第47話「序破急(後編)」
~アーモロト城・大広間~
首都アーモロトは激戦がなかったように修復されており、平穏な時間が当たり前のように時を刻んでいる。
ここは安全エリアになっているためHPが微量であるが回復していく。
俺はクリスに頼み回復をお願いした。
「なんか、勝利に置いてかれたような勝ちだな。」
「セイメイさんお疲れ様でした。」クリスは俺に回復を掛けながらいう。
「あ~いや、最後まで振り回してすまんな。」
「そうやって好意のある女性も振り回してきたのでしょ?」と上目づかいでいってくる。
「ええ?なんでそういう展開になるわけ??」
「ごまかさないでください!!」といって膨れていた。
回復が終わるとアイオリアが話かけてくる。
「セイメイさん本当にありがとう。俺のやりたかったのはこういう戦いだ。みんな信頼しあって一つの事をやり遂げるという夢を成し遂げられた。本当に感謝します。」
アイオリアは無邪気な笑顔が俺にはまぶしかった。
「なぁ、アイオリア。」
「はい?」
「今、俺にさん付けしたよな?本当は普通に話せるんじゃないのか?」
アイオリアはギクッとしたが「さ、さぁなんのことでしょうか?」とはぐらかしてきた。
「まぁ俺はどっちでもいいが、活躍という活躍してたのか?」
「なんと!!!地下用水路での我が勇姿をお見せしたかった!」
「まぁ活躍してたっちゃあしてたな。」ソロモンはちくりという。
「そうだな。火力だけは馬鹿みたいにぶっ放してたというイメージだけどな。」とセルはいった。
「俺はちっくらギルメンのとこいってくるわ。やいのやいのうるせーやつらだからよ。じゃあな!」というとセルは嬉しそうに広間を後にした。
「さて、祝賀会といきますか。」
~アーモロト城・中庭~
中庭に出ると城の高台から一列になってダイブしているのがみえた。
「あいつらなにやってるんだ?」
「あれは喜びのダイブですよ。普段、自分の愛しているキャラを飛び降りて即死して即復活というシステムバグを利用した勝者側の特権みたいなものですよ。」
「ふーん、まぁあんだけ苦労したんだ。好きにやらせてやろう。」
しばらく街を歩いていると昔使っていたギルドハウスを訪れる事にした。
~アーモロト・ギルド街~
凍結されていたギルドハウスは何事もなかったように静かに佇んでいた。
ドアを開けると昔の喧騒が幻聴のように聞こえてきそうだ。
「ここが、オケアノスのギルドハウスなのですか?」
「ああ、そうだ。」
「なんか懐かしい感じがしますね。」クリスはキョロキョロして小走りに色々見て回っている。
「どこも一緒だよ。」と俺は少し笑った。
ありきたりの家具やタペストリーなどを貼ってあるぐらいだ。奥には俺のデスクが設置されている。
ふとしたことでギルド資金が底をつきそうになっているのに苦悩していたのが昨日のように思い返す。
あれから、俺らの旅は始まったといっても過言ではない。
「そういえば、論功行賞をしないと…」とソロモンがいった。
「ああ!!そうだ!」俺は慌てて金額をみた。
占領ギルドになったことによるゼロの多さに俺はびっくりした。
「おい、ソロモン!ゼロが…ゼロが…めっちゃ多い!!!」
「見慣れているじゃろ。この数j…」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!』
と二人で叫んでしまった。
こ、こんな金額を占領ギルドはもらっていたのか???
これを維持したくなる気持ちを今更ながら、わかる気がする。
「ソロモン、これ持ち逃げしよ!!??」冗談交じりでいう。
「ダメです!!!」とクリスが割って入ってきた。
「いあ、ほら、冗談だよ!ジョーダン!」と俺はおぼつかない言い方をした。
「みんな頑張ったんですよ!ほら資金分けますよ!」というと、電卓をたたいていた。
「よっ!!!さっすが!!我が秘書!!可愛い!!」と俺が調子にのっていうと、
クリスはギロッとみて俺を脅した。
「す、すまん。少し黙っとく…。」と俺は少し外に出てタバコを吸う事にした。
「今日は月が綺麗だったんだな…」というと俺はしばし月に見入っていた。
~アーモロト城・中庭~
「さてと、アーモロト城で会議でもするか。」とドリアスがいう。
「今日は疲れたから明日話しませんか?」ミラが疲れをみせていた。
「まぁ大変でしょうけど明日がいいと思いますね。眠いですもん。」とスカルドは眠そうにいう。
俺にメッセージやVCで呼び掛けて明日に正式的に配る様に伝達されていた。
俺も今日は疲れた。ゆっくりと寝るとしよう。
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今日は休みだ。朝から子供たちが近くの公園で楽しくきゃっきゃっしている。
親は子供達を眺めながら、朝から立ち話をしている。
俺は、眠い眼擦りながら、体を起こし冷蔵庫にある牛乳を開けて飲む。
ぷはーーー。ビールと同じようなの幸福感を感じ、パンを取り出してバターを塗る。
そして、買いだめしてある厚切りベーコンを2.3枚焼き、農家から直送の卵を買ってあるのでその旨い卵を割って贅沢に焼く。味は塩コショウだ。
目玉焼きを食するにあたり、醬油・塩・ケチャップなどなど多岐にわたって味付けをする魅惑の一品だ。
俺は塩をかけてコショウを少々ふりかける。
皿にパンをのせ更に焼いたベーコンエッグをのせ、コップにもう一度牛乳を注ぎ込んでテーブルの上におく。
一人暮らしには十分なくらいの朝飯だ。本当はコーヒーを入れてカフェオレを飲みたいがめんどくさいので牛乳を飲もう。健康的な朝飯を食べる。
パンを思いっ切り口に運んでむしゃむしゃと噛み砕き、舌で塩分と卵のうま味を味わい喉に送る。
「ん~~~~うまい!!!俺、天才か!?」と自画自賛してしまった。
TVをつけて戦隊モノの子供向け番組をぼーと見ながら、ふと思う。
―――平和だな。
昨日の激戦が嘘のように現実は静かに同じ秒針で時を刻んでいる。
さて、今日は何をしようかな?ぐいと牛乳を飲み干すとベランダに出てタバコに火をつける。
アラサーの昼にしてはまずまずの朝だ。
俺らの世代はサーフィンにいったり、釣りにいったり、河川敷で草野球をしたりと楽しく過ごすのだろう。
俺もそれに勤しんでおくべきなのだろうけど、俺には似合わない。学生の頃のようにきゃっきゃっする歳でもないし、渋谷でバカ騒ぎする若者でもない。
「時間まで暇だからアメリカのドラマでも見るか。」といってものぐさな一日のスタートを切ることにした。
時間になる前にドラマを切り上げてイーリアスに入る。
~アーモロト・ギルドハウス街~
俺は一足早くアーモロト城の大会議場へ向かう。
街はずれから歩いていくのだが、街角に見覚えのあるマントがひらりと見えた。
街角を曲がるとギュスターヴがそこに立っていた。
「ギュスターヴ…。」
「おめでとう。完敗だ。」
「ありがとう。俺も勝てるとは思っていなかった。」
「戦略的にも戦術的にも負けは負けだ。パスガの奇襲作戦はあっぱれだったよ。」
「いやぁ~あれは質がいいプレイヤーと指揮官がよかっただけだよ。」
「今後、アーモロト城防衛戦では今回、君が編み出した戦略が用いられそうだな。」
「発案者としては、パスガを死守が要になりそうで少しめんどくさくなりそうですがね。」
「また、アーモロトの取り合いを楽しむこととなりそうですね。」
というと、ギュスターヴは少し下を向いた。
「どうしたの?今度はあなた方が攻める番だよ?」というと、ギュスターヴは神妙な面持ちで俺に話しかける。
「エウロパは・・・解散することになった。」
「は???だってあんだけ強いメンツだっているし、俺もまだ知らない強豪もいるだろうに!」
「これは俺の決定ではないのだよ。」
「はぁ?なにいってるんだ?最終決定はあんだだろうが!」
「そういかないのが連合だ。」
「ふざけんなよ。そんなんで俺らが納得するのか?第一、元エウロパ勢が多数いる俺ら側はどうなる!?」
「セイメイ、違うんだよ。」とギュスターヴは深呼吸して話しかける。
「おまえは…いや、セイメイ殿、君はグスタフをも倒す。こういったな?」
「ああ、これは俺一人の独断ではないんだけどな。」
「グスタフは桁が違うぞ。」
「神器沢山保有しているとでもいいたいのか?」と目を細めて言うと
「それは言わずもがなというところだ。そこがいいたいのではない。」
「え?つうか、全部位持っている時点ですげーんだけどw」
「色々言われ方はあるが、“Alone guild”ソロギルドで連合に入っている。」
「え?戦力が一人ってこと?」
「私もわからん。ただ、本当に一騎当千、“一騎当万”とでもいうとわかるかな?」
「つまり、1000を超えるほど強いということか?」
「まんまなんだがwそうだ。それと俺はこれを機に引退をする。」
「おい、まてって。やめる事は無いだろ。」
「モチベーションが続かないのと、グスタフに戦力外通告を受けたのがトドメだな。」
「他人なんて関係ないだろ。お前はお前だろ。ギュスターヴ?」
「そうでありたいと思うのだが、もう今の俺にはこのゲームをやろうという気はない。」
「じゃあ…、何かあったりやる気が出てきたら、教えてくれ。身寄りがないならうちで預かる。無論、待遇は俺の次ぐらいにはなってしまうだろうけど、不自由になる事は無いと思う!」
「ご厚意には感謝するが、昨日までの敵を受け入れるギルメンはそう人間の心理上、不協和音を抱く。それに俺がギルドをかき回すというリスクは考えないのか?」
「昨日の敵は今日の友というだろ?心配するなって。」
「ハハハハハ!!やはり、あなたは面白い人だ。そうやって昔の仲間をまとめ上げていったんですね。羨ましい。」
「いっとくが、俺は人徳なんてないぞ?」
「そう思うのは本人だけで、周りはあなたをほっとかないんでしょ?」
「そうか?百歩譲ってそうだとしても、かなり苦労したぞ?」
「その苦労が今回の結果を生んだ。上々なんじゃないのか?」
「ものはいいようだな。」
「まぁ、最後にあなたと戦えて俺は良かった。ありがとう。」
「いえいえ、俺もあなたと戦えてよかった。聖騎士ギュスターヴ。」
「じゃあな。頑張れよ。」
ギュスターヴは静かにログアウトしていった。
仲良くなれそうなプレイヤーがいなくなるのはすごく寂しい。
剣を交えた仲だからこそ分かり合える部分もあるのだから。
とある名作漫画の名言が頭をよぎった。
ギュスターヴ・・・俺はアンタを倒せたのは俺一人の力ではないのだよ。
勝って凄く嬉しいのに凄く寂しさを覚えた。
胸にこみ上げる感情を抑えて俺は、アーモロト城・大会議場へと足を運ぶとする。
城内に入るとCPUの衛兵達は俺とすれ違う度に敬礼をし、立ち止まる。
―――城主になるとこんなギミックが発動するのか。おもしろいなぁ。
俺は階段を上り、大会議場のフロアへと進む。
~アーモロト城・大会議場~
大会議場に入ると各ギルメンが席についており、俺をみるやいなや俺のコールが飛んでくる。
「セ・イ・メイ!セ・イ・メイ!セ・イ・メイ!セ・イ・メイ!セ・イ・メイ!」
「わーかったから!!もう少し落ち着けよ!!」
「落ち着いていられるかよ!俺なんか興奮して寝れなかったよ!あんたのせいで寝不足だよ!」
「俺もサムライに転職して、弟子入りしようかな!?サムライ使う人ってすごく少ないから俺もマウントとってみたいなぁ。」
言わせておけばいいたいこといいやがって…!!
「よぉ!大人気だな。盟主殿♪」とセルが嫌味をいってくる。
「うるせ!」
「おお~我が君よ!おはようございます!」
「もう昼すぎだよ。」
「セイメイさんおはようございます!」
「だから昼過ぎだって。」
「よう、マスター!昨日は寝れたかい?俺はPROUDの人と熱い語りをしていたわぃ!」
「どうせ、話持った武勇伝を話してたんだろ?」
「お!いたいた!マスター!ボーナス頼むぜ!!MVPはこの俺だからなっ!」
「俺の存在も忘れちゃだめだぜ??神弓のピピンとは俺のことだあ!」
「わかったから席につけ!」
「マスター!俺のキル数どうだった?」
「ああ、上位5名には入るぞ?」
「うへー?まだ上いるのかよ!」
「一位はそこにいるデカ女だぞ?」
「ええ??」というとカルディアを見る。
「二位はそこにいるピピンだ。」
「俺結構頑張ったのに…。」
「LA取られてるからそこはしょうがないな。」
「そんなぁ~~!」
「まぁあれだな、これ終わったら、暗黒騎士へのクラスチェンジ手伝うよ。」
「うん!お願いします!!」
そのあと、色々入ってきて挨拶やらいじりやらあったけど、とりあえずログインできる人たちは集まった。
ベルスが議長を務める。壇上に登り宣言を始めた。
「これより、アーモロト攻略作戦における論功行賞を発表する。」
というと、俺は壇上に促されて色々とやらされることがたくさんあった。
まずは演説をしろというので、壇上中心に立たされることとなった。
壇上からみる議事場はまさに大演説をはじめる総理大臣の気持ちになった。
論功行賞はまだまだ続きそうだ。
セイメイは大きく深呼吸して一字一句選びながら話す事ととした。
このあとセイメイは更なる戸惑う状況になるとはまだ知らない。





