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第48話「功労者(前編)」



 セイメイは壇上で演説を行うこととなった。

 しかし、本人は“演説”は苦手だ。自分の言葉で語るのはどうも押し付けのようで好きじゃないからだ。

 営業時代は押し付けの価値観を植え付け、共感させることに意味があったのだが、プライベートは少なくとも相手の価値観を尊重していきたいと考えているからだ。

 人間というのはかくも矛盾して生きている物体である。と、いつもながら悩む事をしている。いや、むしろ悩むのが好きなんだと思うようになっていた。

 今日はやたらとたかが一か月程度の前の事が遠い昔のような感覚になる。

 思い返すと走馬燈のように鮮明に出てくる。


 俺は階段を登り切り、目の前には100人近くが目の前にいる。

 VCは一般回線に切り替えて、深呼吸を一ついれると、身の上話から始まった。


「まずは、先日の戦いはお疲れ様でした。このような場所で、このような機会に恵まれた事に深く、感謝したいと思います。ありがとうございます。私は、ここに至るまでは、毎日ギルメンの給料を確保することに奔走してました。いつも頭を抱えて運営の事だけを考えていてそんな中、一人で浮き足だってやっているのは、自分だけで仲間はそんなこと考えてもいなかったということです。そして、仲間を頼らず、いや…、信頼せず一人で背負い込む事をしていたのです。」


 しーんと静かに清聴されている。


「それが今はどうでしょうか。頼りっぱなしで、独りよがりが出来ようがない状況で、勝ちだけのためにみんなに頼りっぱなしという真逆の行動をしていました。時には無理を押し通してしまう場面がいくつかありました。」


 うんうんとセルは末席で頷いているのを気配でわかった。


「本日の論功行賞は全員にお配りするのは勿論の事、無理強いをさせた方、縁の下の行動をとってくれた方々には特に賛美を送ろうとこの場を借りて申し上げたいと思います。DGのセルさん率いるギルメンの方々、レオナルドのドリアスさん率いるレオナルドの皆さん、本当にありがとうございます。また、地道にライン戦を行って頂いたガガSPの皆様と、BVのパレンテの方々も同様です。パスガ奪還作戦の足掛かりがなければ、ここにみんなと一緒にいることはありませんでした。改めて申し上げます、本当にありがとうございました。」


 というと、俺は深々と頭を下げていると、拍手が起きた。そして、俺自身ここまで鳴りやまない拍手を浴びたのは初めてではないかと思う。感謝されるのはうれしいが、裏があるのはうれしくない。今回は素直に裏表がない拍手だと受け止めておこう。素直さが中々現れない自分に老いを感じた瞬間だった。


 俺は壇上から降りるとそこには、オケアノスのギルメン全員が俺を向かい入れてくれていた。


「いやぁ、マスター。ここまで長かったのぉ?」

 とソロモンは笑顔で俺を向かい入れてくれた。

「やりましたね!マスター!さすがっすね!」とユーグは笑顔だ。

「これで我がマスターはイーリアスの全土が敵になりましたなぁ!」とアイオリアがいうと

「おまえこれどうすんだよw」

「まぁ何より先にこの勝利でオケアノスはギルメン増えますからどうにかなりますよ♪」

「増えたって今回の報酬、雀の涙ぐらいだぞ?」


「それには及びませんわ。」


 振り向くとスカルドがいた。


「本日付でPROUDは解散、PROUDはほぼ全員オケアノスのギルドに入ります。」

「はあ?」

「セイメイさん、おひさしゅー!」と唯華がひょっこり顔を出していう。

「いや、まてwほぼ女性限定のギルドが解散じゃあ専売特許を捨てる事になって面白みがないだろ?」

「話し合った結果、良いのです。それよりJOKERの動きが気になります。あれから見かけてないのです。」

「ああ…そういえば…」

「そのためには、セイメイ様、あなたの力が必要なのです。」

「いやぁそう言われて嬉しくないやつはいないなぁ。」

 クリスが近寄ってきて膨れる。

「マスター…??」

「ああ、わりぃわりぃ。でもな、俺はおだてに弱いんだよ。ははは」と笑い誤魔化していた時にふと思い出したかのように重要な情報を思い出した。

 言い忘れていた内容を胸に秘めて、俺は壇上駆け上がり談笑している議事場で叫んだ。

「おい、みんな帰るのちょっとまってくれ!」

 というと、ドアから帰ろうとする面々を振り向かせた。


「俺の口からいうのは、たいへん申し上げにくいのだが…」



「エウロパは解散した。」



 一瞬、ピーンとした空気が走り抜けて、次の瞬間にはドッと質問や会話話題が大きくなった。


「静粛に。言いたいことは山ほどある。しかし、これはギュスターヴと午前中に会った話だからほぼ確実といっていいだろう。ここにいる半数の君たちの思い出のギルドはなくなった…。ガリヴァレオンの面影はもう追えなくなってしまった…。それと、どうもこの一見には裏でどす黒い何かが動いている。みんな気を付けてほしい。」


 というと、セルは不穏な空気を一蹴した。


「俺は別にどっちでもいいんだけどな。」


「ていうのはよ、俺らは今回の戦いで色々理解した部分がある。俺らだけで世界は取れないってことだよ。じゃあギルド運営ってどうすんだ?ってなるけど、俺はこの連盟にはハナっから賛成派ではないんでな。きっちりボーナス分配行われたから俺はこのままでいいが、俺らはある程度の発言権をもらうっていう部分で、オケアノスの傘下に入る予定だ。セイメイ、異論はねーよな?」

「うちは構わんが、俺の下っていうのはどうなんだ?」

「お前が盟主っていうのはどうもギクシャクしちまうが共闘という部分では一緒だ。」

「だが、それではリスクをいうと一枚岩ではないという事だ。それを…」

「安心しろよ。エウロパだって、一枚岩じゃなかっただろ?アポカリプスが下について、地下用水路を防衛していたじゃんか。」

「んー。」と俺は少し悩んでいた。

「悩む事じゃない。指揮系統はお前の戦果の方が上だし、それは周知の事実。指示をくれればそこで結果を出す。指示ミスの責任はお前が取ればいいんだよ。簡単だろ?」

「まぁそうだが?」

「意見はするし、仕事はする。お前さんが問題なければ、行動だって共にすることだってできる。何より情報収集するのには、別ギルドでやった方が仕入れやすいしな。」

「なるほど、連盟には連ねないが()()()ということか。」

「そういうことだ。頼むぜ。相棒。」とニヤリと笑っていた。

「ああ、わかった。こちらこそ頼りにしている。」

 俺とセルは握手を交わした。

 セルから()()()が飛んでくる。

 ―あとな、アポカリプスのうち、一人気になるヤツがいたんだ。例の…」―

 ―亜人の魔術師か?―

 ―ああ、あれはどうもアポカリプスの一味じゃないんだ。―

 ―紋章がなかったのか?―

 ―ない。ないうえでアポカリプスの援軍だというと、ソロかどこからか抜けてきたやつだ。そいつの後を追う。―

 ―なんで、追うんだ?―

 ―今回の戦いで動向を見ているのは、他の占領ギルドも同じだ。今回勝ったおかげでスパイ活動が捗ることになった。良くも悪くも勝った産物だな。―

 ―まじかー。そうだ、そうだな、わかった。だから、共闘という意味だったんだね?―

 ―そうだ。だから、何かあれば情報を流す。回線開けとけよ?―

 ―わかった。感謝する。―

 セルはそのままどこかに消えていった。


「あのー、私たちはそのままオケアノスに入ります。まだ未熟だったので…。」

 ミラとパレンテが申し出てきた。

「まてまてまて!!俺はうれしいが、自分たちのギルメンはいいのか?」

「俺は今回の戦いで自分たちの強さを最大限に引き出してくれた。ギルマスとしては情けないと思うかもしれないが、セイメイさんのとこで修行って意味で入りたい。」

「嬉しいけど、今回はたまたまだぞ?」

「というのも、俺就活だからギルド解散するんだよ。だから受け皿としてお願いしたいんだ。」

「ええ??」と俺は驚いたが、ミラはケロっとした感覚でいう。

「俺は就活決まったら、戻ってくるよ。それまでギルド運営できないし、かといって戻ってきたところで、第一線では張れない状態になっている。だから、席だけは置かしてもらおうかと思っている。」

「ああ、それならなおさらうちでアカウントキャラを預かるよ。早く決まるといいね!待っているよ!」

「うん。セイメイさん。色々学ばせてもらった気がする。大手の企業ってこんな感じなんだろうなって思った。」

「まぁこんな純粋な組織ではないけど、本来ならこういった指揮系統と連携がきっちりしていたら、企業は大きくなる。俺はそう信じている。最後は人間関係が良好で伝達が正確でないと、どの企業も本領発揮とはいかないのであるのは、間違っていない。だから、社会人になって変な奴いっぱいいて、心折れそうになることあると思うんだ。そういう時は、ゲームに関係なく連絡くれよ。多少の知恵は教えれるかもしれない。」

「ああ、すっごく嬉しい!その時はすぐ相談します!それはそうとパレンテとは実は、昔からの友達でパレンテも地域は違うがパレンテも就活するそうなんだ。」と聞くとパレンテをみた。

「私も実はそうなんです。仲間っていいですよね。自分もこんな楽しい戦いの一端にいたと思うと何か自信がついた気になります。良い経験ができたと思います。」

「そうか、そっちのギルメン達は納得いくのか?」と聞くと、ゆっくりと前に現れてきた魔導士がきた。

「私はムジカと申します。我々はソロモンさんの魔術とファウストさんの魔道を学びたいと思います。」

 ソロモンはにまぁと笑い話しかける。

「そうかそうか!いやぁ~やっと日の目を見る事ができる!我がマスターはワシを便利なポケットだとおもっているふしがある。これで無茶ぶりが多少楽になるわい!」というとムジカの肩をバンバンと叩いた。

 ファウストが軽く咳払いをし、ソロモンにチクリという。

「まぁあれですね。魔術と魔道は似通ったものですから、通ずるものはあります。しかし、話し方や性格までは通ずるとは限りません。」

 ソロモンはうっといって肩を叩くのをやめた。その行動にくすりと笑いフォローをした。

「それでもソロモンさんは素晴らしい魔術師ですよ。その辺の気の利かない魔術師とは違います。セイメイさんのバックアップは素晴らしいの一言ですけどね。」

 ソロモンの顔はすぅっと晴れていく。

「うんむ!何事もほどほどじゃな。」

「ですね。活躍できているのはソロモンさんの機転の良さですよ。それは私には真似できませんからね。」

 ソロモンとファウストは笑っていた。

「ムジカさん、助かります。うちは魔法職が少なかったので、こちらも願ったり叶ったりです。今後、宜しくお願いします。」というと、笑顔で握手を交わした。


 俺はベルスに近寄り話しかける。

「この度はありがとうございました。弱小ギルドの私のような人間を信じて頂き感謝の言葉が尽きません。」

「いや、感謝するのは我々の方だよ。こんなに結束できたのはあなたのおかげだ。可能なら私もあなたのとこで働きたいものだ。」

「勘弁してください。これ以上、抱えたら資金不足の振り出しに戻ってしまう。」

「冗談ですよ。ははは。それより、メディオラムはどうしますか?私が治めてしまってよいのですか?」

「そこなんですが、ドリアスさんと一緒に守っていただくことは可能でしょうか?」

「私はかまわんのだが、ドリアスがなんというか?」

 ドリアスを呼んで話を持ち掛ける。経緯を話した。

「一応、そういうカタチなんだけど、どうかね?」

「俺は構わないのだが、攻城戦などの防衛は流石にきついぞ。」

「そこは共闘しましょう。戦いの時は、今回のように連盟を復活させて、事に当たりましょう。」

「そうだな。そうしてくれると助かる。」と同意を得れた。

「といっても、隣国でないと攻め込めないので、西側という点ではレグニオンが脅威だな。東側のシャルール王国を統治しているギルド、ファティマがある。ここが今後どう動くかにもよってくるのだがな。」

「そこなんだよね。あいつらずっとあそこ死守しているんだよな。何かあるんかな?」

「うまみは狩場のドロップUPが向上する程度だけど、あそこそんなによかったのかな?」

「まぁ、今のところ脅威で攻めてくることはおそらくないだろう。」

 ベルスになぜそのように言えるのか聞くと…。

「あそこは生活コンテンツに比重を置いている。堅牢ではあるが、攻め手に弱いという観点で話はしている。」

「無理くり攻めるのも気が引けるなぁ。」

 俺は少し引け目に感じた。

「これを機に向こうにあるクエストを熟しに行こうかと思っている。」

 ドリアスはそういうと離席していった。

「ベルスさん、とりあえず、今はゆっくりと休んで、次に備えましょう。」

「そうだな。それが一番だ。」


 かくして戦後処理は滞りなく終わった。

 俺は身の丈にあっていない会議場を後にして、アーモロトが一望できるところにひっそりと移動した。




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