第193話「最重要人物」
「いいか?人間という生き物は、人類という存在が発生した時期から今まで地球最弱のポジションから最強生物に成り上がった生き物なんだぜ?地球からみれば、ゴミ・ダニのような存在だよ。そんなのが長きに渡り地球上に住み着けば、環境を無視した結果による地球温暖化や核兵器など自己利益を追い求めてしまっている。この時点で、地球に住まう害虫だぞ?AIは自然との共存をすることはなくても、自分達か人間かと問われたとき、我々が邪魔になると判断すれば、即処断される可能性は回避できない」
「しかし……」
レオは反対しかけた意見を述べようとしたとき、セイメイが被せる様に論じていく。
「大体だ、アメリカにまでいって調査した結果がこのザマだよ。AIデータのマザーデータシステムにハッキングし破壊したわけでもなく、知り得たのはトカゲのしっぽのような話。本題にすら切り込めていないじゃないか?」
「おっしゃる通りです。不甲斐ないのですが、マザーデータの場所は明確にされていなく、運営権も別名義のものとなっていました。また、オデッセイはギャラルホルングループなのですが、肝心なサーバーが当初のところになかったのです」
「それでわからずじまいのまま、帰ってきたのか?」
「はい……予測が外れました」
「まぁ俺には出来ない事をやったんだし褒めてやりてぇところだが、お前にしちゃあツメが甘いよな?」
「それには理由が……」
「理由もクソもねぇんだよ?結果主義である昨今のビジネスに、失敗のプロセスを述べる権利は存在しない。これが徹底出来てない。だから、お前は甘ちゃんなんだよ」
「ぷっフフフ……」
クリスは思わずセイメイの説教に笑ってしまった。
「俺、なんか間違ったこといってたか?」
セイメイは苦笑いするとクリスは涙を拭きながらいう。
「兄が誰かに怒られているのを初めて見たからつい……」
「お、おう…なんだ。力あるのに結果を残せないビジネスマンって多いじゃん?それって上の人間が引き出せてない責任だと思うんだよ」
「はい……面目ない」
「アイオリア、お前はこんだけ俺より何もかも揃っているのに、俺みたいなごく一般の会社員の下につく??意味がわからん!だから今も調子狂いながら話をしてんだよ」
「私は……」
アイオリアは言葉を飲んだ。
アイオリアには持つ者と持たざる者の歴然たる差を埋めるには、経験と学術、そしてたゆまぬ努力では埋められない人間性というものを……。
「……!!オリア……!アイオリア!!?」
「あ、はい!」
「人の話を聞いてんのかよ?ったくー」
「お兄ちゃん!セイメイさんが折角!貴重なお説教をしてくれてるんだから!ちゃんと聞かなきゃダメでしょ?」
「いやはや、私の予想を遥かに上をいき、そして私が貴方について本当に良かったと感動していました」
「おま……!?やれやれ……こいつぁとんでもねぇ大バカヤローだ!」
「マスター……いや、千葉殿。どうか、この国をお救い下さい!!」
アイオリアはかしこまって正座をし手を前につくと、深々と頭を下げて土下座をした。
「お、おい!?やめろよ!?今度はなんだよ?」
「先ほど述べた通りです。この国をお救い下さい」
「何を言ってんだ?俺にはそんな力なんぞねーよ」
「いえ、あなたならこの国を救えます!」
「お兄ちゃん?頭でも打ったの??」
クリスが動揺していると、セイメイの玄関からガチャと音が聞こえてきた。
「はぁい!マスターさん?」
金髪の美女がズカズカと入ってきた。
「どちらさんか知らんが、土足で上がるな!アメリカじゃねーんだぞ?クソが!」
「オー!ソーリー!!靴は脱いで、揃えておくのよね?日本の文化は奥ゆかしいし、感心するわ~!」
「で、アンタもコイツの関係者か?」
セイメイはふてぶてしくタバコに火をつける。
───この男、私が誰かわからないからって態度デカいわね!なんでレオはこんな男を慕うのかしら??
「関係者なんてものじゃないわよ?フィアンセよ?」
『なっ!』
セイメイとクリスは声を上げたが、この男ならやりかねないと悟るのであった。
「おい!誤解するだろ?アイリーン!相変わらず、冗談が冗談に聞こえないぞ?」
「あーら?私はいつでも本気よ?」
アイオリアの首に絡みつくように腕を絡ませる。
「お兄ちゃん!!?」
クリスが膨れっ面をするとセイメイが宥める。
「クリス、あんな兄貴でも蓼食う虫も好き好きって言ってな?変わりモンもいるんだ。そっとしといてやれ」
「はぁん?聞き捨てならないわね?マスターさん?レオの妹を落としたぐらいで調子のらないほうが身のためよ?」
「なんだとこのクソアマ!」
「やめろ!アイリーン!!」
アイオリアが双方を制止させる。
「マスター、すまない。コイツはアイリーンといって、FBIなんだ。今回の事件を担当する事になった捜査官だ」
「はぁ??マジで言ってんのそれ??」
「はい。自分が向こうに行った時に助けてくれた仲間の1人です」
「フィアンセなら当然よね?」
アイリーンはニヤニヤしながらセイメイの顔を覗き込んでいた。
「で、その特別な捜査官がこの俺に何の用だ?」
セイメイは目つきの悪さがまた人一倍悪く、眼光を輝かせた。
アイリーンはその目を見ると静かに語り始めた。
「貴方に説明出来る範囲があるから、ある程度は理解力が求められるわ。いいわね?」
そう言うとアイリーンは語り始めた。
アイオリアが渡米した件、アイオリアの予測、日米関係と世界の勢力図の改定。そして、人類の存亡へ……
「話しは粗方理解はしたが、やはり、救世主は俺ではないな?」
「何を言っています!あなたがそのカギを握っているんですよ?」
「どこにその鍵がある?」
セイメイは腰に付けていたカギのキーホルダーを目の前にぶら下げた。
「そんなジョークをかまして誤魔化さないで。Mr.Chiba!あなたはもう終末の審判への道は歩み始めているのよ?」
「だって鍵だろ?持ってねーもん!」
「それはあなたの身近に存在して、現実にはいないモノです」
セイメイはしばらく考えた
そして、答えに辿りつくと席を立ち、ギアをつけるのであった。
「マスター!待ってください!」
「お前!!知っていたんだな??全部!」
「いえ。ここ最近です。こんな事になっているなんて事は!」
「ちぃ!俺の唯一の楽しみにしていたプライベートをッッ!!」
アイリーンはふーとひと息ついてセイメイに話しかける。
「仕方ないでしょ?あなたはそういう運命の輪にハマっただけよ……」
「運命なんてもんのはなぁ!!捻じ曲げて己の道を作るんだよ!!」
「じゃあなんで前に勤めていた会社でもがかないかったの?あなたは逃げただけじゃないの?」
「捜査官ってのは、俺の経歴まで調べて追い詰めるのが十八番だもんな?!だがな!お前のようなエリートに負け組の気持ちなんぞわかるわけないだろうが!!」
「やめて……!セイメイさんは悪くないわ!」
「マスター!!これは我が父の野望のせいです!どうか許して下さい!!」
揉み合っていた二人にアイオリアが頭をまた下げていた。
「アイオリア……お前が悪くないのは百も承知だ。だからって俺のプライベートの楽しむ権利を奪う権利まではねぇんだぞ?」
「わかってます」
「俺は……こんな事に巻き込まれるために、やってるんじゃない……!」
「セイメイさん……」
俯くセイメイを否応なしにアイリーンは詰め寄る。
「Mr.Chiba!あなたは選ばれた人なの!この先、幾多の困難を乗り越えなければならない!少なくともあなたはそうやってあちらの世界では、自分の示したかった世界を作っていたじゃない!」
「あれは!!俺が出来なかった同僚達への罪滅ぼしだ!!あれは……!!自己満足の贖罪だよ!俺には!お前らみたく地位も名誉も!金もねーんだよ!」
「マスター!それは違う!あなたにはそれ相応の立場を私は提供したい!ビジネスとしてあなたにポストを用意した!力を使うには!後ろ盾だって必要です!」
「くっ……!」
セイメイは視線を落とした。
「マスター。俺らもいきますから、まずは移動をしましょう」
「ここを……どうしても引き払うのか?」
「ええ、それくらいあなたは今、最重要人物になっています」
セイメイは部屋を眺めて少し寂しそうな顔をして黒服達に囲まれながら部屋をあとにした。





