第34話「乱高下(前編)」
~パスガへ繋がる裏山道~
遠くで山間部ならではの残響が、ドリアス達には聞こえてきている。
「始まっているな……」
ふと近くでドンドンと乾いた音が聞こえ、空を見上げると黄色い煙幕が上がっている。
「セルは黄色信号か!!」
「どうしたんですか?」
側近が遠くを見ながら近づき聞く。
「“本陣営と合流する”という合図だ」
「あの花火みたいなやつそんなんだったですか!」
「そうだ。二人で取り決めてたんだよ。情報共有して万が一、向こうに洩れたら面倒だからな。まぁ…我々はバレちゃいけねーんだよ!」と、背中を叩いた。
―――しかも、照明弾で合図ってことは、追い詰められているってことか…。つまり、『こちらの気づいていない』ということもとれるな……。
ドリアスは全体に声をかけた。
「おし、パスガの街の右側の山に潜伏するぞ!!」
ドリアス達は粛々とけもの道を進んでいくのであった。
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~パスガとウルススを結ぶ山道~
敵指揮官陣営を爆撃に成功した我々七星連盟は、相手の一瞬のスキをつき戦線を押し上げた。
しかし、未だに敵砲台の位置が後方にあり、決め手に欠ける攻勢をしていた。
「報告!敵砲台の影響でうまくラインを押し上げられません!」
「むう。大体の位置はわかっているのだが、無駄に山岳地帯に兵を割けば、その分、層が薄くなりそこから突破されて押し返されるしなぁ」
俺はむうと、頭を擡げた。
「セイメイさん、ここらで私がでましょうか?」とファウストがいう。
「いや、ここで君にデスペナルティのカウントを稼がせるわけにもいかない」
「味方のギルメン達はもうかなりデスペナルティを課しています。我々の出番では?」
「もうそろそろであるが、それはパスガ城壁を破るとき使いたい」
「では、アイオリアに行かせてみては?」というとアイオリアは席を立つと瞬時に俺のそばにくる。
「マスター!我が拳に勅命を!!」といい、跪く。
「お前の出番はねーよ」
「な、なんですと!!??」というと、肩を落とした。
「では、だれがこの突破口を??」ファウストが聞き返す
「フフフ…!!おーいユーグ!ソロモン!」
二人はえっ?とした顔で俺らをみた。
「え?自分ですか?」
「フフフ!!腕が成るワイのぅ!!」
ソロモンは顎髭をさすりながらにやついていた。
「ユーグ、ソロモンに告ぐ!一個小隊を用いて、敵戦を突破せよ!」
ベルスがほほうといい、俺に進言する。
「中々、手札の切り方が安パイですね」
「まあ、ユーグは魔剣を有している。ソロモンのバックアップと詠唱タイミングは俺がよく知っている。彼らに任せてみようと思っていた」
「なるほど!お手並み拝見ですかな?」とベルスがいっていると…
「おい!!俺らも混ぜろよ!」
意気揚々とカルディアとピピンが近寄ってきた。
「前線がこんだけ暴れてくれてるんだ。俺らがいけば、吹っ飛ばせるぜ!」
「マスター、俺らを舐めてもらちゃ困るぜ!?」
「ユーグを育てた師匠としては俺らもいかなくちゃなぁ!?ユーグ??」
「え…?はい…(いつから自分の師匠になったんだ??)」
「ユーグだけじゃ心細いだろうしなぁ。うちの爺様はw」
「誰が耄碌爺ぃじゃあ!!」とソロモンが二人に拳を振りかざして叫ぶ
「そこまでいってなくねー??」
カルディアが笑いながらいう。
「おおうwじゃあ、二人も付き添ってくれ。君らの扱い方がよくわからん。ユーグを頼む」
「おう、任せろや。即死すんなよ!?ユーグ!」
肩を回しながらカルディアが嫌味をいう。
「俺だって出落ちしたくねーわ!!」
「茶番はここまでだ。このままでは消耗戦になる。この地点での消耗戦は我々が不利になる。まずは楔を指して、流れを作ってくれ」
「了解!でも一個小隊ってどいつがくるんだ?」
カルディアが聞き返してきた。
「今俺らに所属するメンバーがいるだろ?」
俺は名前を読み上げて、集合呼び寄せた。
アルファ 柔術士
イモリ アサシン
ローレン 魔術師
カルカ ウォーリア
クロノ 騎士
シュラ 格闘家
セルベンティ ウィッチ
オムニア アーチャー
以上8名だ。
「あー彼らか(寄せ集めじゃねーかよ!)」とカルディアがボソッといった。
「こいつらはマスターの弾除けでもやればいいんじゃねーのか?」
ピピンが相変わらず皮肉をいう。
「弾除けはアイオリア一人でいいよ」
「だったらアイオリアくれよ!」
「アイオリアは戦略上、切り札だからww」
「あーそっかぁ…そうだけどよぉ……」
「彼らも活躍してもらわなければ、勝ち筋がない。ソロモンを隊長とし切り崩してくれ!」
「あいよ、マスター。まずはカルディアとユーグの先制がモノをいう。頼むぜ。お二人さん」
ソロモンがいう。
「俺らは大丈夫だけど、ユーグがなぁ……」
カルディアがチラッとユーグをみる。
「大丈夫ですよ!カルディアさん!魔剣の初斬りですけどwwww」
「あのなぁ…」
カルディアは苦笑いした。
「まあ…、威力だけは!強いから。威力だけは!」
ピピンがのっかる。
「使用者に問題ってことじゃな。」
ソロモンがユーグをチラッとみた。
「みんなしていじめるんだから困っちゃいますよ!マスター!なんとかしてよー!」
俺にユーグが泣きついてきた。
「じゃあ結果を残してこい。うちとしても今日が初陣だ。良い戦果を期待する!」
俺は肩を叩いて背中を押した。
「まあ、ユーグですらこんな感じだ。皆の衆、気負いするなよ。気負いするのはユーグで十分だ!いくぞ!!」
『おう!!』というとソロモンは馬に跨り、先頭を切って出陣した。
最後尾にいたユーグに俺がいう。
「みんなお前に期待してるんだよ。俺も期待している。ここまで培ってきた経験と修行の成果を肌で感じてこい!」
しょげていたユーグは少し表情を取り戻してきた。
「わかりました。頑張ります!」
「おう、しっかりオーラアタック打ってこい。一撃が全てを変える事はないが、流れは作れる」
「はい!いってきます!」
「おーい!気張りすぎて、即落ちすんなよぉ~!!」
ユーグは前線に向けて馬を飛ばしていった。
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~グレイアン山脈北高山地帯~
スカルド達は砲撃成功に乗じて裏に回りつつあった。
そして、目的の敵砲台のエリアに入ったようだ。
相手もそんなに馬鹿じゃない。幾人かが地形鮮明で我々を捉えようとしている。
結華が進言する。
「私が囮になって敵の目を反らしましょうか?」
「一人でネズミ行動を取っても複数名に囲まれて無駄死にするだけだぞ」
「それでも何人かはひっぱれますよね?」
「私たちは砲撃の阻止、そして砲台の破壊です。ここでしくじるわけにはいかないのですよ?」
「では、数名でいきましょう。そこで迂回ルートを取り、合流します」
「そこで挟撃されては意味がありません」
「では、どのように致しますか?」
スカルドはゆっくりと地面に戦術を書いて説明した。
「まずは発射後を狙い、全員で強襲。その後、2:1もしくは3:1で各個撃破。ここで枚数(人数)が勝れば五分に持ち込める。まずこれが大事です。生憎、こちら側は少数なのでこれがまず第一条件となる。その後、破壊、以後撤退をするのです」
「そんな時間がありますか?」
唯華は難色を示した。
「あるかじゃないのよ。作るのよ。」
スカルドは唯華に告げた。
「作戦を伝えます。唯華、ユリシア、エレナはそれぞれ一人ずつ連れてかたまり、ツーマンセルで攻撃してください。行動は次の発射のあと、相手になるべくバレない様に近づき、一気にオーラアタックを叩き込みましょう。時間的にもうすぐゲージが溜まる事です」
各々が戦闘準備を程なくして次の発射を待つ。じりじりと足音を殺し砲台の横側を限界ギリギリまで迫る。
ドーーーーーーン
スカルドが手をあげ、素早く降ろし合図をすると一斉に攻撃をしかけた。
スカルドは両手を前に翳し、味方全体を範囲に捉えたところで、詠唱を省略し精霊陣を出すと彼らに霧を纏わせた。
ハイエルフは、詠唱を省略を行なえ、尚且つ月を司る女神のエネルギーを宿し、特に霧を発生させることが得意とする。霧がなぜ得意かというと妖精を霧で護るという観点でこのスキルは存在しており、これを戦いにおいて使用した場合、かなり厄介である。
無論、平地では3カウントのみの範囲が限定されているというコアなスキルでもあるが、一見のただの霧でも3カウントもあればPvPでの先制の優位性はかなり高い。
3カウントという短さはナーフ済みである。稼働当初、8カウントという長さだったのだが、平地でもこのカウントでは強すぎるという声があったため、今はこの3カウントという定義に落ち着いている。
また霧はCTが2分という長いカウントではあるが、初動の動きとしてGvG戦においてこの霧は目視でないと敵影を発見できない。そのため、アサシンなどのトリッキー職は『黒い影』というスキルを使用せず、更に攻撃するまでの絶対的先制攻撃できるという優位性をさらに増し、コンボが終わってからまた『黒い影』で身を隠す事が出来るため、連携技としても長いCTを有しているスキルだが、かなり脅威なスキルと変貌を遂げるのである。
静かに森を抜け砲台を目掛けて飛びかかる様に突撃をした。
動揺した砲兵達は瞬く間に倒されていき、残りの数人を相手にすることとなったが、枚数勝ちをしているため程なく討伐が完了し、砲台が丸裸になった。
幾人かの死亡は確認されたが、残存兵力としては十分だった。
「よし!今のうちに破壊しましょう!」
スカルドが声をかけ、破壊しようとしたとき、唯華の悲鳴が聞こえてきた。
「マスター!逃げてください!!」
唯華はそのまま地面に倒れ込んでしまった。
その後ろには、黒い鎧を纏い大剣を抜いて立っている暗黒騎士がいた。
「なんであなたが!?」
「・・・・・」
「くっ・・・」
暗黒騎士は瞬く間にPROUDのメンバーを倒していく。
残るはスカルドと2人、そして暗黒騎士が目の前に立ち塞がるのであった。
「暗黒騎士様が、ここにいるなんて誤算でしたわ」
スカルドは左に精霊陣を纏っていう。
「我ト戦エ・・・・イザ、尋常ニ・・・」というと暗黒騎士は大剣を背負い、斬りかかってくる。
「スカルドさん!お逃げください!!」
ギルメン達はスカルドを庇う様に暗黒騎士に討たれていく。
「中々の手練れでらっしゃいますね。私はハイエルフですよ。精霊の力を存分に味わいなさいッッ!」
というと、精霊陣を前に出し、スキルを発動させた。
精神混乱!
しかし、暗黒騎士は無効化にし、飛び込むように走り込んでくる。
スカルドは続けて胸に手を当ててさらに、スキルを打つ!
姿隠!
間一髪で大剣の攻撃を躱し、姿を消す。
暗黒騎士は回りを見渡す。
背中を取ったスカルドは 大木精霊の緊縛を唱えた!
あたりの精霊のウィスプが結集・具現化し、木の精霊は地面を叩き、地響きを起こす。暗黒騎士をスタンさせ足元から芽吹き、足元から絡みつくように成長をし暗黒騎士に絡みつくように木へと変化した。
暗黒騎士は身動きが取れない。
スカルドが口を開く。
「まさか、あなたと出会うとはね。元気でらした?私はあなたを倒すためにハイエルフになってギルドもマスターになり、成長したわ。ここまでこれたのはあなたのおかげかもあるけどね……」
と、少し感傷に浸っていた。しかし、すぐにトドメを指しにいった。
「ここも戦場の習わしよ。お覚悟を!」というと、スカルドは手に精霊剣を呼び出し、斬りかかる。
暗黒騎士は一枚上手だった。
縛られた四肢に巻き付いた枝を引きちぎり、大剣を振りかざして斬りかかった。
スカルドはその剣を防ぐように剣を盾にしたが、剣を割り、大剣は肩に食い込み血を流していた。
口からは血を吐き、暗黒騎士を睨むように絶命した。
暗黒騎士は死に戻りする粒子のスカルドを見つめ、大剣についた血を振り払い納刀した。
そして、森の中へ姿を消していったのだった。





