?」

「うん、これにより、色々な伝説が絡んできているパラレルワールドのような場所だ。」

「このゲーム、凄まじいな。」

「ははは!それでもある意味、物語を追体験できるという意味では面白いね。」

「聖騎士ルートだと、“IF”ルートということですかね?」

「おそらくね。今回は多少“物語の史実”通りいくとなると、このあとアーサー王、つまり、アルトリウス王とメドラウトは一騎打ちをして、相打ちにて終わるはずだ。そこをユーグ君は見届ける事になるんじゃないかな?」

「あーなるほど。」

「レーヴァティンの出番は今回ないんじゃない?」

「そうですね。」

「メドラウト、モードレッドはなぜアーサー王を対峙できるほどの兵力を持っていたんだと思う?」

「え?わからないです。英雄なのはアーサー王なのに…。」

「それはね、アーサー王は戦争と争いしか生まないと民衆や諸侯に思われていたためだよ。」

「ええ??そうなんですか?」

「うん。だれだって戦争は嫌だからね。このことで、モードレッドの肩を持つことになる。それに、モードレッドは、異母姉妹の姉とアーサー王の子供だということだからね。」

「ええ??親子で戦うんですか?そんな…、切ない戦いになっていくんですか?知らなかった。」

「そうだよ。アーサー王物語は凄く切ないんだよ。」

「やめさせないと!!」


 ファウストにいうが、首を横に振る。


「このシナリオはもう組み込まれているストーリーだ。どうにもならない。それにCPUだ。流してみるしかないだろうよ。」

「クソッ…。わかっていても辛い…。」

「どうやら、そろそろ話は終盤に近付いてきてたようだな。」カルディアは俺の肩に手をかけた。

「ここでオークと戦っている指揮官と話をするらしい。」ピピンは話をすすめていく。

 俺はクエスト内容を確認すると…。自動的に戦いが発展していくようだ…。

「この流れは止まらんな。」ピピンはぼそっといってきた。


 俺らは塔を出て、オーク城を攻略していた指揮官に会うこととなった。一時的にクエストの発生により、オークの出現はないようだ。俺はもやもやしたまま、指揮官と会話イベントを発生させた。


≪いまや、アーソナの威厳を取り戻すべき戦いが始まった!君の勇気に感謝すr…≫


 ―――俺はこの会話が頭に入ってきてなかった。アーサー王物語は着色などされて、本当の話を理解していなかったのだ。すごく落胆してしまったのだ。


 そうこうしていると、“カムランの戦い”に準ずるイベントが()()()に始動することとなった。


 カムランの戦いについて話をすると、カムランとはどうやらカンブラ川という場所で行われたらしい。

 MAPもそこにピンを指し示している。カムラン自体の地名はなくおそらく、ガムランバレーという峡谷の間に流れる川で、そこに位置するのではなかろうかという説が非常に大きい。

 伝令のNPCが俺に話かけて、双方共倒れのアーサー王、アルトリウス王とメドラウトの一騎打ちが行われようとしている。


 俺らはそこに立ち寄ることになった。




 ~ガムランバレーの戦い~


 石の祭壇を越えて、橋を渡ると、海岸線で一騎打ちが始まろうとしている。周りには二国の兵士たちの亡骸が横たわっていた。そして、海岸線に並び立つ二人の騎士がいた。無論、物語の通り、アルトリウス王とメドラウトの両者である。そして、互いに満身創痍の状態で一騎打ちは始まろうとしていた。


 ―――エクスカリバーはアルトリウス王は所持していない。そんなんで勝てるわけがない!なぜランスなんだ!?俺は急いで二人の間に入った。


「双方やめろ!!」


 CPUなので、そんなのは無視される。


 俺の身体ははじかれて、尻もちをついた。目の前で、アルトリウス王の槍はメドラウトの腹部を貫く。


「うぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


 貫かれた腹部は血が滴り落ち、口からは吐血している。

 メドラウトは死を覚悟したのか、渾身の力を振り絞って、串刺しのまま槍のつばの距離までアルトリウス王に近づき、諸手の剣でアーサー王の側頭部を兜ごと割り、死に絶え、粒子化をしていた。

 アルトリウス王は膝をつき、頭を押さえていた。アルトリウス王はまだ死んでいない。

 すると、どこかともなく、三人の天女が現れ、アルトリウス王は船に乗せられて西に向かって走らせた。


 俺はみんなの静止を振り切り、一心不乱にただひたすら海岸線を走り、アルトリウス王が乗った船を追いかけていった。


 しばらくすると船は小さな島のような場所に接岸した。


 ―――たしか物語の最期はアヴァロンの島だったはずだ。


 目の前の島には海に浮かぶ小高い丘のある島に浅瀬を渡り、アルトリウス王を探した。

 リンゴの木の下に横たわる一人の騎士、それがアルトリウス王である。


 この際、アーサー王と呼ぼう。俺が少年時代に胸を躍らせたアーサー王の伝説はここで終幕するのだ。いつしか、物語を忘れ色々な作品の物語や映像コンテンツなどを見てきた。そして大人になった俺に忘れさられていた大好きな英雄アーサー王のお話。ずーっと昔から語り継がれていた英雄譚はここで終わるのだ。

 ゲームなのにこんなに胸が締め付けられることはなかった。


 アーサー王は三人の天女に囲まれて治癒魔法を受けている。

 いくつかの異説がある。そのうちの一つであるいつかの未来のためにここで眠るのだという。

 俺は王に近づいた。


≪おお、コンスタンティンか。よくぞ駆けつけてくれた。≫

 俺はコンスタンティンではないんだが…。

≪ようやく、この地を平定できた。あとは平和を統治するだけだ。それをやるのが、コンスタンティン。お前がやるのだ。≫

 と言い残すと、俺に手を差し伸べた。


【アルトリウス王の遺志】を手に入れた。


≪おまえは円卓の騎士、最後の騎士だ。≫

 そういうと、アーサー王は息を引き取った。


 三人の天女が話しかける。


≪王はいつの日か必ず、眠りから覚めてこの地を再び平定することでしょう。それまではゆっくりとおやすみいただきます。あなた様は今のアルビオンを治めてください。≫



 というと、王と三人の天女は粒子化して消えてしまった。


 全てが消えると静けさだけが残り、いつもと変わらない風景を映し込んでいた。俺はその場で座り込んで、大泣きした。


 俺が大好きだった“英雄”アーサー王伝説はここで幕を閉じた。魔法使いマーリンに見出され、数々の試練を乗り越えて国を一つにまとめ上げたアーサー王はグィネヴィアと親友のランスロットに邪魔され、それが全てを狂わされた。このお話はアーサー王伝説に出てくる魅力的な騎士たちは悲劇すぎる。この話をすごく好きだったのに、今は、今だけは!大ッ嫌いだ!!救われない事が多すぎて今はただただ辛い…。




 海に沈む夕日が俺の瞼を焦がすように、いつまでもいつまでも熱く照らし続けていた。






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