第28話「胸算用(前編)」
アーアー!本日ハ晴天ナリ!
ドダダダダダダダダーーーー!!!
ワーーーーーー!!!!
と模擬戦を行っていた。
混成部隊とはいえ、戦列もぐちゃぐちゃ。中盤のサポートもダメ。
こんなんでライン戦すんのかよ…。
ガガSPとBVの騎士が多く、後方支援の魔導士もウィッチも多いため、団体戦向きであるのだが、
中々連携が取れない。というか、よくメディオラム共和国を守って維持できたものだと、別の意味で驚いている。
個々の能力が高くてもチームワークができないと意味がない。
サッカーでいうと個人技で点を取りにいく南米スタイルだ。
しかし、これサッカーじゃないんだわ。
昨今のMMORPGにおける攻城戦・拠点戦は個々の能力+(プラス)連携がモノをいうのが結構多い。
イーリアスも例外ではない。
混成であるからこそ、相手の虚をつく必要がある。
基本的な戦法を徹底的にやる。
おそらく両側は山岳、前方への一進一退という基本に忠実な戦術が求められてくる。
戦術は盾を前に出してシールドの押し合いをする。
そこに弓兵の矢の雨を降らせたり、魔法で歩兵をこかして陣形を崩すなどをする。無論、それはお互いやりあうので、壁となる歩兵を突破して魔法を使用する、魔導士・魔術師、ウィッチなどを潰すことが大先決である。
サイドから名馬を有する騎兵隊でサイド攻撃も戦術の要である。
騎兵隊の中にも二人乗りで機動力を活かして、魔法陣を範囲を打つことや、弓スキルを有するアーチャーなどが存在し、最前線はもみくちゃになる。死んだら、再起のタイミングを計って本陣営から出撃できるようにするなど、復活のタイミングもかなり求められる。バラバラになってしまっては団体の攻撃には勝てない。そこに阿吽の呼吸が求められる。所作細かいところがあるのだが、そこは各指揮官、各隊長に任せるとしよう。
とりあえず、戦列を乱さないところから大事だというのを伝えていこう。
ガガSPのミラとBVとパレンテを呼び出した。
「どう?とりあえずやってみて?」と俺は少し遠慮気味に聞いてみた。
「ん~満足してはいませんね。」とミラはいう。
「どうやっていいのかわからない。」パレンテは気まずそうに声を細めた。
「たしかにね。今のままじゃダメだわなw」
「VCはつなげてあるんでしょ?俺から指示出すのも可能だけど、それじゃあ面白くないでしょ?」
「あーでもくれるとそれはそれでありがたいんですけど。。。」
「あーうん…時間もログインも限られてくるから、上から見れてるというのもあるから指示飛ばすからしっかりやってみようか?」
「はい」
とりあえず、専用chに合わせて、指示を飛ばす。
隊列を整えさせてからスタートさせる。
「まず、目標地点Aに向けて前進、のちに後方支援を…」と指示を飛ばした。しかし、んーこの…。
まとまりがない。
指揮官が二人いるのがいけないのかそれともシンクロが悪いのか…。
んー時間がない!
クリスが不思議そうに俺をみる。
「これ、ミラさんとパレンテさんが役割分担できてないだけですよね?」
「そうだよ。みればわかるだ…」
まてよ?
それぞれの兵科がそれぞれに所有しているからおかしいのだ。歩兵の壁役は壁役の指揮官、後方支援は後方支援の指揮官にすればいいだけじゃないか!!
こんな初歩的なことを見落とすなんて俺はどうかしている!
「はい!!一旦中止。兵科わけしますね!ミラさんが壁役の騎士中心に集まってもらって、パレンテさんは後方支援の魔導士系集めてもらっていいですか?」
「あ、はい!」
「わかりました!」
各兵科にわけてもう一度、指揮を執る。
各指揮官に任せてもう一度、前進、盾構えから始める。
ザッザッ!ザザッ!前よりはよくなった。
ここに大砲が入ってくるんだからどうにもきついよなー。
大砲は例のレンタル移籍中のメンツにお願いしよう。
「今日はここまで。皆様お疲れ様でした。」
大体ここまで2時間。毎日やりたいけど、制限がかかるし人数もまばらかもしれない。
でもやり続けるしかないのか…。
歩きながら指令室に戻った。
んー、一人一人に俺がこえかけていく時間もないしなぁ。
まずは決まってない、大砲の砲手と警備を選出するか…。
リフェラ、ルボラン、DGのシリアン、ローズ、PROUDのアニマルに任せるとしよう。
一同を呼び出す。
全員がそろう。
「やぁリフェラ、ルボラン。先日の件はよくやってくれた。ありがとね。」
「いえ、我々は任務をこなしただけですから。」ルボランがいう。
「ははは、固いな。まぁ俺との距離感はそんな感じになってしまうか。」
「というか、自分たちは最後まで自分の力でやってません。ファウストさんのおかげの部分が大きいです。」リフェラは少し元気がない。
「なにをいっているんだ?君達は出会う力や運も持ち合わせてあった。それらはタイミングというものがあったそれだけの事だ。それは全部、結果主義の世界では自分の成果に値する。その逆も然りだ。」
と改めて評価をした。
少し納得はいってないようだけど、それが現実だからな。自分を犠牲にして結果がうまくいかなくて周りがそれをバックアップできるようにならないとどうにもならない。
個人技の限界というのは社会では限界がある。だが、今回、彼らは二人で解決できないような事をファウストという強力な仲間と出会い、そして、3バカを見つけた。ただそれだけでの報酬というのはどうにも納得いかないのは、彼らがストイックで真面目で手ごたえが欲しかったという欲望なのかもしれない。
手応えあるだけが結果じゃない。運だって立派な実力だ。運を引き込むのもまた努力の上にあるものだと思っている。そうじゃないと運の女神は自分に微笑んでくれやしないさ。
彼らは自分が思っている以上の努力をしてきたのだ。
そう彼らには自分でもわかっていない向上心が眠りを覚ましたのだ。こうやって人は自発的に目標に向けての達成感の欲求を増加していく事がプラスにもマイナスにも働いていく。この欲求と向き合いコントロールできる人間が更なる向上心から上昇志向へと転化されていくのだ。
さて、シリアン、ローズ、アニマルの三人だ。
彼らは芽が出ていない無名のプレイヤーだ。
彼らがオケアノス預かりになった理由がわからないだろう。さて、鼓舞するべきか激を飛ばすかはたまたフレンドリーに接するか…どちらにしてもヒアリングをしなくては、適切なモチベーション維持を図れない。
「やぁ元気かい?とうとうお鉢が回ってきたかって感じかい?」と少し崩した言い方をした。
「いえ、僕もローズさんもここに来る間に色々話してきました。」
「どんなこと?」と聞き返すと、俺はどうやら厳しいだの冷酷だの言われ放題だ。
まぁ司令官とはそういうイメージ先行が先に出てくるんだろうなwwww
「まぁ否定はしないさ、これだけの大人数を預かって勝つということだからね。でも誰一人かけていいなんて1ミリも思っちゃいない。誰一人かけることなくこの戦いに勝つことしか今は考えていない。」
と俺はトーンを落としていった。まぁ固くなっちゃうから続けて言う。
「まぁでもさ、俺も人間だから間違うことあるよ?でも、ここだけは間違っちゃだめじゃない?だから、間違って敗走したくないのさ♪君達の期待と結果に応えたい。だから、ナーバスになったり、シリアスキャラだったりするわけ。だから、協力してくれ。俺も君達と変わらないプレイヤーだよ?」
というと、少し安心したみたいだ。
砲手のガイダンスを行い、ポジションの確認を取っていった。みんなでやれるからやるということなので、明日、合同演習で試みてみるような話し合いをした。
そう、誰だって仕事だってゲームだって失敗したくないんだ。でも、失敗してしまう。それは準備を怠っているからだ。というが、そうじゃない。
どこかに綻びという不安が出ているだけだ。その不安を消すための準備をするのが出来る人が成功を掴む。と思っている。準備をするスタート地点が、そもそも違う。まずそこを理解しなくてはならない。そう、常にそういう毎日の積み重ねが出来る人が結果、臨んだ以上の結果をもたらす。
少なくとも俺が一生懸命やっていた頃、プレゼンテーションを会議や商談でやっていたことと、なんら変わらない。資料作成においていかにわかりやすく、いかに見やすいか。質疑応答の時のQ&AでQを事前に予測を立てて答えられない状況を作らず、スムーズに答えるかというのもやり切る。そのうえで、最後に大事なのは気持ちだ。
スポーツでも仕事でもゲームでもどんなことでも、最後に気持ちで負けてたら何の意味もない。
最後は勝つ、勝ってやるという気概を持って取り組むことが自然とできるようにすることだと思っている。
仕事とプライベートを混合するのはよくないが、今は仕事よりゲームが俺の生き…甲斐…?生き甲斐だな。
そう、俺は今、この状況を打破していかなきゃいけない。大好きなゲームでみんなの思いに応えなきゃいけない。ただそれだけの為に。
押し潰されそうになるけど失敗の言い訳なんて考えてる暇なんかないし、もし負けて文句言われても俺はへっちゃらだ。
なぜなら、俺はベストを尽くしたいるはずだからだ。ベストを尽くさないから後悔がある。
後悔は悪い事じゃない。後悔と反省点はベクトルが違う。
後悔は取り戻せないが、反省点は自分に反映される。それが経験値になり、次に活かす原動力となる。
こんな大それた立場はきっともうないだろうけど、だからこそ奮起し甲斐がある。
俺に唯一取り柄なのは、『諦めが人一倍悪い』ってところだ。
だから、後悔しない反省しないように、しっかりと準備をしていきたい。
俺が出来なかったやり切れなかった事をしっかりやっていこう。
この時の俺は、心に迷いや戸惑い、湿った感情や考え方は捨てていた。
明日はもう一度、基礎練習と陣形編成だな。
今日はもう寝よう。明日も仕事だ。