第44話「醍醐味(前編)」
セイメイ達が地下で詰まっている最中に、地上では城門突破の報を受け城内での激戦が繰り広げられていた。
裏門を突破したスカルド、ミラ、パレンテ各ギルマスが率いるギルドが攻め込んでいるが、本丸の第二の門で引っかかり、攻めあぐねている。ミラやパレンテの必死の好戦も虚しくラインが押し上がらない。
スカルドは全体回復を各ギルメンと連携にあたり、前線に足を運べず回復に徹することとなる。
また、正門は双方共倒れの激戦の末の破壊。
しかし、互いの疲弊を兼ねての戦いであったため、互いに死に戻り中である。ベルスもドリアスも激戦の最中、勝ち残って生存していたものの、死に戻りのエウロパに討たれていた。ただデスペナルティの多いエウロパはタイムラグによる劣勢を覆す事が出来ず、結果としてベルス・ドリアスのギルメン達が城門突破後、制圧する。無論、ユーグ・カルディア・ピピンの三位一体は目を見張る活躍をしていたが、スタミナ上限によるゲージ切れ、オーバロードした事による硬直でユーグは落ちてしまう。
しかし、ここでカルディアがすぐさま聖水に与えて復活を試みるが、それを見逃すほどエウロパは優しくなく多勢に無勢とし討たれてしまう。
ピピンはオーラアタックにより、カルディアの仇はとり奮戦していたのだが、死に戻り中のベルスとドリアスとタッチの差で無数の矢を受け絶命した。
その後、三人は死に戻りしたのち、城門突破の報を受けたため、セイメイに直接伝え、三人は城内に侵攻している本陣に舞い戻って、アーモロト城内へ進んでいくのであった。
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~アーモロト城・地下用水路~
俺は必死に薄暗い用水路を走っていた。無心に用水路を走っていると用水路の道の先に松明がぼんやりと見える。おそらくそこが出口だろうと踏んで近づくとそこには螺旋階段があった。
それに近づき恐る恐る登り、風が吹き込んできた。風上に目を向けると鈍い光が差し込んでいた。
暖簾のような幕をめくるとそこはアーモロト城大広間の隠し廊下だと解釈した。
~アーモロト城・大広間~
外を見るとあちらこちらで戦いが繰り広げられている。
「ちょ、ちょっとセイメイさん…待ってください。」と根を上げるクリスがいた。
「普段から走り込んだり、スタミナ上昇アイテムをこまめに摂取しておかないとこういう時、大変だぞ?」
「だってあんまり走り込んだりしないんですから・・・」
「まぁ、これを機にスタミナゲージの上限をあげておくんだな。」
「サムライは迅足とかスキルで大量に消費するから必要かもしれませんけど、ヴァルキリーはそこまで走ったりしないですもん・・・」
「まぁそうへこむな。それより、こんなとこで息を整えている時間はない。先に行くぞ。」
と俺はクリスを置いていこうとすると、クリスは足早に俺についてくる。
「まったく・・・はぁはぁ…」といいながら俺を恨めしそうにこちらをみていた。
俺はそんなことはお構いなしに大広間横の壁に体を当てて、中の様子を伺った。
大広間入口には大量のエウロパの人間がおり、我が軍の勢いに負けじと動き回っているのがみて取れた。
しめたと思い、俺は玉座の間に繋がる扉に近づき、中に入ることに成功した。
~アーモロト城・玉座の間~
玉座の間の前にはエウロパの御旗が静かに掲げられていた。
―――こいつをとれば、戦争が終わり、七星連盟の勝ちだ。ギュスターヴ、俺はアンタに恨みはないし、憎んでもいない。俺を濡れ衣を着せなければ、こんな戦争なんて起きなかったんだ。俺を恨むなよ。
御旗に近づこうとした瞬間のことだった。
旗の間に光り輝く光が俺の行く手を阻んだ。矢が数本俺の足元に刺さっていた。
「そこまでだ、セイメイ。」
と声のする方へ近づくとギュスターヴとディアナがそこにはいた。
「まぁ…一筋縄ではいかないよな。」
「セイメイさん!!ここで仲間を呼ばれたら…!!」
「安心したまえ。そんなことしない。」とディアナはいった。ディアナは俺の方をみて語り掛けた。
「俺がいなくなってから1か月前後、よくここまで登り詰めましたね。流石です。でも、今日でここで幕を引いていただきます。」
「ディアナ・・・あの時以来だな。」と開戦前に出会ったことを思い出した。
「あの時にでも、度量を図るようにPKをしかけるべきだった。」
「ははは、お前に俺は倒せないよ。ましてや、この勢いもうすでに止められない。この戦はわが軍の勝利は目前だ。」
「御旗を奪われなければ、エウロパの勝利であるのはご存知のはず。なのになぜそこまで勝ちの確信を得れるのだ?」
「さぁな、直感だな。俺は別に強くなりたくて強くなったわけじゃない。好きでランカーになったわけでもない。ただ、がむしゃらにゲームを楽しんでいただけだ。その結果が、このゲームのシステムとたまたまマッチして、ここまで来ているだけだよ。そんなことより、御旗を守る手立てはあるのか?」
「そうですね。一戦交えるか。」というと、ディアナの手には精霊剣が呼び出した。
「まて、ディアナ。」というとギュスターヴはディアナの肩を押しのけて前に出てきた。
「初めまして。七星連盟の盟主、セイメイ殿。」ギュスターヴはゆっくりと前に出てきた。
「あんたが、ギュスターヴさんかはじめてお目にかかる。」
「いやぁ、あなたの名声は今やイーリアス全土に広がっている。私なんかより有名だ。非常に羨ましい。今、運営すらも見守る戦になっている。今この瞬間もね。」
「TOPランカーにそうお褒めの言葉を頂けるとは光栄至極に存じますなぁ~。」
「ほう。やはり私の名前は知っているのか。」
「これはこれは異なことを。TOP10ランカーがほぼ占領ギルド級で占めているのは、初心者でも知っている話だ。それを今、この場で叩きのめす事が出来るのだから、悪くない話だろ?」
「倒す??君がこの私を??君はギャグセンスがないなぁ。もう少し冗談をうまく言えれるといいよ。」
「そうかい?俺は物凄く面白いと思っているんだけどなぁ。」
「なぜ君は我々に盾突くような行動を取るんだ?」
「さぁ、意味もなく通行証の値段をあげて少しでも他プレイヤーの足を引っ張るからじゃないのか?」
「それはソイツ自身が強くればいいだけのこと。弱い奴は切り捨てていく。社会がそうじゃないか?」
「ああ、そうだよ。でもな、少し救えば化けるやつだっている。そういう金の卵を見つけるのも我々社会人としての役割でもあるんじゃないのか?君が学生でないなら、わかるはずだ。」
「知ったような口をきくな!!どれだけ努力しても上の人間は見ようとしない。見ても見ぬふりをする。そうやって弱者を蔑ろにし保身をしてきたのは、社会ではないか!!ゲームだって同じだ!雑魚に雑魚といって何が悪い。それで萎えてやめてしまうようなやつはそもそもオンラインゲームに合って無いのだよ!セイメイ!!お前もそう思っているんじゃないのか?」
「ああ、そうだな。たしかに正論だ。雑魚に雑魚っていっちゃいけないルールは無い。それを言われても、粉骨砕身頑張ってるやつがゲームでも社会でも可愛がられていくものだ。」
「ならば、我々の占領連合につけ。おまえほどの理解者が反対派にいるのはどうにも納得がいかない。」
「生憎、俺はゲームは上司とか企業とか一切関係なく、下克上を表立ってできるのがおもしれ―んだろ?毎回、八百長占領戦に俺は興味はない。それをぶっ壊して群雄割拠の時代を呼び込む。それでこそ、占領戦の醍醐味だ。それにギュスターヴよ、俺はグスタフをも倒す予定になっているんだぜ??」
ギュスターヴの表情が一瞬で変わる。
「そろそろ戯言はこの辺にしようか。」
ギュスターヴは剣を抜いた。剣は白く輝きを放っている。
―――エクスカリバーを覚醒させている。しかも聖騎士。盾はアイギスの盾か。しかもバックラーのような形、面倒だとはわかっていたが神器を二つもつ所有者と戦ったことが無い。やるしかないか。
俺は素直に刀を抜いた。
「なんだその刀は??神器ではないのか?」
「ああ、こいつは俺の爺様の形見と同じ形式だ。」
「おまえ、馬鹿か?そんなので俺に勝てるとでも思っているのか?」
「サムライは刀を選ばないんだよ。」
「攻撃力いくつだよ?そんなので俺に勝てるわけないだろ。舐めやがって気に入らねーな!!」というと、ギュスターヴは斬りかかってきた。俺は刀の峰で受け流し、足を二三歩下がり、八相・陰の構えをした。
八相・陰の構え…通常の八相は顔に鍔を近くに構え刀を立てるが、陰の構えは、刀の柄を前にだし、頭を相手に見せる様に構える姿立ち
「フン、にわか剣術で我らが王道、騎士道剣術に勝てるわけなかろう!!」
弓を引くように剣を引き、左手で手を前にかざす。
雷鳴衝撃!!
ギュスターヴがスキルを発動すると同時に俺は一気に距離を詰めて刀を前に出す。
ガキーーーーーーーーーーン!!
と金属音が響き渡る。
「馬鹿な!!!」ギュスターヴは叫ぶ。
エクスカリバーは刀の頭を突いており、システム上はIMMUNEと出ている。
IMMUNE…属性無効や無効打というゲームよって異なる事がある。
俺は頭を支点にくるりと回り、ギュスターヴの背中を取った。袈裟斬り、逆袈裟斬り、風神剣を行い、一気にトドメを刺そうとすると僅かなスキをつかれアイギスの盾を前に出されガードされる。
「このやろう…トリッキーな動きをしよって…。」
アイギスの効果は俺の攻撃を弾き、硬直付与させる。
俺の手は止まり、ギュスターヴは回復を行う。
「本気を出さなきゃいけないようだな。」
「出してもらわないで大人しく死んでくれないかなぁ?」と苦笑いする。
「どうしたらその思考になるのかわからんなぁ!!」
俺とギュスターヴは幾度となく剣を打ち合っていた。
連撃をお互い打ち合っているなか、一瞬の怯みをギュスターヴは見逃さなかった。
俺の身体を蹴り、吹っ飛ばし距離を取り、ギュスターヴは剣を上段の構えをする。
「とっとと終わらせよう!!」
神技:雷鳴剣!!!
―――心眼の悟りッッ!!!
雷鳴剣をすり抜けて攻撃を繰り出す
剣聖神道流 “ 蜈蚣”
刀を返し地面すれすれに体を低く走り抜けギュスターヴの右脇腹を斬るが、ギュスターヴの身体を翳めるほどのダメージに留まった。
ギュスターヴは振り向き俺に近づく。
「サムライはゴキブリのように走り、小賢しく動き回るな。これは駆除しなくてはいけないぞ?」
俺は青龍偃月刀へ武器を変えた。
「ほう…!神器を持っているのか。」
「そうだな。刀は神器ではないのが心残りだ。」
「貴様こそ、本気を出していなかったのか?」
「そうじゃないが、そう捉えられても仕方ない。」
「どこまでも人を出し抜くような姑息な真似をするのだな?」
「戦争に姑息も正義も悪もあるか。お前の価値観は所詮その程度だ。」
「その口を黙らせてやるッ!!」
ギュスターヴは左手に光を宿し、胸に手を当ててプロテクトディフェンダーを使用し、俺に斬りかかる。
ギュスターヴの剣は非常に重く、刀であれば、耐久値が削られて刀が使用できなくなるところだった。
神器を使用して攻撃を受け流すことが精一杯であったが、武器のリーチ分、戦いが多少楽にはなっていた。
俺はいくつかの攻撃を与えつつも、ギュスターヴは俺の攻撃を喰らうのと引き換えに攻撃をしていたのだった。
両者共にハイポーションを使いつつ、斬り合い続けていた。
大広間から怒号や歓声が上がってきている。
玉座の間の外は火の海に包まれていた。