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第55話「名もなき決闘」

 ~石の祭壇~


 直径の広さが100mぐらい広さを保有している。円形状に石で高さを出して立っており、無骨な石は高さ4〜5mほどの規格で囲っており、その中央から東側に配置された祭壇はしっかりとした削りだした石が高台になっている。石畳には雑草がいくばくか生えており、その石畳の先に祭壇は鎮座している。太陽に向かって儀式を行える様になっていて、そこで祭事を行っていたようだ。今にも巫女さんやシャーマンのような人が来て祈祷でもするんじゃないかって思えるような場所で神秘的な雰囲気を漂わせていた。


 神話でユリゼンとアーソナはここで出会ったとされる神聖な場所だと言われても何もおかしくない。

 円形の祭壇には静かに佇むランスロットが立っていた。俺はゆっくりと祭壇近づくとランスロット討伐のイベントが発生した。


「おい、ユーグ。俺は今回パスだぞw」とカルディアが笑っている。

「ええ??怪我治ったじゃないですかww」

「それが甘えなんだよ。」

「前より強くなっているんだから大丈夫でしょ。」唯華はふふーんと笑っている。

「そ、そんなぁ…。」

「ユーグ君、さすがにこれは自分自身で頑張ってみなよw」

「いやぁファウストさんはみたことないからいえるんですよ。クッソ強いんすよ。あの人…。」

「ユーグ君、登る前にクイックアクセルをかけておくよ。事前の準備は問題ないから。」

「サシで勝てるんなら、暗黒騎士が一定数いてもいいと思うんだけど…。」


肩を落としながら祭壇に上る。俺の足取りは重かった。


―――勝てるかなぁ…。でもここまで来たらやるしかないしなぁ。あ~でも鎧は前より2段階も上がっているしなんとかなるかなぁ。


 ほとんどのプレイヤーがどうしてここまで暗黒騎士になりたがらないかというと、ランスロットはめちゃくちゃ強い。倒すまでずっと騎士クラス帯でレベルUPやスキル熟練、装備の強化など総じて上げていくことになる。つまりその費用対効果が微妙だということで暗黒騎士になりたがらない。それにも関わらず、俺はこんな阿漕なことをよく好き好んでやっているなと思っている。


 ランスロットのマントは風になびいている。なぜか少し悲しげに見えているのは俺だけだろうか?


≪また、懲りずに来たのか。≫


 ランスロットは剣を構えた。


≪我が王の命により貴様の野望を退ける。それが我が使命よ…。≫


ランスロットは名剣アロンダイトを構えてこちらを伺う。


≪騎士として剣を抜かなければ、決闘はできない。さぁ抜くのだ。≫


その言葉に促されてつつも、ディフェンダーをかけた。俺はレーヴァテインを抜くのをためらっていた。


「おーいユーグ!始めろよ!」


壇上の下から3人がみている。致し方なく剣を抜いた。

 剣を抜くと、ランスロットは一気に距離を縮めてくる。俺はとっさの出来事に思わず、ガードしかできなかった。


―――相手はCPU、容赦ないのはわかっていたが、剣が重い…!!


俺は押し返した。ディフェンダーが聞いているせいか、ガードゲージはそこまで減ってはいない。一定の距離を保ち、剣を正面に向けて、ランスロットとの距離を測っていた。


後方から甲高い音が聞こえきた。



 ヒューーーーーーォン!!



ふと見るとピピンが俺に向かって矢を放った姿勢でこちらに向かって叫ぶ。


「なぁにやってんだよ!さっさとカタをつけろ!」


―――そうだった。俺はこいつに構っちゃいらねーんだ。そうだ。怒りを燃やせ…!俺の血を滾らせろ!!


バーサクモード…オン!


 レーヴァテインは燃え盛り刀身は太く厚みを帯びていた。俺は剣を肩に担ぎ、ランスロット目掛けて一気に詰め寄り斬りかかる。ランスロットの盾は俺の一撃をさらりと受け流し、剣をついてくる。俺は剣筋を棟で受け流した。それで精一杯だ。もう一度、距離を取り再び剣を構え直すと、ランスロットは容赦なく剣技を撃ち放つ、上段からの兜割り・切り上げ・袈裟斬り・回転斬りからの右薙を放ち、俺の剣でのガードブレイクまでそう時間をかけてこなかった。


―――まじかよ。こんな設定にしている運営はいったい何を考えているんだよ…くそ…。


ランスロットは休まない。そしてユーグも休ませてくれない。


迷うことなく、剣を突きを打ってくる。


俺のガードはゲージ0になった。


Guard break!!

―――クッソ…!!

硬直を取られる。


神技:雷鳴レイジオブゼウス!!!


俺はもろにランスロットの攻撃を受けてしまい、吹き飛ばされてそのままダウンしてしまった。―――またか!またこのクエスト完了できねーのか。こんなに人を巻き込んで出来ませんでしたとかいって帰るのか…くそぉ!!俺は嘆いていた。が、俺は目の前のアラートを確認をした。身体は動く、まだゲージを吹き飛ばされたわけじゃあないようだ。


「起きろユーグ!カルディアを越えろ!お前にはその資格がある!!」

「ああ??なにいってんだ?遅刻してきて。」

「うるせー!そんなことより、見てみろ。あいつまた強くなっていくぞ?前はあれでやられていた。」

「ん?あーそうだ。たしか、レイジオブゼウスで即死してたもんな。」

「色々俺は調べてたんだ。あいつが攻略する時間がないのを知ってたからな。」

「それが遅刻の理由か?」

「いいじゃんか。別に。」

「まぁまぁ二人ともしっかり見届けてあげよ?ね?」唯華は二人を宥めた。


 そうか、防御力が上がっているからか。オオカブトガニの抜け殻のおかげか。


ゆっくりと起き上がる。


 ランスロットは詰め寄ってくる。その瞬間だった。黒い霧を発動させて一気に攻撃を躱す。俺はラッシュを打ち込んだ。ドン!ガキィン!ズバァッ…シュ、ドン!!斬撃効果音は激しくなるが、一向にランスロットは眉一つ動かさない。―――まぁ、CPUだからな。しかし、この場合どうしたらいいんだ?ランスロットのゲージは多少減ってきてはいるが…。


 ランスロットも俺も動かない。いや、動けないのだ。俺が動けばランスロットは今度こそデスコンを決めてくるだろう。


デスコン…デスコンボ。敵をK.Oに持ち込む連続技


俺は少しずつ足を摺り寄せていく。


―――このまま、相打ちしても向こう方が攻撃力が高い。だからといって、このまま立っていても時間だけが無駄に過ぎるだけだ。


―――ランスロットは静かにこちらを見つめている。なんの感情も持ち合わせていないCPU。


そう、ランスロットといえば、アルトリウス王の妃グィネヴィアと密会してしまう。(これには本章の付け加えの一部もある。)そのあと、ガウェインの一族を殺し、ガウェイン自身も致命傷にまで追い込んでしまう。これにより、円卓の騎士の崩壊が始まっていき、やがてその物語は血みどろの戦いの末、王の死を迎えて終わりを迎える。

 ランスロットさえ不義を犯さなければ話は終わらなかっただろうし、ランスロットがいないと栄枯盛衰の栄華は訪れない。そして、事もあろうかその妃はメドラウトと婚姻をしてアルトリウス王に反逆することとなる。

 女性に振り回された悲劇の男であり、反面教師の一人でもある。こんな悲劇の英雄はいない。それを思うとこの男と剣を交えるのは個人的に後ろめたい。こんな人間臭く奈落の底まで落ちていく悲劇の英雄ランスロットが巷で人気なのが、少しわかる―――


そんな事を思いながら、ランスロットと俺は剣の切っ先が触れるか触れないか辺りで動き始めた。


 幾たびの剣を交えて、蹴りを入れてランスロットを蹴り飛ばした。近づき剣を突き立てようとしてたら、盾による吹き飛ばして俺自身が吹き飛んでいく。お互い一進一退の攻撃を繰り返していた。この戦いでゲージはランスロットも俺もゲージが吹き飛ぶ寸前まで削りあっていた。


「あともう少しじゃねーか。頑張れユーグ!!」ピピンは応援していた。

「時間をかけすぎだ。もうすぐオーラアタックが来るぞ。」ファウストが焦っている。

「だって、あと刺し違えても私たちが聖水を与えればクリアになるでしょ?」唯華はきょとんしていう。

「“相打ちが出来れば”な。」とカルディアがユーグを見ながら二人を窘めた。


ユーグはとっさに魔法剣を目の前に出す。剣の柄を踏み台にジャンプするランスロットは上を見上げていだけだった。


「バカ!ソードジャンパーはクソスキルだろーが!!」とカルディアは手を目に当てた。

しかし、ランスロットの右手は何もしない。そのまま落下するユーグの体は、レーヴァテインの威力と落下ダメージを上乗せして、ランスロットの兜を真っ二つに割った。


 俺はランスロットのゲージがないことに気づいた。


ランスロットは倒れてそのまま消えかかっていく。


「ランスロット!!」俺はランスロットに近づいた。


≪王よ、世界を隔てることになった俺を許せ。≫

「何を言っている??」

≪汝にこの国の行方を託す≫

「は?だから何を言っているんだ?」

≪悠久の旅路につこう、さらばだ。≫

「おい、ちょっとまて!!」





ランスロットは静かに粒子化していき、風に流されるように消えていった。


【ランスロットの壊れた兜】を手に入れた。


「お?倒せたんか。なんだったんだ?最後あっけなくないか?」

「なんか、今までのあの打ち合いはなんだったんだ?」

「まぁいいじゃない?おめでとう!」

「あ~、ありがと…ございます。」


―――このアイテムはなんだ?ランスロットの壊れた兜ってなんだ?


「とりあえず、次のクエストをおしえてくれ。」

「次は一度、アーソナに行く感じですね。北の魔女との謁見が発生しています。」

「じゃあいこうぜ?嫌味の天才も帰ってきたことだしな。」

「はぁ?」

「まぁまぁ落ち着こうか。ユーグ君のお祝いの場だぞ?」

「じゃあユーグのクラスUPはまもなくなんだね?」

「そういうことになるね。」

「それじゃあいくかぁ~。」


というと、俺たちは石の祭壇を後にした。


石の祭壇が少しずつ遠くなっていく。


―――ランスロットさん…あなたは俺の中で世界一の剣士だ。騎士道精神も現代人に、いや、俺にすら影響を与えている偉大な偉人でした。


ありがとうございました。


そう心に語った俺はアイテム欄にある【ランスロットの壊れた兜】をみつめた。


「おーい、ユーグなにしてんだ?」

「は、はい!!今行きます!!」


少し置いてけぼりなった俺はみんなのいる集団に慌てて駆け寄った。



石畳から覗かせている名もなき草は俺との別れを惜しむように優しく揺れていた。

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