第49話「功労者(後編)」
~???~
ここは小高い丘にあり、アーモロトの城下町が一望できる場所である。遠くを見ると、遥か向こうに存在する山々や、海洋が見える。
ここを知っているのは、知っている人は知っているが、会ったことがないからきっと俺だけだろうと勝手に思っている。悩んだりしたときは毎回決まってここを選んでいる。
エウロパに追われているときは、ここには来れなかったから、そういった部分では今回の戦いでの報酬という部分で俺にとってはここが報酬だと思っていた。
ここで俺は物思いにふけていた。
ここ一か月近く、激動の時期を過ごしたと思っている。
お金がなくてギルドのオーダーをクリアしにいって色々あって、挙句、アイオリアに振り回されてメインの根城にしている街の統治者になるなんて思ってもみなかった。
だれが想像できた?あり得ないことだらけで、戸惑う時間すら俺には与えられなかった。
どこで、変わったかと思い返すとやはり、ケブネカイゼから少しずつ、運命の歯車が変わったんだな。と思い、北側をみた。
遠くにワイバーンの山々が見えた。その向こうには精霊王の国がある。
あそこは、名前しか知らないギルドが統治している。さらに右奥には失われた機械文明が存在するといわれている国家があるという。あそこはよくわからん奴らだった気がする。あとで調べ直そう。
西側を見て少し考えた。ジェノヴァのことや統治国の談合での利権の国回し。ギュスターヴを引退まで追い込んだグスタフという人物。踏み込んではいけない領域なんだろうけど、俺はあえていばらの道を歩む事になるだろう。
俺に何が出来るんだ?一生懸命ゲーム内マネーを稼ぐしか今はできないだろうな。
太刀打ちできる自信がない。こういう時どうすればいいんだ…。安い正義感で俺はみんなを巻き込んでいるんじゃないか?なぁ、アイオリアお前は本当に俺に何を求めているんだ?
ガルヴァレオン…あんたのことを全く知らない。けど、あんたのやってきた軌跡を誰かが受け継ぎ、誰かが体現している。神格化するつもりはないけれど、たかがゲーム、されどゲームで英雄になれたアンタが羨ましい。少なくとも、アイオリアはアンタがいた時代、ギルドの雰囲気を形は違うけど、今風にまとめた事になる。アンタ、やっぱすげーよ。
俺はなんだかんだ他人に頼ってなっただけで、実力も何もない。ギルメンには裏切られ、親友を無くしそいつらを引き留めれなかった・心変わりさせられなかった事に悩んでいた。
一度、話したかったな。そしたら、こういう悩みを解決してくれたり、回避するやり方など教えてくれたんだろうと思っている。もしかしたらギルドマスターをやらずにあなたのとこで頑張ってたかもしれないなぁ。
少し、しんみりとしていた時にふと思い出した。
「それより東の国にいって武人にクラスアップしなきゃな。今まではこのままでもいいかと思ったけど、付与ステータスが最後モノをいう場面が増えたな。聖騎士と渡り合えたのはタイマンだったからだろうけど、集団戦だったら、数に押されて絶対負けるわ。」
と、独り言をいった。
あ、そういえば、東側って最近できた新しいギルドだったな。新進気鋭のギルドが統治しているって聞いたことあるぞ。うわー頭いてー内容ばっかじゃねーか!
しかも、アーモロトは常に四方からいや、三方から狙われている事になってるんじゃねーか!!
どうすんだよこれーー!守り切れるんか??
と、頭を抱えているとどこからともなく声が聞こえてきた。
―――「マスター、私も一緒に連れてってください。」
と振り返ると、クリスが立っていた。
クリスはもじもじしていたが、俺はサラッと流して聞いた。
「おまえ、何しにここにきたんだ?」
「たまたまですよ!別にマスターを探していたんじゃないんですっ!」
「はぁ???」
「実は…!ユーグさんが呼んでいて、マスターを探していただけです!あと、ソロモンさんとか、カルディアさんとか、うちのギルメンにボーナス払ってないですよね???」
「あ、やっべー!!忘れてた!!」
システムを開き、分配をやり配当を出した。
「わーい!やったぁ!」とクリスはぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。
そこにスカルドが現れた。
「セイメイ様、今度、いつお暇?」
「あぁ今は特にないけど…、なんだい?」
「今度、一緒に北の妖精王のとこにいきません?あそこのクエストには殿方が必要なんですの。」
クリスは何かを察知したのか、拒絶する。
「だめです!!マスターは忙しいんです!!ユーグさんの暗黒騎士昇格とかやることあるんですっ!!」
「だって、暇だって今いっていますよ!?」
「暇だなんていってませんー!!今は!!っていってますぅ!!!」
「なによ!!あんたみたいな小娘より、私の方が“秘書”として相応しいんじゃなくって???」
「なんだって!!??世の男性は私みたいな“ちょこっっとだけ”ドジっ子の方が可愛いんですよ!!あなたみたいな高飛車な女に、振り回されているマスターを想像するとマスターが可哀想で可哀想で!!」
「ああ???あんたみたいな仕事ができない女をアピールして、男の気を誘うような姑息な事をしませんから!!」
「はぃい??もう!!あったまきた!!勝負よ!!!」
「いいのかしら??ハイエルフに喧嘩なんて売って!!」
「あとから入ってきたのに偉そうに!!ヴァルキリーの真骨頂を知らないから悠長な事が言えるんですよっ!!」
「あらー?一応、マスター職経験して運営していたので、支えるというポジションでは私の方が適任ですよ??」
「そんなこけおどしの色仕掛けにマスターがかかると思っているんですか!!??」
お互い武器を取り出し、いがみ合っている。お互いの頭の上には決闘のマークが出ていた。
たまらず、俺は間に入った。
「はいはいはい!!終わり!!終わりね!!??同じギルドなんだから、仲良くしようよ!?」
「やっぱ同族じゃないとだめよね?先輩?」
すかさず、結華が俺のよこにぴったりついてきた。
「先輩、だめですか?私じゃ…。」
麗しの茶色がかった瞳に黒髪。キャラだとわかっているけど、可愛い!!!
『ナニヤッテイルンデスカ?アンタハ!?』と唯華をロックオンした二人は、背中から見えないはずのオーラ沸々と燃え上がっている。
俺は“これはまずい”と思いその場を立ち去ろうとすると、アイオリアとソロモン、ユーグ、カルディア、ピピンがいた。
「マスター!!これから旅にでよう!!次回の戦いまで時間はたっぷりある!!私とめくるめく、強敵“とも”達のモンスターを討伐しにいきましょう!」
「自分の暗黒騎士、お願いしますぉ!」
「おいマスター!!キル数№1の俺に対して報酬少なくないか??」
「俺のも少ないぞ!!どうしてくれるんだよ!!」
「貴様ら!我が名君に向かって金を請求するとはっ!!」というと、アイオリアはドラゴンフレイムを出して二人に襲いかかった。
「アイオリアはこのまえ、あんま活躍なかったから俺らに腹いせしにきたな?」とピピンが火に油を注いだ。
アイオリアの背中から殺す!!という言葉が漏れ出ているのは想像できるだろう。
物凄い勢いでピピンに向かって走りこんでいく。
このままだと終わりそうにないから、俺は急いでギルドハウスに戻る事にした。
「あ、マスターが逃げる!!」
『マスター待って!!』
俺のギルドはハチャメチャだけど、これから楽しいギルドになりそうだ。
みんなのギルドはどうだい?楽しいかい?やって無い人や諦めた人はもう一度、ネトゲーやって色んな人と交流してみないか?
勿論、リアルだってネットだって変な奴はいる。中にはお互いの価値観を尊重し合えば、そんな難しい事は無い。コミュ障?大丈夫。ギルドマスター達はそんな事気にしてない。むしろ溶け込めるように努力しているさ。君にあった魅力的なマスターに出会えるさ。なんだったら、君がギルドマスターになっちゃえばいい!
俺はこいつらと楽しい“仲間”として向かい入れられたことを誇りに思う。
ギルドマスターって大変だけど、楽しい。
さぁみんなも仲間と共に冒険に出て新しい出会いをしよう!
――――― 第壱章 完 ―――――
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