第33話「前哨戦(後編)」
~グレイアン山脈北高山地帯~
スカルド率いる山岳部隊が交戦状態を確認していた。
「始まったわね。ぐずぐずしてられないよ!敵の砲兵部隊を探すのよ!」
その後方には、リフェラ率いる砲兵隊がいた。
「シリアン、あなたはまだ入ったばかりよね?戦いは初めて?」
「はい、そうです。でもわくわくしてます」
「でも、だめだぞ?即死してしまうレベルだ。今は砲台を押す事だけを考えるんだ」
「わかりました」
ローズが声をかける。
「リフェラさん、リフェラさんとルボランさんは大役を熟したのに、副隊長昇進はしなかったのですか?」
「ああ、別に昇格したくてやっているわけじゃないしね。報酬はそれなりにしっかりもらえたよ?」
「そうなんですか。てっきり昇格したもんだと思いました」
「昇格すれば、定期的にもらえるお金がベースアップされるけど、それ欲しさでやったわけじゃないからねぇw」
「まぁいつか報われるさw」と話を終わらせた。
結華が何かを発見する。
「敵指揮官の後衛陣と思われる陣営を発見!」
スカルドが目を凝らして確認する。
「いたねぇ。あそこか…」
リフェラを指で呼びつける。
「リフェラ、あそこへの着弾を狙え。ここからだと勾配がある。うまく当ててね」
「計算方法は出回っているの計算式でいいのですか?」
「そうだよ。あの計算式はほぼどの大砲も共通されている」
「わかりました。狙ってみます!」
「その間、後ろに回りつつ、砲台潰しの小隊を倒す。あなたたちは、3発ずつ後ろに後退。いいわね?」
「スカルドさんたちが孤立してしまいます!」
「お生憎様、その先のパスガへ偵察いってくるわ」
「貴重なデスペナルティが重くなってしまいますよ!!」
「大丈夫。PROUDはそんなヤワじゃないわ」
「そうでしたね……。要らぬ心配でした」
「フフフ……。気持ちは受け取ったわ。あなたも死なないようにね。あと、砲弾はまず手前のところから撃つといいわよ?」
「え?」
「スカルドさん、いきましょう!」と結華が声掛けをしてきた。
「あとで、教えるわ。リフェラさん、ご武運を」
「スカルドさんも」
リフェラは、敵前線の陣営に標準偏差撃ちをするため、角度を少し抑えて撃つことにした。
スカルドの背中が見えなくなってから撃つようにした。
リフェラはアニマルに声をかけた。
「ギルマスと離れ離れでさみしいか?」
「いや、俺はこの砲台で戦況を変える役目がある」
「そうだね。やろうか」
「リフェラ隊長、合図をくれ。俺があいつらのドテッ腹に風穴開けてやる!!」
「ああ、少し待ってて」
「この角度だ。そう、この角度だ。20カウントのウェイトのあと、角度5上げて」
「よし、うてーー!!」
ドーーーーーーン!!!
砲弾は放物線を描き、敵陣営手前に着弾する。
敵は反対側の山を見てわちゃわちゃしている。
―――ああ、こういうことか。
「角度5あげてもう一度、発射ね」
「あいよ!!」
「角度5あげ、発射用意!…完了!!」
「うてーー!!!!」
弾は見事に敵陣営に直撃し何人か倒れている。
「よし、後退!一定距離下がったら等間隔で角度を上げて発射!」
リフェラ達は少しずつ森の中へと消えていくのだった。
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~パスガとウルススを結ぶ山道~
ミラとパレンテは前線を立て直す事で手いっぱいになっていた。
「くっそ敵が山のように攻めてきやがる!!」
「ミラ、本陣営に下がるかい?」
「セイメイさんにライン戦出来ませんでした、なんて言えるか?俺には出来ねーよ」
「そうだね。最後になるかもしれないからメテオでも読唱しようかな?」
「あんなの拮抗してて、動かないときに有効だけど、その分近づかれたら殺してくださいっていっているような魔法だろ?」
「でも、それくらいしないと……」
と手をこまねいていると、前衛のギルメンが連絡が入る。
「ミラさん、パレンテさん!敵後衛陣営に砲弾が着弾!!」
「なに!?」
「味方砲兵隊の奇襲攻撃成功とのこと!」
「まったく!!どこから打ってるんだ!?」
「おい!!ラインつくれ!押し返すぞ!!」
メンバーが足早にラインを作り、足早に陣を整えて押し上げていく
「パレンテ!!メテオの前に一気にヒールオブエスペランサーの用意頼むわ!」
馬に跨り、叫ぶ。
「いきなりそれ使うのきついんだぞ!!」
「ははは!冗談だ!砲兵の仲間に感謝するぜ!!」
「ったく!」
「おい!!走れ!!!いくぞ!!」
ミラ達は馬に跨り、再度攻撃をしかけていく。
パレンテはセイメイ達に伝令を送る。
【我押シ返シセリ、歩ヲススメヨ】
後退するエウロパを押し返すミラ達だった。
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~ウルスス本陣営~
「戦況は??」
アイオリアは地図を見ながら、情報を求めていた。
「報告!」
「言え!!」
「初動は一時後退を余儀なくされましたが、砲兵隊の活躍により、敵後方陣営に砲撃成功。エウロパ勢は一時後退とのこと!」
「厳しい戦いだな」
俺はうーんと眉間に皺を寄せた。
その時、伝令が続いて届く。
【我押シ返シセリ、歩ヲススメヨ】
「ほう。電報打つ余裕があるのか」
ファウストがつぶやいた。
「アイオリア、俺らも歩を進めるぞ?」
俺は立上り、馬に跨る。
「御意!!陣営を最小限度に設備を残し、陣を前に進めます」
「ベルスさん、前に出ましょう」
「そうですね!いきましょう!」
「ファウストさん、アイオリア、先にいくぞ」
「総司令官が動くのはどうなのでしょうか?」
ファウストが俺を諌めてきた。
「将棋やチェスは陣形で動くことがあるが、実際は俺が近くにいることで味方士気もあがるだろ?今は少しそれを使おう」
「わかりました。私もいきます」
「ああ、一緒にいこう。アイオリア。お前は殿を頼む」
「仰せのままに」
この時、既にDG達の伏兵探しをされていて一小隊を壊滅されていたことを知る由もなかった。
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~グレイアン山脈南高山地帯~
セルが苦戦しているのは、良くも悪くも砲撃によるものだった。
エウロパが大砲潰しの為に一部戦力を割き、山に入ってきたのだ。
嬉しい誤算とともに予想通りといっていいのかもしれないが、DGが泥仕合をすることとなった。
「こんのクソ野郎が!!!」
南側の山岳地帯は霧が発生して、いつどこで敵と遭遇するかわからないため、横一列にローラーするようにクリアリングをするようになってしまっている。
「おい!南側に敵はいるか?」
「まだいません!」
「北側は??」
「現在交戦中です!」
「くそが!今行く!!」
なんとか敵を跳ね返していったが、死に戻りがルガールか、ウルスス、本陣営にいってしまうため、セルのところに戻るまで時間がかかる。また、戻ってくればその分だけ相手はレオナルド率いるドリアス達が見つかる可能性がある。なんとか敵の眼をこちらに引き付けておく必要があったのだ。
「無駄に南に戦線を広げればドリアス達が見つかる可能性がある。まったく損な役回りだ!勝った時の褒賞は多めに貰わなきゃ釣り合いとれねーぞ!!」
というとセルは地形鮮明を唱えた。
「んじゃこの兵力!!」
セルの目には複数の小隊がこちらに迫ってきている。
「おうおうおうおう!!!おまえら!!だれでもいいから照明弾焚け!ずらかるぞ!!」
「ええ?いいんですか?」
「バーカ!わざとだよ!!わざと俺らの位置を晒すんだ!」
「い、色は?」
「黄色だ」
「山間だから、時間は稼げる無駄にデスペナルティにおけるウェイトタイムを積み重ねる必要はねーぞ?おい!さっき死んだ奴らとは連絡取れたか?」
「はい!今、向かってきてるそうです!!」
「馬鹿か!?戦線に参加しろと伝えろ!!俺らもあいつらと合流だ!そうすりゃあいつらも下がるか戦線に加わるだろ!これで十分時間は稼いだはずだ!あとは俺らの地点であたふたして、よっこぱらに攻撃してきても、わざと無駄死にして時間短縮で敵本陣営に戻る気だろ?」
「ではいきます!」
ヒュルルルルルーーーーーードンドン!
空高く黄色い煙が複数なった。
こうして、DG率いるセルは前線に加わり、ライン戦の最前線に流れ込むのであった。
ここまで開戦の序章に過ぎなかった。





