第38話「鉄火場(前編)」
~パスガ自然外壁・森の中~
ドリアス達は潜伏しており、合図を待っている。しかしまだかまだかと苛立ちを募らせていた。
「まだセイメイからの号令は出ないのか?」
「まだです。まだ来ません!」
「メッセージでも送ってみては?」
「バーカ、占領戦や攻城戦、拠点戦はwis【Whisper】も行えない仕様だ」
「別のギルドという事でVC枠は入れない」
「外部をVC採用すればいいのに」
「君は知らないだろうけど、外部VCは遮断される仕様だぞ?」
イーリアスではオールインワンといっていいほどの環境整備を整えている。
より実際に戦争しているような形をとっており、信号弾や電報(実際は電子メッセージカード)などが送れるなど、戦争中の直接会話は基本出来ないような仕様となっている。連盟のデメリットはそこにある。
それゆえ、同じエリア内であれば制限付きの会話ができるのである。
中には外部VCを使用をしているギルドもあるが、発覚すればBAN対象となり、酷い場合は永久にアカウントBAN、永BANが適用されるほど厳しい。より実践向きであるため逆にこれが醍醐味でもある。
中世背景にシルバーの重さを0にするというちぐはぐな部分を採用を検討するとか、不便さを変えていくという点ではゲーム内で影響が少ない改変、アップデートはちょこちょこされている。
ここでVCが戦争時にも開放されるとおそらく世界のパワーバランスが崩れてしまうため、運営は踏み込めないのであろう。
「マスター、音が近くないですか?」
「ん?そうだな…?」
「あ!あれ!あれをみてください!!」
というと、物見のプレイヤーがドリアスのいる位置から西側に砂煙が舞っているのが確認できた。
「あそこで戦闘が行われていますよ!?」というと、ドリアスに木々の間から覗かせた。
「くそっ!!」というとドリアスは舌打ちをした。
「ここにいるやつらは遊んでいるわけじゃねーのに…!!さっさと合図をよこせってんだ!!」
すると側近の者がいう。
「我々はまだ動けないのですか?」
「ここで我々の感情で動けば勝てるものも勝てなくなる!今は我慢だ!エリクサーなどのカウント更新怠るなよ!」
ドリアスはまだ動けず、フラストレーションを蓄積するだけであった。
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~関所町パスガ・天然外壁~
「セイメイさん!前線押されています!!このままだと!!??」
クリスが喚いている。
「わかっている!!」
「クリス!!後方にいけ!!兄貴の手伝いしてこい!!」
「セイメイさんはどうするんですか!!??」
「あとでいく!!早くいけ!!」
クリスは不満顔で兄アイオリアの元へ馬を走らせた。
ベルスが戻ってきた。戦況は芳しくないとの事だ。
「さて、セイメイ殿、ここでの選択を誤ってはいけませんぞ!フォルツァとアイオリアとファウスト両名が健闘しているため、バックアタックは辛うじて防いでいるが、相手はこの挟撃は偶然の発生だと思っているだろう」
「なぜだ?」と俺が問いかけると、ベルスは笑顔でいう
「“あのエウロパ”が足並みを揃えて攻めてくる基本の戦いを崩してこのような伏兵を用いるということは、こちらが予想以上の戦果を積み重ねてきているということだとわかります。今まで戦ってきた経験上、このような動きは未だかつてなかったのです」
「なるほど…。あ!!!おい!ベルスさん!俺らはいったん下がるぞ!?」
「撤退という選択はリスクが有りますが?」
「それをわざとやるんだよッッ!!」
「といいますと?」
「わが軍は挟撃を受けており、前にいくか後ろに引くか二つに一つだ。この場合、後顧の憂いを立たなくては前にはすすめん。ということは、後方の伏兵を殲滅した場合、相手は死に戻りで我々の前線に加わる。つまり、猛攻が始まる。そこで我々の切り札中の切り札、ドリアスさんにパスガ侵攻をさせる」
「ほう、ここから見えますかね?」
「見えなくても音を3発響かせればいい。ここでレオナルドの猛攻をパスガ城門へ一気に叩き込む。十分のオーラゲージも溜まっているだろうから一気に吐き出して、城門突破をやっていただこう」
「そううまくいきますか?」
「いくいかないじゃない。ドリアスさんも相当イライラしているはずです。その感情を城門に充てて頂ければお釣りがくる」
「仲間の感情まであなたはコントロールするとか…食えないお方だ」
「ははは。まずは前線のソロモンやセルさん前線で耐えている仲間に伝令をしてもらおう。ベルスさん、いってきてくれないか?」
「まったく、人使いが荒いときはとことん荒いですね」
「まあ、今はピンチですからね。ピンチをチャンスに変えてこそ、盟主だと思いますよ?」
「わかりました。すぐ引けばよろしいですか?」
「いや、わざと負けて来てください。その際に、信号弾を三発。それは我々も目安になりますからね」
「わかりました。引きながら戦うというのも難しいですね」
「相手を硬直を取っていけばいいです。キルの欲望に負けなければ相手をキレイに釣れます」
「では、ご武運を!」というとベルスは馬に跨り、最前線へと向かった。
セイメイは残りの兵力を後方にぶつける指揮をとり、後方へと駒を戻した。
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ライトニング・バースト!!!
アイオリアは戦場で飛び回っていた。
「お兄ちゃん!!※プロテクトディフェンダー!かけるよ!??」
※プロテクトディフェンダー…ディフェンダーの上位互換。ヴァルキリーと聖騎士が使える。
ディフェンダーは騎士のみ。
「ああ!すまんな!」
「アイオリア!受け取れ!」
クイックアクセル!!
アイオリアは片手で受け取り、次の敵へ駆け抜ける。
「てんくぅーーー!!!かかとおとし!!!」
敵陣に切り込み、一気に地面を割り、範囲内の敵をこかす。
ファウストが倒れた敵の範囲全体に魔法を放つ!
燃盛厄災!!!!
辺り一面の敵を薙ぎ払った。
「危ない!!」とクリスがいうと、アイオリアが籠手で相手の攻撃を受け流しファウストを庇った。
すかさず、スピアで攻撃をする。
ライトニングスラスト!!!!!!!
そこにいるすべてのものを光で覆った。
このエフェクトはまだ修正されていない。
光が収まるとあらかた倒し終わっていた。
「相変わらず、ヴァルキリーのそのスキルは目くらましには最適ですね」
ファウストはメガネを輝かせていう。
「まったく、早く修正してほしいものだな」
アイオリアがクリスをみると、クリスは膨れていた。
「じゃあ助けなければ良かったですか?」
ふてくされながら言い返してた。
「このスキル、早く修正してほしいものだな」
繰り返しファウストも少し茶化して一息ついた瞬間、後ろから黒い影がせまってきた。
黒い影はアイオリアの背中を攻撃し、一気にコンボを叩き込む。
アイオリアは致命傷となり、戦闘不能。ファウストが慌ててヒールオブエスペランサを唱えた。
「私としたことが・・・」
「愚か者!今回復させる!!だまっとれ!!」
ファウストはアイオリアを諫めながら回復させている。
黒い影の正体はあのアポカリプスの一員だった。
マントにアポカリプスの紋章!!七つの目の羊。これが奴らのトレードマーク。この世界の混沌をさせるギルドとして立ち上げられた。ヨハネの黙示録、新約聖書の一書に語られているものでエヴァンゲリオンや旧約聖書のオカルトネタを好み、殺戮の限りを愛するPKギルドだ。無論、規約違反ではないのだが、このロゴは畏怖するものがある。
俺はこいつらとの戦いは避けられないことをのちに知る事となる。
「くくく・・・」
不敵な笑みを浮かべている。
「俺の名はアスリア、アサシンだ。弱い、弱すぎる。あのアイオリアがこの程度とはな。所詮、我らの敵ではない」
アスリアはアイオリア達に向かっていった。
クリスは二人を庇う様に前に出て盾を翳した。
「そんな盾なんぞ俺には無意味」
一歩踏み込んだだけで、クリスの裏を取り一撃を与えまた姿を消した。アイオリアが攻撃を打つもそれをも躱して、また目の前に現れる。
クリスは膝をつきアイオリア達を庇う。
「そんなんじゃ、“お兄ちゃん”達を庇えないぞ?ひゃははははっはははは!!!」
禍々しく高笑いしていた。
「馬鹿にするなぁ!!!」
クリスがいうと、魔法陣を呼び出す。
「やめろ!!クリス!!」
アイオリアが叫ぶがクリスはなりふり構わず槍を突き出した。
ジャスティス・エンスラァァァーー!!!!!!
閃光の如き一閃が戦場を走らせた。
しかしクリスの目の前にはアスリアはいなかった。
「しまった!!」とクリスは後ろを見ると
「お遊びはここまでだ!!」とアスリアは小刀でクリス背中をめがけて突き刺そうとすると、どこからともなく銀色に輝く刃物が小刀をはじく。
「うう……」
クリスは薄っすらと目を開くとそこには青龍偃月刀を持ったセイメイが立っていたのだった。
「おいおい。そんなんで俺を守れるのか?ったく。」
俺はクリスの顔を覗き込むようにいった。
「せ、セイメイさん・・・」
クリスは今にも泣きそうな声を出していた。
「さて、アポカリプスよ。俺らにどうも因縁をつけたいらしいな。俺はPvPならそこそこやれるぞ?」
「待っていたぞ!セイメイ!!いくぞ!!!」
アスリアは俺にめがけて小刀を投げつけてきた。俺はフンと躱すと「遅い!!」といって身をキリモミにして俺に攻撃を仕掛けた。
俺はすかさず左手で鯉口を開け鎺出して刀を抜き、刃先で攻撃を受けた。
相手の攻撃を受け流し青龍偃月刀をしまい、刀に切り替えた。
「さすがだな!これで終わりだ!!」
アスリアはいうと、俺に攻撃を仕掛けたと思いきや目の前で消えた。
「マ、マスター!!後ろです!!」
ファウストが叫ぶと俺は振り向きざまに刀の棟で攻撃を受けた。
アスリアは退くことなく、連撃を打つ。
幾多の攻撃を何合か受けたあと、俺は距離を取り、刀を鞘に戻した。
「ああん??てめー!!居合とかふざけた大技狙ってるんじゃねーぞ!!コルァ!!」
アスリアは激高し俺にめがけて攻撃してきた。
俺は“心眼の悟り”を使用し、瞬きの間に相手の攻撃をすり抜け、相手の裏に回り、一瞬の太刀を浴びせる。
心眼の悟り…一瞬無敵 5フレームのみ無敵 (1フレームが1/60秒)
剣聖神道流 “ 絶影 ”
アスリアはその場に倒れ込んだ。
「ぐは!!」
「居合は先制攻撃。大技じゃないぞ?」
アスリアに刀の切っ先を向けてトドメを狙う。
「アポカリプスは…次回からおめーらを狙うことにするわ…。いい獲物だ」
俺は無言で瀕死のアスリアの胸を刺して絶命させた。
アスリアは粒子化していく。
刀に付いた血を拭い、俺は何とも言えない気持ちで倒した。
そして、全てを終えたセイメイにクリスが近づいてくる。
「マスター、ありがとうございます。助けてもらって……」
「ああ、大丈夫だよ。まさかアイオリアがやられるとは思ってもみなかった」
回復をした、アイオリアが俺に謝罪してくる。
「申し訳ありません。このアイオリア!不徳の致すところ!!」
「ああ、そうだ。不徳どころか信頼すらヒビが入るわ」
「く……」
「それより、ファウスト大丈夫だったか?」
「ええ、僕はどうとでもなるのでいいのですが、誰も動けなくて……」
「強襲を受けた。ということか」
「はい。僕としたことが、彼等を救うことができなかった。そんな中、セイメイさんの救出劇、見事でした」
「一瞬のインパクトを与えられると、人は硬直してすべての出来事があっという間に過ぎてしまう。よくある話だ」
「如何なる時も気を緩めてはいけないと学べた瞬間ですね」
「まぁみんな無事で何よりだ。それより、今から前線が下がってくる」
「詳しく……」
俺の考えを皆に伝え前線と合流ののち、押し返す準備を行った。





