第35話「乱高下(後編)」
~パスガとウルススを結ぶ山道~
ソロモン達は歩を進めていると最前線に至る。
戦場は魑魅魍魎の如く、人と召喚獣、魔法弾が飛び交っている。
ソロモン達は馬を降り、ユーグとカルディアを先頭にサイドから駆け抜けて前線を崩す策を考えた。
ソロモンとピピンは殿を務めるため馬に跨り切り込むカルディア達を支援することになった。
カルディアが大声で叫ぶ!
「このカルディアがきた!!者ども!存分に押し返せ!!」というと残存していた仲間は立ち上がり、死力を振り絞った。カルディアは大斧を振り回し、召喚獣を詠んでいる魔術師や魔導士へ強襲する。ユーグは魔剣を振り回してヴァルキリーや騎士達と刃をかち合わせている。
「おい!!そのへっぴり腰はなんだ!!?」
「剣が言う事を聞かないんです!!」
「あちゃ~!」とピピンは目を反らした。
「手のかかる子供じゃなぁ!」というと、ソロモンはクイックタイムとコンセントレーションを投げる。
ユーグに補助魔法が当たると魔剣は少し刀身が少し太くなったように見えた。
「うわああああ!!」とユーグは剣を一旦、八相の構えに戻す。
ふぅ……ふぅ……
ユーグからの息は白く、眼は赤く染まる。
「フフフ…きたか。悪夢をみせるんだ。ユーグ……!!」
カルディアは敵を叩き斬りながらユーグを見つめていた。
ユーグの周りには黒い霧が薄っすらと発生し始めた。
カルディアが叫ぶ。
「ピピン今だ!!!」
後方から矢を放つピピンが、矢筒から蟇目鏑矢を取り出し、弦を思いっ切り引き、ユーグの頭上高く打ち抜く。
ヒューーーーーーォン!!
ユーグは合図を受けたように剣を肩に担ぎ、一気に近くの敵プレイヤーに斬りかかる。
一瞬にして倒すとまたその近くのプレイヤーに斬りかかり、倒し、また斬りかかり倒す。
「おいおい、あいつあんな強かったっけ?」
ソロモンが引きつって笑っている。
「いや、あいつは今、バーサクモードに入っているだけだ。見てみろ。あいつ、魔剣とワルツしてやがる!!」
ピピンはユーグを見ていた。
荒れ狂うユーグの周りを見て、ピピンはユーグに斬りかかりプレイヤーや、魔法を打とうとしている魔導士へ弓を放っている。
「へへん!俺様の後方支援は他の弓屋さんと一味違うぜ??」
と、いいながら物陰から物陰へ迅速に移動し、バックアップの徹底を行なっている。また、ユーグが暴れている事のフォーカスを釘付けにしているため、カルディアの裏取りが凄まじく刺さり、敵の陣形を崩していく。
ソロモンは本を取り出して何かを呪文を唱えている。
クロノが近づいてきて、報告が入る。
「ソロモン隊長!砲撃やみました!敵陣は崩壊寸前、突撃命令を!」
「ばか!今話しかけんな!」
「あ、すいません!」
「ワシの方はいい!ミラさんとパレンテさんはどこいる??」
「北側の戦線です!中央はミラさんでもっています!」
「わかった!クロノ!隊長命令だ!このまま南側を俺らが突破口を開く!と伝えてきてくれ!」
「わかりました!…ご、ご武運を!」というと、クロノは足早に中央戦線へ走って行った。
「隊長というのはなんか背中が痒くなる言い方だな」とつぶやいた。
まだユーグは暴れている。そんな中、アルファやシュラなど格闘職が地割れや遠距離から魔法弾を気功弾で相殺するなど、地味に潰していっており、徐々に戦線はあがっていき、中央戦線と合流しつつある。
北側のミラも押し返し始めていた。
また、南側は下山してきた、セル達と合流したこともあり南側のラインは完全に制圧した。
ソロモンはユーグに声をかける。
「おい、いくぞ。」
「…………」
「どうした!?」
「もう……動かないです」
「ああ??」
「持久力と…スタミナが……」
「ガス欠か……」
「脳みそアドレナリン出すぎて必死に戦ってました!」
「歩けるか?」
「歩けますけど、今襲われたら即死です……」
「35キル、死に戻りなしでこの数、文句なしだ」
「は、はい。とりあえず、一息つきたいです。」
「バーカ・・・そんな暇ねーぞ」
とい言い終えた時、突然サラマンダーが火を吐いてきた。
ソロモンはユーグを自分の後ろに下がらせてチャージ済みの魔法陣を炎に向けてダメージを防いだ。
「くくく……!攻撃が止んだ後が一番襲われやすいからな。魔法陣を出しておいてよかったワイ!」
サラマンダーが召喚者の元に戻る。そこに立っていたのは、あのマリアだった。
「お久しぶり。あら?今回はユーグ君はやられなかったのね?フフフ」
「おい、今回は戦場だ。遠慮なくいくぞぃ?」
「まってくれ!ソロモンさん!」
「お前さんは今無理じゃろ?」
「俺が友好的な態度を取っていたのに、不意打ちでPKしてきたんだ。その借りは返させてもらいますよ!!」
「ユーグ、作戦が先だ。かまうな!」
「ソロモンさん、悪いけど今回だけはセイメイさんに怒られる覚悟でコイツを倒します。」
「あのなぁ、ゆー…」といいかけたところにセルが近寄る。
「なんだぁ?ユーグとやら、復讐してぇのか??ああ??」
「セルさん……」
「おいソロモン、こいつ俺に貸せや。兵隊なら俺のとこのやつ数名連れてけ。おれぁこういう場面大好きなんだわ。なあ?いいだろ??」
ソロモンは頭を掻いていた
「セイメイにいっておけ!!こういう場面ならお前は戦うだろ?って」
「わーったよ!!聞かなくても戦うよ。マスターはww」
「ははは!!!それで盟主様だもんなあ!!あいつも人だってことだな!!」
「とりあえず、ユーグの身はセルさん、あなたに任せます。ワシは作戦を遂行する義務がある。」
「ああ、パレンテとミラにいっておけ!!腰抜かすのはお前らだけじゃねーんだってな!!」
「了解した。ではご武運を!ユーグもな!」と言いながらヒールをかけた。
すぐさま合流したセル側近を数名連れて北側の援軍に向かった。
「セルさん…ありが……」
「勘違いすんじゃねー!このサシの勝負、邪魔が入らない様にするだけだ。俺らがこの決闘モドキを支配させてもらう。」
続けてマリアにセルがいう。
「おいそこのksビッチ!ここのエリアは連盟の俺らのエリアだ、生きて帰りたいならユーグを倒せ。なぁに簡単だろ?それともおトモのやつらが援軍にくると思っているのか?」
「はあ?さっきから私を差し置いて何をいってらっしゃるの?オトモダチはすぐそこにいますわよ♪」
「ああ、こいつらのことか?」
というとセルは討伐リストを見せた。
「おまえもみれるんだろ?てめーんとこメンバーリスト、今もう既に死に戻りでパスガの城壁内にいるんじゃねーのか?」
リストを見るや否やマリアの表情が変わる。
「先ほど下山途中で固まっていたから俺んとこのギルドで殲滅したわ。お前さんごときのタマが伏兵なんぞ10年早ぇんだよ!」
「このクソ野郎が!!」
マリアが本性をあらわした。
「そうだよ。そういうのを俺ぁ楽しみにしてたんだよぉなぁ!おい!トトカマってないでさっさとやりあってくんねーかな??」
「言われんでもやるわ!!ボケがぁ!!」マリアは人格が変わったかのように口調が変化した。
「おい、ユーグ。ヘコヘコしていた過去の自分と決別してこいや。」といい、背中をドンと叩いた。
「はい、わかりました。恩にきます」
「なあ、マリアさん、アンタは今、エウロパなのか?」
「当たり前でしょ?“名門エウロパ”に入ったのですからねぇ。どこぞの有象無象のギルドに所属するより、よっぽど快適だわ。」
「マスターを・・・ギルドを侮辱することだけは俺は許さねえ!!!」
ユーグのレーバテインの炎が爆散する。
「闇落ち職なら私の方が上だわ?たかが脳筋職に負けるわけがないわ!」
「言わせておけば・・・!!ブッ殺してやる!!!」
「お、なんだ?」
カルディアが石や木の瓦礫の中から煙をかき分けて顔を覗かせ近づいた。
「カルディアか、面白れぇのがみれるぞ?くくく・・・!!」
セルが不敵に笑みを浮かべていた。
ユーグは、雪辱を果たすべく、ポーションを飲み、マリアとの戦いに挑むのだった。





