第187話「前触れ」
~名もなき祠~
ヴォン……
一行が戻った時には、アーカードしか残っておらず、岩場の横で帰りを待ちわびていた。
「よぉ!御家来衆はどこぞ?」
セルは煽るように周りを見渡すがアーカード以外の姿は見えなかった。
「夜も深けた。ログアウトしていったよ」
「なんだぁ?お前らも結局そんなもんかよ?」
「ふん、それより取れたのか?神器は?」
「みろよ?俺もそうそう見た事ないシロモノだ」
くいっと親指でカルディアを指すと、ほいっと見せるように雷神の神槌を持ち上げた。
「噂には聞いていたが、見た事ない神器だな?」
「まぁな、数ある神器の中でも珍しい武器ではある。ましてや、戦斧ハルバードが主流だからな。ストライカーは装備を揃える苦労が多い。その反面、揃えてしまえばこれほど楽な職はないと言われている。どの職も一長一短なのさ」
「そうか、まぁ我々はひとつも損をしている訳ではないからな」
「そういうことだ。言っただろ?同盟を組むという事の意味がまだわからないのか?」
「あくまで命を受けたまでだ。どこの馬の骨かわからんからな」
「ほざいてろ。俺がグラマスじゃ無ければ、漁夫の利を先に案じてココも手中に治めているだろうよ」
「交渉相手がお前じゃなくてよかったと思うよ。それで、もう1つはどうするんだ?」
「今から取りに行きたいと思うんだが、何せ眠気とも戦っていたところだ。今日は落ちるよ」
「そうであってほしいと俺も願っていたところだ。そこは感謝する」
アーカードは少し微笑み、踵を返すとスっとログアウトして消えていった。
「あーーー!!疲れたぁ!なぁソロモンのオッサン?」
「流石に眠いなぁ。お先におやすみさん……」
というと、さっさと落ちてしまった。
「俺らも寝るぜ?セル、あんがとな。昔のお前じゃない今のお前の方が女にモテるぜ?じゃぁな!」
「俺は今でもモテるわッッ!!」
「まぁまぁ強がんなよ?また明日な!」
カルディアとピピンはセルをイジって落ちていった。
「お前は落ちないのか?ガリガリ?」
「嬉しいような言葉だけど、嬉しくないですわ!私も落ちます」
「だな。俺も落ちる。みんなの前じゃ言えないが、今日の事は感謝してる。ただそれだけだ」
「わかっていますわよ?どーせ、嫌味しか言わないんでしょうからね?」
「いちいちつっかかってこねぇと死んじゃうのかよ?可愛くねぇクソアマだなぁ!」
「また!!悪口ですわね!」
「それより、いつからお嬢様言葉使ってんだよ。似合わねぇっていわないとわかんねーのかよ?」
「ふん!おやすみなさいませ!」
「このカマトトが!!」
両者は一歩も引かずに落ちていった。
今更ではあるが、彼らはセイメイを介して新たなカタチでの再会を果たしたメンバー達である。
とはいえ、月日を経て、旧知の友の新たな一面を知るという新鮮さが彼らの親交を深めていくことに無意識に理解していった。それに全員が絆を深めている事に気づかない。ただ、彼らは次々と降り掛かってくる火の粉を払う事で手一杯なのだ。
それに対して備えをする事が急務であり、それが時折、心地よい忙しさである事をそれぞれ理解し楽しんでいた。
あくる日、ピピンに要求されていた神器も滞りなく獲得していった。
この事により、アーカードを立会人とした妖精の谷においての突発的なミッションは全て終了する。それと同時にアーカードの信頼を得た上で帰投すると同時に一抹の不安がソロモンの胸中を騒がしていたのだった。
───順調にうまく行く事に何の不安もない。勢いがあるうちはこのままで良いが、この勢いを失った時、関係がギクシャクし前に見せた内輪揉めがキッカケとなって崩壊してしまうのではないだろうか?
どのギルドも些細な事からギルド崩壊が起こり、離合集散を繰り返す。
このループから切り抜けるには、より磐石な関係を形成しなくてはならない。
前回、起こりえたアイオリアとの一件。あの場でのやりとりを役職でない一般のギルメンがみたらどう解釈するだろうか。
衝突する事は決して悪い事だけではない。それは理解している。だが、他者はそう捉えてくれる者ばかりではない。
雰囲気が悪くなるだけで、ギルドから離脱したがる人間も少なからずいる。だから、MMORPGのギルド運営は難しいのだ。
より良い関係作りを自分達も怠ってはいけない。
ソロモンはどこまでも広がる空を見上げ、流れる雲を目で追いかけるのであった。
「わしらも忙しくなるでの」
「フン、今更の事だ。何をセンチに浸っている?」
「年じゃからの。色々な事を色々な視点で物事を捉えてしまいがちなんじゃて」
セルは誰もが思う、「歳を取りたくない」と思いつつも自分もそのうち訪れる歳の波に理解を示した。
「あのいけすかなアンちゃんが、セントラルを落としてから……いや、あの戦争の最中、俺は気づいていたのかも知れん。時代錯誤の大バカ野郎が現れたってな。そして、誰もなしえなかった事を文句言いつつもしっかりとまとめ上げていった。無論、アイツ1人の力じゃない。アンタもアイオリアもいた。そして、アイオリアのシナリオ通りにコトが進み、今じゃイッパシのグラマスだ。この快進撃がどこまで続くのか楽しみになっている。しかも観客ではなく、演者としてな?アンタも俺も欠けちゃ芝居は続かんのだよ」
背中を叩き、ソロモンを鼓舞した。
「おおい!少しはいたわれ!」
「何言ってやがる。都合の良い時だけ年寄り扱いとか都合良すぎるんだよ!」
「ふん!甘える時はトコトン甘える主義なんでの」
「カロリーオフのキャンディじゃねーんだぞ?そんな詐欺まがいはやってないんだよ。さっさとグラマス(あんちゃん)のとこに向かうぞ?」
「そうじゃな?」
ソロモンはギルドチャットのアラートをみるとそこにはセイメイの発言があった。
マグナカルタの激戦を制し、MIKADOを落とす!
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セイメイのマグナカルタへの討伐決意を固くした出来事、それが本章ラストと言えるバンプーパンダと雲海による拠点戦であった。
セイメイ、ルカ、そしてユーグの傭兵参戦により、間接的なMIKADOとの戦争になっていた。
厳密にはセイメイは傭兵契約ではない。
本来、占領戦にまで参加するようなギルドというのは拠点戦に参加する権利が逆に与えられない。ましてや、グラマスになると参戦する理由がない。
どうしても参戦するということであれば、野良参戦となり傭兵契約が存在しない。
ゆえに双方からの攻撃判定が存在する。この事により、野良参戦するいうカタチをとる事になり、こんな分が悪い物好きはいない。
そこにこだわってまで参戦するのは、今回のようなセイメイぐらいのものだと思われる。
「マスター??」
「おお!どうした?」
「何寝ぼけた面構えしてるんすか?久しぶりの戦
ですよ??ワクワクしてきませんか??」
「俺はそんな地球生まれの野菜星人じゃないからワクワクしません。ただ……」
「ただ??」
「やるからには負けられない戦いがそこに存在するだけだ」
「負ける試合はしたくないってことですか?」
「無論そうだ。負ける試合に関しては反省する材料が存在する。だから、人は過ちを繰り返す事無く次回の試合に活かす努力が出来る。だから練習試合でも本気でやる。だけど、勝った場合、反省する材料が勝利という麻薬に侵されて見えなくなってしまう。勝ってるんだから全てが正しいと思いがちなんだ。だから、前回と同じ正しい正攻法という言葉をまやかしにして、同じやり方をすれば勝つと盲目的に思えてしまいがちだ。そこに前回勝利者の隙が生まれる」
「“おごり”というものですね?」
「ユーグ、段々とわかってきたようだな。では、これらを踏まえて我々はいかなるして行動すべきかな?」
「虚をつき、慌てて吐出したところを撃つ?」
「半分正解かな?」
「えー?半分の答えは?」
「勝利の女神の前髪を掴んだ者だけが知る」
セイメイはユーグの肩を叩いた。





