第198話「追撃と遭遇」
山道を抜け、少し小高い丘へいく。そこは戦場範囲のギリギリのラインのところだ。
ここにセイメイはわざわざ来た理由がある。
「セイメイさん、ここからじゃ作戦伝達も何も出来ませんよ?」
「今この瞬間はいい。現状を把握したい」
「それといくつか連絡が来ている。それらを整理したくてな」
そういうとセイメイは呑気にタスクを開き、メールチェックをしている。
その姿にやきもきするのはクリスである。当然と言えば当然の反応なのだが、こういう時はいつも何か仕掛けをしているのを知っているクリスは苛立ちながらも必死にイライラする気持ちを押し殺していた。
「さぁてと!あとは刈り取るだけなんだが……。こればかりは運と信用とタイミングの三つが重なるかどうかだな」
「運って……。そんな不確定要素を作戦に盛り込むなんて」
「かー!これだからお勉強出来る子ちゃんは困る。戦というのは生物なの!だから不確定要素は必ず生じる。その際における振れ幅の余裕は多少なきゃいかんのよ?まぁ、それでも負ける時は負けるんだけどな」
「負ける気であんなちょっかい出してたんですか?全くどう言う神経してるんだか……」
「逆に聞くが、振れ幅なしできちきちに絞めてやった時に失敗したらその分を取り戻せると思うのか?」
「……そりゃあー」
「無理だよな?ただでさえ勝ちが見える道筋は細すぎて運要素がでかくなりすぎてる。神頼みレベルでな?」
クリスは溜息を吐き、しぶしぶセイメイの作戦に乗っかる事になる。
「んじゃあ後は作戦通りに事が進む事を祈ろう」
「神に祈って?」
「いや……代行者としての役割として現実に落とし込む!」
セイメイはニヤリと笑い、足早に丘を下っていくのだった。
~雲海ギルド自陣の砦~
辛くも押し返した雲海ギルドは、前線を押し返し死線をくぐり抜けた。ただ、予断を許さない必死の抵抗をし続け苦戦を強いられていた。
「しずく!もう味方のCTがもたない!」
「くそぉ!セイメイのやつ!口ばかり達者のハッタリヤローじゃないか!」
憤りを隠せないしずくは消耗していく仲間達を必死に救ってはいたが、自分も疲弊しジリ貧になっているのを隠せないでいた。
「しずくさん!もう味方が!ギルメンが!」
「わかっている……もうこうさんd」
「コウサンなのはしずくさんの学年かな?」
「あなたは!」
「天知る地知る我を知る!大魔道士とは私のこと!奇人変人大賢人!ファウスト様にござぁーい!」
ファウストは意気消沈した雲海ギルドのギルメン達にヒールノヴァをかける。
「ハイハイハーイ♪まだまだ終わらないよォ!」
ここぞとばかりにファウストは持てる魔法を一気にかけバフの重複をかけていく。
「な、なんなんだ!アンタは!」
「まったく、自己紹介は済んだはずだけどなぁ?」
テンションが場に合ってないにも程がある。だが、ファウストにはセイメイから託された作戦に打って出たのだった。
「さぁ?我々はこの防戦の最中、我がギルドマスター!セイメイより策を賜った!さぁいこう!ここは進軍である!」
「はぁ?何を根拠に……!」
「このタイミングでの仕掛けをセイメイさんは待ち望んでいた。これを逃せば、今度こそ次の波でやられますよ?」
「くっ……!」
「まぁ……所詮、負け戦。ならば討って出た方が散り際というもの。さぁご命令を」
ファウストはそういうとしずくの前に膝をついた。
「セイメイ…さんは待ち望んでいた。と言いましたね?」
「ええ、勿論でございます」
「信じられるか!いまさら!!」
「では、タスクご覧になるとよろしいかと存じます」
しずくは小さく光るシグナルを見つけて確認をした。
「ファウストさん?」
「はぁい!」
「この作戦はリスクがデカすぎませんか?」
「デカいからこそ、やりがいがあるというもの。何もしないより、何かした方が後悔しにくいのでは?」
ファウストはしずくに微笑みかけていった。
「わかりました。では、行きましょう!」
「まさか!しずく!」
「ええ!玉砕覚悟!一気に村を抜けて敵陣に討って出る!」
雲海ギルドは戦火の広がる村に進軍していった。
~港町~
「全くここまでこれたけど、間に合うの?」
アイリーンは馬に跨り、アイオリアに話しかける。
「任せろ!この私を……!」
「誰だと思っているのだ。でしょ?聞き飽きたわ。それより、BOSSは大丈夫なの?」
「我々が迎えば、裏が動く」
~林道・道中~
アイオリア達はここまでは神速の如く駒を進めるが、もちろんの如く!敵と遭遇する!
絶影の足にトラップがかかってしまう!
ヒヒィィーン!!
馬は背中から振り落とし、二人を地面に叩きつけた。地面に手をついたアイオリア達に容赦なく追撃が行われる!!
「おいおいおい!!ここでまたオオモノに出会うたぁな!!」
アイオリアは手をクロスし、籠手で刀を剣筋を逸らし押し込まれる追撃をかわし、転がりながら起き上がる。
「なんだ?キサマは!?」
アイオリアは倒れながらも刀をさばき、相手と距離を取るとアイリーンの方を探す。
アイリーンは敵たちに囲まれており、ピンチの状態にあった。
「アイリー……ッ!!」
「まぁ大人しくやられろよ?どっから湧いてきたか知らねーがよぉ!」
囲まれているアイリーンの前にその男は立ちはだかる。
「お前は誰だ?私は知らん!帰れ!」
男はキョトンとした顔でアイオリアを見る。
「あ~~ぁ……。やべー奴だとは噂で聞いてたが、モノホンのイカレヤローだ!!ハハハハ!!!」
「フン!お前に言われたくはない!」
「あぁ??まぁいい。俺の名はマダラだ」
「ほぉ?我が名は……!」
「アイオリアだろ?」
「!!?」
「通称“白金の獅子”イーリアスが始まって以来、負けなしのプレイヤー。資産ランキングは群を抜いて1位。装備は職業別において常に最上位。バージョンアップをすれば、いずこから現れて狩場を荒しモンスターをはじめ、居合わせたプレイヤーすら殺めるバーサーカースタイル。だが、強すぎてPKKすら寄せ付けない圧倒的な強さ。
畏怖の念を込めたのが鬼神のアイオリア、そんな男があんな廃プレイをちょろまかしてランキングに入っているまがいモンの下につく意味がわからん。いっそのことお前がアタマを張ればいいものをなぁ!!」
「ん~通り名が多すぎてなんでもいいよ。私は私の信ずるモノに従うのみッ!」
アイオリアは間合いを詰めてマダラに一気に攻撃をしかける!!
「甘いな!」
マダラはするりとすり抜ける。そのついでと言わんばかりにアイオリアの攻撃を躱しついでに横っ腹にメスを入れるかのように切っ先を当てながら回転した。
「おいおいおい!こんなんで最強の名をほしいままにしたのかよ?片腹痛いってのは本当だな?カッカッカッ!!」
マダラは後ろを取ったところでニタニタと笑いながら刀をクルクルと回して構えを変えていた。
「……俺が最強ってことでッッ!!」
真・陰流奥義ィィ!!獄炎!朧車ァァ!!!
飛び上がると同体を横にし、刀が炎を纏いものすごい勢いでアイオリアを襲う!!
―――もらったァァァアア!!!
確信を得たマダラは自分の勝利を疑わなかった。それはパワースタイルの刀術は一撃必殺。その連撃を繰り出すという事はオーラアタックと同じ効力をもたらす。しかも無敵時間も発生するのでスキがない。
しかし!アイオリアを相手にしている事が全ての間違いだったことに気づくまで
「な、なぁにぃぃィィ!」
アイオリアはマダラの必殺技を受けたフリをしていた。
回転斬りの最中、彼の無敵状態に対してアイオリアも無敵時間のあるスキルを放っていた。
地面を叩きつける技である。
驚天動地ィィ!!
拳を地面に叩きつけて爆発を起こし、岩と化した地面で自分の周りを包み込んだ。
―――バカな……!当たり判定はあったはずッ!そこに無敵時間を充てて相殺を図ったのか……!
「俺の後ろを取ったのはいいが、早計だったな。一太刀を浴びせた事は褒めてやろう!しかし、その着地ついでに地面を舐めるがいいッッ!!」
霹靂!!雷鳴拳ッッ!!!
着地をずらしたことにより、左側にスキが生まれ右拳を横腹にめがけて打ち抜く!!
マダラはキリモミ状態で吹っ飛ばされた。しかしこれがよくも悪くもアイリーンのところに吹っ飛んでしまった。
瀕死のマダラは起き上がり、アイリーンをめがけて刀を突き刺す。
「タダではやられんよ!タダでは!フハハハハハ!!」
アイリーンは驚きながらも下を向いてうずくまってしまった。
カシャンカシャンカシャン……。
アイオリアは静かにアイリーンとマダラ達のいる方に歩いていく。
「お?なんだよ。俺が瀕死でも仲間がいるからよぉ!おまえなんて串刺しなんだよぉ!!おぃ!!」
「そうか。ならば倒さねばな!」
「なぁにいってやがる!たった一人で何ができるんだよ!このドチクサレがぁ!!」
マダラ達は一気にアイオリアに攻撃をしかける!
アイオリアはここでもダメージを受けない。
「お前ら……、多勢に無勢って言葉知ってるか?」
アイオリアに刺さるはずの刀が刺さらず、上段からの切りつけも片手で防いでいる。
「だからよぉ!チャンバラごっこは映画の中だけにしてくれや!俺は今プッツンしてんだからよぉ!」
「何言ってんだこいつ!!」
「こんだけゆっくりと歩んできたのに、お前らは必殺の一つも繰り出してこない。獅子を狩るのに手抜き・手加減とはな……。貴様らは何を学んで何を生かすために戦場に臨んできているのだ?」
『クソ!!』
「甘い甘い甘い!!判断が甘い!!このスカタン共がぁぁ!!!!」
奥義!爆散雷鳴拳ッッ!!
「オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!」
アイリーンを囲んでいたマダラの仲間達は次々と倒されていく!
「本日のデザートにしちゃあ、美味しくはねぇが久しぶりにかますかぁ!」
「うるせー!!こちとら回復時間をもらったようなもんだぁ!!死ぬのはお前からだぁ!アイオリアァァァァァ!!!!」
マダラが打ち出す前にアイオリアの拳は閃光の如く駆け抜けていく!
ライトニングゥ…バァーストッッ!!
マダラの顔面に拳が当たり、吹っ飛ばされていきながらマダラは粒子化していく。
―――こ、これが世界最強のプレイヤーだと……いうのかッ!?
WSP開催始まって以来、常に一番に立ち続けるのはッッ!伊達じゃないということかッッ!!
粒子化していくマダラをみてアイオリアは背中を向けた。
「また会おう……戦場でな」





