第192話「突然の来訪者」
本日、晴天―――
小春日和の日差しが寒い冬の気温を和らげた。夕刻まで温暖な気候な中、セイメイは鼻歌混じりに帰り道を愛車のチャリンコで帰っている。
途中、コンビニに立ち寄り大好きな炭酸飲料とポテトチップスを買い物し、クリスの待つ自宅へと帰宅する。
二人分の飲み物とBIGサイズのポテチを買うなんてことはあまりしなかったセイメイは、少しハニカミながら前の荷物入れにいれて、颯爽とサドルを跨ぐとペダルを力強く踏み込む。
自宅近くにいくと、見慣れない黒い物体が目に入ってきた。それはセイメイが住むアパートの横に高級車が数台止まっていた。外には黒ずくめの男が複数人立ち、何やら物々しい雰囲気だった。
セイメイはすぐさま自室を見ると、男達はセイメイの住む部屋の前に仁王像の如くオーラを放ち何かを待ち受けるように立っている。
内心、ドキドキしながら、外階段を上っていく……
カンカンカンカン……
最後の階段を上りきると、恐る恐る自分の部屋の前を覗く。
とまどいつつも自室のドアに近づくと男達はセイメイをみて口を開いた。
「○○様……ですね?」
セイメイの住む部屋に表札は出していないのに、この男はセイメイの苗字を知っていた。
「さぁ?そもそも俺は名前を名乗っていないのに断定してくるんだ?それより何の用だ?中にいる女一人を誘拐・拉致どちらにしろ迎えをよこすのにしたって、こんなに大男達はいらねーだろ?それとも、俺を捕まえるにしても大した人数だな?」
「いえ、むしろ警護中でありまして、私達は貴方様をお待ちしておりました。また……中におられる方がお待ちでもあります」
「ああ??勝手に入るなんて不法侵入じゃねーか!?」
「いえ……申し訳ありませんが、実は大家さんの許可を得ています」
「なんだって?」
男の視線がセイメイから逸れると、その先には大家さんが下から見上げていた。
「アンタ!金持ちなら金持ちっていいな!!そんなことなら家賃滞ったり、忘れたりするんじゃないよ!!」
「アハハ……引き落としの時に残高少なくてすいません!」
セイメイは苦笑いしながら、ドアノブに手をかけて部屋とそそくさに入った。
ドアを開けるとクリスが出迎えてくれた。
「おかえりなさい♪」
セイメイはとりあえず、なんでもなかったクリスを抱きしめた。
「大丈夫か?何かされたのか?」
抱きしめた後にセイメイはクリスの顔を見つめると少し目の周りが赤かった。
「なんかあったんだな?なにがあったんだ!?」
「いえ、な、なにも…。それより、苦しいです……」
声を荒げるセイメイを宥めるように聞きなれた声が奥から聞こえてきた。セイメイは慌ててクリスを抱きしめる腕をほどくと声のする方へと目を向ける。
コタツ近くに座る男がいる。
「マスター、おかえりなさい」
人の部屋でのうのうとくつろいでいる男がいた。それはなにを隠そうクリスの兄であるレオが座っていた。セイメイは怒りがこみ上げてきたが、冷静を装い静かに自分がいつも座る席についた。
「おまえの度を越した行動もここまでくると犯罪だぞ?」
大きく息を吸った後に吐いた冷静な問いがこの文言だった。
「いえ、妹がいますからね。それを迎えに来ただけですよ」
「その割には物々しい輩が外にいるんだが??」
「ああ、彼らはSPですよ。前も一緒にいた時に配置させていましたよ?」
「なに!?」
セイメイはレオと一緒にいた時を思い出したが、まったくその気配を感じていなかった事に驚きと悔しさがこみあげてきた。
「まぁ彼らはプロですから、素人のマスターには気づかれないでしょう」
「ちっ、それで?いつまでココいるんだ?要件はすんだンだろ?妹つれて帰れよ?」
「そうしたいのは山々なんですがね…そうさせない妹がおりまして……」
「なんでだよ?」
セイメイはクリスを見ると目を涙でにじませて訴えかける。
「私は!セイメイさんと一緒に過ごしたいです!」
「あのなぁ……」
「ここは私の権利と力で一緒に住みましょう!」
「いやいやいや!!おかしいだろ!?三十路過ぎのオッサンを囲う意味がわからん!」
「だめです!一緒に住みます!!」
「とち狂ってんのか??クリス!??俺はお前だけはマトモだと思っていたのに……!!」
「理にかなっているというのが、事実です!!」
クリスが興奮していて何を言っているのか汲み取れていないセイメイをみて、レオは口を開いた。
「マスター…いえ、千葉さん、そこに座りませんか?」
いつものコタツの席を差し座るように促した。
セイメイは自分の本名を初めてギルメンに知られた事に動揺しつつも、ここを知り得ている時点で個人情報の駄々洩れしている事に諦めと開き直りが混在する心情で話を進めることにした。
「ったく、なんだよ??まったく読めないぞ?この展開ッッ!!」
「この前、話をしたと思いますが事情が変わってきています。どうか、我が管理下に身を案じて頂きたい」
「俺が殺されるとでも?」
「可能性は…否定出来ませんが、万が一の事もあります。ですので……」
「落ち着けよ?たかがゲームで殺されるのか?しかも、個人ならまだしも!企業が俺を消しに来るなんてドラマか映画の見すぎじゃないのか?」
「私は……とあることでアメリカに行きました。その際に色々調べていくうちに私の父が運営する企業の一つ。それが…“オデッセイ”でした。いえ、知ってて調べに入りました」
「まぁ……今更驚きもしない。お前が何者であってもな?」
ため息交じりにセイメイはタバコを炬燵のテーブルの上に置いた。
「流石、私が見込んだだけの御仁だ。度胸がいい」
「度胸もクソもあるか。立て続けに非現実的な事が存在し、目の前で繰り広げられたら信じたくなくても受け入れざるをえないってもんだぜ?」
「この辺はまだ序の口です。私が知り得た情報ではおそらく……あ、人払いをします」
一人SPのリーダー的存在に声をかけると、周辺警護を指示していた。ベランダの外を見ると黒服が数人周りを見渡している。
「ご丁寧な警備体制だな?」
席に戻るレオを見ながら、入れ替わりに玄関に向かい、置いたコンビニ袋を持ち上げて先ほど買った飲み物を取り出す。そして、近くにある台所でコップを取り出し、三人で飲み物を分けて炬燵の上に並べた。
「招かざる客だが、茶ぐらいださないとな?」
「お茶ではないようですが……」
「お兄ちゃん!!」
クリスは兄の言動を咎めて、さらに睨み付ける。
「聞いた言葉をそのまま解釈するんじゃねーよ」
少し考えたのちにレオは気づき、スッキリした表情をする。
「あ、ああ!そういう表現をするんですね?これは失礼」
「海外暮らしが長いのか知らんが、いちいち癇に障るリアクションだな?」
「セイメイさん!ゴメンナサイ!兄は少し天然なところがあって……」
「クリスが謝ることじゃない。……そんで、本題はなんだ?」
「はい。ちば……いえ、セイメイさんの近くにいるAIについての事です」
「ルカのことか……?」
「ええ、どうやらシリーズがあるようで、海外に出る際に色々情報を集めてきました」
「ほう?」
「先の占領戦で一体、AIを破壊しましたよね?」
「ああ、アレか」
セイメイはあまり思い出したくない内容だったため、少しはぐらかした。
「あそこでどうやら、本体の動きがあったらしく、一部の修正と書き換えを加えたというレポートのメールを探し当てました」
「そもそも、AIの破壊なんてゲーム上で出来るわけがないんだよ。どうせ、いたちごっこになるのが関の山だと思うぞ?」
「私も最初はそう思ったのですが、どうやらダメなものから徐々に削除されていくようなプログラミングが施されているようで、現環境で生き残ったAIが次世代AIとなるようです。なので、我々は残りのAIを探し出し破壊、もしくは主従関係の契約を果たさねばなりません」
「主従関係?」
「ええ、ルカに行っている事はシステム上の契約ではあるのですが、それが制限をかけているということになり、自我を意識的に保ち、その上でプレイヤー達との共存共栄を行っています」
「ま、まぁギルメンだしな」
「問題はそのあとなのです」
しかめっ面をするセイメイにレオは説明を続けた。
「イーリアスには全部で7体のも、AIが導入されておりそのうちの一体を我々が破壊し消し去っています。残りの6体、うち1体はセイメイさんの手元にあります」
「そうだな。今の段階では問題行動は目立ったことはしていない」
「おそらくそれが成功例の一つになり、今後の指針にもなる。と、我々は見解しています」
「我々は?」
「はい。我が橘グループ内にある……」
「あーはいはい。機関の方々ね」
「……はい。そういう表現になりますね」
「つまり、AIを懐柔した経験のある者が俺しかいないという事を言いたいんだろ?機関やつらの見解は?」
「はい。何分、どこまで発達したAIなのかわかりかねるので、なんとも言えないのです」
「フン、機関とやらも大した結果予測も立てられないやつらかよ。まぁ俺ら人間より遥かに優秀であり、残酷な判断を持ち合わせている。このままいけば、人類滅亡だな」
「なんですって!?」
クリスは大袈裟に表現した言葉を鵜呑みにした。
「よ~く考えてみろ?大半の人間は愚かであり、堕落している。そして、地球に君臨する王であり、自然界でいうとゴキブリのような存在だと思っているよ」
セイメイの言葉にレオは残酷な現実を見せられているように思えて言葉を失った。





