第189話「それぞれの黒幕」
~帝都・セントラル~
ルカの放った特殊アイテムにより、セイメイ一行はセントラルへ帰還した。
到着するとルカに近づき、背後からセイメイが肩を叩く。
「なんじゃ?」
「“なんじゃ?”じゃないんだよ!この際、どっちでもいいが!これ以上ご都合主義に拍車をかけるなよ!」
「何を言っておる。あれでまとまったのだから、結果的には成功と言えよう」
「だから!そうじゃない!……なんで、伝わらん!!」
セイメイが頭を抱えているとファウストが話に入ってくる。
「まぁいいじゃないですか?セイメイさん」
「よくねぇよったく……」
「よく考えて下さい。セイメイさんの言っているのは他人から見た自分、つまり、第三者の視点での自己評価です。そんなものは投げ捨てておしまいなさい」
「でもな!」
「仰りたいことは……まぁわからなくもないですが、逆を言えばグレーな部分を扱っている。ましてや、時すでに遅く、何度もグレーゾーンに足を踏み入れている。このまま自制をかけたところで潔白を証明する事は最早難しいでしょう。ここはご覚悟されるしかないですよ?」
ファウストは悟るようにセイメイに語る。セイメイは眉間に皺を寄せて腕を組み、んんーと唸っていた。
「幸い、運営に通報されたところでどうこうすることでもありませんからね。証拠がありませんから」
ルカが仲間に加わってから円滑に物事が回り始めていたのは事実である。しかし、ここぞとばかりに使う切り札を立て続けに使っているように思えて、ルカがなにかに焦っているように見えた。
本来ならゴタゴタする話が円滑に、しかも、都合良くハマっていく。まるでジグソーパズルのピースが面白い程にハマっていく様はある意味、不気味さを漂わせていると深読みするほど、セイメイは考え込む。
―――現に俺の周りに巻き起こっている異例は仕様ですと言われても何ら問題ないとも言える。だが、そう出ないと判断された場合、俺は永久BANされるのではないのか?
そんなセイメイの不安をよそに、話は進んでいく。
「この際言っておくが、我々はうまく行く行かないはみんなの力にかかっているんだよ!」
「まぁたまた!センセーも人聞きが悪いからなぁ」
「それな!センセーってさ、ときたま大袈裟なんだよなぁ!」
「ファウストはガイジ。以上!」
あれから3人組とも仲良く談義しているのか、ファウスト弄りが起こっている。
わちゃわちゃしている様を見ているセイメイは、深読みし不安に思っていたのが馬鹿らしく思えてくる。
「お、お前らは気楽なだなぁ……」
セイメイは思わず、3人組とファウストの会話に呆れたセリフを吐き捨てた。
「マスター、聞いてくださいよ!センセー……いや、ファウストさんが大ボラを吹くんですよ!」
「マスターもよくこんな狂ってる人を仲間にしましたね!」
「それ、俺が責められるの?」
セイメイは少し焦りながらいう。
「そうでも言わしめないと腹が立つんだもん」
「そういうなってwww」
「なんだよ、歯切れの悪い言い方は!」
「今回は……いや、今回も!俺の独断だからさ。あんまり強く言えないんだよなぁ……!あは、あはは……」
「おん?そうするとマスターが原因なの?」
「まぁそうかもな?今回の遠征も俺のワガママかなぁ?」
セイメイはらしくもない言葉を吐き出し、気まずそうに下を向いていた。すると後ろから割って入ってくる者がいた。
「否事を!我がセイメイさんは我がギルドの繁栄のため!仕事を取ってきたようなもの!断じて悪意によるものではない!!」
「お、おう……」
声を張り上げて擁護したのは、ファウストだった。ファウストはまるでアイオリアのような意気揚々と声を張り上げ、今回の遠征に意欲を見せていたのだった。セイメイは熱弁するファウストを横目にふうと溜息を漏らし、窓越しに空を見上げていた。
「セイメイさん」
ぼーっとするセイメイに声をかける人物の方に目をやるとそこにはクリスが立っていた。
「ん?何か用か?弁士と観客が揉めでもしたのか?」
「いいえ。セイメイさんがしっかりと感覚を研ぎ澄ましていた時の表情とは違った雰囲気は違う穏やかな顔を久しぶりに見たなって思って……」
「どこがだよ!不安でいっぱいだよ!」
「そんな風には見えませんでしたよ?どっちかといったら、楽しそうにした顔です」
「クリス……おまえ、人の表情から感情を読むのうまいのか下手なのかわからねぇな」
「え?そうですか?」
クリスはきょとんとした表情をし、見当違いをしているのはセイメイの方ではないかと言わんばかりの表情に変わっていった。
「まぁそんなこたぁ重要じゃない。それより、よくサンライズの方まで来れると確信したんだ?」
「いえいえ、実は待っているのも暇だったのでデバイスを持ち歩いていたのでそのままログインしちゃいました♪」
こつんと自分の頭にゲンコツをし、舌を出して謝ってきた。
「その……なんだ。往年のぶりっ子ネタを出してくるのはどうなんだ?」
「ああ!バカにした!女の子はね!いつでも可愛くありたいんですよっ!」
「お、おう。そ、そうか」
「まったく、セイメイさんだってオッサンとか言われると少し凹みますよね?それと同じくらいアタシは傷つきました!」
セイメイはギクッとしたリアクションをとると慌ててクリスに詫びる。
「わぁかったよ!すまんって!」
「そんなのだと女の子に嫌われちゃいますよ!?」
「うぅうるさい!……自分はどうなんだよ…そんなドンカンな男にっ!ちゅ、ちゅーまでしといて……」
「な!バ!」
クリスは赤らめて下を向いてしまった。セイメイも久しぶりの恋愛感情にドキドキしていた。
「わ、ワタシはいいんす!」
「いいんす?!」
「いいんですっ!ワガママは女の子の特権です!」
「まぁそのまま、おばちゃんみたくならない事を祈るよ」
「ムカ!セイメイさんはね!!一言余計なんですよ!」
「はいはい!そんで、俺らはあいつらの返事待ちなんだよな?」
「ええ、そうですよ。良い返事が聞けるといいですね?」
「ああ……。俺が出来うることを可能な限りしてあげたい」
「そうですね……叶うといいですね」
「うん」
二人はイーリアスに落ちる夕日を眺めていた。
~ 帝都スメラ・武陽城、天守閣 ~
「ほう……セイメイが単独参戦するとはな?」
「はい。情報は間違いないです。ただ……」
「なんだ?」
「拠点戦においてバンプーパンダの戦力が落ちている穴を我々が埋める必要性があるのでしょうか?」
「あるんだよ。あr……」
ナタネと幹部達が集まっていた。
そこに割って入ってる者がいる。
「あるから楽しいんじゃねぇか!」
「これはこれは!ミヤゾン様……」
「セイメイごときに舐められちゃあ、最古参ギルド!MIKADOの!!……名折れってもんだぜ!?」
「アイツを追い込むのをやめてから急成長したようだな?追い込みが足らんのではなかったのか?」
ナタネや幹部達が論議し始めると黒い影が現れる。
「ナタネぇ~!おまえ、俺の足引っ張って負けてんだから出しゃばんなよ!?雑魚が!」
刀を肩にトントンと叩きながらミツルギの背中から現れたのはマダラだった。
「ちぃ……アンタかよ」
「オイオイオイ!マスターに向かって“アンタ”はないだろ?アンタは!!」
「おまえにいったんだよ!マダラ!!」
二人はメンチを切り合っていたが、ミヤゾンが諫める。
「二人ともやめろ。奇襲命令は俺の領分じゃない。てめえらが勝手にやったことだろうが?しかも負けやがって!」
二人を睨みつけ、これ以上争わないように目で二人を威圧した。二人はプイとそっぽをむき、お互いの席へ向かっていく。
―――MIKADOの幹部達が席につくと会議が始まった。
「今回の会議は簡単だ。バンプーパンダを扱って、セイメイを完全に潰す。つまり、ゆくゆくはオケアノスを潰す」
『はいッ!』
「体たらくなお前らがココで気合入れてやんねーとめんどいんだよ。玄庵のオッサンも目障りだしな」
「あの人は今回、あまり関係ないのでは?」
「バカ野郎。アイツがセイメイの手引きをしたのを忘れたのか?その上でMIKADOから抜けて自分でギルド立ち上げたんだぞ?」
「しかし……!」
ナタネはミヤゾンに反論しようとしたが、またここでマダラが口を出す。
「お前は使えねーんだよ!今度は俺がサブマスターだ!」
「手のひら返しがお上手なだけの小物が!!」
「お前ほど器用じゃないよ!?姐サン?クックックッ……あははははは!!!」
マダラが笑うとクスクスと笑いだす幹部達もいた。
「マダラ、もういいか?」
ミヤゾンが話に割って入る。
「ナタネ、お前をサブマスターから外したのは、二度の作戦ミスによる結果だ。この戦いで勝てばもう一度昇格のチャンスをやる。それまではマダラがサブマスターだ。いいな?」
「……はい」
「ならば、バンプーパンダへの支援と支援部隊の編制に入る。マダラが今回、指揮を取れ」
「お任せを♪」
「ナタネ、お前はその補佐をしろ。今回の戦いで結果を出せ」
「はい」
「他、幹部らは希望制としバンプーパンダへの参戦を認める。負けるなよ?以上、解散!!」
ミヤゾンが激を飛ばして会議は締めくくられた。解散する一同の中、ナタネとマダラは睨み合いをしていた。
間もなく雲海とバンプーパンダの戦いの火ぶたが切って落とされる。





