第30話「運鈍根(前編)」
~首都ロームレス~
~聖メシアの法王 玉座の間~
≪汝、イーリアスに力を授けよ≫
法王の手にした剣で両肩に剣を交互に掲げられ、最後に剣を返す。
ユーグはゆっくりと起き上がり、儀式の間を去りカルディアとピピンの元に帰る。
「よう、どうだった??」
カルディアがユーグを見つけて話しかける。
「ナマクラの剣で騎士号取得!滑稽じゃな!」
ピピンが口に手を抑えてクスクス笑う。
「いやぁ気まずいっすね~。」
ユーグ苦笑いした。
「バーカ、レーヴァテインなんつー魔剣で騎士号の授与式なんて聞いたことがねーよ。そりゃあ、エラー出たんだから、その辺の駆け出し冒険者が買う剣でやるしかねーだろ??」
「ううぅ……」
「まぁいいじゃねーか!さっさとPKしまくって、闇属性ポイントと適正ポイント貯めて暗黒騎士になろうぜ!」
カルディアがユーグの肩を叩く。
「PKしたくないんだよなぁ……」
「ばーか、おまえ力がほしくないのか?」
ピピンは直轄領区域を出た当たりで振り向きユーグをみていう。
「ほしいけどさぁ、なんかねー……」
「煮え切らんやつだな!」
ピピンがムッとした。
「……過去の暗黒騎士を知っているか?」
カルディアがユーグに話す。
「知るわけないじゃないですかー!」
「過去の大戦で闇と対峙しながら利用した騎士様がいた。そいつの名は『ジョーカー』」
「如何にも!って感じの名前ですねw」
「だって本人は暗黒騎士になりたかったっていっているんだし、由来は「エースキラー」にジョーカーという言葉を選んだらしい。」
「トランプの話ですか?」
「おそらくね。」
「そのジョーカーは、ギルドのエースとしか戦わない。普通は集団戦(GvG)が大半なんだけど、そいつだけは、タイマンでしか、相手のエースを潰さない」
「勝敗は関係なく、ただ、個人戦のみに力を注いだプレイヤーだった」
「この話は、指令室に戻るまでにお話しよう!」
カルディアは馬に跨り、常歩で進める。
ユーグも馬に跨りカルディアの馬の横に並ぶ。
「カルディアさん、それでジョーカーさんはどうなったんですか?」
「各戦場を渡り歩き、魔剣グラムを手にしたあと、どこかのギルドに所属に落ち着き消息不明と聞いている」
「え??SNSとかは??」
「アカウントごと消してプレイヤー名も変えて、どこかに消えたと噂でしか聞いてない」
「ええええ????なにそのカッコイイ消え方!!!」
「消えるのがカッコイイんじゃねーんだよw暗黒騎士でタイマンしてるのがカッコイイんだろうが!!」
ピピンが喚きながらユーグにいう。
「ええ、まぁそうですね……」
「まぁ……暗黒騎士なんざ、クラスとレベルと装備が弱いと話にならないくらい弱い」
「ええええ????だめじゃないですか!!!」
「そう、だけどだな。魔剣を装備した暗黒騎士は特有パッシブスキルが発動する」
「それが、ストライカーでもジャイアントでも止められない!正直きつい!!」
「そうなの?」
ユーグは驚きを隠せなかった。
「まずな、黒い霧が発生し、キャッチが無効化される」
「ええ?」
「そんでもって、遠距離魔法攻撃が無効」
「えええ?」
「チートじゃんか!!!」
「そこで、聖騎士とかヴァルキリーの一部スキルが黒い霧無効化できるから、チートじゃない。」
「PvP特化したのが暗黒騎士だと思えばいい」
「まっ、少なくとも、戦力の一角になることは間違いないぜ!?」
「……ううっ。この剣、誰か交換してくれないかな?www」
「できるけど、トレードの対価が違いすぎる」
「ええ?エクスカリバーよりも??」
「エクスカリバーは正直、万人向けだよ。いわゆる目玉商品みたいな感じ……」
「ひえええ……」
「エクスカリバーは流通数があるし、聖剣ネームバリューでもってみんなもっているような感覚だよね」
「つまり、リミット付きチート武器って感じ」
「それチートじゃないじゃんww」
「分かりやすく表現するとだよ!」
「ああそういうことね」
「ほら丁度いい。着いたぜ!我がギルドマスター様のお通りだ」
議事堂の門をくぐる俺の姿を見て、駆け寄ってきた。
「マスターみて!騎士になったよ!!」
「え?どこが??」
「これ!!マント!!!さらにマントの背中にギルドの紋章!!」
「あーこれマント纏えるようになるのは騎士だけなんか?」
「知らんかったの??」
「あーうん……しってた!」
『ぜってーしらんやろ!!うぉおおい!!!』
三人が俺を見て叫んだ。
「お、俺は今それどころじゃねーんだよ!!」
「でたぁ~!俺は忙しい!でたー!!」
「うるせー!!おまえら(会議)参加するか??」
「いこうぜ!!?俺らにも魔剣持ちの騎士様を見せようぜ!!」
「うぇーい!!」
調子がいい三人組が意気揚々と会議室に入っていく。
~会議室~
そこには6ギルドのギルドマスターが席について最終会議行う。
ベルス、ドリアス、セル、スカルド、ミラ、パレンテ
そして、セイメイの俺だ。
クリス、アイオリア、ファウストと俺の脇を固めている。
俺の席の後ろにユーグたちが待っている。
会議が始まり、戦略、作戦、戦術、支援とクリスが説明をしはじめ、画面にはボードが展開され、シミュレーションが動いていく。
本陣営はベルス率いるフォルツァ、ガガSPとBVそしてオケアノス、先行するのはスカルド率いる、PROUDだ。伏兵部隊として、DGとレオナルド、ドリアス、セル両名が率いる部隊だ。
まずは、ウルススの占領をスカルド率いるPROUDが行い、フォルツァとガガSPとBVで本陣営の設営を行いラインの形成を行う。その間にDGとレオナルドがルガールまで一緒だが、そこから東に逸れる道がある。その道からパスガへ向けて歩を進める。しかし、先日のうち合わせて、DGが山岳部に兵を潜めて行軍を進めて、レオナルドを孤立させてしまうが、完全な死角を確保し、パスガの敵本陣営に急襲をかける。
攻撃のタイミングは、ラインが上がっているのが条件が最上だが、ピンチの時にでもパスガへの強襲が刺さるようにしとく。
ガガSPとBVがラインを押すが、スカルドの率いるPROUDも後衛と前衛に回るためなんとかなると思うが、まぁそうは戦わせてくれないだろうな。
とりあえず、この場で俺らは食い止めるという地味な感じだが、最前線はどっぱんどっぱん魔法が飛び交いスキルが飛び交うという地獄絵図だ。死に戻りで戦況報告を聞いたりしなくてはならないので、復活タイムも各隊長と指揮官の指示で動くこととなる。また大砲もあるしな。
正直、第二次攻撃に関しては出たとこ勝負の行き当たりばったりで対応していくしかない。
ないのだが、一応、プランニングはしておく。
もし、ライン戦が押されているならわざと引き、本陣営ギリギリまで引き寄せ、そのあとにレオナルドの強襲で敵本陣営への攻撃が有効打になり、一時的かもしれないが戦線を押し上げる。
その間、本陣営から伸びる中継箇所に復活が出来る補給所を素早く設営し死に戻りメンバーとライン戦で敵本陣営を攻め落とす。その後、パスガを手にしたのちにアーモロトへの攻城戦に入る。
まずは初動でその後の戦果が全て決まる。
この作戦にさらに動きを任せていく。
不安だ。二方面作戦は過去の大戦などで大敗をきっしている。
その上でこの作戦なのか?いや歩兵の足並み揃えてくるのだろうから伏兵は揺さぶる一手に過ぎない。くっそ!!頭が爆発しそうだ!そもそもこんな大人数動かせていた優秀なガリヴァレオンっていう人は、神か?天才か??おそらく俺より若くて優秀なのだろう。30過ぎのおっさんにはカリスマ性もなにもねーつーのに、どうやって統率取るんだ?
真剣な顔でずーっとしかめっ面をしているとどうやら俺の空気に感づいたらしく、ベルスが俺に声をかけてきた。
「不安そうですね」
「ああ、ばれました?」
俺は苦笑いをした。
「まぁ無理もないでしょう。私もあなたの立場で攻められていた時は防衛戦で耐えてきましたから」
「しかし、今回は攻めに転じるわけです。失敗に終われば、次の攻戦はだいぶ時間が必要となります」
「まぁ誰も攻めの一手を講じずにいたわけじゃありません。意見の不一致をずーっとして停滞させてきただけです。このままいけば、尻つぼみ。いずれメディオラムを明け渡す日が来ていたはずです」
「これで失敗すれば、その日を早めているように思えるのですが……」
「遅かれ早かれその日はくるのだから、ここらで一気に出し切るというのも一つの策ではあります。みんながみんな、守りがいいとは思っていませんし、燻っているのはわかっていたことですから」
「これでどうにかなるのであれば、楽なことはないですよ。まったく」
「やる価値を見出したのは、あなたじゃないですか?」
「違いますよ。すべてはアイオリアのシナリオがあったからです」
「その道化を演者としてやり切る気持ちはあるんでしょ?」
「無責任なリーダーというのは性に合わないのでね。やるからには徹底的にやらせていただきますよ」
「それでこそ、盟主“様”なわけだ。」
「ははは、緊張をほぐすには丁度いい。イジリですね」
「当日、気合入れて頑張りましょう」
話が終わる頃にはクリスの説明が終わる。
質疑に入った。DGの伏兵が遊んでいた場合どうするのかという質問がきた。
そこはライン戦の横っ腹をつっつくことになるだろうという見解になったのが、あくまでもレオナルドの存在は消すという名目で。
そのあと特になく、各グループの内訳や処々の細かいうち合わせを行い、戦術を話していた。
アイオリアがふとみんなに声をかけた。
「アーアー、ちょっといいかな?」
「ここまで私たちは、やるべきことをやってきた。一兵卒から幹部の人間、そしてセイメイ殿も。その中で今回は大規模な作戦になると思う。みんなが目的を一つにパスガ攻略を行えれば、すぐにアーモロトへの進軍が進み、一気に攻城戦だ。攻城戦においては、一気に門を打ち破る。それは並大抵の戦力ではままならない。あそこは4門あり、どこかしらが防衛の穴が出来る。手薄なところにバンバン廻り城内を混乱させていこうと思う。水攻めや火攻めができない攻城戦では人力が必要だ。本陣営から各門の中継地点での補給路も確保し、しっかりと死に戻りをちゃんとやっていこう。私たちはこの戦いで反撃にでるのだ!」
オオー!
と歓声が上がった。どうやら士気をあげたのはアイオリアだ。
俺の立場いる??
アイオリアが俺をみていう。
「マスター、あなたのやるべき事を最後にやりましょう」
俺の肩を叩き、背中を押す。
みんな俺の方見て、聞く機会をうかがっている。
俺は一呼吸おいて口を開いた。
「えー、この短い期間で各ギルド、各ギルメンには急かす様な事、無理難題を言ったこと、そしてそれらをやってきたことに感謝しています。ぽっと出の自分にここまでついてきて来てくれて本当にありがとう。当日、何が起きるかわからないことが出てくると思います。
その時は、ベタではありますが一人はみんなの為に、みんなは一人の為に動いてください。きっと道が開かれます。決戦の日までどうか体を大事にしてください。そしてみんなで勝利を味わいましょう!解散!」
というと、拍手が沸いた。
俺は会議室を出ていくとクリスとユーグたちがついてきた。
「俺はログアウトするぞ?」
みんな顔を合わせてにんまり笑う。
「俺らも同じ場所でログアウトします♪」
「……勝手にしろw」
というと俺はログアウトし、眠りについた。





