第183話「ゲート」
ぞろぞろと、妖精の谷から少し離れた祠に移動する。
「まったく……お前も勝手な事をいうなぁ。アイツらに理由付けを押し付けなくてもよかっただろうに……」
セルはスカルドに小声で話しかけた。
「いいえ。私は今後の激戦に備えて少しでも戦力UPを模索したまでです」
「あの一瞬でか?」
「考えた。というのは少し違いますが……わかりやすい言葉でいえば、“勘”ですわね」
「くっ……“女の勘”で動かされる俺らはなんとも情けないというか哀れというか……」
「時にはこういう予想外の動きも大事でしょ?」
「吉と出れば、そりゃすげーんだが、凶と出た時なんとするんだよ?」
「いいえ、こういう時は吉とするのではなく、吉と成すのでありますわよ?」
スカルドはニヤッと笑い、ソロモンとは違った。マジで可愛いウィンクをする。
「ケッ……お高く留まってれば、こちらとしても扱いやすいのにな」
セルは意表を突かれたウィンクに動揺し目を逸らしてしまった。
「あらー?あなたほどの人間がオンナのウィンクに動揺するなんてねぇ……さては童貞かしら?」
スカルドは口を押えてプププッと笑っている。
「おい、冗談をいうのは休み休み言えよ?この場で喧嘩でもすれば、アイツらに足元みられるからな?次はねーぞ?」
セルは目を血走らせてスカルドを脅している。そんな事もつゆ知らず、ソロモンは二人に歩み寄る。
「なんじゃなんじゃ?イチャイチャするにしても、ワシもしたいのぉ?」
のほほんといつもの悪ノリで二人に近づくと、二人はソロモンをギロリと睨みつけていく。
「な、なんか理由はわからんんが、虫の居所が悪いようじゃな……」
「いいや?そんな事はないぜ?オッサン?ちぃいとばかし今回の旅が長引いて寝る時間が減っていくなぁと少しイライラしてして、コイツに詰め寄ってたんだよ!?なぁガイコツ女?」
「あーら?ガイコツなんて失礼な言い方はよしてくださる?このセクハラ男さん♪」
ゲームの世界とは胸元を少しはだけさせるようにちらつかせていく。
「セル……おまえってやつは……」
「おい、オッサン騙されるな。あいつは自分を優位にするためなら、手段を選ばないヤツだぞ??」
「むぅ……たしかに。ハニートラップにはきをつけろとよく言われたもんじゃな」
急に冷静になるソロモンに胸をなでおろすセル。だが、ソロモンは斜め上に答えが出る。
「しかし!!本人が見せているというのはなんともサービスショットじゃて!!」
セルはソロモンの鼻の下を伸ばす表情をみて、頭を抱えてしまった。
「オッサン……、俺が悪かった。オッサンの会話に俺がつき合う。だから、ゲーセンの騎士に気取られないようにしような……」
そうして、三人は会話を終わらせると黙ってついてくる二人をみつめる。
それにきづいたカルディアはスカルドに耳打ちし、ピピンのもとへ行かせた。
「おいおい、オッサン達。完全に流れが狂っているのはわかってんだぞ?どうすんだよ?」
「おいちょとまて。俺もオッサンなのか?」
「なぁに今更いってんだよ。俺から見たら二人ともオッサンなんだよ」
「くぅう……ソロモンだけならまだしも俺も入ってるのが納得いかねー!ていうか、まて!セイメイもオッサンになるだろ??」
「ん~マスターはオッサンというよりは、あんちゃんだな?」
「あん…ちゃん??」
セルはポカーンとした表情のまま固まってしまった。
「そう!お兄ちゃんというと違うし、オッサンでもない。そんな感じだよ?なんでだ?」
「それは俺が聞きたいよ!!」
「まぁいいじゃん!飲み会であったんだしな!」
「お前がそれいうと、本当におしとやかな子だとは思えねーんだよ!ったく……」
あっけらかんとしたカルディアをみて、セルは頭を抱えてしまった。
「まぁまぁいいじゃねーか。それより、俺の雷槌取れるんかな?」
「まだ取ってないのになんで、既にお前のモンになってんだよ!」
「え?だって手伝ってくれるんだろ?」
「そうせざるを得ない状況だからだ!」
「じゃあ俺はラッキーってこと?」
「そうだよ……俺もまだ持ってないのにな!」
「そん時は俺らが手伝うよ!」
「素直に喜べない展開だよ!ったく!」
そういうと、ソロモンは一連の流れを見て、ふぉふぉふぉっと笑っていた。
そして、一行はとある祠に着く。
~名もなき祠~
ここは雷神トールが祀られている祠である。かつて、ラグナロクという最終決戦で命を落とし、その魂はヴァルハラに帰り人々を見守る存在となった。ここら辺の雷はトールの怒りだとされている。
今は、ただ妖精達に見守れて祠に安置されていると言われている。
「ようやくついたな」
アーカードが祠を見た。
祠は岩に囲まれてる。山になっている部分をくりぬき、左右に岩、天井にあたる岩が傘のように祠を守り、一段上がった石畳が一列に並んでいる程度だった。
「こんな山の隆起した一ヵ所になんでまぁこんなに大勢くるのやら?」
「フン、お前の御家来衆が邪魔だけだ」
『なんだとキサマッ!!』
アーカードの配下のプレイヤーが次々と攻撃態勢を取る。
「おい、やめとけ。ここで争って俺らが悪くなっても何の得にもならんぞ?むしろ、こいつらがクエスト失敗するのを楽しむが俺らの役目かもしれないんだからなぁ?」
剣を抜いたプレイヤー達は剣を下げて、ニヤニヤと笑い飛ばしてきた。
「まぁ俺が笑われるわけじゃないから、なんとも思わないがな?ただよぉ、人が頑張っている姿を笑うっていうのはどうも性に合わないんだよなぁ?」
と、話しながらセルはどこまでも果てしなく伸びる絶壁を見上げながら答え、そして数歩と歩きながら後ろに差してある小刀の柄に手をかけて、いつでも戦えるように睨み付けていく。
―――俺らしくもねぇ……アイツの影響か?イヤなもんが影響されちまった。
「血の気の若い衆はええのぉ?そうやって血気盛んに自分の意思をぶつけ合う事が出来る。年を取るとできなくなるんじゃて」
「オッサン、いうてまだ50、60いってないんだろ?なんでそんな喋り方すんだよ」
「そりゃ来るべき“老い”のため、しかも!この世界じゃ。こういう喋り方をするヤツがおって世界観を崩したくないっていうわしなりの配慮じゃよ」
「気が利くのか何なのか相変わらず、チョーシの掴めないオッサンだな……」
「まぁ水を差してすまんの。それよりも時間がない。わしゃそろそろ寝たいんじゃがの?」
「ったく、ジジィ化もしてんのかよ。くそッ……」
「まぁいいじゃろて。それよりも、この祠で何をするんじゃ?」
ピピンと一緒にいたスカルドが口を開く。
「先ほど受け取った残滓を祠に捧げてください」
「これか」
カルディアがアイテム袋から取り出すと供えるように残滓を置いた。
次の瞬間である。異空間に繋がっているような転送ゲートが開かれた。
「さて、この時点でパーティを組んでない人は一緒には来れません。したがって、あなた方はここでお待ちくださいな?」
「チィィィ!!さては、この仕組みを既に知っていたな!?」
「ええ、なんとでも仰って結構、我々は目的のためにここに立ち寄る予定でしたのでね」
「ここへの転送方法知らなかったフリをしていたとでも言いたげだな?」
「そんなことないですわ。知らなかったのかと私個人に聞かれた覚えはないのでね」
「減らず口をッッ!!」
剣の柄に手をかけて、今にも剣を抜こうとするアーカードを制止するようにスカルドへわざとらしくセルが聞く。
「まぁ今回は俺らがいくし、どうせここに戻ってくるようになっているんだろ?」
「ええ、もちろん。ですので、お留守番をお願いしたいのですわ!」
「ぬぬぬぬ……」
「まぁ、ゲーセンのアンちゃんよ、そういうことだ。待ってろよ。ダメならすぐに戻される。その時は笑ってくれよ?それでいいだろ?」
セルはアーカードへ向かって開き直るかのように話しかける。
「お前らはどこまでが本気でどこまで嘘なのかつかみどころがなさすぎる!!これで同盟などとどの口がいっているのだ!?」
「おん?それはワシの熱い口づけがほしいという解釈で良いのかのぉ?」
ソロモンは全てをわかっているかのようにワザとキスをするように近づく。すると、アーカードは流石にまずいと感づいたのか、剣を抜き早くゲートに入れと剣で促す。
「ノリのわからんやつじゃのぉ?」
「いい加減にしろ。流石に悪ノリしすぎると、同盟の話は白紙にするように上に話すぞ!?」
「やれやれ。困ったのぉ……。それじゃいこうかの?」
カルディアを見上げて背中を叩く。
「おいセクハラだぞ?オッサン!」
「フルダイブ型のVRで成立するわけなかろうに。気合いれじゃて」
そういうと、5人はゲートの中へ入っていった。
ゲートは静かに誘っていた。





