第51話「旅路の亀裂」
~ヴァファールズ山脈の林道~
俺の名前はユーグ。オケアノスの騎士になったばっかりだ。今は暗黒騎士へのクラスチェンジするために北の魔女に会いに行くことになっている。
「おーい、ユーグ?なにぼーっとしてんだ?遅れてるぞ。」
「はーい!」
この人はカルディアさん。女の人らしいんだけど『俺』という一人称。ちょーこえー。
「おまえ、よくあの戦いで5本の指に入ったな?あきれるぜ?」
このちっこいのはピピン。嫌味言わせたら天下一品。ときたま凹まされる。
「まぁセイメイさんのお抱え騎士様だからさ。あんま文句言うなよ。なぁユーグ君?あん?ピシッとしろぃ!」バンと背中を叩かれた。
唯華さん。先の七星連盟結成後のマスターとの演武会??みたいなのでマスターと互角に弓の打ち合いをした人。腕はスカルドさんとマスターのお墨付き。元PROUDの幹部
「こんなに女の子が過半数を占めていると男というのは立つ瀬がないんだよ。まぁ気楽にいこうか?」
この人はファウストさん。アイオリアさんとタメ張るぐらい強い。オケアノスの双璧といわれている人物だけど、この人の実力を俺はまだ知らない。アイオリアさんが認めるくらいだから相当強いんだろうな…。
―――そういえば、ここ一か月近く前もこの道通ったなぁ。この山脈なんだっけ?
と、俺はMAPを開いた。
ヴァファールズドラベルグ?長い名前だな。ふと山道から漏れる気高い山にはドラゴンの住み家があるといわれているが、登頂にはそれ相応の装備と資格と幾多のボスと戦わないといけないらしい。システム上、ドラゴンが降臨して街を焼き払うようなことはないが、時たま飛び立つ瞬間を目の当たりにすると壮観だ。俺もああいうの欲しいなぁ。
と、空を見上げていると前にも来たことのある小高い丘のようなところについた。
「おし、意外に早くついたな。とりあえず、メシにしようか。」
カルディアを先頭に、下り坂を走り降りていった。
~港町ゲフェイオン~
久しぶりにこの街にきたな。あれはたしかディアナさんもいた頃だ。なんだか懐かしいけど、切ない日でもあったな。
「なつかしいなぁ。ここの定期船のガレオンでケブネカイゼにいったのを思い出す。」
カルディアがそれを聞いて話を進める。
「あんなクッソ寒いとこにいってマスターとお前らはなにやってたんだ?」
「あそこにあるクエストでオーガリングの指輪を狙いに行ってたんです。」
「あーあそこね。たしか、そこでアイオリアとあったんだよな?」
「そうですね。アイオリアさんの登場は電光石火の如く現れてどっかいっちゃいましたけど。」
「あいかわず、何したいんだかわからん奴だな。」
「まぁ今は同じギルドでセイメイさんを守ってますからいいんじゃないですか?」
「ああいう武器を持たない職業は鍛錬しないといけないんだよ。アップデートで新しい技が追加されると熟練度が加算されていざって時にダメージが半減しちゃうんだよ。まあそれが楽しいっちゃ楽しいんだけどな。」
「へーそうなんですね。」
「いいから、メシ食ってバフ焚こうぜ?」
~酔いどれホエールズ~
ここの店は初めてきた。NPCも他の冒険者もめっさいて、ステージでは音楽会が行われている。すごく賑やかだ。そういえば、大学の近くの居酒屋もこんな感じで楽しいお店あったなぁ!
カルディアが頼んだ定食が目の前に出される。
トナカイのステーキにサーモンサラダ、日替わり酒だ。日替わり酒はピルスナーというものだった。なんでこんなとここだわっているんだ?ただのビールでいいじゃん!と俺は気難しそうな顔をしていると、カルディアがいう。
「おまえ、お酒飲んだことあんまないだろ?」
「そうですね…あんまりないですね。」
「ビールにも種類があって話すときりがないが、今回のこのお酒はコクが強く、アルコール濃度も低い、そしてホップの苦みが強いものなんだ。日本でビールといえばピルスナースタイルのビールを指すことが大半でだ、ラガーとはまた違うんだよ。んでどう違うかっていうと…。」
「おい、カルディア!お前ビール好きなのはわかったから、蘊蓄より乾杯しようぜ?」
「あ、わりぃわりぃ!!ほんじゃ!スコール(乾杯)!」
『え??』
みんな動揺した。
「おしゃれだな~。スコール!」ファウストがビールを飲み始めた。
「だろ?スコール!」といってカルディアは飲み干した。
俺もわからずスコール!っていって杯を開けた。ぷはーと飲み干したあと、俺は不躾な質問をした。
「スコールってなんですか?雨ですか?」と聞くと、カルディアは大爆笑した。
「スコールってのは、北欧で使う“乾杯”って意味だ。チアーズは英語圏でいうけど、それじゃあつまらないと思って、スコールにしたんだよ。」
「へーー!!勉強になったわ!!で、これおかわりする意味ある?」
「意味はないけど、もう一度乾杯したいなら頼むぜ?」
「いやそれは大丈夫ですw」
「実は今日の料理はトナカイのステーキで防寒対策、サーモンサラダで、自動HP回復の付与、ピルスナーは…。」
「ピルスナーは??」
カルディアはもったいつけた。
「知識の質を上昇する。知識ランクUPの効果だよ。」
「はぁー!願掛けですね?カルディア。」
「お、ファウスト!話しが早いね!」
「いえいえ、それにしても、イキな計らいじゃないか!」
「ユーグ君、よかったね!」
と、ファウストは俺に笑顔を飛ばした。
「まぁ、私が出る幕なんてないでしょうけど、頑張ってねユーグ君。」というと、唯華はトナカイのステーキを切り口に運んだ。
「フン、トトカマぶっていると、そのうち痛い目みるぜ?」とかカルディアは唯華を睨みつけるようにサーモンサラダを口入れてむしゃむしゃと食べていた。
―――そういえば、このPTみんな年上だった!!うわー下っ端なのになんでこんなに上ばっかがいるんだよぉ。やりづれー!!そしてこの空気よ…!何がそんなにみんな機嫌悪いの??あ、そうか!!【女の子の日か!】そうかそうか!それならピリついてもしゃあないな!!
ピピンは我関せずと無心になって食事を平らげていた。そして、離席するといって数分どっかいってしまった。そして戻ってきたころにはみんな食事を終えていた。
カルディアみんなに声を掛けた。
「おしじゃあいくか!」というと、ゲフェイオンの街はずれまで移動し、馬に跨る。俺は念のために確認をした。
「たしか、沿岸沿いにいくんですよね?そうするとローレライ大運河を渡る事になってグラース港でガレオン船に乗り、北の魔女に会いにいくルートでいいですか?」
「そうだぞ?なんか問題でもあるのか?」
「いや確認です。今回のルートは前回と違うので、予め把握しときたかったんです。」
「カー!相変わらず、真面目君だなー!ユーグは。」
「いえ、そういうことじゃなく、足手まといになりたくないだけですよ。」
「大丈夫だよ。おまえはそれなりに一端の騎士だ。そうそうやられんだろ?」
「ま、まぁ多分…w」
「変なのに絡まれなければ、無事着くさ。」というとピピンがこれ見よがしにいう。
「おまえ、それフラグっていうんだぜ?」というと、カルディアはピピンと珍しくにらみ合っている。
「ま、まあ二人とも落ち着いて。な?カルディアも!ピピンも!」とファウストが仲介に入った。
―――まったくこいつら変わってないなぁ(汗)
気を取り直したカルディアは馬を走らせてグラース港を目指し馬を走らせた。
橋を渡るとモンスターのいる林を通る。わしゃわしゃと現れるのはコボルトとオークの群れだ。
カルディアはさらっと嘗め回すように斧を振り回して終わった。
「うへー。鎧袖なんちゃらとはこのことか!」
「おいおい、それをいうなら鎧袖一触だよw大丈夫か?大学生?」
「あ、そうでした!そういえば、ファウストさんってめっちゃ頭良さそうだから大手に就職してたりするんですか?」
「あーありがとうwよく言われるけど、ただ単に実家の稼業を継いでるだけだよ。」
「もしかして…〇〇〇…??」
「違う違うwww呉服店だよ。小さいお店だ。大したことないw」
「うひょー!それでもすげーや!」
「そうかい?仕事頑張ってみようかな?wあははw」
ファウストは照れ臭そうに笑っていた。
「この道を超えると大風車が見えてくる。あそこは干拓地なんだ。」
「へー!こっちのルートは初めてだから見てみたいなぁ!」
わくわくしていると結華さんが話に入ってきた。
「あの辺はオオカブトガニの産卵地だからな。気を付けてね。」
「ええ?まじっすか!?めんどいなぁ…。」
「安心しろ。ぶっ殺せばいいんだよ。」
とピピンはふ~んと長い鼻息を漏らした。
―――まあ、こんだけ強いメンツがいれば大丈夫だわな。風車っていったらオランダを想像してしまう。
「あそこは、グラース港をつなぐ橋の近くで、海抜が上がらないようにしている。近くに住む農村が管理しているらしい。風車の南側の村がそうだ。」ファウストはMAPをみて更にインフォメーションを読み上げていた。
「カブトガニはなんであそこに?」少し俺は気になった。
「さぁ?生態系的にあそこで産卵するのが一番なんじゃない?」ピピンはふんふんと鼻息を荒くしている。
「ほーん…そうなんだ。」
ピピンは「あ!」というと、俺に話しかけてきた。
「そういや、現実のカブトガニって血が青いらしいな?」
「なんでですか?」
「しらねーよ。学者様ですら解読できてないらしいぞ?」とピピンは口を尖らしていった。
「UMAみたいだな。」と結華はにやっと笑ってこちらをみた。
「まあよくわからんが、こっちじゃ、人襲うメンドクサイモンスターってところだな。きをつけろよ?異常に固いぞ?あいつらは。なんせ俺の弓が刺さんねーんだからな!」とピピンは眉間に皺をよせ、不機嫌な顔をした。
そうこうしていると林道を抜け、例の大風車地帯に差し掛かった。
林道から抜けた時の海の青さは、心を躍らせ気持ちは天高く舞い上がらせる。
「うわー!ちょ~綺麗!!」と唯華は目をキラキラさせていた。
「うわ~きれいだな!地元の海を思い出す!」と俺も海の魔法にかけられて言葉が漏れた。
「ええ?ユーグはどこ出身なの?」と唯華が聞くと、俺は素直に答えてしまった。
「え?山口です。」
「ええ?そんな遠いの??」
「べ、べつにいいじゃないですか?海はきれいだし、飯もうまいですよ??」
「なんだ、そのありきたりな回答は…。」とピピンは頭を抱えた。
今まで黙っていたカルディアが、声をあげた。
「おい、おまえらピクニック気分は強制終了だぞ?みてみろ。」
「うわ、まじかよ!」
風車のそばにある干潟の周りにはオオカブトガニがわんさかいる。そして道にもはみ出ていた。
足止めされた俺らは馬をおり、近くに寄ってみた。
「おいおいおい、こいつぁでけーな。ったくこのでけーのがどいてくれりゃいいんだけどな。」とカルディアがオオカブトガニの甲殻をコンコンと叩くとオオカブトガニはこちらをぐるりと回り、威嚇するように体を起こした。
「カルディアさん!無暗に怒らせちゃだめだって!!」
「別に怒らせてねーよ。ノックしてどいてくれって意味だよ!」
「そう思ってないから、普段見せない甲羅の中身から足が出てるんでしょ!!?」
俺は剣を出し構えた。
「おまえが戦闘意思むき出しにしてんのがわりぃんだろーが!」
というと、ピピンが割って嫌味を言ってきた。
「まぁオイラは今回おやすみだぜ?カルディア、なんとかしてくれ。」
「ああ?ったくお前の弓は今回あんま役に立たねーからな。」
「好きでサボってるんじゃねーんだぞ!?」
「まぁあとでサボった分働けよな。」
「ああ??サボりたくてサボってんじゃねーんだよ。さっさとやれ。」
「お前に命令されなくてもな!今日はやけにつっかかってくるな?いい加減にしろよ?」
と、ピピンに向かって舌打ちした。オオカブトガニがこちらに迫ってくる。
「…おら!?いくぞユーグ!!」
というと、カルディアは勢いよく大斧を振り回しながら、走り込んでいっていた。
俺は剣を抜き、カルディアの背中を追う。
走る間、陽が差す海原の光が俺の目に乱反射して、こちらを見ろとせがむ子供の手を振りほどくようで少し辛かった。
さて、カブトガニというのは甲殻類ではないんですよ。知ってました?
鋏角類というクモとかサソリと同じらしいんですよ。不思議ですよね?
節足動物ではあるんですが、異なる種族ということになります。カニなのにねw
それはそうと、天然記念物のカブトガニ、今や医療で大活躍を期待されています。
ぜひ、天然記念物のカブトガニの有用活用と生態系の保護を意識してゴミの分別とか
出来る限りしたいですね。ペットボトルとかwww





