第177話「不穏」
ヴォルフガングはセルの鋭い目つきに負けじと凛と目をみつめる。
「セルといったな。お前がうちの領地をウロチョロしていたのは、知っている。なんせ、元エウロパの一味だ。少なからず、悪さをしないであろうと観察したり、各拠点戦をひっそり観戦したりと色々と嗅ぎまわっているのは知っていた。それで―――、さらにはひっそりとユグドラシル(ココ)の危機を救ったのも知っている」
「あん??俺はそんな救世主様(笑)みたいなことした覚えはないぞ?」
「そうか、あの不思議な呪符の謎を解いて回ったのはお前だろ?そんな事を領主の私が知らないわけないだろうが?」
バン!
セルは机を叩き、言い返す。
「あ”あ”ん???勘違いすんなよ??女狐ェ!!誰もお前らの為だなんてこれっぽっちも思っちゃいねーよ!!俺が気になったヤツがいたからソイツをつけ狙うためにやった結果に過ぎねぇ!!お門違いも甚だしい!!」
「おい、てめぇ!!さっきから調子こいてんじゃねーぞ!!アサシンクズれがぁ!!」
白騎士がセルの勘に触る言い方に切れ返した。
「ああ???ネカマもどきがイッパシの口きいてんじゃねーぞ??キッズがぁ!!!」
「ミーアだ!!それにキッズでもない!!」
いがみ合う二人の中にセルを押さえつけにカルディアとピピンが二人がかりで抑える。
「落ち着けよセル!!この俺にだって喧嘩しにきたことじゃないくらいわかるぞ!!」
カルディアがセルの肩を叩くと、振りほどく。何度も振りほどくので羽交い締めにし始める。
ピピンがセルのキレを制止する。
「そうだぞ!!珍しくカルディアがまともな事言っているんだぞ!!」
「おいちょっとまて!なんで、俺がまともなこという時は珍しいって……」
「細かい事はいいんだよ!!それよりセル、俺らの交渉は同盟を結ぶことだ!これ以上はソロモンのオッサンに任せよう!!」
そういうと、羽交い締めにしようとしていた二人とセルはソロモンの顔を見ると、キョトンとしていたソロモンは我に返り、咳ばらいをし場の空気をリセットしようとした。
「うちの若い衆がすまん。ワシら……いや、私達は我がセイメイより勅命で参っている。今の粗相は許してほしい」
「いえいえ、うちの弟も若いですから血気盛んな相手と話し合えてうれしいと思いますよ?ね?ミーア?」
「あん?別にそんなんじゃねーよ……」
「あら、そう?いつもは私の代わりにまとめ役をしてくれているじゃない?自分を押し殺すのは……もうやめたら?こうやって素の自分と言い合える人物がいることは大切なことよ?」
「別に…ねぇちゃんがやりたい事を俺は……一緒にやっているに過ぎないよ?」
「それは嬉しいことなのよ?フフフ……」
「…………」
二人を宥めた両陣営の首脳は改めて仕切り直した。
開口したのは、ヴォルフガングだ。
「さて、本件の答えはすぐに出すわけにはいきません。ですので、明日に回答しようと思います。今日のところはどうか狩りでも生活でもやって過ごし、明日のログイン時にでもお声がけさせて頂きます。夜……で良かったですか?」
ヴォルフガングはにやりと笑うとソロモンはフフフと笑い返し「わかりました」といい、席を後にした。
~アースガルズ・城下町~
城を出たソロモン一行は近くの酒場に入る。
≪いらっしゃいませ≫
NPCのお店の女の子が元気よくソロモン達を席に誘導する。
そして、狩りをするわけでもないが食事のバフをかけるようにした。
「おい、狩りをするわけでもないのになんで食事のバフをかけるんだ?」
ピピンは不思議そうにソロモンに声をかけるとシィーッと口に指をあてた。
すると、セルがピピンの頭を掴んで耳打ちする。
「おい、チビ。まだわかってねーよぉだからおしえてやるッ…俺らは城を出た後からつけられている……おっと振り向くなよ?俺らは一応狩りをする目的だからな……?」
「耳そばで、低い声を出すなぁぁ……」
ピピンはモジモジしだして大人しくなった。
「で、オッサン。どうするんだ?これから?」
「どうするもこうするもな。俺らがログアウトをするのを見届けるまでついて回ってくるじゃろうて」
ソロモンは妙に落ち着いていて、まるで現状を受け入れているのが不気味なくらいだった。
そして、ソロモンは久しぶりの外部VCを繋げるようにwisで各メンバーに伝える。
―各々、外部接続してくれ
――――――――――――――――――
「外部接続をしたぞ?」
「なぜこっちでやるんだ?」
「ちょっと前までこのアプリケーションをつかってやっていたのを覚えているはずじゃが、前回のUPデートで切り分けが出来るようになり、VCの制限も若干緩く、そして拡充している。メリット・デメリット含めてな……。だが、こっちであれば声が漏れる心配がない。相手は無言で食事しているように思われるはずじゃな?」
「なるほどな。外部VCアプリなんて久しぶりに使ったぞ?」
「昔はみんなこれじゃて。今は専用VCなんてものが提携して、他アプリがあんまり使われなくなった。まぁ……あれじゃの、時代の流れじゃて」
「そうだな。フルダイブ型のFPSでもそうだけど、ほとんどが外部使うなんてことしないんじゃないかな?」
「そうですわね。元々このアプリのランチャーは画像や画面共有など、よりリアルタイムでのタイムレスを追求していく流れの一端でしたものね」
みんな食事のアクションを行いながら、会話を続けた。
「さて、これからじゃが、奴さんは、わしらを試しにかかってきている。まぁ無理もない。ぽっと出の占領ギルドじゃ。そうそう容易く首を縦に振るわけにはいかんじゃろ。狩りをしているところにPKをしかけてくるじゃろ。それを返り討ちにする」
「フン、やり方が汚ねェなぁ!!どこが、正々堂々だよ……」
「そうか?ワシも同じような話があれば、情報収集のため斥候を放つのは上策だと思うがの。人をバカ正直みたいに信用するのは、セイメイ(マスター)ぐらいじゃろうて」
「どっちしろ。お尋ね者扱いかー。厄介なことになりそうだ」
「まぁ蹴散らせば、いいんだろ?オッサン?」
カルディアがスプーンを回しながらソロモンを横目で見る。
「まぁそうじゃ。お主らの力の見せ所っていうのが本件だ。手加減無用じゃぞ?」
ソロモンがそういうと、ウィンクをする。
『うぇ……』
一同がもどしそうになると、ソロモンが怒る。
「な!!たまにはワシのプリチィな部分を出しても、許されるだろうが!」
「いや、オッサン。ヒゲの生えた中年のウィンクは精神ダメージが入るぞ?」
「フレンドリーファイアをここで出されてもなぁ……」
「まぁよろしくはないですわね……」
「冗談が通じないのは、ジェネレーションギャップっていうんだぜ?これで覚えたろ?」
「やれやれ。前途多難だな……」
セルは頭を抱えながら、最後のスープをすくい上げて口に運んだ。
――――――――――――――――――
食事を終えた一行は、フェンリルの森に戻るか妖精の谷にいくかを話し合っていった。無論、建物の陰からは複数の斥候が見ている。
「チィ……。うざってぇ野郎どもだ。フィールドに出たら一人残らずぶっ殺してやるッッ!!」
「落ち着けセル。もしかしたらプレミアの奴等かもしれんぞ?」
「な!!??」
「食事しながら考えていたんじゃが、もしかしたら、プレミアが我々の存在に気づいているやもしれん」
「な!?」
「順当な考えですわね。オケアノスの紋章を背負った状態で城から出てくる一行なんて、珍しい以外何者でもないでしょうしね」
「それやばくないか?情報が漏れたりでもしたら……」
「まぁ無きにしも非ずってとこじゃな。だが、それはプレミアがおいしい思いをするだけで、イザヴェル騎士団にはなんの恩恵もない。情報が漏れていなくても、接触するということは“何かある”と思うのが自然の考え方じゃないのかの?ましてや、協力体制を取られて困るのはプレミアじゃろうしな」
「ほんじゃまぁ“狩り”にいきますかねぇ~。で、どこ行くんだ?」
するとスカルドがスッと会話の主導権を握る。
「私の設定にある妖精の谷は如何かしら?エルフもいますからね」
「おお!!ベッピンさんがおるなら、一択じゃの!!」
「おいおいおい…まじかよ……」
「まぁいいんじゃないのか?俺も自分のクエスト以来だし上級狩場に行くのも久しぶりだしね!」
ピピン、カルディアもまんざらでもなかった。
セル以外は案外乗り気で妖精の谷に行くことになった。
イーリアスは昼下がりの午後、どこの組織なのかつけられているにも拘わらず、一行は狩場に向かって妖精の谷へ向かうのだった。





