第42話「新機軸(前編)」
セルは万事休すと思っていたが、手持ちのスキルで使い忘れていたものを思い出した。
セルは地面にある玉を叩きつけて赤眼の攻撃を躱した。
当たりには煙が立ち込める。
「小賢しい事をしよって!!!」
赤眼が怒り狂っている。
セルは間一髪で攻撃を躱していたが、ギルメンが軒並みやられているため、形勢は不利である。
セルは歯痒い思いをしながら、用水路をあとにする。
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アーモロト正門にあたる城門は膠着状態となっていた。
「セイメイ殿、このままでは埒が開かない。」
「仕方ないでしょう。相手はエウロパです。今や全土が注目すべき戦いの真っ最中ですからね。」
「そんな他人事のように…。」
「いや、張本人ですよwそれにしても、中々差し込めないのはなぁ…。」
という会話をしていると、アイオリアがコソコソと陣を離れているのが映った。
俺は、すかさずアイオリアを走って捕まえていう。
「おまえ…なにやってんだ?」と俺は顔をじろりとみる。
「いやぁあの…その…地下用水路の様子を見にいこうかと…」としどろもどろに答える。
「ほう、ここは地下から攻め上げるといいたいのか?」
「結局、出番無いですからねぇ。」
「わかった。俺も抜け出して地下にいくとするか。ルートしらないのも詰まらんしな。」
「ええ?一緒にいくんですか?戦果をくださいよ。」
「俺の背中を守れないんだからいまさら戦果もクソもねーだろ?」
「わかりました。マスターの案に乗ります。」
俺はドリアスにいって、正面を任せた。
「ば、ばかな!!大将自ら地下用水路に歩を進めるなど聞いたことが無い!」
「まぁ一回ぐらい死んでも大丈夫でしょ!」というと、ドリアスは大きく息を吸ってはいた。
「だめだといってもいくんでしょうから、どうぞいってきてください。但し、正面突破ができた時はすぐにお戻りください!あと危険を察知したら無理をせず、引いてくださいね!」
「お心遣いありがとうございます。ではいってきます。」というと、俺はアイオリアとソロモンをつれいくことにした。
三人でいこうとすると、行く手に阻んでいたのは、クリスだった。
「あんたらね、いい加減にしなさいよっ!」とふつふつと怒りがこみ上げてきているのが明確にわかっていた。
「地下用水路の戦況報告が芳しくないから様子を見に行こうとしていたんだよ。」と苦し紛れのいいわけをいった。
クリスはすぐさま言い返す。
「地下用水路は不意打ち強襲を受けないために栓をしているような感じでしょ??」
「そうなんだけどさ、セルからの応答もないから少し気になっている。」
「まぁあああったくもう!!私も連れて行きなさい!!」と俺に詰め寄ってきた。
アイオリアとソロモンに援軍を求めたが、素知らぬふりをしていた。
こいつら、ふざけがって!!
「わかったよ。一緒にいこう。俺の背中守るのも秘書の役目だもんな?」というと、鼻息を荒くしていう。
「当たり・前・です!」
こうして4人で地下用水路の入口へと向かうのであった。
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~アーモロト城・地下用水路入口~
地下用水路はアーモロトより離れた場所にあり、我が軍の背後に位置するところにある。
ここをもし抜けられると本陣への突撃ができてしまい、指揮系統が一時的に麻痺することになり、ひどい場合は打ち取られてしまうことになる。
正門前に陣取るのは定石なので、向こうもまさか大将首の俺が地下用水路を侵攻するとはだれも思っていないだろう。
入口に近づくと、ソロモンが俺らに補助魔法をかけ直していく。
「なんでこんなことになるじゃろうかな?」
「まぁユーグがここに連れて来てないのが心苦しいがな。」
「あいつはまだ突撃する時の攻撃力がもう少しほしいんだがのう。」
「求めすぎだw」
中の様子を見ているアイオリアが、殺気立って中に入っていった。
「お、おい!」俺はアイオリアのあとを追いかけた。
中に入ると手負いのセルが出入口の方に向かってきていた。
「なんで・・・てめーが…ここに?…うちは負けたのか?」
「いや、正面は膠着状態、裏ではスカルドが攻勢に転じている。」
「ならば、ここは用済みだろ?」
「ていうか、どうした?この先に何があった?」
「ああ?あれだ、アポカリプスだ。死に戻りした方が再突入できるんだろうけど、無駄死にするのは癪でな、みんな死に戻りしているが、俺が落ちればうちのメンツが舐められるだろ?だから俺は一人情けない恰好で撤退している。そんな中、お前がここにきて無様な姿をしているのを見られた。情けないったらありゃしない。」
ソロモンとクリスが追いついた。
「いや、あんた…、立派だよ。初めて会った時のイメージとは真逆だ。かっけーぞ。」
「褒めてもらうより、金だ。この戦い、絶対に勝て。勝たないと許さんぞ。」
「ソロモン、回復してやってくれ。」
「ああ、わかった!」
「アイオリア、気を引き締めろ。今度は死ぬぞ。」
「マスター、私が一気に駆け抜ける。瀕死の敵は任せました。」
「そこは私が!一気にオーラアタックを当てていきます。セイクリッド・レクイエムを打ち抜きます。」
「そんなオーラアタックあったっけ?」と俺が聞き直すと、クリスは答えた。
「セイクリッドエンスラーはオーラアタックじゃないですよ?セイクリッド・レクイエムがオーラアタックです。」
「そうなんだ。じゃあ瀕死のヤツは任せるよ。」
「・・・おい・・セイメイ」
「どうした?セルさん」
「俺を連れてけ。用水路っていっても無限回廊だぞ。ルートを事前に知っているまたは覚えているならいいんだが、今のお前さんじゃ無理だ。だから、俺を連れてけ。」
「わかった。全回復できるか?おかげ様でハイポーションをがぶ飲みしたせいで胃がポコポコしてんじゃねーかな?」
「それだけ言える余裕あるならいこう。」
「気をつけろ。赤眼がいるぞ。」
というと、クリスは血相を変えたように「うう…」とつぶやいた。
そうだ、クリスはPKされていたのだ。粒子化するまえに俺らが起こしてあげたんだ。
クリスにとっては因縁の戦いだ。
また、アイオリアは不意打ちとは言え、致命傷を与えたアスリアもいる事だろう。
俺らは踏み込んではまずいところに踏み込んでしまったのかもしれない。
少しずつ進んでいき、いくつかのY字路やT字路、広場などを経由していくと、セルが俺らに警告をした。
「この先にあいつらは陣取っている。気をつけろセイメイ!」
曲がり角があり、そこにはアポカリプスのギルメン達が警備していた。
セルは静かに警備を始末し、次にいくぞと合図を送る。
「これでバレたな。」と俺がいうと、セルはまだ余裕の言葉をいう。
「いや、バレたのは俺だけだっていうはずだ。おまえらは少し下がっていろ。」
「死ぬぞ?」
「死んでもお前らがいる。俺が死に戻りすれば、おれんとこのメンバーをもう一度突入する。それまで時間を稼げ。」
「安心しろ。そこにいる爺ィがなんとかしてくれる。」
「おいマスター!俺は耳をかじられたロボットの四次元ポケットじゃねーんだぞぃ??」
「どうせ、なんか良からぬものをもっているだろ?」
「ちっ!読まれているのがまたイラつくわぃ!」
「まあ心強いっていう裏返しだよ。」
そして、更に奥深く進んでいく。
「そろそろ、城内階段の近くまできたんだが、どうもきな臭い。」
フィールドエクスポーズ
セルの目には敷地内の索敵を行なった。
「おい、この角を曲がるといるぞ。狭いせいで何人いるか把握できてないが、確実にいる。」
「避けては通れんな。」
「私が先行します。」アイオリアが指示を待っている。
「雪辱を晴らせよ?クリス、兄貴の背中を守ってやれ。」
「わかりました。いつでもいけます。」
キュイーンと、即時発動できるようにオーラが今か今かと待っている。
「セル、赤眼を見つけたら俺が出る。あいつとは因縁深いものがある。」
「バーカ、手柄をお前にやるかよ。」
「死ぬなよ。」
「お前もな。」
「では、参る!!」
アイオリアは俊足で一気に距離をつめて、アポカリプスのメンツに向かって白い閃光が走る。
瞬く間に倒していく。
セイクリッド・レクイエム!!!!
クリスのランスが太いビームのようにアイオリアを包むように打ち抜く!
アポカリプスはトドメ刺されて倒れていくと、アスリアと赤眼、そしてその奥に広場を覆う影が見えた。
「な、なんだコイツは!!!」
通常では召喚されるはずのないバフォメットがそこにはいた。
ソロモンは焦っていた。
「まさか、コイツを召喚できる魔術師がいたのか!!??」とアイオリアは見た。
「この悪魔!??は、なんなんだ??」俺はソロモンに問うと、ソロモンは焦りつつも声を落ち着かせて言い聞かせる。
「邪神は強い。しかもイーリアスの世界は一部を除いてほとんどの宗教の神様と悪魔を詰め込んだ出来栄えだ。その上でこいつがここで出てくるとはな!!召喚できるやつはそうそういない!!」
「その都度、召喚なんか?」
「そうだ。ただ、本体を倒せば…だが、倒さないとかなり厳しい戦いになるぞ。一撃系での一時召喚ではないのだよ。一時系はプロテクションフィールドや、魔法の属性に対して、耐属性の防御魔法を当てれば、プラスマイナスゼロだ。一時召還は魔法のような使い方ができるのだが、従えているとなるとかなりの手練れだ。仮に弱いやつが使っても召喚できない。レベルも魔力も装備も上位クラスを装備してないと無理だ。」
「いきなりボス引き連れているとか、魔法職ってのはチートだな。これだから気にくわねーな!何でも出来てなんもできねー矛盾な職業だわ。」とセルが嫌味を連発する。こいつは毒を吐かせたら天下逸品なんじゃないか?煽り属性MAXだぞ!??
「で、本体はどこだ??」と探すと、そこには小さな女の子がいた。
「あああ???あのくそチビが呼び出してるのか??」
セルが一瞬で近づくと赤眼がセルへいくつもの暗具を投げて近づく。
「お前の相手は俺だ。」
「てめーとサシで勝負か。わるかぁねーな!」というと、腰に閉まってあった忍者刀で捌くと、幾重にも光を乱反射し打ち合う事になった。
俺が赤眼の背中を取ろうとすると、アスリアが割り込んでくる。
「おいおい、アサシンでも忍者でもないお前が背後から斬りかかるなんて、武士道に外れた事していいのかよ?おサムライさん??」と俺の刀を弾き、赤眼を守る。
「戦争ってのは、紳士協定なんか存在しない。ここは、ただの殺戮の場だ。お前らの得意分野だろ?それを他人が同じ事をしたら、非難するとはな。おまえはどこでだれと戦っているんだ??」と俺は皮肉にもアスリアの揚げ足取りをした。
―――俺もセルのような言い方がうつったのかな?
俺はセルの援護に入った。
「おいおいおい、どういう風の吹き回しだ?獲物の横取り、バックアタックだ。そして、なによりアサシン相手にはサムライは不利だぞ?」といいながら、セルは手に3本の小型の長い針を出し、両手で6本にし、一気に赤眼に投げながらいう。
赤眼がそれらをよけつつ、俺に手裏剣を6つ一気に投げつける。
俺はすぐさま風神剣を使い、自分の周りに風を起こし、手裏剣の軌道を無効化し牽制をする。
アスリアは俺らを挟み、赤眼と一緒に俺らの周りを走り始めた。
「お前さんがCC取ってくれれば、俺はそこに瞬間火力を叩きこむだけだ。簡単な事だろ?」
「ほう。タイマンではなく、2vs2をやるのか?」
「まぁそうなるなぁ。安心しろ。それとも不安か?」
赤眼とアスリアが一斉に攻撃をしかけてくる。
セルは赤眼が斬りかかってくる攻撃を忍者刀で受け流し躱す。
「まぁアイオリアとソロモンは俺らからバフォメットの目を反らさせるので手いっぱいみたいだしな。」
俺はアスリアに剣技を打ち込み、腹に蹴りを入れて距離を取る。
未だアサシンの機動力の輪から抜け出せない。
俺は刀を構えながら、ちらっとクリスを見た。
「あとうちには、可能性の姫がいるぞ?w」
「あーあのヴァルキリーか。」
セルもクリスを見て言う。
「あんなんでも俺のボディーガードらしいからなw」
「笑わせてくれる!あんなのに守られてださくねーのか?」
赤眼から別の暗具が飛んでくる。俺はスキルで咆哮をすると空気を歪ませて暗具を落とす。
「俺は個人の主張を尊重しているだけだよ。」
「モノはいいようだな。」
というと、アサシンの連携の取れた攻撃を誤魔化しながら躱してはいたものの、徐々にHPは削られていく。
―――騙せるのもこの辺が限界だな。
一瞬の均衡が解かれた時、青龍偃月刀に切り替えた。
俺は大旋風を巻き起こし、青龍偃月刀から帯びていた氷気がアスリアの足を固め、動きを足を止めた。セルはそれを見逃さなかった。アスリアにセルが仕掛け長針を2.3度投げつけてさらに動きを止める。
俺はしめたと思い、オーラアタックを叩き込む!
龍よ、我に力を授けよ!
天舞:蒼朱旋風烈覇!
赤き龍と蒼き龍が出現し、アスリアめがけて飛翔する。
アスリアはその場で倒れる。
「ふう。よくあの瞬間を見逃さなかったね?」
「赤眼より先に落としやすいのは、あいつだからな。あいつは元ギルメンだ。」
「ええ??そうだったの??」
「力を欲してアポカリプスに移ったらしいが、所詮あの程度だ。属にいう勝ち馬ライダーというやつだ。」
「ギルドを変えたら強くなるって事じゃないからね。」というと、粒子化して消えた。
俺は赤眼を見ていう。
「赤眼、これで2対1だ。まだやるのか?アサシン範囲が狭いスキルが多い。その分威力や効果はデカイ。それは知っているだろ?まだやるのかい?」
「ほう、俺を殺さないでくれるのか?甘い、甘すぎるぞ!オケアノス!!」
というと、俺に猛攻撃を仕掛けてきた。
俺は反撃する余地もない。が、セルは後ろから俺もろとも刀で貫く。
更に刀を抜き、一刀両断する。
「お前ら如きに…」というと粒子化した。
貫かれた俺はというと無傷である。
「強引だなぁ。」
「バーカ、こうでもしないと相手は死なない。少し赤眼から攻撃喰らっているだろうけど、回復でなんとかなるだろ?」
「まったく、アンタはこんな風に戦ってきたのか?」
「勝てばいいんだよ。相手だって必死だろ?」
「まぁ勝利の方程式は幾多にもプロセスはあるからな。結果が同じでもマイナスも生まれてたら勘定的には薄利だぞw」
「フン、それくらいかぶれよ。」
「まぁいい。なんとかなったな。赤眼を討伐するなんて名前が上がるじゃねーか。」
「別にあいつだってプレイヤーだ、やられることだってあるさ。」
「そうだな。それより、アイオリア達を見に行こう!」
急いで隣の戦いへ合流する。